やってみたい。ワクワクする。なんか、好き。そのエネルギーは、こんなにも人を遠くまで運ぶのだなと感じさせてくれた人がいる。

アフリカのトキメキを伝えるブランド『AFRICAN TREE』代表の柳田 美聖さんだ。アフリカの未開拓な地に魅了され、大学新卒でブランドを立ち上げた。

「好きなだけじゃやっていけないよ。現実は甘くないよ」

誰もが一度は耳にするであろう「当たり前」に惑わされず突き進む彼女は、自分の気持ちを大事に育み、目で見て心で感じた感覚を信じ楽しそうに生きる。

どうしてそんなにも自分の気持ちに素直に歩めるのか。


柳田さんが挑んできた物語に、耳を傾けてみよう。

貝津美里
人の想いを聴くのが大好物なライター。生き方/働き方をテーマに執筆します。出会う人に夢を聴きながら、世界一周の取材旅をするのが夢です。

アフリカで起業がしたい!未開拓な地にワクワクする

アフリカへの入り口は、好奇心だったという。道路も舗装されていない赤土、マサイ族、肌の黒い人々。そんなアフリカのイメージを頭の中いっぱいに膨らませ、自分の目で見てみたい!と降り立ったのがアフリカ・ルワンダだった。

「もともと起業することに興味があって、海外インターンを探していたときにルワンダでの短期ビジネス研修のプログラムを見つけたの。アフリカにもビジネスにも興味があったから、両方経験できる!これだ!って、2週間滞在することにしたんだ」

最終日のビジネスコンテストに向けて、ルワンダのスタートアップを見てまわり、事業の改善案を提案する。他にも0から事業を生み出す企画にも取り組んだという。

「スケジュールもハードで、すごくきつかった。インフラも日本のように整ってないから思うようにいかないことばかり。突然、車両が通行禁止にされちゃってバイクで15分の道のりを深夜に2時間かけて歩いて帰ったり(笑)もう、プレゼン資料作る時間ないじゃん!ってドタバタな毎日だった」

とんだハプニングに見舞われたエピソードでさえケラケラと笑いながら話す彼女を見ると、それすら楽しかったのだろうな、と思う。

そうした日々を過ごすなかで、彼女の目にアフリカはどう映ったのだろうか。

「未開拓な地にすごく可能性を感じて、とにかくワクワクしたんだよね。ルワンダのスタートアップの起業家たちは、『アフリカはまだ法整備もされていないから、これからいろいろチャレンジできる』って口を揃えて言っていたの」

「アフリカにはドローンで輸血用の血液を運ぶサービスがあるんだけど、そもそも日本だとドローンを飛ばすのは禁止だし、血液を飛ばすってどういうこと……!?って感じだけど、アフリカはほとんど決まりがないから自分たちで0から作っていけるフェーズ。これから発展していく地域ってすごく魅力的じゃん!って思ったんだよね」

何も整っていない環境を前にこんなにも心踊る人がいるのだなぁ、と思うほど目を輝かせて語る。そんな彼女とアフリカをより近づける一つの成功体験が生まれた。研修中に開催されたビジネスコンテストで優勝したのだ。

「オーダーメイドのアフリカ布のドレスを作って、フォトスポットで写真撮影もできる1日ツアーを企画したの。私自身がルワンダで観光しているとき、アフリカ布の可愛いドレスを着て写真を撮りたいなと思っても、知らない人に『写真撮ってください』って声をかけるのが恥ずかしくて」

「それならドライバー兼カメラマンを付けて、アフリカ布のドレスを作るところから写真撮影までを体験できるツアーがあるといいんじゃないかって思ったの。それにアフリカ布の女性テイラーさんの収入向上にもつながったらいいなと」

