甲子園やプロ野球の試合でよく見るチアリーディング。もしかしたら東京オリンピック以降オリンピックの正式種目に選出されるかもしれない競技って知ってましたか?チアって競技なの?と思ったあなた。私もです。



チアリーディングとはどんなスポーツなのか?世界大会にも出場している社会人男女混成チアリーディングチームPhoenixのみなさんに伺ってきました。



話を聞かせてくれたのはチーム創設者の小林彩美(写真右)さん、昨シーズンからチームリーダーを務める中野智(写真左)さん、プレイングマネージャー(監督)の内田雄介(写真中央)さんです。みなさん本業を持ちつつ、世界大会に出場をしている「社会人アスリート」。普段あまり想像することのない、彼らの生活に迫ります。

鈴木賀子
ジュエリーメーカー、広告クリエイティブ領域の製作会社、WEBコンサルティング企業を経て、2016年より70seeds編集部。アンテナを張っているジャンルは、テクノロジー・クラフト・自転車・地域創生・アートなど、好奇心の赴くまま、飛びまわり中。

チア鎖国?なガラパゴス日本

‐私、じつは甲子園でポンポンを持って応援している子たちと、チアリーディングという競技の違いがわかっていません!まず、チアリーディングについて教えてください。

内田:すごく簡単に言うと、「スタンツ」という、人の上に乗せる技があるかないか、です。

内田:日本でいうとチアってポンポンを持って応援する、ですけど、これって日本独特のカルチャーなんですよ。

ワールドスタンダードのチアリーダーといったら、もうスタンツを組んで飛ばす。

日本人はチアをやると聞くと「女性がやるもの」と思うじゃないですか。それも日本独自なんですよ。

例えば、私がアメリカで会社の上司に「チアをやっている」と言ったら、「ふーん」というリアクションなんですね。

でも日本で上司に「チアをやっている」と言うと「えっ?お前スカート履いてやっているの?」って必ず言われるんですよ…。

男がやるという認識が日本にはまだないのです。でもワールドスタンダードは男女混成です。世界大会に行くと、男の競技人口のほうが多いくらいなんですよ。

‐それは知りませんでした!

内田:面白いことに、携帯のガラパゴス化と同じ現象が日本のチアリーディングでも起こっているんです。

日本独自で進んできてしまって。その間にアメリカが強くなって、アジアが強くなって、日本は置いていかれてしまっていますね。「鎖国」状態です。だから日本のチアの演技は独創性に乏しいとよく言われます。

‐ガラパゴス化に鎖国…。そんな現状だったんですね。気になっていたんですが、チアの演技の評価ってどういう風にするんですか?例えば新体操などと同じなんですか?

小林:フィギュアスケートに近いですね

内田:そうだね。構成点とか、笑顔とかでも点になったりとか、もちろん技の難度もあります。そういう中で、海外は斬新な技やエンターテイメント的な要素があるものなど、いろいろ取り入れている。それはPhoenix結成当時まだまだ日本のチアにはない文化だったんですよ。

‐技を輸入!それはどのように?

小林:チーム結成当時のコーチが毎年フロリダの世界大会に見学に行っている方で、そのコーチと一緒に動画見ながらやり方を1個ずつ、探り探り研究しました。

内田:ちょうどYouTubeとかSNSの盛り上がりと並行している気がしますね。技がすぐに見やすくなって、輸入しやすくなった。

‐インターネットの恩恵ですね! Phoenixは世界大会への出場経験がありますが、どういう流れで出場したんですか?

内田:まず、秋口にジャパンオープンという日本国内での全国大会があります。そこで、部門ごとに世界大会の基準に達しているチームが協会から指名されて、出場権をもらうという形になっていますね。男女混成チーム、女性チーム、それぞれ各1チームずつです。

‐なるほど。指名制。

内田:正直、日本での男女混成チアリーディングチーム数が少ないので、私達はすごくチャンスを得やすいんですよね。

しかし、その一方で世界のレベルは非常に高く、Phoenixが2014年に初めて世界大会に行ったときは、頑張って行ったものの、到底太刀打ちできるようなものではなかったんです。

‐どういう部分でですか?

