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シェフも農家も認める茨城の食ブランディング-キーワードは「実益になるおせっかい」

都道府県魅力度ランキング、4年連続全国最下位…。どこの県のことかおわかりですか?そう、茨城県です。でも、実は北海道に次いで日本で2番目の農業産出額を誇る、農業県だということはあまり知られていません。

メロン、くり、れんこん、ちんげんさい…全国1位の生産量を誇る作物も多数。テレビ番組で話題に火がつき、売り切れが続出している、恵比寿の「日本料理 雄」の「苺みるく生洋羹」にも茨城県産のイチゴが使われていたりします。

 

 

これまで、そんな茨城県の「食」の魅力が伝わってこなかったのはなぜなのか…。茨城県とタッグを組んで、名誉挽回に取り組むPRプランナー柴田さんに、「食と農業」の魅力を伝える仕事の実情について話を聞きました。

 

 

きっかけは茨城県の新プロジェクトから

 


−茨城県の農産物PRに取り組んでいる柴田さんですが、元々茨城県の出身なんですか?

 

いえ、実は違うんです。(笑)私は兵庫県姫路市の出身です。2011年にやった茨城県庁での東京のシェフと生産者との交流事業を皮切りに、その翌年から始まった「茨城県農産物のイメージアップ」を促進しようというプロジェクトに参加したのが、今の仕事に関わることになったきっかけです。折しも東日本大震災がおき、2012年以降しばらくは震災による農産物の風評被害を払拭しようというミッションもありましたね。

 

−2011年の東日本大震災後、被災地の福島県だけでなく茨城県も風評被害にあい、売れなかった年でもありましたね。そのような時期を乗りこえ、現在どのようなことをしているのでしょうか。

 

茨城県には希少で高級なものから、手頃な値段で、量販店に毎日大量に流通するものまで数多くの農産物があります。私の関わっているプロジェクトは、とりわけ「料理人」をパートナーに置くことに注力していて、例えば「有名シェフが評価する茨城の苺」というような実績をつくり、産地にその実績をうまく活用してもらえるような働きかけをしています。

 

それは、同時に後継者や新規就農希望者へのリクルーティングにも活かされるだろうと思っています。食材を持って店をまわったり、レストランフェアを企画したりしていますが、基本的には産地の農産物を特定の飲食店に紹介することがメインですね。

 

−なるほど。取り上げる農産物は指定なんですか?それとも、ご自身で歩いて決めているんですか?

 

茨城県がクライアントですので、基本的には指定です。茨城県として何を誰に届けたいかという要件が決まっています。これは行政プロジェクトの特徴でしょうね。茨城県では数ある農産物の中から販売に力を入れている品目が6つあります。「メロン」、「梨」、「野菜」、「米」、「常陸牛」、「常陸秋そば」です。メロンには「イバラキング」、米には「ふくまる」、梨には「恵水」という茨城県オリジナルの品種があるんですよ!

 

−バラエティに富んでいますね!「ふくまる」っていうお米の品種は初めて聞きました。

 

「ふくまる」は大粒で炊いたときのビジュアルがよく、冷めても甘みが残り、香りの良い茨城県期待の新しい品種です。今って各都道府県で新しい米の品種開発が進んでいて、メジャーなお米「コシヒカリ」から、いわゆるご当地米への切り替えが盛んなんですよ。より差別化して “選ばれるお米”に育てていきたいという意向の表れなんでしょうね。

 

−この6つをブランディングしたい、と。

 

そうですね。ただ、個人的には「ブランディング」という言葉が好きではありません。“綺麗なデザイン”とか“作り手のモチベーション”など、そういう現場の実情を捉えていないフワフワした枝葉の議論になることが多いと思うので。私は、農産物を食べてもらうための「生産」と「流通」をしっかりと結んで太い流れにして、それを現場との意見と一致させながらどのように定着させるかということを考えています。

 

農業大国のジレンマ

 

−やっていてどんな苦労がありますか?

