「次の70年に何をのこす?」をコンセプトに、新しい当たり前づくりに挑む方々を取材・発信している70seeds。取材させていただくみなさまにとって、名刺代わりに提示してもらえるような記事を生み出すことを目標に、活動のみならず、その背景にある想いを届けることを信条としています。

この想いは、編集部だけでなく日頃からインタビュー・コラム記事を寄稿してくださるライターさんの力なしでは叶いません。そこで、70seedsメディアの記事を熱量を持って書いてくださるライターさんとの座談会企画を始めました。

その名も「答えのない座談会」。世の中には白黒はっきりつけられない曖昧な事柄が多くあります。にも関わらず、あたかも「正解」があるかのように定義づけていくことが求められる社会の中で、小さなメディアが「答えのないこと」を発信する価値があるのではないか。そんな想いから、ライターのみなさんと一緒にテーブルを囲みながら、それぞれが大事にする価値観をざっくばらんに語り合っていきます。

テーマは、「書いて伝えることにどう向き合ってる?」70seeds編集部を含めた4人のライターが、答えのないそれぞれの想いや考えを語り合いました。

<写真・左>ウィルソン 麻菜
<写真・左から二番目>若林 理央
<写真・右から二番目>佐藤 伶
<写真・右>貝津 美里

貝津美里
人の想いを聴くのが大好物なライター。生き方/働き方をテーマに執筆します。出会う人に夢を聴きながら、世界一周の取材旅をするのが夢です。

<プロフィール>

若林 理央
ライター兼エッセイスト。
さまざまな職を経て2013年から文筆業に携わるように。現在は紙媒体・Web媒体でインタビュー記事や漫画評、エッセイを中心に書き、今年(2022年)からはZINE制作も始めました。趣味は読書、お笑いライブ鑑賞、熊の生態研究。

佐藤 伶
ライター・編集者・広報。
WEBマガジンの編集を経験した後フリーランスへ。メディアでの執筆や企業・個人の発信のお手伝いをしています。心のあり方と人との結びつきを探求中。取材と執筆は限りなくライフワークに近い。趣味は、旅、読書、バレエ。

 

ウィルソン麻菜
70seeds編集部
製造業や野菜販売の仕事を経て「物の向こうにいる人を伝えることが、作る人も使う人も幸せにする」と信じて、ライターに転身。職人や生産者、メーカーなどの取材記事、ウェブサイトや冊子等の執筆・編集を担当しています。もの、こと、場所の向こう側にある「想い」を届けることで、よりよい世界を作るために邁進中。

 

貝津美里
70seeds編集部
生き方を伝えるライターとして、世代・年齢・性別・国内外問わず人の「生き方」を聴き「名刺代わり」となる文章を紡ぎます。生き方/働き方/地域/企業広報editor
世界に一つだけの本づくりサービス「文章で残すアルバム”結びめ”」 をはじめました。
人と人、人と想い、想いと想いを「結ぶ」書き手でありたい。

 

それぞれのライターになったきっかけ

貝津:まずは、みなさんがライターになったきっかけから聞いていきたいなと思います。

若林さん:私は子どもの頃から文章を書いたり、本を読んだりするのが好きで、将来は小説家になるのが夢でした。ただ、中学生のときに大きな文学賞に小説を送ったのですが落ちてしまい挫折して、その後、他にしたいこともできたので大学卒業後は書くことと関係のない仕事をしていました。それでも何か書いていたいと思って、ちょこちょこ媒体を見つけては簡単なコラムなどを載せてもらっていたのですが、転機は、日本語教師として勤め始めた頃に訪れました。

ライターと日本語教師の両方の経験から恩師に「国内の日本語学校に置いてあるフリーマガジンのライターをやってみないか?」と声をかけられたんです。ずっと書くことを仕事にしたいと思っていたので嬉しかったですね。初めての勤務日にいきなり取材に行かされて(笑)。それが生まれて初めてのインタビューでした。

貝津:すごい、いきなりデビューだったんですね!