内田:例えばアメリカチームは身長190センチ体重100キロ越えの男性選手がずらっといる訳ですよ。

で、みんなそんな大きな体格でバク宙を当たり前にこなす。女性は華奢で小柄の子たちが腹筋バキバキで(笑)。片手で人を回して投げ上げて、片手でキャッチを全員できたりする。

また、意外なところで南米もとても勢いがある。チリはチアリーディングがとても盛んで、男性も女性も皆カラダが大きく、レベルが高かったりします。世界のチアと日本のレベルの差を非常に感じた経験でした。

ちなみにチアリーディングの世界大会の時はサッカーで言うトヨタカップのような社会人大会も別日に開催されるんですね。私達のチームはその両方出ることができて。

世界大会は、各国のオールスターが集まって来るわけで、なかなか勝てない。でも、社会人大会では健闘できて、2016年は世界で13位になれました。

   

あたらしくチアリーディングチームを作り上げるということ

‐Phoenixを結成したきっかけから教えてください。

小林:2010年4月4日結成の今年で8年目のチームなんですが。結成のきっかけは、キルスティン・ダンストが主演の映画「チアーズ!」(※リンク)です。

中1の時、DVDで見て「かっこいい!」と思って。大学で本格的なチアリーディングを経験したとき「チアーズで観たアメリカの大会に行きたい!」って思ったんです。

‐最初から自分でチームつくろうと思っていたんですか?

小林:最初はどこかのチームに入ろうと思っていくつか見学に行ったんですけれど、そのチームで世界に行ける絵が見えなかったんです。

日本って「チア鎖国」なので、見学にいったチームは日本独自の技とかをやっていたんです。だけど私は外国の技を輸入したいな、という思いがあったので、これは作らないとできないな、と。

内田:男女混成チームのことを「コエド」というんですけど。なんでオールガールズじゃなくて、コエドにしたんだっけ?

小林:全てが本当に偶然なんですけれど、当時コエドにしたいとか全く思っていなくて。当時のコーチの弟子が男性で、その弟子の男性もPhoenix参加するっていうので、じゃあコエドになるねっ!て始まったのが続いています。

‐Phoenixの空気をつくりあげるために、チームビルディングするときは何を大事にしていますか?

小林:ほかのチームがやっていることは絶対にやらない。あとは、結成当時、日本にアメリカの技や雰囲気を取り入れているチームが1つもなかったので、日本にない技をやろう、と。

そしてアメリカで作成した派手な本場のユニフォームも先駆者かもしれない。

内田:あとは個性を追求する、ですかね。日本チームって、みんなが揃えて同じ動きをする演技は得意なんです。

私達のチームは、イメージ的に「何か1つでもずば抜けているものを持っているメンバーがそれぞれいて、たくさんあわさったほうが、チームとして総合的には強くなる」という考えをもっていて。

だからメンバー一人ひとりの個を尊重することには非常に重きを置いています

小林:そういうことを考えられるような人数になったのも最近かな。結成当初は練習する場所もなかったし、お金もなかった。5人しかいなかったので、練習場所の費用も5人で分担しなきゃいけないので個人負担額が多くなりますし。

ユニフォーム作ろうってなったら、1着4万円だし。コーチ料を当時払っていたので、本当にお金がなかった。(笑)。

内田:極端な話、新しくチアのチームを作るって「ジャングルの奥地でWebメディアを立ち上げる」みたいな感じです。本当に環境が整っていない。

しかし、そんな環境でもやるっていったら人は集まってくるから不思議でした。

‐そんな環境でも、思いを折らずに7年続けてこられた理由、気になります。

小林:やっぱりいつも誰か引っ張ってくれる人がいたこと。チームづくりって1人でやるものじゃないので。1人でやっていたら3カ月くらいで辞めていたかもしれない。

折れそうになるときに必ず引っ張ってくれる誰かがいる。お互いが引っ張り合うっていうのができているチームだと思います。

内田:彼女は、ビジョンをつくる担当。その夢に乗っかりたい人がついてくるんですよ。私みたいに何かふらっとしているとかで、面白いことを言っているやつがいるからやってみようみたいなのはけっこう集まってきて、彼女のつくりだすゼロから1に対して、1から100にドライブできる人たちが集まってくる。Phoenixはうまい具合に絡み合って、ここまで大きくなってきた気はしますね。

