お面をつけたミュージシャンが、英語詞で洋楽フレーヴァーたっぷりのキャッチーなパンクサウンドを奏でる…BEAT CRUSADERS(1997年結成、2010年解散)が日本のミュージックシーンにもたらしたものはあまりにも大きすぎました。大きな仮面(日高さん曰く「MAN WITH A MISSIONの先駆け」)をつけたヴィジュアルもインパクト大でしたね。

BEAT CRUSADERSの中心メンバーだった日高央(ヒダカトオル)さんは、2012年にTHE STARBEMSというバンドを結成し、「今やりたい音楽」を実践しています。

その日高さんがライブのために来札、これまでの音楽遍歴やTHE STARBEMSの日本のバンドシーンにおける立ち位置などを伺いました。

橋場 了吾
1975年、北海道札幌市生まれ。 2008年、株式会社アールアンドアールを設立。音楽・観光を中心にさまざまなインタビュー取材・ライティングを手掛ける。 音楽情報WEBマガジン「REAL MUSIC NAKED」編集長、アコースティック音楽イベント「REAL MUSIC VILLAGE」主宰。

音楽との出会いは、小学校時代のTHE MONKEES

‐日高さんといえばBEAT CRUSADERS時代から英語詞で歌っていますが、そもそもの音楽との出会いはどのようなものだったんですか?

最初は小学校2年生のときですね。THE MONKEES(アメリカの4人組ポップロックバンド)のテレビ番組の再放送が好きで、それが見たいがゆえに学校が終わると野球に誘われてもすぐに帰っていました。その番組を見て『バンドって遊んで暮らせるんだ』と思っちゃったんですよね。

‐確かにコメディドラマ仕立てでしたからね。

THE MONKEESはテレビ用のバンドでしたから。悪者が出て来てお姫様をさらって彼らが助けて最後は皆で歌うという勧善懲悪の世界だったので、こんなに楽しい世界があるのかと

それまではやりたくもない掛け算をやらされたりしていたので(笑)、それと比べるとこっちの世界の方が楽しそうだということで惹き込まれたんですよね。

‐そのあと色々な洋楽を聴くようになったんですか?

そうですね。小学校の時点でTHE MONKEES、THE BEATLES、THE ROLLING STONESは好きでした。

学校では話を合わせるためにピンクレディーやジュリー(沢田研二さん)が好きだといっていましたけど(笑)。

ピンクレディーやジュリーも好きでしたが、家では『STRAWBERRY FIELDS FOREVER』をヘッドホンで聴いて、右と左で音が違うぞなんて言っていました。イヤな子ですよね(笑)。

 

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THE STARBEMSはインディーズパンク

‐実際に音楽を始めたのはいつ頃ですか?

中学校3年生のときの謝恩会です。謝恩会だけバンドが許されていた学校だったので、『先生たちに一泡吹かせてやろうぜ』と意気込んでSEX PISTOLSをやったんですよ、音楽室にあったありものの機材で。

そうしたら、先生たちに褒められちゃったんです。アナーキーなことをやったつもりなのに、学ランを着て演奏してるもんですから、見た目は全然パンクスじゃないですし演奏も下手、音量も小さ目だったので『よかったぞ』って。

そこで勘違いしちゃったんでしょうね、本気でバンドをやるようになりました(笑)。

‐ミュージシャン以外の道は考えたことはなかったんですか?

実はもともとLD&Kというインディーズ系レーベル兼事務所の社員だったので、むしろ今でもミュージシャンではなくサラリーマンで定額の給料をもらいたいです(笑)。ミュージシャンは歩合制の世界なので、こんな不安定なことはないですよ。

‐(笑)。そのTHE STARBEMSですが今の日本のミュージックシーンにおいてどのような立ち位置にいると感じていますか?

