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「踊りは気持ちだ」梅棒のエンタテインメント界で挑戦し続ける理由

毎日多くの視聴者に届けられるテレビの世界と違い、ちょっとコアでディープなファンが多いイメージの舞台芸術。そんな中でひときわ異彩を放つ集団がいます。それは【踊りは気持ちだ!】をコンセプトとして躍進するエンタテインメント集団・梅棒


『風桶』エンディングナンバー 【アンビリーバーズ】梅棒©

 

J-POPに乗せて踊ったり演じたり、テンポよい舞台の原点は、「お客さんに分かりやすいものを踊って、分かりやすく楽しんでほしい」ということ。
常に上を目指してのし上がって行く彼らが生み出すエンタテインメントとはどんなものなのか。リーダーの伊藤今人さんに伺いました。

 


 

ダンス×演劇×ノンバーバルパフォーマンス=梅棒?


最新作「ピカイチ」から ©梅棒


−さて、まず梅棒を説明するのに、ご自身たちで普段使っている言葉があれば教えてください。


それがないんですよ(笑)。毎回苦労するんです。知らない人に伝えるときに。ミュージカルに近いものだとは思うんですけれど。なので、「ほぼノンバーバル(編集部注:セリフがないこと)で、ダンスとアクティングでJ-POPに乗せて行われるオリジナルミュージカルスタイル」かな。難しいよね。梅棒のスタイルを説明するのは。最近ダンスでストーリーをやる人増えてきてるみたいで。でも、他団体とは一線を画したいよね。


−おお。影響を与えているんですね。梅棒はJ-POPで踊ることが特徴だな、と。このスタイルは、どのように生まれたのでしょうか。


単純にお客さんに分かりやすいものを踊って、分かりやすく楽しんでほしいという狙いがあって。ダンサーはスキルが高いのに、ソロ中心のショー(編集部注:舞台上で1人で踊ること)をやっているチームが多いと思っていたんですよね。テクニックは発展途上だけど、シンプルにお客さんを喜ばせることは出来ないか、ということを模索する中で、J-POPを使って分かりやすく面白い構成でみせようと、はじめたんです。


−踊りながら演じてもいますが、こちらも最初から構成要素にふくまれていたんですか?

 

我々は日本大学芸術学部のメンバーで発足しており、僕も含め演劇学科のメンバーが多数いたため、演劇には馴染みがありました。実際メンバーにも俳優がいます。元々の母体は大学のジャズダンスサークルだったので、公演を作る上で、ストーリー性や感情表現に重きを置いていたし、ダンスに演技を入れて表現することは自然なことでしたね。それを今までやっていたJ-POPに入れ込んで、演劇的に踊りながらやってみたらどうだろうというチャレンジをしたのが2005年の春です。学生ダンスサークルの大きなイベントで披露したら、喜んでもらえた。そこからJ-POPを使ってお話を踊りながらやる、というスタイルになっていきました。

 

最新作「ピカイチ」から ©梅棒

 


−このスタイルを作り上げる上で苦労した点はありますか。


やり始めて学んだのは、「意外とストーリーって伝わらないものだ」ということ。2005年以降毎年のように新作を2つ作っていたんですけれど、僕らが「伝わるだろう」と思っていた設定やキャラクターがあまり伝わっていなかったんですよ。「設定が観客に理解されていない」という状況がつながっていくと、構成上の最終的なオチでも盛り上がらないということも経験しましたね…。


−なるほど。

 

最新作「ピカイチ」から ©梅棒


これを踏まえて、なるべくシンプルにキャラクターとストーリーをどう面白くみせるかを考えなければいけない、と。複雑な人間関係を作品の中で描いてしまうと、伝わらなくなっちゃうんです。お客さんが後からじゃなくて、観てるその瞬間その瞬間で理解していけないと、クライマックスで上手く楽しめないというのを経験したので、その点は気をつけながら常に作っています。

 

 

セリフがなくても歌詞がわからなくても理解できる



−海外での公演もされてますよね。日本のお客さんと違うなというのはありましたか。


タイで1回やったんですが、ものすごく盛り上がったんですよ。歌詞関係ないな、と。音の感覚と、やってることの面白さで十分伝わるんだ!と思いました。タイの人は一瞬でも面白いところがあれば、立ち上がって喜んじゃうみたいなところがあるので、「ストーリーを理解してるのかな?」っていう疑問のはありましたけど(笑)。


−そう聞くと振り付けがパントマイム的な意味を持って受け止められているのかなと思ったんですが。


そうだと思います。我々は「ダンスとアクティングで構成している」ので。歩いてきて、椅子を引いて、椅子に座って、ノートを開いて勉強するという動きも、全部をダンスにしてしまうとそれが伝わらなくなる。だから椅子を引くところはアクロバティックに、そして座って、ノート開くところはアクティング。そして席を立って歩いていくところからの、目が合って「恋をした!」という瞬間はアクティングでやるけれど、その先はサビに合わせて踊る。使い分けることで、セリフがなくても歌詞がわからなくても理解できるストーリーを作っています。


