2011年の東日本大震災、東北地方での復興支援をきっかけに岩手県大槌町に移住した吉野さん。


「大槌刺し子プロジェクト」など話題を集めた取り組みの仕掛人でもある、彼の新しいチャレンジ『大槌食べる通信』。


東北で見た「リアル」に迫った前編に続き、『大槌食べる通信』が日本全国の地方創生につながるモデルケースになる、という未来の可能性が詰まった後編。


『東北食べる通信』とは違う在り方を目指す、と語る吉野さんの想いとは。

岡山 史興
70Seeds編集長。「できごとのじぶんごと化」をミッションに、世の中のさまざまな「編集」に取り組んでいます。

『東北食べる通信』とは違う「コミュニティ」に

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‐既に『東北食べる通信』が存在するのに、わざわざより狭い単位で「食べる通信」をやる意味ってどこにあるんですか?

まず『大槌食べる通信』のコンセプトは「新しいふるさとみつけた」というもので、これは『東北食べる通信』の理念とつながっているんですね。

‐はい。

ただ、『東北食べる通信』はカバー範囲が広いので、どうしても一つ一つの地域にじっくり根差して支援していくことが難しい、という側面もあるなと思っていて。

『大槌食べる通信』は「大槌」という街に特化することで、より深く地域に根差しながら強力なコミュニティをつくっていきたいと考えているんです。

‐より深いコミュニティ、というのは?

大槌では、これまで震災後に色んな人が支援に入ってきて、第二のふるさとだって思う人がどんどん出てきたんですよ。

町の人とふれあってる中で「おかえり」って言ってもらえたりだとか、おばぁちゃんちでお茶を飲みながらあーだこーだ言って「気を付けて帰るんだよ、行ってらっしゃい」って、家族みたいなやりとりを何回も何回も繰り返す。

‐いいですねえ・・・。

そうすることで、あそこは第二のふるさとだ、みたいな人がだんだん生まれている。

ある大学生は大槌に通っている間に社会人になったんですよ。社会人になったらなかなかこれなくなるから、年に1回の祭りのときに大槌にくるために仕事を頑張るって言ってたりとか。

‐はい。

僕がこの食べる通信を通してつくりたいのってそういうことなんですよね。

購読者の人達が大槌の人達とふれあって、ここが私たちのふるさとだって言ってもらえるようなことがやりたい。

‐その考え方に行き着いた背景には、「刺し子」や他のプロジェクトをやってきた経験も活かされていますか?

はい。「刺し子」をふまえて「食べる通信」をやるにあたって、重要だと考えたのが「コミュニティ」なんです。

刺し子がここまで広まったのって、仲間たちによるコミュニティが色んなイベントで販売してくれたこととか、時間も情熱もすごく注いでくれたおかげだったと思うんです。

その経験を元に、さらに外に広がっていくコミュニティ設計をしたいなと強く思っていて。

‐もっと外に、それこそ東京の人なんかをさらに巻き込んでいきたい、というような。

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そうです。あと2つあって地元と外っていうのがあるんですね。

‐というと?

地元は地元で「食べる通信」を読んでくれる人達がいて、そういう人達と一緒に受け入れをやっていくことでより地域に根差したことができると思っていて。

たとえば『東松島食べる通信』から参考にした話で、地元の人に読んでもらうためには文字をどのくらいのサイズにすればいいかと聞いたら、「8ポイントでも虫眼鏡を使いながらでも読む」と。

‐8ポイントって、お年寄りには結構小さそうなイメージです。

彼らが言うには、おじいちゃんに「読めるから情報量は減らすな」と言われたと。本当に興味があるなら文字が小さくても読むんだなって。

だから購読者ではない、地元の人に対しても読んでもらえるような仕掛けをしたいと思っていて、1ヶ月くらいしたらウェブで公開しようとか。っていうことをしようと思っていたりします。それが「内」の話ですね。

‐それは他の「食べる通信」もやっていないことですね。「外」へは?

外の人たちと、大槌をふるさとだと思える関係づくりとか、「もっと皆さん自身が楽しんで地域に関わっていく中で大槌町の先が見えてくる」という体験を一緒につくっていきたいんです。

‐ それは?

大槌町は震災からたくさんの人が支援にきたので、大槌ファンコミュニティってあるんですよね。

例えば刺し子に色んな支援者がついているように、各団体各町民が外と繋がっていろんなコミュニティを築いている。ただそれってどんどんどんどん無くなってきているんですね。

‐なぜですか?

それは受け入れる側の状況もどんどん変わってきてからです。最初はボランティアしてほしいことがたくさんあったんですけど、今はもうなくなってきている。

だから次の一手がない。それを、「食べる通信」を通して、大槌と関わり続けられる次の一手をつくりたいんです。途切れかかったものをつなぎ直していくコミュニティとして。

 

「よそもの」が握る、街づくりのカギ

‐『大槌食べる通信』が目指す「コミュニティ」ってどうやったらできていくんでしょう?