BEAT CRUSADERSと、ギターの越川和磨がやっていた毛皮のマリーズでは、ファンも混じっていませんでしたしシーンが違ったんですよね、東京では。それがローカルになれば混じったりすると思うんです。

BEAT CRUSADERSはBRAHMANやHUSKING BEEのようなパンク寄りの位置にいたつもりだったんですが、意外にメジャーで受けちゃったことで、THE BAWDIESが好きなファンも聴けるようなバンドだったというか

本来は毛皮のマリーズやTHE BAWDIESがおしゃれな感じのチームだと思っていたので、BEAT CRUSADERSのような小汚い男たちとは違うはずだと(笑)。

‐バンドファンにはたまらない考察ですね。

インディーズパンクシーンにいたつもりだったんですけど、状況が変わっちゃったんですよね。それをもう一度インディーズパンク寄りに戻したいと思っているのが、THE STARBEMSなんです。

決して売れたくないわけではないですよ(笑)。でも広げすぎるのも良くないと思います。

 

 

今、「獣たち」がやりたくてやっている音楽を聴いてほしい

‐11月に2年ぶり3枚目のアルバム『Feast The Beast』がリリースになりました。直訳すると『獣の宴』みたいな意味でしょうか?

そうですね、獣をもてなすというか。『Nonfiction』という収録曲の中にこの歌詞が出てくるんですが、要はメンバーが全員獣なんですよ(笑)。

見た目もそうですし、行動も。遅刻常習犯、リハのドタキャンを連絡しない人、食べ物を食べ過ぎる、プロレスマニアのマッチョ…まあ、凄いですよね(笑)。

それぞれの音楽的出自も違いますから、THE STARBEMSの音楽の受け取られ方も全然違って。もちろん以前の活動の方がいいという方もたくさんいるでしょうし。

 

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‐そこは悩ましいところですよね。

SNSの時代なのでダイレクトに届くんですよね、そういう意見が。皆さんが思っているほどジェントルマンじゃないですよ、この通りワイルドなおじさんたちだけどそのまま受け入れてね、という希望を込めたタイトルですね。こっちはやりたくて今の音楽をやっているんですよ、ということです。

‐今の自分たちを見てくれ、聴いてくれと。

過去のことは、今やりたくないから終わっているわけです。誰かにBEAT CRUSADERSや毛皮のマリーズをやめろと言われたわけではなく、自分たちで辞めているんですよね。

だからこそノスタルジーだけで過去のものを見たい・聴きたいといわれても、獣たちには通用しませんよと(笑)。

‐来年は全国ツアーも予定されていますが、ファンの地域性についてはどのように感じていますか?
 

北海道のファンは教育が行き届いていますよね(笑)、礼儀正しいし音楽が好きだし。ミーハーな人を見たことがないというか。

我先に!と写真やサインを求めてくる人がいないので、こちらから『どうぞ』と申し出るくらい…申し訳ないですけど、南に行けば行くほどミーハーなファンが増えます(笑)。

沖縄は逆にミーハーじゃないんですけど、大阪から九州の人はグイグイ来ますね、それがスタイルですからね。ライブの瞬間だけは、北海道のファンもグイグイ来てほしいなと思います。


【取材を終えて】

90年代以降の音楽シーンを通過してきたものとしては、Hi-STANDARD、ELLEGARDEN、BEAT CRUSADERSという3バンドは日本のバンドシーンに英語詞を根付かせたパイオニアのような存在です。

 

そのBEAT CRUSADERSを解散し、THE STARBEMSを立ち上げたのは日高さん。今回のインタビューの中で一番興味深かったのは、過去よりも今の自分たちを見てほしい・聴いてほしいという思い。日高さんの口からはっきりと「ノスタルジー」という言葉で表現されたのは衝撃的でしたが、それだけ今のTHE STARBEMSの活動が充実している証拠でしょう。

 

インタビュー翌日に行われたライブでは、これぞプロフェッショナルライブバンド!と唸らせてくれるようなパフォーマンスを披露。本当に音楽が好きなんだなという姿をこれでもかというくらい見せつけるライブでした。

 

音楽、そしてライブを愛するすべての人に贈る「獣たちによる宴」は、始まったばかりのようです。

 

【ライター・橋場了吾】

北海道札幌市出身・在住。同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。 北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。