参加者10人程の小さなビジネスコンテストだったが、「アフリカで事業ができるかもしれない」と思った瞬間だったという。

「起業したい気持ちはあったけど地域にこだわりはなかったから。優勝したことで、アフリカでビジネスするの面白そうだなぁって、より興味が湧いたの」

アフリカに行きたい。起業に興味がある。その気持ちを後押しするかのようにビジネスコンテストで結果が出た。そんな「やり切った経験」は彼女の中に渦巻いていた可能性を一気に弾けさせたのかもしれない。手応えを感じた柳田さんは、帰国後もう一度アフリカへ渡ることを決める。

「まずはアフリカという地域をよく知る必要があるなって思ったの。そこに住むくらいの気持ちがないと現地のためになる事業は生み出せないから。でもお金もないし、長期で滞在できる手段はインターンかなって。大学4年生を休学してタンザニアで過ごすことにしたんだ」

ここでならできそう。そんな根拠のない自信にしたがって飛び出すことは、実は一番難しいのではないかと思う。やらない、できない理由はいくらでもかき集められるからだ。でも彼女は「ここでならできそう」という、もっともピュアな気持ちを見失わず、むしろ次のステージへ進む切符に変えてしまった。

一番やりたかったことが何も実行できなかった後悔

休学をして再びアフリカに渡った柳田さんは、インターン業務のかたわら、現地で仲良くなった日本人大学生の女の子とスモールビジネスに挑戦する。

「アフリカ布を使ったアクセサリーの製造・販売をやってみようと思ったの。もともとアフリカ布が好きで、ビビットな色と柄を見ると元気がでるし、エネルギッシュで明るい気持ちになれるから。好きなことがビジネスにつながったらいいなって思ったんだよね」

ここでも、自分がワクワクする気持ちを忘れない。アフリカ布を選んだ理由は、好きだからというシンプルな気持ちだった。

やってみてどうだった?と率直に聞くと、「それが、全然うまくいかなかったんだよね」と苦笑いをしながら当時を振り返る。

「雇用も生み出したいと思って現地のテーラーさんに依頼をしたんだけど、思うようなプロダクトがあがってこなくて。一緒にやっていた子とすれ違いがあったり、機材を購入したにも関わらず商品化に至らなかったり……。アフリカでビジネスをやりたい!って休学してきたのに、売るまでもいかなかった」

想いはあるけれど、それに伴う計画性や実行力や熱量が、全然足りなかったと冷静に分析する。あっという間に予定していたインターン期間が終わり、彼女の中には後悔しか残らなかったという。インターン業務をこなすだけで『自分でビジネスを立ち上げたい』という一番やりたかったことは、何も実行できなかった。

「ただただ時間を浪費してしまったような感覚。自己嫌悪というか焦りと不安が混じったような気持ちだった」

不完全燃焼で終わってしまったことを相当悔いていたのだろう。この「やり切れなかった」という後悔が、彼女の帰国後に大きな影響を与える。

「日本に帰ったらすぐ就職活動をしなきゃいけない時期だったんだけど、アフリカでの後悔をずっと引きずってて、全然身が入らなかった。とりあえず求人サイトを眺めてるって感じで」

結局エントリーシートも出さなかったんじゃないかな、と柳田さんは続ける。

「でもゼミの後輩から『今日、面接行ってきまーす!』『あれ美聖さん、就活しないんですか?』って、声をかけられて。就活をすることが当たり前な環境に、やらなきゃいけないのかなっていう義務感と周囲と比べて進路が定まらない焦りとで苦しかったな」

起業と就職。相反する選択肢を前にもがいていた。それでも、アフリカで起業することを諦め切れない彼女は、じわじわと水面下で動き始める。東京都が開催する起業セミナーに参加をしたり、顧客になりそうな人たちにインタビューを始めたり。具体的な行動の末、「一緒にやりたい」と言ってくれる仲間も見つけた。

そこで誕生したのが、アフリカのトキメキを伝えるブランド『AFRICAN TREE』だ。

「ブランドを立ち上げて、卒業後は就職をせずにもう一度アフリカに行くことに決めたの。誰のどんな困りごとを解決したいのか。どんな人に想いを持つのか。やっぱり自分の目で見ないとわからないなって」