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あの、やってみてわかったのが大槌町含む三陸沿岸で獲れるものって、どこもあんまりかわんないんですよね。

ウニもアワビもマス鮭、ぶっちゃけどこも変わらない。

味や品質に違いがあったとしてもそれに気付けるのは、本当に専門家の人とか、詳しい人くらいだと思います。

‐ぶっちゃけますね。

じゃあどうするんだ、どこで差別化するんだって言ったらやっぱり人の魅力しかないんですよね。たぶん。

人の魅力とか文化とか。そこをいかに体験してもらうか、そこでリピーターどころじゃない、ふるさとだって思えるようになってもらって、またそこに帰って来てもらう。それこそ末永い関係を築くこと。

‐たしかに、つくっていきたいのはそういうことですよね。

あと東京の人が支援で大槌に行って、癒されて帰ってくるってことがすごく増えていて、それはすごい暖かく地元の人に受けれてもらったからなんですね。

すると今度は、よそ者を受けいれた地元の人が自信を持ち始めるんです。

‐というと?

たとえば、大槌町には「地元にいても仕事がないから出ていった方が良い」ってことを若者に言う人もいるんですね。

でも外から色んな人がきて、川でアユ取れるしウナギとれるしマス鮭超旨いじゃないですかとか、ホタテこれ築地で一番の浜値ついてますよとか、言ってくれるんです。

‐はい。

地元の人はそれが当たり前すぎて何もないと思ってる、そこに外から人がきてすごいすごいとか言いはじめると、だんだんと自信をもってくるんですね。

そうすると街づくりがかわってくるんです。何もないって思う人がつくる街と、うちの街すごいんだって思う人の街づくりって絶対違うはずで。

その人が住みたいって思える街って、住んでる人が誇りを持ってる街だと思うので、そういう良い実感を生んでいきたいですね。

‐それが『大槌食べる通信』のコミュニティの役割だと。

そう。これまでいいことばかり言ってますけど、大槌町が住んでる人にとってすごく居心地が良いかっていうとそうとも限らないんですよ。

やっぱり狭い地域だからしがらみもあって、ここの地区にはいたくないから違う地区に移るって人もいるんです

でも、僕みたいなよそものって、そのしがらみに取り込まれにくいのがメリットで。

‐ああ~、なるほど。

たとえば僕が大槌出身だと、先輩から言われたらちゃんとやらないといけない、とかそういうすごくきっちりとしたルールが前提になってしまうこともあるかもしれない。

でも僕はよそものなのでフラットに言いたいことを言いやすい。

だから、そういう地元の人にとっても居心地の良い場所にするためのカギを、よそものが握ってるんだなと思うんですよね。

 

『大槌食べる通信』を地域づくりのモデルに

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‐そもそも、なぜ吉野さんはここまで大槌にコミットするんですか?

温かいコミュニティを自分自身がつくってみたい、というのがありますね。よくわからない感覚だったので。

‐どういうことですか?

僕は母子家庭で兄弟とも不仲だったので、家族の温かさをいまいち実感したことがなくて。

そういうコミュニティや人とのつながりの温かさを、大槌にきて初めて知ったんです。

だから温かくていろんな方向に発展していく可能性のあるコミュニティを育てたいと。

‐そうだったんですね。

もちろん、さきほど話したように、大槌も温かくてピースフルなだけではないし、都会も地域も両方コミュニティに問題を抱えていると思っています。

そんな中、いいとこどりをしているよそもののありかたにヒントがあるんじゃないかと。それが自分にできることなんだろうと。

‐恩返しのような側面もありますね。

そうですね。正直な話、『大槌食べる通信』は儲かりにくい仕組みなんですよ。でも、この取り組みが成功することで、地域の人には「何もなくない」ことを伝えたいんです。

そしてコミュニティが営業マンになって大槌のファンを増やす、地域の人が自信を持つ、という循環が生まれてほしい。

‐ある意味日本中で求められていることのような気がします。

まさにそうで、様々な人が減っていくのは大槌だけの問題ではないし、皆が関心を寄せる地域がもっと増えるように、地域を応援するコミュニティがどんどん増えるといいなと思っています。

企画を進めるうちに応援してくれる人も増えてきたし、可能性は強く感じていますね。コミュニティの課題、六次産業化の障壁など、日本で通用するモデルができればと思っています。

‐これからがスタートですが不安はありませんか。

何とかなる、何とかする。やれるだけのことをやるしかない。そう思っています。それに、こういうチャレンジをしないと自分も成長できないですしね。

ユルいところにいると時間だけが過ぎていく、厳しい環境に身を置くことで、見たい世界を見ることができるようになる。そういう思いもあります。

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※写真(すべて):藤村のぞみ