数年前からじわじわと存在感を高め、最近ではテレビCMにも登場、小中学生の「将来なりたい職業ランキング」にも名を連ねるようになった「YouTuber」。
でも、あくまでもインターネット上を活動の中心にしていることもあって、まだまだ大人には「なぜ流行っているの?」という状況なのも事実です。
そんなYouTuberたちを支持するU21の世代では、「有名人」の概念が大人の世界とはすっかり変わってしまっている、と語るのが人気YouTuberのマネジメントを手掛ける、株式会社VAZの森泰輝さん。そして人気YouTuberのねおさん。
「スマホネイティブ」世代が見ている世界はどんな景色なのか。そして、以前70seedsでも取り上げた「ヤンキーインターン」と手を組んで仕掛ける、全く新しい発想の「非大卒の就活イノベーション」構想についても聞きました。
人気職業ランクインの理由は「普段見ているから」
‐今、YouTuberってどんどん存在感を高めていますよね。この前は人気職業ランキングにも入っていたり。
森:それはすごく単純なんですよ。自分が普段見ているメディアで取り上げられるものがランキングの上位に来る、それだけなんです。
‐それは、若年層がネットを見ているから、ということですか?
森:いえ、YouTuberは自分自身がメディアなんです。
‐自分自身がメディア?
森:そう。だから接触回数を自分でコントロールできることがそのまま強みになるんです。自分で配信回数をコントロールできるから、飽きられない工夫も自分次第。
素人動画だからウケるんじゃないです。テレビだとプロデューサー次第、企画次第でタレントのオワコン感が出てしまうことがあったりもすると思うんですが、YouTuberはすべて自分次第です。
‐そもそもなんですが、今ってどれくらいの人がYouTuberのコンテンツに触れているんでしょう。
森:スマホが現れたことで、スマホネイティブといわれるU21の世代は見ているものが全く違う状況が起きています。
特に彼らが接触しているのがTwitterとYouTube。YouTubeは10代の約47%がほぼ毎日見ていると答えています。
‐だからYouTuberにも触れる機会が多くなる、と。
森:そうですね。有名人の概念が変わってしまっているんですよ。だから企業はそんな世代へどうコミュニケーションしたらよいかわからなくなっている。
有名人の生まれ方が、TVなどのマスメディア露出を増やして一方的に認知を増やすトップダウンから、SNSで草の根的に、RTや”いいね”で人気を獲得するボトムアップへ変わってきているんです。
1日でフォロワー3万人になったりする子が現れたりしているわけですから。たとえば、きりたんぽちゃんなんかはTwitterでの呼びかけに1,000人がいきなり集まるとか。
‐もはやタレントレベルですね。
森:Twitter見てても「VAZに入りたい」っていう声をたくさん見かけるようになりました。
トップのYouTuberは、中高生の間では大人世代にとってのダウンタウンくらい人気があるような状況です。
世代の断絶はメディアの断絶
‐それだけ人気のYouTuberですが、やっぱり上の世代からするとまだまだ「全然知らない人たち」なんですよね。それってなぜなんでしょう。
森:昔だと、居間で同じテレビを共有していたので、有名人に対する感覚も「知っているけど、なぜ人気かわからない」でした。
でも今はスマホネイティブ世代と上の世代とで視聴しているメディアが違うのでそもそも知らないんです。
最近、ねおちゃん(VAZ所属のクリエイター)がGirlsAwardでランウェイを歩いたり、VAZ所属の女性クリエイター達の10人以上がKANSAI COLLECTIONに参加するなど、インターネットを超えてどんどん活躍するようにはなってきていますけどね。
‐確かに「テレビに出ている」は、その人が有名かどうかを測るもっともわかりやすいバロメーターですよね。
森:ただそれも、スマホが現れるまではリッチコンテンツがテレビでしか見られなかったからですね。
スマホの登場でテレビで見る必要がなくなる。居間で親にうるさく言われるより、自分の部屋でスマホ見てる方がいいや、となる。それに僕らの世代は習慣としてテレビを見ますから。
‐すごく想像ができます。懐かしい(笑)。
森:あとは、僕ら以上の世代はYouTubeを見て「クオリティが低い」と言ってしまうんですよね。でもそれはテレビを知っているから。そもそもテレビが基準になっていない世代には関係ないですよ。
‐ちなみにねおさんはどうしてVAZに入ったんですか?
ねお:自分が元々好きだったクリエイター(きりたんぽ、スカイピース)がVAZにいたからですね。迷いはなかったです。
‐VAZに入る、と言ったとき大人と同世代とで反応は違いましたか?
ねお:大人は(VAZを)わからないですね。でも友達はネットしか見ていないから「VAZに入る」っていうと、「すごい!」って。
‐やっぱり世代差は確実にあるんですね。よく決断しましたね。
ねお:私もクリエイターに憧れていて、一緒に仕事したいと思って自分も同じ立場になってみようと。友達の動画を撮るのも好きだったんです。
‐入ってみてどうでしたか?
