橋場 了吾
1975年、北海道札幌市生まれ。 2008年、株式会社アールアンドアールを設立。音楽・観光を中心にさまざまなインタビュー取材・ライティングを手掛ける。 音楽情報WEBマガジン「REAL MUSIC NAKED」編集長、アコースティック音楽イベント「REAL MUSIC VILLAGE」主宰。

芸術やスポーツの世界では、母国よりも海外で人気を博している方々が多くいます。例えば、世界最高峰のプロレス団体で活躍する中邑真輔選手やアスカ選手。中国で最も有名なお笑い芸人といわれるねんど大介さん。ヨーロッパを中心に絶大な人気を誇りワンマンライブも成功させている「天使の歌声を持つディーヴァ」KOKIAさんなどなど。

 

今回インタビューした、サックス奏者の小林香織さんもそのひとり。洗足学園音楽大学ジャズコースでサックスを学び、2004年にメジャーデビュー。中国・台湾・韓国・タイでもCDがリリースされ、2012年には「The Most Beautiful Saxophonist in Asia」を受賞するなど、音楽面でもビジュアル面でも高い評価を得ています。

 

その小林さんがライブのために来札、サックスに対する思いを語ってもらいました。

 


 

「これ以上勉強をせずに大人になる方法はないか」を探した

‐小林さんがサックスに興味を持ったきっかけはどのようなものだったのですか?

実は、勉強が全然できなくて…(笑)。そこで、これ以上勉強しないで大人になる方法はないものかと真剣に探したときに、そうだ!楽器をやればいいんだと思って現在に至っています。

‐とはいえ、サックスは男性奏者のイメージが強いと思うのですが…。

今でこそ女性サックス奏者は増えていますが、私の高校時代は全然いませんでした。だからこそ、何か変わったことをやって周りをびっくりさせたかったんです。今思えばギターやベース、ドラムでも良かったと思うのですが、当時吹奏楽部に入っていた関係で、部活の中で演奏できる楽器から選ぼうとしていたので視野が狭くて(笑)。

‐もともとフルートをしていたんですよね。

中学時代はフルートでした。当時歯並びが悪くて矯正をしていたんですが、歯医者さんから『フルート以外禁止』と言われてしまいまして。それで最初はフルートか打楽器しか選択肢がなかったんです。

‐それでフルートを選んだんですね。

定期演奏会の集合写真を撮るときに、自分の楽器を持つので、フルートだとキラキラ光るんですよ。打楽器だとバチなので、女子中学生の私には地味に映ってしまって…。それでも当時はフルートがしっくり来ていなかったんですが、サックス奏者になった今では、ライブでもレコーディングでも使う楽器になりましたね。

‐そしてサックスへ転向することに…。

今思うと大胆なのですが、「今からサックスを始めて何とか形にしたい!」と親や学校の先生を説得したんです。まだサックスを吹いたこともないのに。サックスの持っているイメージが、私に合うんじゃないかなと。それで初めてサックスを吹いたときに『これは一生お付き合いする楽器になるかもしれない』と直感的に思ったんです。

‐高校時代にサックスを始めて、音楽大学に進むというのは急ピッチですよね。

当時師事していた先生にも『あなたには時間がない』と言われていました(笑)。私は音大を目指すといいながら、高校2年の時点でファのシャープの押さえ方はこうで、というレベルでしたから。

‐足し算・引き算しか知らない状態で理系の大学を受けるようなものですね(笑)。

そうなんです(笑)。なので人の何十倍も練習しないとダメだといわれて、今の私でもそこまで練習できないなというくらい練習していました

 

立ち止まって余計なことを考える時間がなかった

‐小林さんをそこまでのめり込ませたサックスの魅力は何ですか?

『音』ですね。楽器の音なんですけど、人が話しているような感じ…。それと『フレーズ感』ですね。

‐「フレーズ感」?

サックスが似合うフレーズというのがあるんです。言葉でいうと『方言』ですね。サックスが持っている『方言』にキュンと来たんですよね。

‐大学在学中にデビューアルバムをレコーディングしていますから、本当に駆け足でしたね。

 もうこれはラッキーとしか言いようがないですね。こんなとんとん拍子に行くとは思っていなかったので、そこまでシンデレラストーリーなんですが(笑)。その先が大変でしたよ。

‐それは?

若かったので、『世に出る』ということをそこまで重くとらえていませんでしたね。なので、継続していくことの難しさや常に発信していくために材料を仕入れていく大変さがありました。

‐その中でどのようにモチベーションを高めていったんですか?

ありがたいことに、次から次へと休む間もなくチャンスをいただけたのが大きいですね。ゆっくり考える時間がなかったので、立ち止まって余計なことを考えることがなかったんです。なので、サックス奏者として大人になったのはここ2~3年くらいかなと思います。

 

シンガーになりたかったからこそ確立できた個性

‐昨年8月にリリースされた『MELODY』は、洋楽の新旧の名曲のカバーアルバムですが、ヴォーカルラインもすべてサックスで演奏されていますね。

すごく狭い選択肢の中からサックスを選んだので、今自分を分析するときっと「本当は歌いたかった」んだろうなと思います。だから、サックスを手にしたもののサックス奏者になり切れなかったのかもしれません。シンガーになりたいサックス奏者、という感じでしょうか。

‐でもそれが、一般的なサックス奏者とは違い、オリジナルソングでも口ずさめるフレーズをサックスで演奏するという個性の確立につながっていると思います。

サックスならではの演奏は、口ずさめないからこそのカッコ良さがあると思うんですが、私は体質的に違ったんですね。タイトル通り、メロディが大好きなので。

‐ライブも拝見しましたが、印象的だったのはサックスを初めて聴いたであろう子供たちが何人も手拍子をしたり踊ったりしていたことです。

お子さんにもっと見ていただきたいという気持ちはあります。私が演奏する場所は、どうしてもチャージをいただいたり夜遅かったりするので、今回のようなショッピングモールでの演奏はお子さんと触れ合える貴重な時間なので、凄く嬉しいことなんです。まずは、サックスという楽器があるんですよ、というのを知ってほしいですね。

‐これから新作の制作に入るということですが、どのような作品になりそうですか?

これまで『こういう曲を作りたい』『憧れのアーティストに近づきたい』という思いがあったんですが、今回はそこから抜け出して、まっさらな状態から浮かんできたものを書き留めています。自分らしさを出していい時期、いや、出していかないといけない時期なのかなと思っています。アルバムをリリースするときはコンセプト…目的地を決めるのが毎回大変なのですが、今回は意外に近い場所にあったという感じですね。ジャンルを超えて、自然体で皆さんに喜んでもらえるアルバムにしたいと思っています。

 


《取材を終えて》

サックスという楽器は、ヴォーカルやギターのように音色のベースを技術やエフェクターなどで変えることが出来ません。それ故に「感情の込め方」で音色をコントロールしなければいけない、難易度の高い楽器です。

 

しかも、小林香織さんがレイテストアルバムでチャレンジしたのは洋楽カバー。歌い手によって全然表情の違う楽曲たちに、サックスで挑んだことになります。

 

しかしながら小林さんは、各楽曲の個性を尊重しながらサックスで「歌う」ことに成功しました。そして、ヴォーカル部分だけでなくギターやキーボードのソロ部分にも変化をもたせています。

 

「勉強が嫌いだったのでサックスで何とかしようと思ったんです」と笑う彼女の奥底にある芯の強さが、小林さんならではのサックスの才能を開花させました。今年はオリジナルアルバムをリリース予定とのこと、どんな作品が完成するのか、こちらも楽しみです。