   

平日は社会人として働く。週末はチアリーダーになるという生き方。

‐そんなチームで今監督をしている内田さん。チームと本業と兼務ですよね。参加したきっかけは。

内田:チアを始めたのは、ちょうど震災の年でした。当時、大学時代の同期はみんないい就職先でエリート路線を歩いていて、仕事辞めてしまった私だけそこから外れちゃったので、すごくコンプレックスを持ってたんですよね。

「何か頑張れることないかな」と思っていたときにちょうど誘われたので、やってみよう!と思ったんですよね。

また、じつは私の姉もチアリーダーなんです。だから私は幼い頃からチアは知っていて、試合も見に行ったし、抵抗がなかったんです。もちろん男性がやっているというのも知っていた。

姉のチームの後輩の斎藤と、小林が友人で、私が新卒入社した会社を半年でやめてフラフラしていた時に、急に「今チアの練習をしているから見においでよ」って電話がかかってきて(笑) 。じゃあ行くかって、見に行ってその場で加入してました(笑)。

‐ノリが良すぎですね(笑)。中野さんはどういう経緯でメンバーに?

中野:はじめて体験参加したときに、バク宙とかPhoenixで披露したとき、「うわー!!!!」ってみんな目をキラキラしてすごく喜んでくれて。

社会人になって、そんなに必要とされたことって最近ないなと思って(笑)。会社に限らず、人にあそこまで必要とされるって気持ち良かったので、帰りの電車で入りますって即決しました。

‐でも二足のわらじ生活って大変じゃないですか?

中野:たしかに土日活動してるから、肉体的疲労がはんぱないんですけれど、楽しい。だから平日早く仕事を終わらせて練習の時間にあてたいし、チームのことを考える時間にあてたいから、そのためにどんどん効率が良くなってきてるっていう。

内田:それはあるかもしれないね。ある意味土日は命がけでチアをやっているので、だらだら生きていない。だらだらしていたら、世界に負けちゃうから。本気で取り組みますよね。それに世界大会は参加費が1人40万かかるんですよ。

‐40万ですか!

中野:しかも自費で。行く期間は1週間ちょっとなので、社会人は休暇を取らないといけない。

世界大会を目指す人、目指せないけれど試合に出たい人、試合は出たくないけれどPhoenixに所属してチアをやりたい人。チームが大きくなってきて、いろいろな関わり方の選択肢が増えてきましたね。

   

チアリーディングは中毒性が高い

中野:先程の二足のわらじ生活を選ぶ理由。もうひとつ追加で言うと「チアの中毒性」ですかね。

小林:そう、チアは中毒性があるんですよ。

‐チアの魅力の話ですね!みなさんどのように実感していますか。

内田:まず、私は敵がいない唯一のスポーツだと思っています。もちろんライバルはいますけれど、バトルではなく、演技ですからね。

あと、チーム全員が全員それぞれ、競技時間の2分半は主役という点。例えばラグビーだったら、五郎丸選手がトライしたら、トライした選手を讃えてワーってなるじゃないですか。

でも、トライはしてないけど、そこまでボールを頑張って運んだ選手がいるのに、その選手にワーとはならない、みたいな(笑)。どのスポーツでもあると思うんですけれど、花形と支える黒子みたいな構図。

それに対して、チアは2分半という競技時間の中で、みんなでスタンツあげて、技ができたっていうのが、すぐ目に見えるんですよ。できたか落ちたか、どちらかなので。

だから自分が参加して貢献して主役なんだ!という感覚がすごい強いスポーツだと思うんですよ。

なので、気持ちはすごく高揚しますし、大会に参加すること自体に中毒性がありますし、演技がバッチリできたらうれしいし、二重の中毒性があるんですよね。大会のとき、みんなテンションの上がり具合とか不思議だよね。

 

小林:そう!しかも1年間その日のために練習を重ねてきているのに2分30秒しか味わえないんですよ。それは中毒になりますよね。

‐1年分の2分30秒…短い!

