2016年、長崎県五島市の富江町という静かな街で産声を上げた、小さな図書館「さんごさん」。
このプロジェクトを立ち上げたのは、地元の隠れキリシタンをルーツに持つ鳥巣智行さんと妻の大来優さん。開始にあたっては、クラウドファンディングで当初目標額の約2.3倍を集め、オープン前からたくさんの期待を集めながら準備が進められていきました。
今回70seedsでは、「地域×デザイン2017」のプレゼンに来場した、さんごさんチームにインタビュー。設計から開業、運営まで、「この人と」を大切にすることで実現した、「ほどよい距離」のチームワークについて、座談会形式で語ってもらいました。
※アイキャッチ左から:大島健太さん(館長)、能作淳平さん(設計・建築)、鳥巣智行さん(共同発起人)、石飛亮さん(能作事務所スタッフ・現場監督)
「あきらめなくていい」選択肢が見つかった
‐「さんごさん」を思い立ったきっかけは何だったんですか?
鳥巣:元々僕が長崎出身で、ルーツが五島列島にあったんです。先祖も隠れキリシタンで。18歳のときにはじめて島に来て、それからファンになりました。
妻で共同発起人の大来もすごく気に入って、結婚式も五島でやったんですけど50人くらい東京から連れて行ったら、友達と島で過ごすことの楽しさを知ってしまって。
次の年も、その次の年も、ってやってるうちにだんだんと宿の手配とか大変になり、みんなで集まれる拠点がほしいなって思うようになったのがきっかけですね。
‐そうなんですね。鳥巣さんは東京に住んでいるそうですが、物件なんかはどうやって探したんですか?
鳥巣:有川智子さんという島のデザイナーがいて、彼女が紹介してくれました。有川さんがFacebookで空き家の情報をあげていて。なんかよさそうだと感じて、すぐに大来と見に行きました。
(写真:大来さん 左 有川さん 右)
‐設計は能作さん(能作設計事務所)が担当したんですよね。2人は元々の知り合いだったんですか?
鳥巣:物件の購入とリノベーションを考えているときにたまたまcasa BRUTUSを読んでたら、「家を頼みたい21人の建築家」っていう特集に能作さんが取り上げられていて、同い年だったこともあって興味を持ってメールさせていただいたんです。
能作:めちゃくちゃ偶然ですよね。
‐能作さんのどこに惹かれたんですか?
鳥巣:雑誌にオープンで気持ちのよさそうな白い空間が掲載されていて、その写真から雰囲気の良さが伝わってきました。
(さんごさんの)企画資料を送って実際に行ってみたら、風通しの良い空間や能作さんが出してくれるお茶などすべてが心地よいと感じました。大来もそれを感じていて、帰り道ふたりで良さそうだねと話をしました。
能作:そうだったんだ(笑)。
鳥巣:能作さんに相談する前に別の建築家の方に相談したときは、その予算でおもしろいことをするには居住性を諦めて振り切ったことをしたほうが良いとご提案いただきました。
僕らとしては住める場所にしたかったので悩んでいたのですが、能作さんと話したときに、「その予算でもやる方法はありますよ」と言ってもらえたのはありがたかったです。
‐能作さんはさんごさんのどこに興味を持ったんですか?