若林さん:そこから紆余曲折を経て、ライターの仕事だけでやっていこうと独立を決意。フリーランスとして自分からいろいろな媒体に営業をしたり紹介をしてもらったりして、少しずつ仕事の幅を広げていきました。70seedsもその一つですね。

佐藤さん:私も最初は異業種からのスタートで、新卒の頃は英会話教室の受付事務をしていました。その後、制作会社で編集を3年経験し、フリーランスのライターとして独立しました。

ウィルソン:もともと文章を書くのは好きだったんですか?

佐藤さん:振り返ると、中学生の頃から自分の感情をブログに綴ったりはしてましたね。今読み返せば恥ずかしい、黒歴史ですが……(笑)

ウィルソン:わ〜!わかります、やりますよね!

若林さん:私も経験あります(笑)

佐藤さん:なんだかんだと、書くことへの思い入れはあったのかもしれないですね。新卒の頃も副業でWebライターの仕事をしたり、制作会社では編集だけでなく執筆にも興味があって。そんな私の姿を見た当時の上司から「そんなに好きなら書いてみる?」と言ってもらったのがきっかけで、本格的にライターの仕事もするようになっていきました。

貝津:お二人ともそういった経緯があったんですね。私は「人の生き方を伝えるライター」と名乗ってお仕事をしているのですが、原点は就活をしていた学生時代にありました。もともと生き方や働き方に興味があって、キャリアアドバイザーになりたいと人材紹介会社に就職。でも営業職が肌に合わずに半年で適応障害になり退職してしまいます。

「みんなはできるのに、どうして自分はできないんだろう」と自己肯定感がすごく下がって、一番生きづらさを感じていた時期でしたね。これからどうしようと思ったときに、「人の生き方の選択肢を広げる仕事がしたい」という想いは変わらずあることに気づきました。

文章を書くこと、人の話をじっくり聴くことは好きだったので、この二つを掛け合わせて、自分らしい生き方や働き方をしている人をインタビューするライターになろうと思ったんです。そうして自分の生き方の選択肢を広げながら、同じように生きづらさを抱えている人に「こんな生き方があるんだ」「あんな働き方があるんだ」と選択肢を届けられたら嬉しいなと。最初はアルバイトで生計を立てながら、未経験からのスタートでした。

ウィルソン:やはりみなさん「書くことが好き」という気持ちが根底にあるんですね。興味深い……。それで言うと、私は書くことがすごく得意!というわけではないんですよね。

若林さん:そうなんですね!

ウィルソン:はい。大学時代に国際協力を勉強していたので、「社会課題である大量生産・大量消費をどうにかしたい」「もっと透明性のある消費を促せたら」という想いから製造業や八百屋で働いていました。販売を通じてもっと生産者さんのことを知ってもらいたいと思ったんです。

休日は農家さんのところへ足を運んで話を聞いて回っていましたね。ライターになるつもりは無かったのですが、結果としてそれが初めてのインタビューでした。本当に面白い話をたくさん聞けて、「自分だけではもったいない!もっと多くの人に知ってもらいたい!」という思いから伝える手段を考えます。動画や写真の機材は持っていなかったので、消去法で「書くしかない!」という状況に。以降、ライティング講座に通ったことをきっかけに、ライターになっていきましたね。

私にとって「書く」とは

貝津:ライターになった経緯にもそれぞれの物語があって面白いですね。今や動画や写真、各種SNSを含めて伝える手段がたくさん溢れている世の中。その中でも文章を書くという手段を選んでいるみなさんに「“書く”とはどんな存在か」を聞いてみたいです。