中野:本当に大げさかもしれないですけれど、去年のフロリダでの社会人大会は演技をやっている途中なのに、見えない場所にいるメンバーも全員が最高の演技をしていると確信してやってましたね。

小林:「コレ、いま全員成功してる!!!」感がすごかった。心臓がみんなで1個になっている感覚でしたね(笑)。

内田:それで、最後がバッチリって決まって、会場がドーンって盛り上がる。そのリアクションをみて「決まったーーー!!!」と実感して、そのときの高揚感はもうね。

‐うわぁ、みなさんの今の表情みてても、そのときの高揚感が伝わりますね。

中野:それをもう1回味わいたいからまた世界大会に行きたい。

小林:それを味わうためには1年という月日がかかるという。

内田:でもね、その月日をかけてもあの2分半には価値はあるよね。

 

中野:会社の人が試合を見にきてくれたりするんですけれど、みんなびっくりして、そして羨ましく思われること多いですね。先輩たちが「お前、あんなに熱くなれるものがあっていいな」っていう話をしてくれたり。

内田:勇気もらった、元気もらった、感動したって、リアクションをもらうこと、多いですね。

東日本大震災の時、すぐ現地に応援演技にいったときもありましたね。チアリーディングは、やっぱり人を応援するというのがベースなので、私達の演技で誰かが1人でも元気になったら、それはすごい素晴らしいことだなと思ってしています。

‐応援するがベースにある。チアーってそういう意味ですもんね。

   

Phoenixのこれから

‐中野さんは去年からキャプテンとなって、いろいろ考えていると思いますが、今年度のシーズンはどういうチームにしたいか、展望を聞かせてください。

中野:昨シーズン世界大会に行けなかったのがすごく悔しくて。初めて世界大会に出たとき、世界との明らかなレベルの差を感じたんです。

 

ただPhoenixが、いろいろな要因でわりと世界大会に出やすいチームだったりするので、「世界大会に出やすいチームだから」そういう気持ちで入ってくるメンバーもいなくはないんですよ…。

ただ、そういう気持ちの子たちとはやっぱり一緒に世界大会に行けないと考えていますが、入ってくれたことはうれしい。ので、そういう子たちのモチベーションをどうやって上げるかが、難しいですね。

‐アイドルになりたいんじゃなくて、AKBに入りたくて応募してきたみたいな感じ的な。

中野:そうそう。なので、その意識改革を今シーズンはしたいですね。去年は初めてキャプテンをやって、チームをまとめあげるというのは手探り状態でした。反省を活かしていろいろとやりたいことはありますので。

‐Phoenixってみなさんにとって一言で表すなら何ですか?

中野:僕はPHOENIX引退宣言はやめようと思って。自分の体が動かなくなったら運営側に回るというか、一生Phoenixと関わった人生を。だから、生涯Phoenix。

小林:すてき。こういう人たちが自然と集まってきたっていうことが、今のPhoenixのある理由。

 

内田:私は、Phoenixイコール自分。自分の一部になっているような気がしますね。だから、他人事では一切ない。

小林:私は一言で表すってできないけど…あえていうなら、宝物。

‐みなさん、本当に素敵です。今シーズンの世界大会出場も応援していますね!ありがとうございました。

昨シーズンの世界大会の動画を見せてもらいました。躍動感がすごい!なにより、メンバーの表情がキラキラ活き活きしていて、見ているこちらまで笑顔になる。日本のチアリーダーがもっと世界で活躍する時代というのも、そう遠くはないのかもしれません。オリンピックに関する動向もますます目が離せないですね。