能作:その時点で完成していたというか、ビジョンがはっきりしていたんです。島と東京と両方を住むエリアとして考える新しい住み方が明確だったんですね。
普段、家をつくりたいと相談されるときは、「何平米で」とか「どんな間取りにしたい」とかはあっても、ここまで明確なビジョンを持ってこられることはないので。
鳥巣:そうだったんですね。
能作:だから企画のイメージがすぐにわかりやすかったし、かなりの投資がないと立ち上がらないものもある中で、予算とビジョンのバランスが取れているなとも感じました 。
そして企画書から伝わってきたのは、島がめっちゃ好きなんだな、と(笑)。島を好きなこととお金は必ずしも関係しませんからね。
鳥巣:あはは、たしかにそうですね。
能作:どうやって住むか、これからの暮らし方を示すようなものになるんだろうな、という感覚はありました。
大来さんにお話を伺うと、将来島に住むようなイメージを持たれていたり、鳥巣さんは東京と行ったり来たりする2拠点生活のイメージを持たれている感じがしましたし、「場所を楽しむ」ということにも幅があるんだろうなって。
鳥巣:さんごさんプロジェクトのいいところは幅があるところかもしれません。運営拠点は五島と東京で地域の幅もあるし、用途としても幅があって図書館でもあり宿泊施設でもあり…
能作:公民館的なところもありますよね。
鳥巣:そうそう、決めきれないゆるさというか、そこがいいところなんだろうなと思います。
東京と五島の「距離感」がつくった建築プロセス
能作:ゆるさ、という話だと建築プロセスでもそこまで決めずに進めたことが結構あって。普段は図面つくってそれ通りに、とやるんですが、今回はある程度流れで進めていくっていう。
いろんな経験を積んで少しずつできるようになっていくロールプレイングゲーム(RPG)やってるような感覚でしょうか。決まったものを持ち込むんじゃなくて、現地と 反応させながら建物のデザインを 定着させていくような進め方でした。
‐そういうやり方ってあんまりないものなんですか?
能作:あまりないですね。通常は現場に入る前に割と細部まで設計をしますが、さんごさんんは大枠だけ決めて現場で検討する範囲を多めにしました。そこで大切になるのは現地と東京とのコミュニケーションでした。
通常の業務報告のようになると、どうしても現地のニュアンスが伝わらないと思ったので、工事に入る前に鳥巣さんたちやプロジェクトに関わっている人たちが共有できるブログをつくりました。
鳥巣:能作さんから以前伺った「建物をつくる前にブログをつくった」という話が面白いなと思いました。東京にいる僕らとしてもブログやSNSの投稿で現場の様子がわかるのはありがたくて、毎日楽しみにしていました。
能作:ブログというのはこれです。あたかも島に設計事務所の支店を構えたかのように「TOMIE SITE OFFICE」という名前のブログにしました。
現地の石飛さんが、その日あったことをどんどんアップしていって。序盤は「差し入れいただきました」とか。プロジェクトが進むにつれて、島の過疎化など社会問題について話す回もあったり。
‐石飛さんは東京から送り込まれた、って言っていいんですかね?
能作:そういうことになりますかね(笑)。
‐不安もありましたか?
石飛:期待と不安が半々でしたね。事前調査のときはまだこのプロジェクトを担当する予定もなくて、社員旅行気分で。
でも1回行ってみたらすごくいいところで「こんなところに住めるんだ!」って。ただ、設計の大枠しか決まっておらず、ほぼ手ぶらのような状態でしたけど。
‐現地ではどんなことをやってたんですか?
石飛:有川さんが「こんな人がいるから会いに行った方がいいよ」と連れていってくれたので、日曜日は島の人に会いに行く日になってましたね。
そのつながりでどんどん輪が広がって。あと、商店街で大規模な工事はほとんどないので、周辺の人がみんな気になって現場をのぞきにくるんですよ、「何やってるんだろう?」って。
それと地域の人に受け入れてもらうために、とりあえず人とすれ違う時にはあいさつをするようにしてましたね。徐々に親睦を深めて一緒に作業を手伝ってもらったりもしました 。
能作:あいさつは大事ですね。あと、ブログの記事で石飛さんが、町の人がみんな見るからって工事の序盤で看板をつくったエピソードがあって。いいなと思いました。

Photo by Re島PROJECT
石飛:ふつう工事現場には設計者とか工期とか書いてあるだけの説明板みたいなのが設置されるじゃないですか。
そうじゃなくて、誰が見てもどんな建物ができるのかわかるようなものにしようって。赤色の黒板の塗料を使って簡単に書き換えられるように。
能作:このブログを通して、ささいなことも含めて現地の空気感や石飛くんが思っていることを知ることができました。
島のことを知りたい、自分が知らない土地でいろんなものを観察して採取していく様子が面白かった。
石飛:せっかく東京から行ってつくるなら、現地のやり方そのままになってしまっては意味がないかなと思ったんです。あくまで客観的に、でも距離を置きすぎずに仲良くっていう。難しいですけど。
つかずはなれず、「さんごさん」館長の仕事
‐大島さんは館長として五島に住んでいるわけですよね。
大島:自分のなかでは館長というより、さんごさんに住み着いた無職、みたいなイメージですね。館長として何かかっちりとしたことをやっているというよりは、外と内との仲介役のような。
鳥巣:元々は地元の人に管理してもらえないかと考えていたのですが、実際にそれをやろうとするとハードルがあることがわかってきました。
そしたら大来が昔からの友人でいい人がいるよって。大島さんがちょうど無職になったところだったんです。
‐無職のくだりは本当だったんですね。タイミングが良かったと。
大島:いいのか悪いのか。年齢的にも35歳になるタイミングだったんですよ。再就職もひとつハードルが上がる年齢で。
もう1回東京でサラリーマンをやるか、島で館長をやるか、という選択で後者を。
‐なぜ島を選んだんですか?