−そのバランス感覚が梅棒ならではなんだと思いますね。ちなみに曲はどういう基準で選んでいるんですか。


CDが売れなくなってきた世界で、僕らが若い頃に聞いていた曲が改めて陽の目をみる機会って中々ないと思うんです。歌番組も減ってきてますよね。僕らが新しい形で、提供することで、こんな面白い曲があったんだとか、自分の親の世代の曲とか、若い頃はあまり好きじゃなかったけれど梅棒を通して聞いてすごく好きになったとか。聞いてみよう、買ってみようというきっかけのひとつになるんじゃないかなと僕は思ってる。

 

−なります。とってもなります。


だから最近作品中で使った曲はセットリストとしてパンフレットに載せています。曲をお借りしているアーティストの方々にはそういう形でお礼したいですね。あとはなるべく曲を使わせていただいたアーティストさんにはお声がけして見に来ていただいてます。


−その関係、素敵ですね。


アーティストの方々の力を多大に借りて僕らは作品を作っていますからね。

 

 

自分の強みを生かして刺激し合う関係が、チームを強くする

 

稽古風景 ©梅棒

 

−公演では、ゲスト出演の方も入りますが、皆、梅棒スタイルに感染して舞台として成立しているように思います。外部の方も合わせてのチームビルディングにはどのような配慮をしていますか。


ゲスト出演メンバーは、梅棒のスタイルを理解してくれた上で、作品のために全力を尽くしてくれるであろう方に僕が直接声をかけていきます。誰にも負けないオンリーワンな魅力やダンススキルを持っている方が多いですね。


−梅棒メンバーの役割は?


僕が総合演出をするんですけれど、曲ごとに担当者が決まっています。もちろん僕と話し合いを重ねた上ですすめていくんですけれど、担当したメンバーがその曲に責任をもつ。作品の参加者全員が流れを理解してるし、全員のモチベーションも高くて、そうやって梅棒メンバーが演出を引っ張っていく姿をゲストメンバーも必然的に目にすることになる。そうなると、自分もそうならなくてはという意識になってくれるようですね。


−相乗効果が生まれているんですね。その中で伊藤さんはどういう立ち位置ですか


チームビルディングの核としては、僕が変にプライドを持たずしっかりと頼れているということが大きいのかなと。自分で出来ること、出来ないことがあるというのは、分かっていて。僕より踊れるとか面白いことを考えられるとか、メンバーそれぞれの強みがあるので、そんなメンバーに素直に頼る。そうすることで、自分の強みはこれだというのを理解して動く。そういう作品に対しての向き合い方が、梅棒メンバーから自然に伝染していく。ゲストメンバーの方々がそれに乗っかってきてくれると、さらにそこから刺激を受けて、梅棒メンバーもがんばる。そういう関係性で維持されているのかなと思います。

 

稽古風景 ©梅棒


−ゲストメンバーが稽古に入る前と公演が終わったときで、どのように気持ちが変わるのか聞いてみたいな。


今までのメンバーの多くは勉強になったと言ってましたね。ダンサーは舞台というものに出たことがない人もいますし、演じながら踊ることに抵抗があった人が、最終的に前のめりでやるようになったり。そういうのを肌で感じると、何かその人の眠っている才能を刺激できたのかな、その人の中で色々変わったのかな、と。


−稽古という時間を過ごすことで、おなじ梅棒スタイルを全員が持つようになるのか…。すごい濃い体験なんだろうな。

 

 

演劇的仕掛けでドキドキさせたい

 

最新作「ピカイチ」から ©梅棒

 

−作品制作にはどれくらい時間をかけるんでしょうか。


ゲスト出演者も合流しての本稽古は約2ヶ月ですが、それに先駆けて梅棒メンバーだけで深夜練習したり、僕の構想を聞いてもらったりします。その期間だけで2ヶ月くらい。各曲の振り分けと構想を練ったのちにゲストメンバーも合流して本稽古がスタートします。

 

実際にセットを組んでの稽古風景 ©梅棒

 


−1回の公演で何曲ぐらい踊るのですか?


ちょうど20曲くらい。そこから増減はすると思います。毎回そのくらいです。今回の公演では全25曲ですね。


−20曲!しかもダンス公演。ほぼ全員出続けですよね? 早替えなどもされているとか。


早替えばっかりしてる奴もいますよ。(笑)1公演で10役、デフォルトが着替えながらやるという設定のキャラクターもいたときがあります。とにかく体力のことも考慮して香盤を組む。1回だけ梅棒メンバーだけでやった公演があって、それは回す人数が少なくて、全員出ずっぱりだったので、その時はまじで皆体力やばかったよなぁ。


−早替えがあったり、舞台装置をきちんと組んだり、普通のダンス公演と違うな、と感じます。そういう部分に手を加えてまで作り込む理由は何ですか。


ダンスって一般の人からしたら敷居が高いですよね、ともすれば抽象表現。だから、肉体だけで何かを表現するのって限界があると思っています。だから装置、美術、道具、照明、歌詞の力も借りて、音響や色々な力を使って、とにかくストーリーを分かりやすくしていく。僕自身、じつは演劇を作るつもりでやっています。舞台装置って演劇の面白さの1つでもあると思うんですよね。