 

茨城県に限らないことですが、県庁があり、役所や役場があり、実際に農産物を生産する
生産者がいて、地域の農産物を取りまとめて出荷する農協さんがあり…と、農業は関わる方々が多いのが特徴です。当然ですが生産者さんは個人の売上増を目指していますし、行政はそれらが集約された地域全体の収益アップを目指しています。見ている方向は同じですが、その方法は必ずしも同じとは言えない、という点がありますね。

 

それに茨城県の農業には今までの歴史、実績、そして成功体験があります。飲食店との直接取引は「ニーズにあった少ない数を頻繁に」が原則です。「有名シェフの誰々が使っている」という戦略の作り方も、そもそも価値観として相容れないという人も多いですね。それが多くの消費者にとって説得力のある宣伝材料になるかもしれない、と想像できても、大消費地の東京に近くて、日々忙しく何百・何千ケースと大量に流通させている産地からすれば、ピントが合わないこともありますよね。これは大産地茨城県ならでは、まさに強者のジレンマだと思っています。

 

−「農業王国」の経験・実績があるからこそ難しい、確かにジレンマですね。

 

そうなんですよね。何十年という成功体験を蓄積してきた生産者たちに対して,“おせっかい“を焼いているようなものです(笑)ただ、やっぱりこれはコツコツとやり続けるしかないかなと。「俺らのトマトが銀座の有名なイタリアンで使われてるって、この前来た柴田が言ってたぞ」。そんな感じで、1人でも2人でも生産者の心に響くような取組みができればと思っています。

 

それを続けていった上で、生産者が「どんな店が使ってくれてるのか食べに行ってみよう」となれば、大成功なんです。その後は今度は 「知ってるか?俺らのトマトは銀座の有名なイタリアンで使ってくれてるんだぞ」となるわけです。

 

−産地の人が自ら自慢できるように、という視点が欠けていたと。

 

そうです。銀座6丁目に茨城県のメロンや苺を使ってくださっているオーセンティックバーがあります。そちらのバーテンダーさんがよく言うのは「銀座で小さく売って、地元で大きく儲ける」ということ。それはつまり、銀座の自分の店では少量しか買えないけれど、銀座の店と取引しているという事実を、地元の直売所や市場で上手に宣伝文句として使ってください、ということです。

 

 

これは言い得て妙だと思いました。TVに出ました!雑誌に載りました!だったり、「皇室御用達」とか「芸能人御用達」と言われる農産物はなぜ売れるのか。私の地元のブランド和牛「神戸牛」は、今や世界の「KOBE BEEF」ですがハリウッドセレブがみんなこぞって食べてますって聞くと、やっぱり美味しそうだなって、高くても食べたいと思いませんか?(笑)

 

誰が美味しいと言っているか、という観点はとても大事なんです。だから、茨城の生産者の皆さんにもっと「自慢話」をするようになって欲しいと思っています。

 

−そう思ったきっかけは。

 

さっき自分のやっていることは生産者には「おせっかい」と言いましたけど、農業って朝早くから夜遅くまで、出荷のピーク時期には休みもままならないような労働集約型の仕事なわけです。で、そんなとこに門外漢が来て「ブランディングの心得」とか講釈を垂れても、ああ余計なおせっかいだよ…としか思わないなと。

 

なので、あくまでもこのプロジェクトの主役は茨城県の1人1人の生産者であって、同じ「おせっかい」でも、実益になるおせっかいを、皆さんの自慢話になるようなネタを提供しなければいけないと感じています。

 

 

−ちなみに、現在茨城県はじめ市町村のPRで「食」を主な仕事領域にしてるのはなぜですか?

 

単純です。食いしん坊なんです。(笑)あと「料理人」という職業に尊敬と憧れ、畏怖心があります。とてつもないクリエーターだと思っていますので、そういう方たちと今仕事をさせていただいているのは幸せなことです。

 

 

 

「食のPR」その現実と課題

 

−この”いばらき食のアンバサダー”っていうシェフや料理人の方たちは、柴田さんがお一人ずつ開拓 して探していったんですか?

 

いえ、最初にお話しした通り茨城県が2011年に産地とシェフの交流事業を実施して、そこに集ったシェフ、主に茨城県出身のシェフが中心です。代々茨城県庁の担当職員さんが培ってきた人脈ですね。3年前より「いばらき食のアンバサダー」として茨城県内の生産者と提携して、食材の評価やレシピ監修などの協力をお願いしています。

 

 

たとえば、日本料理「雄」の店主と茨城の苺生産者を結びつけた茨城県庁の中島さんという熱血ウーマン。今や予約が超困難になった銘菓「苺みるく生洋羹」を世に出した陰の功労者ですね。 私にとって食のPRの先生です。

 

ーPRにおける「食」ならではの課題感ってありますか?