大島:東京で暮らすというのは現実的なんです。会社に入ってお金をもらって生きる、それが当たり前だと思っていた。でもそういう考え方で行き詰っていることも感じていて。
頑張って働いても会社が救ってくれるわけではない時代ですよね。それぞれ業界で活躍している人たちなのに、鳥巣さん、大来さん、そして能作さんも、お金ではないところに目的を持ってさんごさんをつくろうとしている。 そういう価値観に惹かれましたね。
能作:そうだったんだ。
全員:(笑)。
鳥巣:はじめは2ヶ月だけ館長をやってもらうはずだったんですが、3月で館長に就任してから半年になりますよね。最初の2ヶ月で何か変化があったんですか?
大島:変化、というよりは2ヶ月じゃ全然済まなかったんですよね。コロカルで連載したり、島でワークショップやったり、2ヶ月じゃ納得できる終わり方ができなかったんです。
風呂敷をきちんとたたまないといけない。さんごさんのためというよりは、地元の人たちがすごくよくしてくれたので彼らに恩返して終わりたいなという気持ちが強いです。
‐大島さんのこういう状態は、鳥巣さんにとって期待通りだったんですか?
鳥巣:というより、どうなるかわからなかった。大島さんってずっと都会で育ってきて、島に憧れもない、子どもは嫌い。
大島:その言い方だと僕が最低な人みたいじゃないですか。
鳥巣:(笑)。でもそういう大島さんみたいなタイプは島にいないので、島の人も面白がってくれているようです。大来は、大島さんは綺麗好きだし館長に向いているはずだと最初から思っていたようですが。
大島:ものを捨てるのは得意ですね。あと水回りの管理。
‐島にはないドライさがあるんですかね。
大島:あんまり入れ込みすぎないようにはしてますね。 五島はいいところだけど、あんまり偏らないように。客観性を保つというか。
自分としては日本、世界のどこでもよくて、たまたまさんごさんだったという感覚なので、辞めるときはすっとやめるかもしれないなとは思ってます。
‐おもしろいスタンスですよね。
大島:周りからみたら信用できない、物足りなく見られているんじゃないかとも思ってますよ。そこはせめぎあう気持ちがありますね。
もっと腰を据えて五島でやっていくべきなのか?結局、すっと途中で消えてしまう人間じゃないのか?そういうのは、自分で考え過ぎてしまってるだけなのかもしれないですけど。
鳥巣:考えすぎなところはあるかもしれませんね。でも、そこが大島さんの良いところだとも思います。島に来て、そういうところにも少し変化があったんじゃないですか?
