岡山 史興
70Seeds編集長。「できごとのじぶんごと化」をミッションに、世の中のさまざまな「編集」に取り組んでいます。

011年3月11日、日本を襲った未曽有の大震災。その後、被災者の方々の間で口コミから広がり、200万ダウンロードを記録した曲がありました。それが、自身も避難所生活を経験したアーティスト・山猿の「3090~愛のうた~」です。

 

福島県会津地域に拠点を置きながら全国で活躍する彼は、自身をさらけ出して表現活動に取り組む独自のスタンスでも知られています。

 

自分のルーツを大切にしながらそこに周りを巻き込む「輪」の広げ方や、「言葉を発しにくい時代」になったと語る現代だからこそ自分がやるべきことがある、という音楽活動のあり方まで、あますことなく語ってもらいました。


 

ライブに来てくれている人は、ほっとけない「家族」

‐山猿さんは、2011年の「3090~愛のうた~」が、震災を経験した方々の間で広まり、人気に火がつくきっかけになったと聞きました(※曲がつくられたのは震災前)。そもそもライブパフォーマンスも含め、「共感できる」という評判をよく目にするんですが、その理由ってどこにあるんでしょう?

自分は、飾らないアーティストなんですよ。1曲目からテンションMAXで歌って、途中で泣いちゃうこともあったりします。情熱をどうしても伝えたくてそうなっちゃうんですけど、普通いないですよね。「不器用なモンキー」って自分で言ってしまうくらい。

‐その情熱にお客さんもついてきてくれるんですね。

自分と同じ痛みを持っているから聞いてくれるんだと思ってます。同じ傷を持っているような仲間とツアーも回る、ライブもやる。だから、ステージを見て自分を見ているようだと思っていただけてるんじゃないかなって。それが「共感できる」と言っていただけてるところなんじゃないかと思います。

‐それは、お客さんとの距離がめちゃくちゃ近いっていうことなんですかね。

近いですね。僕はファン、って言わずに「ファム」って言うんですよ。“FAMILY”の“FAM”。音楽も90%が実体験から作っているし、聞いてくれている人は友達よりもっと濃い「家族」のようなものだと。家族が苦しんでたらほっとけないですよね?

‐確かにそうですね。そんな「ほっとけない」家族がライブに来てくれているわけですね。

ライブでいつも言うのが「幸せにするから」っていうことで。泣くのは勇気がいること、でも今日だけは山猿のライブで泣いていいんだよ、って言うんです。それでみんなの力になれるならと思って。

‐いまどき、そうそう人前で泣けないですからね。大人になるとなおさら。

SNSなんかでも簡単にメッセージ送れちゃうじゃないですか。逆に言葉を発することも忘れてしまったのかな、と。昔は電話だったのが今ではLINEとか、簡単に文字にできてしまう分ですね。痛みを話しづらくなってしまった世代、時代なのかもしれないと思っていて、だからこそ今、音楽は僕にとって思いをぶつけられるパートナーなんだろうなと。音楽というよりは歌うことかもしれませんね。

 

いまだに音楽を仕事だと思ったことはない

 

‐山猿さんは元々音楽志望ではなかったと聞いていますが、ミュージシャンになるきっかけは何だったんですか?

元々小さいころから歌うことは好きだったんですよ。近所のおばあちゃんがやってるスナックのカラオケで歌ったりしてて(笑)。でも、歌を仕事にしたいと思ったのは22、3のときで、友達のライブを見に行ったことがきっかけですね。自分の歌詞とメロディで歌っているのを見て、自分のことを歌にすることで、そのとき抱えていたもやもやみたいなものが消えていくんじゃないかって。

‐学生時代からバンドをやっていて、みたいなパターンではないんですね。

そうですね、そういう感じではなかったです。「音楽で食っていくぞ」みたいに気合を入れて始めたわけではなかったので、気づいたら歌っていて、初めてのライブハウスでたまたまレコード会社の人がいて、自分の歌ったことが相手に届いて…みたいな。だからいまだに音楽が仕事だと思ったことがないんですよね。

‐面白いスタンスですよね。音楽に関しては、どういったところにこだわりを持っているんですか?

音楽って聴くだけのものじゃないというか。ビジュアルでつくる音楽、体感できる音楽、痛みを共感できる音楽、そういう、ふと隣にあるような存在を届けています。だから、こう熱い思いを込めつつも、押し付けたことは一回もないし、自分の日記をリスナーに聞いてもらっているような、ため息を吐き出しているような、そんな感覚ですね。

‐自然体でできていくような?

そう、山猿の曲をつくるときってめちゃくちゃ早いんですよ。それこそつくっているというより吐き出している感じ。なんか話変わっちゃいますけど、初めてのお客さんとか対バン相手に名前で引かれることあるんですよ。「何、山猿って?」みたいな。そこを心にノックして開けに行くのが僕のスタンスで、曲作りから一貫してますね。名前覚えて帰ってもらって、検索したらそこには自分に寄り添ってくれる音楽がある、という。

‐そういえば、なんで「山猿」なんですか?

山にいるサルみたいに自由に音楽をやろうと。実際に、思ったことを伝えられないことは一回もなかったですね。たとえば山猿はすぐにセットリストを変える、と言われるんですけど、僕からしたら当たり前で。ライブ前に客席を必ず見るんですよ、するとそこに年配の方とか小さい子がいたりして。そしたらあの人に届けたい、と思うわけじゃないですか。だったら数時間前でも変えますよね。

‐ひとりひとりの観客を見るんですか?