 

農産物という食材を扱う仕事なので、本当はうちで仕入れて検品して販売するっていう仲卸の役割も担った方がいいんですよね。間違ったものを提案できないっていう緊張感が生まれ、責任の所在がはっきりしますので。だから「ウチはPR会社なので…フェアを企画しているだけなので…」というスタンスは、個人的には納得していないんです。こんなことを言うと「いったい何処を目指しているの?」と思われそうですが(笑)

 

 

 

「生産量日本一」というワードは消費者に刺さらない

 

− 今柴田さんたちは茨城県の強化したいモノを「いい」と思ってもらえるような雰囲気づくりをしていってると思うんですけど、そのなかで一番うまくいってる思う思い入れのあるものって何ですか?

 

メロンですかね。

 

−メロンですか。でも、個人的に夕張とかに比べると”茨城メロン”という名前はまだ全国区ではないと感じますね。

 

たしかに「夕張メロン」や、よく木箱に入った贈答向けに多い静岡県の「クラウンメロン」が有名ですよね。メロン=高級品というイメージを牽引しているのもこれらのメロンです。例えばクラウンメロンは、ガラス張りの温室ハウスで一年中いつでも完熟した食べ頃のメロンを出荷できるよう手塩にかけて育てられいます。それはまぁすごい設備投資をしていて、高価なのもうなずけます。
それに対して、茨城のメロンは「高嶺の華のメロンをある程度庶民的な価格でも楽しめる」、そういうものをつくってスーパーなどの量販店でも販売しようという経緯があったんだと思います。高級果実といえばメロンという時代がありましたから。

 

その方針を続けながら今に至っていますが、最近は厳選したメロンを百貨店で販売する試み、夕張メロンやクラウンメロンの牙城、つまり「高級路線」の土俵にも上ろうとしているところです。

 

ーなるほど。今、東京の高級店での評価はどうですか?

 

メロンを使っている銀座でトップクラスの寿司店に茨城県のメロンを持っていって感想を聞いたんです。そしたら「味は遜色ない。美味しいし手頃で飲食店からすればありがたい。でも食べ頃が分かりづらいし、切ってみたらまだ硬くて使えないから、出荷箱を狭い寿司屋の厨房に1週間後の食べごろまで置いておかなきゃいけない。そのコストを考えれば、築地で1玉6000円するクラウンメロンの方がいつでも食べ頃だし、そういう意味では“安い“」と言われ…すごくショックだったんですよ。

 

目から鱗というか「有名シェフの誰々が使っている」という実績を産地に還元するんだと意気込んでいるにも関わらず、取引先の事情やニーズをきちんと把握できていなかったんですね。これには反省しました。

 

ー「おいしいです」「品質がいいです」「いいもの」だけでは届かなかったんですね。

 

はい。「生産量日本一」というワードは消費者に刺さらないんです。「メロンは1週間くらい経ってお尻が柔らかくなったら食べごろですよ」と言ってるだけでは消費者や料理人のことを本当に考えた商売ではないんだなと痛感したんですね。だから、私はホントに色々な方法を調べて、事務所に何ケースもメロンを仕入れて1週間くらい追熟させて、触ったり、香りをかいだり、もう偏愛っていうくらいメロンの食べごろを追求して(笑)ちょうど食べごろになったもので再挑戦したんですよ。

そしたら、その寿司店の社長さんが認めてくださって、「茨城のメロンは美味いよ」って言ってくれるようになったんです。すごく嬉しかったですね。

 

−確かに生産者さんが、食べる人たちの手元に行くところまでをコミュニケーションとして考えてというのはよっぽど意識を変えないと難しいですもんね。

 

難しいと思います。ただし、すべて個人で営業・注文請けまでやっている、農業生産法人としてマーケティングも自分やっている方は別だと思います。ブランド農産物として評価を確立されているような農産物を作っている方たちは、マメに取引先を訪問していますし、実際にレストランに食事をしに行って「消費者」のことを見ています。このような方々のやり方を参考にしつつ、長い目で問題提起していきたいと思いますね。

 

−なるほど。先ほど行政の対象は産地という話がありましたね。生産者の集まりである産地の意識を変える挑戦でもあるんですね。

 

そうですね。何か1つの出来事がその人の意識に働きかけることができるんじゃないかというトライアルはいつも試みています。

 

 

農家さんの「ハレの日」をつくる

 

 

-トライアルの具体的な例にはどんなものがありますか?

