鈴木賀子
ジュエリーメーカー、広告クリエイティブ領域の製作会社、WEBコンサルティング企業を経て、2016年より70seeds編集部。アンテナを張っているジャンルは、テクノロジー・クラフト・自転車・地域創生・アートなど、好奇心の赴くまま、飛びまわり中。

福井県福井市で生まれた、“よそもの”クリエイターと地元の協創プロジェクトXSCHOOL。70seeds編集部では、過去2回に渡り取り上げてきました。このプロジェクトを通して感じられた、地域とよそものとの素敵な関係性の秘密に迫るべく、参加者たちのその後をさらに詳しく追いかけていきます。

 

第1弾は、現在クラウドファンディングを達成した「こよみッション」です。

 

「こよみッション」は小学生がワクワクするようなミッションを毎日指令してくれる日めくりカレンダーです。ミッションに挑戦しながら暮らしの中で学び、考え、家族のコミュニケーションをつくることができる。このプロダクトを考えだした「こよみッション」チームから加藤さんと中川さんにお話を伺いました。

 

XSCHOOLに飛び込む

‐まず、みなさんどういう経緯でこの福井のXSCHOOLに参加することになったのでしょうか。

加藤:僕は福井県に取材で来る機会がすごく増えていたんですよね。そこで会った色んな人たちがXSCHOOLの運営に関わっていて、始まる前の協力企業選定で工場見学とかしていて。すごい楽しそうだし、面白いに違いないと思ってそのまま勢いで飛び込んだ感じです。

‐具体的にどんな部分が面白いと思いました?

加藤:講師のみなさんがすごく魅力的でした。第一線で活躍している人に教えてもらえる機会ってなかなかないなと思って。あと僕、XSCHOOL受講生の中で最年長なんです。普段の仕事では人に教えてもらうっていう立場じゃないから、年齢的に人に教えてもらう最後のチャンスかもと。

‐確かに。怒られたりする機会もなくなりますよね。

加藤:怒ることの方が多いですから…。

‐なるほど(笑)。中川さんはいかがですか?

中川:私は地方の取り組みに昔から興味があって、地方の魅力的なものをPRする、いつかそういうことができたらいいなと。そんな時にこのプロジェクトの広報をしている編田さんがXSCHOOLの説明会に声をかけて下さって。説明会に行ったら、元々ファンだった鯖江のTSUGIの新山さんが運営チームにいらっしゃって。いつかはお会いしたいと思ってた方なのでそんな機会めったにないし、ご縁だなと思って応募しました。

応募動機を考えている時に、「私はこれに参加して何を経験したいんだろう」ってちゃんと考えたんです。元々広報の代理店にいて、他の企業さんの情報をお預かりして伝える、という部署にいたのですが、自分自身でつくったものを伝えるという経験がほとんどなかったんです。

伝える行為をものすごく大事だと思っている反面、ものづくりをしている人の思いを自分ごととして知らない。ちゃんとそれを知れたら、何か変わるんじゃないかなって、思ったんです。

‐ものづくりの現場で自分のスキルが使えるか実践してみたいという感じですか?

中川:仕事ではできないことをやってみたいっていうのが、大きかったですね。今やっていることを深掘りしてみたいっていうのも思いました。

加藤:そうですね。僕もなにかプロダクトを作りたいっていうのがありましたね。

‐おふたりは本当にXSCHOOLのテーマがグッと刺さったんですね。

 

子ども時代の経験が気になる…。

‐このこよみッションチームは、どうやってプロダクトアイデアにたどりついたのか。その軌跡を伺いたいです。

加藤:最初からプロダクトを絶対作る、案だけで終わるのは嫌だなっていうのがあったんです。一番プロダクトをイメージしやすかったのが、カレンダーだったんですよね。

 

中川:私が面白いなって感じたのが、「カレンダーの役割が変わってきているかも」ということ。年末の営業の挨拶回りでカレンダーを贈るという文化がありますよね。

カレンダーは、ただスケジュールを見るだけのものじゃなくて違う意味合いも果たしているんじゃないかという話があって。

それは面白いものの見方だなと、他の2人が話すのを聞いて思いました。カレンダーというものを別の角度から、使い方を考えてみる。最初はそんな感じでした。

藤:最初からカレンダーと教育は大きい柱だったよね。

‐それは、やっぱりお子さんがいるからですか?