就職をせず、定職も見つけず、とりあえずまたアフリカに行く。不安はなかったの?と聞こうとして、口をつぐんだ。彼女は自分で自分の道を切り拓くことに心底ワクワクしているように見えたからだ。未開拓の地、アフリカに可能性を感じたように、まだ何も決まっていない真っ白な自分自身にも「可能性しかない」と心震わせて日本を飛び立ったのだろう。

「実際にアフリカで過ごしていると、就活か起業かの二択で揺れていたのは日本にいたからなんだって気づいた。アフリカにいるとそもそも就活しようなんて声は入ってこないし、大学院を卒業して一年間好きなことしてから日本のNGO法人に就職してケニアで働いている人とか、2年休学してるよ!ってひょうひょうと言う大学生もいて」

「そのとき、私はすごく狭い範囲でキャリアを悩んでたんだなってハッとしたんだよね」

自分の目で見たい。一番やりたいことに直球で勝負する

『AFRICAN TREE』を立ち上げアフリカに渡り、今度はケニアで「モリンガ」を栽培する農家さんを巡った。モリンガとは、インド、東南アジア、アフリカ、南米などが原産の植物で、栄養価が高くスーパーフードとして海外セレブも注目している。

一方、アフリカでは身近に生えている植物がゆえ商業的価値の認識がされていない。その可能性に彼女は目をつけたのだ。

「価値のギャップがものすごくある植物なの。モリンガを輸出すれば、現地の雇用や収入を生み出せるし、アフリカの魅力が伝わる商品にもなる。ビジネスチャンスだと思って農園に足を運んだんだ」

事前にモリンガ農家さんを紹介してもらい、商談の場も設けてもらった。順調に事が運ぶと思いきや、現地に着いて言われたのは「やっぱり取引は難しい」のひと言だった。

「10時間かけて向かったにも関わらず、直前で『他に用事ができた』って言われて、断られてしまったの。そのモリンガ農家さんだけが唯一のツテだったから、頭が真っ白になって。どうするの?このまま帰るの?って」

そんな話を聞いて、三歩進んで二歩戻るとはまさにこのことだなと思う。いざ決心し、行動を起こしたとて、うまくいく保証はない。それが現実、と言われればそれまでだが、柳田さんにとって逆境は諦める理由にはならないようだ。ここからが彼女の本領発揮だった。

「ホテルに帰って、Google マップで『モリンガファーム』って検索して出てきたところ全部に電話をかけた。テレアポ大嫌いだから、泣きながら電話したよ」

そんな彼女の懸命な姿は、次第に周囲の心も動かしていく。

「なんかアジア人の女の子が一人で頑張っているぞって見てくれていた人が、つながりのあるモリンガ農家さんを紹介してくれたの。この子、本気なんだって認めてくれたのかもしれないね」

観光客や視察に来るほどんどの人たちが都市のホテルに帰っていくが、柳田さん一人が日が暮れた農村に残り村人と過ごす。モリンガ農家の視察に行くときは、どんな人がどんな暮らしをしながら栽培しているのか知るために、ホームステイをするという。

「もともとドライな性格だから、『本当に、水も電気もないんだ。生活に困っているんだ』って体感しないと、人に寄り添うのが難しいタイプなんだよね。だから自分の目で見たい気持ちが強くて、なるべく『住む』ことを大切にしている」

身体を張って現地を知ろうとする徹底ぶりに驚いた。周りに「本気なんだ」と思わせたのはこういう姿勢からなのかもしれない。

「面白かったのが、お風呂。そもそもシャワーがないからどうするんだろうって思ってたら、トイレにバケツ一杯の水が置いてあって。それがシャワーだよ!って。さすがにどうやって洗うの!?ってなったけどね(笑)」