佐藤さん:私はウィルソンさんの感覚に近いなと思います。制作会社に勤めていた頃、「動画や写真は機材が必要だけど、ライティングはとりあえず紙とペンがあればできる」と言われた言葉が今でも残っていて、本当にそうだなと。書く以外の表現はいくらでもあるし、目的に合わせてもっとも伝わる手段を選ぶのが良い。でも私にとって一番身近だったのが「書くこと」だったんだろうなと思いますね。

若林さん:たしかに、イラストや動画はパッと人の目を引くので、それを仕事にしている人が羨ましいなと思うこともありますね。でもやっぱり私の根本は「書く」です。

先ほども言いましたが、中学生のとき、文学賞に落選して小説家の夢が破れた……と心底落ち込んだことがありました。思春期で多感な時期でもあったので、それ以来、小説を書くことが怖くなってしまって。でも、二年前くらいからまた書き始めたんです。

ライターはニーズがあって初めて成り立つ商業性の高い仕事。対して小説は、自分の中にあるものを表現する創造性が発揮できる分野です。お金ではなく、生きがいとして書き続けたい。書いていないと自分ではいられないような感覚ですね。

貝津:すごいな〜。書くことが若林さんご自身を形成しているんですね。

ウィルソン:たしかに、「書く」とひとえに言ってもジャンルは幅広いから。

佐藤さん:それで言うと、私は自分の表現としてのライティングよりも、誰かの代わりに書くことの方がやりがいを感じています。ライターになってみると、表現したいことはあるけど文章を書くのが苦手な人って意外と多いんだなと感じるんです。想いを持って活動している人の「伝えたいこと」が「伝わる文章」を代わりに書きたい。それがしっかり読者に届いたときは喜びを感じますね。

ウィルソン:わかります!私も書くことが苦しいときは特に、「この人の想いを伝えたい!」という強い気持ちが何よりの原動力になってくれています。

ライターになって思うあれこれ。

ウィルソン:私も書くこと自体はすごく身近だったなと思うんです。小学生の頃、小説を書いては、帰ってきた父に「今日ここまで書いたよ!」って見せるのが楽しみだったのを思い出しました。でも、いざライターとして仕事にしたとき、身近だからこそ「誰にでもできる」と捉えられてしまうこともあるなと。その難しさは感じますか?

若林さん:感じますね。

佐藤さん:誰にでもできることですよね?とストレートに言われたこともあります。

貝津:「言葉」って誰もが使うからこそ、扱いが難しいですよね。人によって解釈も使い方もさまざま。コニュニケーションにおいて「自分では伝えたつもりでも、相手にも伝わっていなかった」なんてことは日常茶飯事ですから、それを第三者に伝わる文章にして世の中に発信するって、専門職だなと思います。

若林さん:媒体によって表記ルールや求められる文体も違いますし、みんな言葉を無意識に使っているからこそ説明が難しいですよね。

ウィルソン:「いい文章」って正解がない。好みや主観的な印象にも左右されるから、やればやるほど難しいなと思います。

貝津:あとフリーランスや副業・兼業ライターは、いかにして仕事を獲得するかも大事なポイントですよね。誰でもできるからこそ、価値を感じてもらわなければ食べていけないというか、生き残るのが難しい仕事でもあるなと。

ウィルソン:たしかに……。それで言うと、最初に若林さんから70seeds編集部にお問い合わせいただいたとき、とても驚いたのを今でも覚えています。プロフィールやこれまでの実績、企画書を揃えて送ってきてくださって、面談をする前からぜひお願いしたい!とすぐに編集部で一致しました。やり方は人それぞれですが、丁寧なコミュニケーションや営業も大事ですよね。

若林さん:そうですね。編集者さんと円滑に仕事が進められるようコミュニケーションには気を遣っています。なるべく対等な関係で気持ちよく仕事をしたいですよね。

佐藤さん:私も同じく、一緒に仕事がしやすいライターであることを大事にしています。文章が上手い、または独特な表現で尖っていく、という市場で勝てるとは思っていなくて。だからこそ、ちゃんと編集者の意図や取材対象者の伝えたいことを汲み取りながらコミュニケーションが取りやすい人でありたいなと思っています。

ライターとしての「マイルール」

ウィルソン:ちなみに、みなさんの中で決めているマイルールってありますか?