加藤:それもありますね。あと僕らのチームがずっと言ってたのは、福井だから出来ること、自分のやりたいこと、にしばたさん(注:XSCHOOLパートナー企業)のためにもなること。

その3つをはずさないようにしましょうっていう話をしてました。考える過程で自分がやりたいことを考えた後に、これってにしばたさんにも役立つ?とか、にしばたさんのためにも役立つけど、これって福井でやる意味ある?みたいなことを確認して。

1周まわって戻ってきたアイデアが、自分のやりたいにちゃんとなっているか?とずっと反芻しながら考えていました。

中川:チェックポイントですよね。自分たちが参加した理由と、気付いた福井の魅力と、福井の中でやるXSCHOOL。組み立てていく時にそこをちゃんと通っているかなと。

自分たちのやりたいことだけで突っ走ってないか、福井のことばっかり考えすぎてないかとか。偏らないで、ちゃんと全体を意識したものづくりはしていきたかったんです。

‐考え方の軸だったわけですね。3人のやりたいことは、どうやって形にしていったんですか?

中川:ここまでを決めるのは早かったんですけど、そこからアイデアに落とし込むまでが結構苦戦したんですよ。たくさんアイデアが出すぎて、なかなか一つにまとまらなくて。

じつは1月の段階で1回全部アイデア捨てたというか、真っ白にしたんですよ。講師のアドバイスをいただいて。

 

加藤:そうですね、発表会の2週間前に一度真っ白になりました。

 ‐焦りますね…!

中川:それで、さらに新しいアイデアを100本ノックで出して。それは外に行って歩きながらとか、カフェでお茶飲みながら、もう、なんとかひねり出して講師に100個アイデア聞いてもらって。

聞き終わった時に、講師の方が「いくつかキーワードあるよね。これと、こういうのと。今まで君たちが考えてきたことも含めて、一つにまとまるのってこういうものじゃない?」ででてきたのがこよみッション。

‐おお〜。

加藤:こよみッションの原型ですね。日めくりで、毎回指令が書いてあるみたいな感じ。その原型が決まって、じゃあどんな指令がいいかなと、具体的に考え始めました。


その時に、僕の子どもが自由研究で伊藤若冲の絵「動植綵絵 池辺群虫図」に描かれてる生き物をぜんぶ調べるっていうのをやったことを思い出したんです。

それがまた大変だったんだけど、面白くて。どんな種が描かれているのか調べていったら、ぜんぶの生物が揃うのは8月のこの時期だけだったという事がわかったりしたんですよ。

こういう自然とじっくり向き合うというか。そういう体験を指令にしたらいんじゃないかという風にアイデアが展開していきました。

中川:加藤さんのその話を聞いて、こどもの頃にやったことが今に活きているのかもって、そこもキーワードの一つになりました。

私、小学生の頃に遊びで地域新聞を作っていたんです。自然や身近なものを写真に撮って、新聞にして誰かに伝える。

田んぼとか、お寺のお地蔵さんとか。その経験が、今やっている伝える仕事っていうところに影響しているのかもしれないと思っていて。おとなになってから気づきになるような子ども時代の体験を作れたら、という気持ち。

‐おふたりとも「こども時代の経験」というものが気になっていたと。

中川:そうですね。そんな感じで色々悩んで、すごく遠回りしながら作っていって、最終的にこよみッションだったら今までチェックポイントとして出てきたキーワードが全部含められる。メンバーの思いがまるっとひとつにできるなっていうので、燃えましたね。これが最後の2週間。

 

大人の本気

中川:そこからがすごかったのが、加藤さんがすぐにプロモーション動画を作る手配したんです。

‐そのスピード感とか、仕事の早さって社会人がやるからこそって感じしますよね。

中川:はい。大人の本気って怖いって思いました(笑)。人の巻き込み方が、すごく面白くって。

だからこそ、このスピード感でできた。そこは特徴的ですよね。自分たちだけじゃなくて巻き込んでる。みんな、必死だった。

加藤:絶対面白いので協力してくださいとお願いして。中間発表会用にプロモーション動画とプロトタイプ作って。ほぼ徹夜で持っていったから、当日やつれてましたね。

‐佳境(笑)。その中間発表会の時、印象に残った意見ってありましたか?

加藤:こよみッションは友だちとやるとおもしろそうという意見ですね。1人でやるより同級生とやるとおもしろい。自分の小さい時もそういう経験あったな、と。

‐みんなで経験する楽しさ、ですね。

加藤:だからやっぱり何人かでやってもらった方が面白いんだろうなって思いましたので、クラウドファンディングも3冊セットがあったりします。お母さんに買ってもらって、友達にも渡してもらえるとうれしいです。

中川:同じミッションでもやる人が違えば結果とか過程とか気付きは変わってくると思うんですね。

地域や年齢の特徴や個性が出たり。1つの問いに対しての答えっていっぱいあってもいいんだ的な。

そういう感覚をおとなも一緒に楽しんでもらえるものにできたらいいんじゃないかなと思っています。

‐こよみッションを作っていく上で、他にも周りの人にもらった言葉などあったりしますか?

