熊野古道に南紀白浜……日本の中でもダイナミックな自然を体感できる地域、和歌山県。

大阪、東京といった大都市ともスムーズに行き来できるこのエリアが今、IT産業の誘致・育成に力を入れていることを知っていましたか?

Salesforce社をはじめとしたグローバル企業も注目する、歴史と自然の地域資源が豊富な和歌山県ならではの「IT企業とのかかわり方」に迫りました。

“東京にこだわらない働き方”を推進する「OFF TOKYO」。70seedsも主催者の一員として関わるこのプロジェクトとの連動コンテンツとして、IT先進自治体の取り組みをご紹介します!

岡山 史興
70Seeds編集長。「できごとのじぶんごと化」をミッションに、世の中のさまざまな「編集」に取り組んでいます。

逆転の発想で挑んだ「観光地だからできる」企業誘致

‐和歌山県が取り組んでいる企業誘致には、他の地域にはない特色があると聞いてきたのですが……。

はい。その話の前に質問なのですが、和歌山県に来たことはありますか?

‐ないです。みかんの産地、というくらいしか知らずITとは無縁のイメージでした。

そうですね。和歌山県は人口が100万人ほどで、県庁所在地の和歌山市に36万くらいが住んでいるんですが、従来の重厚長大系の企業が県の北部を中心に集積、田辺市や白浜町など南の方は南高梅やみかんをはじめとした農業、それからたくさんのパンダに会えるアドベンチャーワールドなどの観光業が盛んなエリアなんです。

‐ああ、パンダ!何度かニュースで見た覚えがあります。

あのあたりは夏になるとビーチパラソルが立ち並ぶリゾート地でもありますし、世界遺産にも登録された熊野古道もある。

年間300万人が訪れる国内有数の観光地なんですよ。だから、そんなところに工場を誘致しようとしても、県北の地域と比べてハンディキャップがありますよね。

‐たしかに、それはそうですね。

でも、このエリアには空港があって羽田と1日3往復も直行便が出ている。工場の誘致には向かなくても働く場所を問わないIT企業の集積地にできたらいいんじゃないか、と考えたんです。

‐働き方が多様化しているIT企業にはうってつけの場所かもしれませんね。

そうと決まれば話は早くて、民間企業の保養所があったところを町が買い取り貸オフィスとして整備し、企業に入居いただいたりしていったんですね。

リーマンショックなどで冬の時代を過ごしたこともあったんですが、3年くらい前から関心が集まり、昨年の冬には満室になるほど注目をいただくことができたんです。

 

Salesforceも取り組む「世界遺産を守る」働き方って?

‐大都市で疲弊しがちなIT企業の方々にとってみると、憧れの働き方ですよね。

 そうですね。さきほども申し上げたように年間300万人が訪れる南紀白浜エリアにスポットを当てたいなと思っていて。

人口でいうと隣の田辺という市と合わせて10万くらいなんですが、生活上の不便はなくて環境もいい。そういう「まったく違う環境で働ける」ことを推していきたいんです。

‐実際に変わった働き方に取り組んでいる企業もいるんですか?

代表的なのはSalesforceさんですね。CSRとして、世界遺産として知られる「熊野古道」の修復に取り組んでいただいたりしています。

‐熊野古道の修復! 東京に限らずなかなかそんな機会って得られないですよ。

「世界遺産を守ることにかかわることができる」というのは、とても評判がいいですね。

若い方は半年とか3か月交代で来るようにしているそうなのですが、移住してくる方もいれば、短期間滞在する暮らしかたを選ぶ方もいるようです。

‐それはこの地でなくてはできないことですね。

実際のところ、数がまだ少ないので手厚くできているという側面はありますね。ですが、まずはやってみるというスピード感を大事にしています。

‐まさにスタートアップマインドですね。今後の動きも楽しみですが、どのような構想を持っていますか?

企業の方にも、いきなり拠点を移すというのはハードルが高いことですから、まずはワーケーション(ワーク+バケーション)を白浜に泊まり込んでやるとか、ステップを踏んでいく過程でも手厚くお手伝いができればと思っています。

‐辻さん自身もUターン組だと伺いましたが、和歌山県に対して今、どんな思いがあるんでしょうか。

20年ほど前でしたが、正直なところ私はふらっとプー太郎状態で帰ってきたんです。特にすごい志があったわけでもなくて。

ただし、戻ることに迷いはありませんでしたね。仕事がないといわれていることは知っている、でも暮らしやすさも知っている。新しい産業を呼び込むことで、若い人が働きたいと思える場所をつくっていきたいですね。