絶対に見ます。その人に届けたい、このカップルに歌いたい、みたいな気持ちが出てきます。結婚ソング歌ってあげたい、とか。子どもがいて、家族がいてなんて想像すると、「3090~愛のうた~」歌おうとか。普通、ライブ後に初めての人が何千円出してCD買ってくれることってないんですよ。でも、こういう情熱の伝え方をしていると、カップルとかパパさんママさんなんかがあとで物販に来て感想をくれる。そうすると今日歌ってよかったな、って思えるんです。

‐CDが売れない時代、と言われているからこそ、そういったリアルな場でつながりあえることってとても強い支えになりますよね。

僕は、CDがもしなくなってしまっても、リヤカーにスピーカー積んで歌を届けに行くと思いますよ。あとは楽しくしよう、というのもポリシーとしてあります。今回はレイザーラモンHGさんの恰好してたり、以前は金ぴかの恰好したり、飛んでたり…。音楽以外にも表現で何かを楽しませよう、というのが僕やうちのスタッフですね。サーカス劇団みたいに。

 

‐これ(HGコスプレ)すごいですね(笑)。

本人が来てくださって、ポージングとか細かく指導いただいたんですよ(笑)。「何だこの人、どんな歌うたってるんだろう」って、そこでまず聴いてもらうための入り口をつくりたいんですよね。だから、すべてやりたいことをやっているのが山猿です。

 

 

地方を拠点に音楽活動をすることの意味

‐全国を駆け回る一方、今でも地元の福島県・会津に拠点を置いて活動しているそうですが、それって不便だったりしませんか?

不便さはないです。なにより自分の地元でつくる音楽が好き、ふるさとの福島が大好き、っていうことがベースにありますね。山猿の音楽も「東京」という感じではないし。着飾った姿ではない、地元で生活しているそのままのスタイルを歌にしていますからね。東京に来たら行きづまってしまうと思いますよ。

‐以前は東京に住んでたこともあるんでしたっけ?

仕事をしていたころですね。東京に住んでいろんな痛みを覚えました。今では一周して東京の良さを知ったと思っています。

‐痛みと良さ。

東京の人はずっと前を向いているんですよ。一方で田舎の人は土を見ている、自然を。東京の人は夢を持って仕事をしに来ているんだなって思っていました。自分自身、東京にいたころは毎日忙しくて、なんでこんなに頑張っているんだろうって思っていて…。だからこそ、痛みを知っているアーティストは強い、頑張れるんだ、と理解できましたね。

‐頑張れる、というのは?

音楽だけじゃなくて、この寂しい世の中でまだ頑張れる、ってすごいことだと思うんですよ。仕事にしてもなんにしても「終わった」って思えることないじゃないですか。延々続いていく。それでも一日頑張れるってすごいなって。まだ傷ついていくのかって。

 

‐山猿さんの曲からは、そういう「頑張る」人への共感というか、リスペクトするような思いを感じました。

一生懸命やってる人ってかっこいい、と思うんですよ。だから音楽で言うと、アイドルもビジュアル系も関係なくいっぱい聴きますしね。みんな、何歳になっても汗をかいているんですよ。大先輩の鈴木雅之さんも、ずっと一生懸命。そんなリスペクトしたいお手本が周りにたくさんいるのは大きいと思いますね。僕も、情熱は誰にも負けてない、と思ってますけど。

‐そこには地元である会津の血も関係してると思いますか?

そうですね、そういう街ですからね。情熱を大事にする街。白虎隊って知ってます?14から16歳くらいの子が戦争に行かされた街ですよ。あと、会津の掟で「ならぬものはならぬ」ってあるんです。適当じゃダメ、だらけることもダメ。ストイックですよね。そういう街で育ちましたからね。

‐そういう山猿さんのようなストイックで自分に正直な生き方って、どうやったらつくれるんでしょう?

どうつくるか…?人生って出会いだと思うんですよ、今日誰と出会ったか。明日誰と出会うかを考えるよりも、今日恋人と出会ったなあとか。明日は明日の風が吹くってあるように、今日起きたことを大切にしていくほうがいいんじゃないかなって。

‐腑に落ちますね。

それは「夢はかなうものではない」みたいな、諦めの言葉にも言いたいことで、「じゃあかなえればいいじゃん」って思うんです、僕は。待つより獲りに行った方がいいし頑張っている方がかっこいい

‐一貫してますね…!そういう思いは今後の音楽活動にも反映されていきますか?

今度出る「あいことば4」っていうアルバムがまさにそれですね。愛の言葉がたくさん詰まったアルバムで、今までと違って全力の愛と、痛みも入っています。さっき90%が実体験って話しましたけど、今回は100%。だから全力の心で聞いてほしいですね。会社で嫌なことがあったり、学校でいじめられてたり、でも「山猿もこうだったんだから大丈夫だ」って思ってもらえたらいいなと。

‐心強い味方がいるような。

山猿はさらけ出している、君と同じ痛みがあるから大丈夫だよって伝えたいですね。喜怒哀楽がぎゅっと詰まった、1ミリも嘘がないアルバムです。