中川:ミッションのアイデアは色々な方にいただきました。その時にすごく面白いなって思ったことが、子どもに向けたミッションを考えて欲しいと呼びかけたら、アイデアを提供してくださった方自身が子どもの頃に体験して印象に残っていたこととか、やりたかったけどできなかったことみたいな、そういうアイデアがすごく多くでてきたんです。

例えば「雨の日に傘をささないで歩いてみる」とか。お母さんに怒られるから絶対できなかったけどちょっと気持ちよさそうで変な憧れがあったとかね。

たしかにそれはノスタルジーを感じます。ちなみにお2人それぞれの1番好きなミッションってなんですか?気になります。

加藤:僕、あれかな。「オリジナルの味のかき氷を作ってみよう」かな?普段だと食べもので遊ぶと怒られると思うんだけど。

‐勉強ならしょうがないわね、みたいになりますね(笑)。

加藤:そうですね。親も度量が試されてるミッションは、いいなと思います。


中川:私は「暑いって言わずに1日過ごそう」が好きですよ。本当に暑いのを通り越すと変なテンションになって、反対言葉で「寒い」って言おうよ、って昔やりませんでした?年齢も住んでる場所も環境も違うけど、これとか共感性がすごく高くて。面白いですよね。

 

120日間で得たもの

‐最後に、120日間で得たものってなんですか?

中川:私は、自分にできないことを知ったことですね。結構「やるかやらないかだ」みたいな話ありますよね。今回「やってもできないことはできないんだ」を痛感して。やったから分かったことなんですけどね。

でも、自分ができないことを隣の人ができることもある。そういう近くの人への信頼感とか、周りの人とのつながりを感じました。


加藤:うんうん。


中川:あともう一つは大人の本気って怖いなと。大人になってできることが増えて、自分のできないことをできる人が隣にいて。みんなそれを楽しんでいる。やろうと思ったらできちゃう大人の本気は、すごいなって思いました。

あと福井ですごく嬉しかったことは、メンバーがよく宿泊しているホテルが、エントランスにこよみッションのステッカーを貼ってくれていたことです。

 

‐町の人に受け入れられてる感。

中川:そうですね。楽しみにしてくれている人がいることがすごく嬉しい。

 

‐加藤さんはいかがですか?

加藤:XSCHOOLのメンバーの共通言語に、フルスイングっていう言葉があるんです。自分のプロジェクトに対して、ちゃんとフルスイングが出来てるか?を問い続ける。

でも、フルスイングって大変なんです。とてもしんどい。でも、別にだれかにやれといわれて挑戦しているわけではないんですよね。仕事じゃない。だったら、楽しまないとと思いました。

‐仕事じゃないからこそ、全力で打ち返せるし、打ち返すべき、と。

加藤:はい。あとこよみッションを通じて学ぶってことを再定義したいんだなと思いました。勉強させられるって全然面白くないんですけど、新しいことを学ぶってすごく楽しい。それを伝えるってことがやりたいんだなと思いました。


中川:あと自分たちのアイデアをかたちにして、それを世の中に出すってことは、すごく怖いことだと思いましたね。クラウドファンディングを始めて、自分も写真付きで表に立って顔出して、想いをさらけ出して。

どう思われるか、どう受け入れてもらえるか、ちゃんと込められた想いを言葉にして伝えられているのかな、とか。そこは怖さをすごく感じました。


‐本気だからこそ、そう思えたんですね。

中川:本気の仲間たちがいる事も励みになります。講師陣もXSCHOOLのプログラムは終わっているのにすごく気にしてくださっている。そういう関係性があるから、こよみッションはみんなで作っている感じ。すごく楽しい。

加藤:XSCHOOLからいろんなプロジェクトが動いていますが、動き出しとしてはぼくたちが一番はやいので、頑張ってバトン渡せればと思います。


中川:今、パソコンやスマホで、実際の体験じゃなくて画面上でのバーチャルの体験が増えていて、それって本当にいいんだっけって思ったりします。

私は大人になって子供の頃の体験や見てきたものに助けられているなと思うことがたくさんあったので、こよみッションを通して、身近なもので遊んだり、自然から学ぶ経験をする事が、先につながったら嬉しいなって思っています。

 

‐ありがとうございます。むちゃくちゃいい話を聞けました。

 


 

福井県福井市のプロジェクトXSCHOOL。受講生計24名8チームの中から、先鋒としてクラウドファンディングに乗り出した「こよみッション」。このプロダクトが出来上がった背景には「こども時代の体験」と自分とまわりの関係性を大切に思う、大人のフルスイングがありました。

 

懐かしい夏休みの思い出があって、お子さん・お孫さんがいるあなたに、ぜひ手にとっていただきたいです。