あまりに楽しそうにゲラゲラと笑って話すから、もともと平気な子なのかなと思いきや、虫も汚い場所も大嫌いだというから驚く。

「農村での1週間は修行だと思って頑張った」

その一言に相当なガッツを感じると同時に、「心が折れてしまうことはないの?」と思わず純粋な疑問が口をついて出た。

「うーん、なぜ折れないんだろうって考えたことなかったなぁ。やめる選択肢がなかった。だってまだ何も残していないから。達成して燃え尽きるならいいけど、やっぱり不完全燃焼が嫌なんだよね

自分がやりたいことに、直球で勝負する。誰かにやらされているわけでも、人に雇われているわけでもない。自分が「やりたい」と主体で動いているからこそ湧き出る想いが彼女を突き動かしているのだ。

「誰もが自分の人生を生きることができる世界」をつくる

彼女の挑戦はモリンガ事業だけに留まらない。まだまだ解決したい課題がある、とアフリカの現状を教えてくれた。

「直近でなんとかしなきゃって思うのは、貧困による子どもの教育機会が奪われつつあること。学校に通いたい子どもたちが、学費を稼ぐために自ら漁業や物売りをする光景を見て、生まれた場所に関係なく挑戦できる機会を作りたい。教育の差を改善したいと思ったの」

貧困の原因はさまざまだが、元をたどると森林伐採の影響もあるという。高く売れるマングローブの木を伐採し生計を立てる村人が多くいたために、マングローブの根に生息する魚がいなくなり、漁師さんの収入は激減。1日1食の食事がままならない、子どもの学費が払えない。そんな深刻な状況にまで陥っているという。

「私が今すぐできることとして、クラウドファンディングに挑戦することにしたの。農村で栽培するモリンガ林で蜂蜜を製造・販売する事業を立ち上げ、親の収入向上を目指す。そのための資金を、クラウドファンディングで募りたいんだ」

貧困による子どもの教育機会に課題を感じつつ、なぜ蜂蜜の製造・販売の事業展開をするのだろう。そこには、貧困を根本的に解決する彼女の狙いがしっかり組み込まれていた。

「とにかく森林伐採を止めなければと思ったんだけど、村人自らが『このままではマズイ』と気づいて『自然を守りたい』と思える状態を作らないと、また同じことが起きると思うの」

「蜂蜜を製造・販売すれば、収入源になる。でも木をどんどん切ってしまうと蜂は蜂蜜をつくれなくなってしまう。収入を得るには、自然と共存していく必要があると気づける事業モデルを展開したかったんだ

魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えるとは、まさにこのことだなと思った。柳田さんの村を想う情熱と、本当に必要なものを見極める冷静な判断力。両方を掛け合わせたプロジェクトだ。

今後、どのようにアフリカ事業を展開していくのか聞くと、手段にこだわりはないらしい。彼女の構想は無限大と言わんばかりに広がっていた。

私がやりたいのは、アフリカの可能性を最大限に活かして『誰もが自分の人生を生きることができる世界』をつくることなの。そのために今は自分にできることから着手しているだけで、目的のためならどんな手段でも良いと思ってる」

柳田さんは続ける。

「個人的には、エリート層の人材紹介もできるようになりたい。アフリカは仕事が少ないがゆえ大学を卒業した高学歴の人も就職先に困っている状況なの。私が会社を作って人を雇用するにも限界があるし、現地の人にはただ収入を得るために働くのではなく、一人ひとりの可能性を活かせる仕事をしてほしい。だから企業と求職者のマッチングを通じて、アフリカの人たちの人生のターニングポイントに関われればと思っている」

彼女を見ていると、アフリカという国を俯瞰で捉えているのだなと感じる。経済や人、自然の流れを循環として見ているからこそ、目的だけを見据え、手段にはこだわらない。

アフリカの可能性にワクワクする。原動力はそれだけなの

何かのため、誰かのため。ではなく、自分がやりたいからやる。そんな淀みのない自己満足は、巡り巡って「国のため、人のため」になるのだ。柳田さんの生き生きと語る姿は、しなやかで逞しい。

AFRICAN TREE───。どこまでも真っ直ぐ伸びる木のように、彼女の挑戦はどこまでも続いていく。