 

トライアルのひとつとして、赤坂璃宮銀座店さんで生産者のための賞味会を開催したことがあります。1カ月もの間、茨城県産の食材をふんだんに使った「いばらき特選ランチコース」「いばらき特選ディナーコース」を用意したフェアをしていただいたのですが、生産者がそれを知らないのはすごく勿体ないと思ったんです。

そこで生産者のための賞味会をやりたい、申込みした生産者がつくる農産物は必ずコース料理のひと皿に加えて欲しいです、と赤坂璃宮さんに無理をお願いして開催しました。
結果20名くらいの生産者から申込みがあって、皆さんこの日は仕事を早めに切り上げ、スーツに着替えて銀座まで来てもらったんです。

 

 

「料理」っていうのは、味はもちろん、見た目・香り・温度…総合プレゼンテーションですよね。生産者は野菜も、魚も、豚も、普段は当たり前ですけど“生き物”と関わっている訳でそれらを異次元のエンターテイメントに「昇華」させることができる人たちが料理人です。

 

  • −異次元のエンターテインメント。新しい捉え方ですね。

 

開催して実感したのは、生産者と料理人、この関係はやっぱり当事者にしか分からない肌感覚というか感慨深いものがあるんだということです。この両者は「素晴らしい食材です」と「おいしい料理です」の会話だけで、関係がすぐに成熟する可能性を秘めています。だから、その場ではしゃしゃりでないように気をつけました。

後日「俺んとこの豚肉は銀座の赤坂璃宮さんで使ってもらったんだよ」っていう生産者からの声が聞こえてきたら、それは機会を企画した者にとって冥利に尽きるというか、にやけてしまいますよ。どんどん自慢して欲しいなと思います。

 

−今の話すごくジ~ンときました。農家の人からしたらそれはハレの日ですもんね。

 

こういう機会は特別なので、毎度できる訳ではないのですが。フェアなどを企画する時には、具体的に集められた結果や情報を生産者にフィードバックしています。

例えば茨城県に「いばらキッス」という苺があります。フェアをやるお店に「茨城の苺 いばらキッス スイーツフェア」のメニュー票を作って持っていって、差し込んでもらいます。そのお店で1日200人くらい来客があり、特別メニューなので大体50%の人が「ん?何?いばらキッス?」と手にとると。
そうすると100人位の人が知ってくれる。単純な話それを30日間続けたら3000人です。これが苺の知名度を上げるのにどれくらい効力があるかって言われたら、正直よくわからないです…。「フェアのスイーツがすごく美味しかった」というようなSNS投稿の反応まで含め、副次的に「いばらキッス」を目にした人はざっと2万人くらいいるらしいっていうようなことまでわかるんですよね。

 

−PR業らしい感覚ですね。

 

現場の感覚を大事にしないといけないと思っています。生産者からすれば必ずしも東京に流通させなくても良いんです。ただ東京っていうのはやっぱりレベル・数・密集度という点で世界屈指のグルメシティですから、これからも食のトレンドの発信源であり続けると思います。東京のレストランに茨城の農産物を流通させて、産地に還元するというサイクルは回しつづけたいですね。

PR業っていっても毎日考えていることは、産地の生産体制、流通、物流、市場の対応、レストランシェフの考え、生産者の希望していること…そんなことばかりです。おせっかいも、ここまできたら大したもんだと認めてもらえるようにシェフと生産者の意思をつなぐ翻訳家でいたいですね。

 

−シェフと生産者の意思をつなぐ翻訳家。いいお仕事だと思いました。深いなぁ、食のPR。

 

 


 

いばらき食と農のポータルサイト「茨城をたべよう」:http://www.ibaraki-shokusai.net/

 

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鈴木賀子

意志ある人の、レールガン!

ジュエリーメーカー、広告クリエイティブ領域の製作会社、WEBコンサルティング企業を経て、2016年より70seeds編集部。アンテナを張っているジャンルは、テクノロジー・エンタメ・オタクコンテンツ・自転車・食・地域創生・アート・デザイン・クラフトなど、好奇心の赴くまま、飛びまわり中。