大島:そう言われたら「変わってません」って言っちゃうタイプですね、僕は。でも一歩踏み出したくてさんごさんに来ているのはあるので。
変わらなきゃ、腰を据えるのも選択肢なのかも。最近は住民票を移そうか毎日迷ってますからね。
能作:おもしろいですよね。もしかしたら、その距離感がさんごさんの新鮮さを保ってるのかもしれませんね。
大島:最近ちょっとほっこりしちゃって、馴染んできてしまってるなとも感じるんですよね。緊張感がなくなってきてます。
でも、まだ五島の春と夏は経験していないわけだし、それは僕も知っておいたほうがいいのかもとは思います。一度、地域やさんごさんの関係性を考え直す時期なのかな、とも思っています。
終わらない「関係性」のアップデート
鳥巣:今回の工事は一期工事で、これから二期工事、三期工事の予定があります。能作さんのお力を借りながら、建築も新鮮さを保っていけるといいなと思っています。
能作:終わらないというのはある意味で大事なことで、理想としては、メンテナンスも成長と同じように考えていきたいなと。さんごさんの成長。
これからの二期工事で宿泊機能がついたり、人を呼ぶためのしつらえができていく。また、徐々に祭りと絡んだりもするイメージもありますね。
鳥巣:建築によって、商店街や地元の方々との関係も変わっていきますよね。
能作:窓を大きくするとか、三期工事はより積極的に外との関係性を変えていきたいと考えています。
‐そういう意味では、これからどんなことをやりたい、とかすでにあるんですか?
鳥巣:はい。それぞれやりたいことがあるので、それを試したり実験する場所に、さんごさんがなればいいなと思ってます。
能作:僕は第2、第3の故郷をつくっていきたいと。ひょんなことで五島も、訪れた人にとってのふるさとっぽくなるということをやってみたいです。
二期工事で宿泊機能がつくことで、やれることも変わってくると思うので。たとえばサマースクール。第一線で活躍する建築家が東京ではなく五島に集まってサミットのようなことをやるとか。
能作事務所の研修を五島でやってみるのも面白いのではと思っています。
大島:いいですね、僕も行ってみようかな。
能作:サマースクールも研修も、設計を考えるベースがここ(五島)だといいなと思ったんですよね。いろんな制約から自由になれるというか。
さっきRPG的と言いましたが、建築をどのようにつくるかという生産について考えることも必要だし。あとは町の歴史や街並みの記録を残しておきたい、というのもありますね。
石飛:さんごさんのある富江は福江(五島市の入り口にあたる町)についで、2番目なんですけど、観光客もスルーしちゃう。
観光資源もある、商店街も元気、五島の中でもポテンシャルの高い町なのに知られていない。だから、もっとこの地域の魅力を発信したいんですよね。まだ具体的に何をすればいいのかはわかんないんですけど。
能作:コーヒーだな(笑)。
鳥巣:以前、大島さんもやりたいと言ってましたよね。I(石飛)&O(大島)という会社をふたりで立ち上げてみてはどうでしょう(笑)。
‐大島さんはいかがですか?
大島:どうでしょうね、やめたいっていうのがあるでしょうね。
全員:(笑)。
大島:それは冗談ですけど。自分の役割のたたみ方を考えています。来てから半年経って地元に馴染むことはしていったと思うんですよ。
だから、もし館長を継続するなら、これからは理解できないことをやってみたいですね。たくさんある地域プロジェクトみたいなじゃなくて、「人が来ないワークショップ」とか、地元に寄せるよりも自分たちが考えたことをあの場所で、新しいこととしてやる方が面白いし、みんなも関心を持ってくれるんじゃないかなって。
コーヒーだったら東京に負けないクオリティのものをやる、とか。
鳥巣:いいですね。東京の仲間と五島の仲間とで協力しながら、コーヒー豆をつくったり、歌をつくったり、さんごのアクセサリーをつくったり。
島の中も外も関係なく、気の合う仲間で新しいことに取り組めるといいなと思いますね。
大島:富江の町には大手のチェーン店がないし、大資本の垢がついていないので、何かをやろうというときにやりやすいですよね。昔からあるお店だけ。
でも、ある意味では新鮮さがなくなっている。だから新しいことをやると街の雰囲気が全体で変わるんじゃないかなと思います。
あと2、3くらい若い人がなにかやったらもっと変わるんじゃないかな。僕は言うだけの人なんですけど(笑)。
能作:まず言う人があらわれるというのが大事ですよ(笑)
鳥巣:言質は取れたということで(笑)。
地方で新しいことを生み出していくとき、「よそもの」の存在が重要だ、というのはよく言われることです。さらに、それがチームだともっと可能性を広げていける。「さんごさん」は私たちに、そんなよそものによるチームの、ひとつのありかたを示してくれています。
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