僕が観客としていい舞台を観に行ったとき、入った瞬間見た舞台美術がすごくて、それだけに3千円くらい払いたくなるようなところもある。ダンスだけじゃなくて、いろんな舞台のドキドキを味わって欲しいと思ってる。僕が役者として育ってきた人間だから、美術とか装置があるってことに違和感がないですしね。ストーリーをしっかり伝えたいし、舞台装置があることで生じるシンプルな喜びをお客さんに味わって欲しい。そのために必要不可欠なんです。


−今までの作品を拝見すると、その意図を実感します。わくわくしましたもの。


やっぱりお金はかかるんです。舞台装置を組むということは、本番の舞台美術の費用だけじゃなくて、稽古場でもそれを準備しなきゃいけない。稽古場で組むということは、高さや広さが担保されている、組める稽古場を借りなくちゃいけない。年々上演する劇場のサイズも大きくなってきて、組むものも大きくなってきた。必然的にチケット代は上がっちゃうんですけれど…これだけの舞台美術組むならこれくらいチケットの値段かかるのも当然だよなっていうものを作るしかないなと思っていますね。

 

 

常にチャレンジして上を目指す


−今後はどのような展望を考えているんですか。


成長しているカンパニーだとお客さんには思って欲しい。常に自分たちが持っている金銭的な体力とか、公演規模の1個上を目指すという意識でやっています。

 


僕は小さい舞台の出身なので、劇団がのし上がっていく過程がどれだけ難しいか分かっているんです。2千人の壁、4千人の壁ってあるんですけれど、成長してくると会社化しなくちゃならなかったり、金銭的に回らなくなってきたり、脚本のクオリティにハイレベルなものを求められたりとか、いろんな壁が出てくる。その時に、じゃあ自分たちの今やりやすいところでっていう風に手綱を緩めると、成長が止まる。そうなったときにお客さんは離れていくということを僕は経験もしているんで。


−やはり厳しい世界なんですね。


お客さんたちがどういう舞台を観に行きたいかっていうと、今話題になっている、面白いと言われている人たちを観に行きたい。それって、その人たちが「常にチャレンジしてる劇団だから今回も観に行ってみようかな」って思っているんじゃないか、と思うんです。


−というと?


例えば今度は前回より大きい劇場でやるよだったり、こんなゲストメンバーを交えてやるよとか、長い期間やるよとか、全国何都市に行くというような。お客さんに対して毎回新しい刺激をひっさげて公演をする。そういった刺激を常に提供して、ムーブメントになっているカンパニーになっていたいと思っています。そうならないと、エンタメで生活をしていけるようにはなれないから。常にお客さんたちに「今波に乗っている団体がいて、梅棒っていうらしいよ」と、梅棒を観たことないお客さんを引き寄せていくコンテンツやカンパニーイメージを作っていきたいなと思っています。話題のやつらでありたいと思う。



−なるほど。最近の活躍をみると、そのように受け止められている気がしますが。


でもだからって、手を緩めるとすぐ忘れられるんですよ。俺らも30才過ぎてるし、もっと若いやつらで新しいエンタメを作るやつなんてどんどん出てきているんで、トップにいかないといけないですね。

 

 

すべての人に向けて舞台を作り、架け橋になる。

 


−どういう人に届けたい、観て欲しいとかありますか。


「すべての人に観てほしい」。僕らは胸を張ってそう言えます。そう言えるダンスカンパニーも中々ないと思ってるんです。いろんな特色のあるカンパニーがありますけれど、どの世代でも、どの性別でも、どの職業の人でも、どの国の人でも、観に来た時に楽しめるというのを目指しています。敷居をいい意味で低くしていこうと思っています。何も考えないで観て、何も考えずに帰れる。興味がある人も、興味がない人でも楽しめるところに僕らは大きく裾野を広げようと思ってる。それができるスタイルのカンパニーだと思っています。


あと、「架け橋になりたい」と言っているメンバーもいます。ダンス好きな人が演劇に興味持ったり、演劇好きな人がダンスイベントに行くようになるとか。あと、アーティストのファンの人が観に来て、いいと思ってくれるとか。その逆で、このアーティストの曲すごくいいな、じゃあライブ行ってみようとか。梅棒をきっかけに見に行った人たちの次の一歩を踏み出すきっかけになれたらいいなと思ってます。


−70seedsといっしょですね! その姿勢が単なるダンスチーム、劇団と異なる部分だと思いました。今日はありがとうございました。

 

 

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鈴木賀子

意志ある人の、レールガン。

ジュエリーメーカー、広告クリエイティブ領域の製作会社、WEBコンサルティング企業を経て、2016年より70seeds編集部。アンテナを張っているジャンルは、テクノロジー・エンタメ・オタクコンテンツ・自転車・食・地域創生・アート・デザイン・クラフトなど、好奇心の赴くまま、飛びまわり中。