若林さん:私は集中しすぎてしまうことがあるので、原稿を書くときは時間を測っています。媒体によってまかされる業務の範疇が変わるので、ライターは書く以外の仕事をしなければならないこともありますよね。企画立案・取材準備・インタビュー・文字起こし、構成づくり……など。それからライターの仕事はだいたい〆切があるので、クライアントや編集者、取材対象者に迷惑をかけないように、スケジュール管理も大事な要素だと思います。

貝津:たしかに。締め切りは、本当にヒヤヒヤします……。

若林さん:もちろん全て計画通りにはいかないので、あくまで目安ですが。夜に書いた初稿を、翌朝見返したら「なんじゃこりゃ!」と思うときもありますし(笑)。

佐藤さん:私は取材の話になるのですが、質問内容を固めすぎないようにしています。しっかり準備はして臨みますが、その上で当日はフラットに話を聴きます。固めすぎるとメールで回答してもらえばいいじゃんとなってしまうので。その時の、その人に、ちゃんと向き合いたいです。

貝津:わかるなぁ。あちこち話が脱線することで思いも寄らないエピソードが引き出せたりもしますもんね。インタビューしているときが、一番楽しい!

ウィルソン:私は職人さんを取材する機会も多いのですが、メディアのイメージに沿った記事にされたことがあるケースも聞きますね。

佐藤さん:ライターが「こう話してほしい!」という型を強く出しすぎると、インタビューというより誘導にもなりかねませんよね。

ウィルソン:プライベートなことも含めてざっくばらんに話を聞いて書いたものが「今までで一番自分らしい記事です!」と喜んでもらえたことがあって嬉しかったですね。

若林さん:わぁ〜!それは嬉しい。

ウィルソン:なので型にはめないことは、私もマイルールの一つだなと思います。

貝津:文章を書くって苦しい作業でもあるから、感謝されると本当に嬉しいですよね。私も人の生き方をインタビューすることが多いので、取材対象者さんから「自分の記事なのに泣いてしまったよ……」と感想をいただいたときは、この仕事やっててよかったなとしみじみ思います。

佐藤さん:一方で、ちゃんと自分の納得感も持っておくのが大事ですよね。褒められると嬉しいし、感謝はやりがいにつながる。でも他人軸だけだと、良いリアクションやフィードバックがもらえなかったときにモチベーションが保てないのも危険だなと。

貝津:たしかに……。

佐藤さん:ごくたまに、初稿を書き終えた段階で「これはいい記事になった!やりきった!」と思える記事があるんです。まだ誰にも読まれていない記事だけど、自分の中ですごく納得感がある。そういう自己満足のような感覚もバランスよく持っておくことで、評価を気にしすぎず楽しく続けられるのかなと思いますね。

ウィルソン:とても共感します。70seedsもライターさんの納得感を一番大事にしたいね、と常々話していて。100万PVではないかもしれないけれど、たった一人を救えるかもしれない。そう思うと、渾身の記事をこれからも胸を張って世の中に出していきたいなと思いますね。

貝津:どの意見も、共感と新しい発見の連続だなぁ。書くことに正解がないからこそ、対話するのが面白いですね。

ウィルソン:楽しくてずっと話せちゃいます(笑)。

全員:うん、うん!止まりませんね(笑)。

貝津:では答えの出ない座談会、今回はこの辺で。またどこかで開催したいと思います!今日はみなさん、ありがとうございました。

全員:ありがとうございました!

<写真・左>ウィルソン 麻菜
<写真・左から二番目>若林 理央
<写真・右から二番目>佐藤 伶
<写真・右>貝津 美里

編集:ウィルソン 麻菜 撮影:大森 愛