ねお:事務所に入ってないと皆と触れ合えない、機会が増えてありがたいですよ。
YouTubeを始めて、自分が好きなもの、洋服やコスメを伝えられるようになったのが嬉しいです。自分の好きなものに共感してくれる人が増えました。
若者のカリスマ、最初のキャリアはライン工
‐VAZはYouTuberのヒカルさんはじめ、YouTuber界の第三極と呼ばれることもありますが、森さんは何を目指しているんですか?
森:U21世代にとってのリクルートみたいな存在になりたいと思っています。生活のために必要な情報を届けられる存在に。今はそのための第1段階で、事務所をつくっているところ。
その次は情報の入り口を押さえていくことです。MelTVでは、LIVE配信のアプリにて、生配信中に視聴者数30万人を記録しました。
‐なるほど、若年層が見るところに合わせて情報を届けていく。
森:そうです、あとはハッシャダイと組んで「非大卒の就活イノベーション」を起こそうと。
‐「非大卒の就活イノベーション」?
森:今カリスマ的な人気を誇っているYouTuberのヒカルが、最初のキャリアが工場のライン工だったんですよ。
選んで就いた職ではなくなぜかわからないけどそこに。そういう状況はおかしい、と若者のカリスマが語って若者を動かしていくサービスをつくっていきたいんです。
‐それはどんなサービスなんですか?
僕:チャットで案内する進路相談室という立ち位置なんですが、大卒よりも多い「高卒」市場に対して今はどこもノータッチなので、ここにアプローチします。
若年層に対してサービスを提供しているハッシャダイが抱えているヤンキーインターンの子たちがみんなVAZを知っているので、彼らのためになるんじゃないかなって。
‐テレビ中心の世代との違いだとか、高卒市場へのまなざしだとか、あまり光が当たっていないところに目を向けていくようなスタンスを感じます。
森:私的なものでいうと、どこまでできるのか挑戦してみたい、ということですね。
公的なものでいうと社会にインパクトを残す、社会的意義のあることをやっていきたい、ということ。
何かないかと考えていたとき、つくるものが決まってないけどエンジニアを採用していったんです。
‐腹を括りましたね…!
森:プロダクション事業で儲けて遊べばいいや、ではなく、その先の子たちのためにできるようなスケールできるサービスをやりたいと思っていたんです。
合理的に考えたらそうなるんですよ。消費生活は1か月で飽きる、サービスはどこまでいってもエゴ。
だったらここまでいけるという実感値、できていないというフィードバックをいただいていけることが幸せなんじゃないかって。
‐わかります。そのあたりの視点にも世代感が出ているように思います。
森:この快感を味わってしまうと、金持ちになりたいというのは(力を注ぐ)対象にならないんです。起業する前、もっと前だとキャリアや年収を考えたこともあったけど、今は全く入ってきませんから。
1000万の借金、どん底から見つけた自分の「義務」
‐VAZの前にも起業していたんですよね。
森:vineと食べログを合わせたようなサービスをやっていました。でもうまくいかなかった。これは単純に自分の能力不足です。世の中とも合ってなかったなと、今にして思います。
ただこれも運がよかったと思っています、今、一度そんな大きな失敗をした後にもかかわらず打席に立たせていただいているので。
‐その失敗がバネになった?
森:なったところはあったけど、それよりも仁義を切って筋を通していくこと、立つ鳥後を濁さないことに必死でした。1000万の借金も返したし、従業員のためにひたすらやっていましたね。
‐1000万…。絶望もしたでしょうね。
森:人がいなくなって、借金だけが残りましたからね。返していくために個人でプロモーションコンサルやったりしていました。
ミスって絶望してとりあえず1日寝るとか、それまでにいただいた名刺すべて1件1件電話して「仕事ないですか」って聞いて回るとか。その結果、半年で借金を返し終わりました。
‐壮絶ですね。何が立ち向かう原動力になったんですか?
森:自分に関わってくれた人が「関わってよかったよね」と言ってくれることですね。それが自分の幸せにつながるし、自分もそういう人に支えられてきましたし。
‐そしてVAZをつくった。
森:はい。VAZのインフルエンサープロダクションという一面を全国規模にしていくのに、YouTuberのヒカルとの出会いは大きなきっかけでした。彼は社会的に価値のある事業を一緒につくることができるパートナーを探していて。
彼自身すごく頭がいいんですが、自分だけでやるより自分をうまく使ってくれる人と一緒に事業をした方がいいと考えて、僕の話に乗ってくれたんです。これも感謝していますね。
‐これから中高生に提供していきたいことは何ですか?
森:メディアは、情報の非対称性をなくしていくことが価値だと思っています。だからどんどんいい情報が若者に流れていくようなインフラをつくりたい。
それが、若年層に影響力を持つ人たちを束ねているVAZの義務でもあるんです。