美しくありたいと願う人、若くありたいと願う人はたくさんいる。そんな、人が自然と抱くであろう欲との向き合い方はさまざまで、化粧を濃くしてみたり、カラーコンタクトを入れてみたり、今では手軽にできるようになった整形をしてみたり。それらのアプローチを通じて自分自身を愛せるのであれば、悪くない選択かもしれない。

しかし、何をやってみても自分の身体を好きになれない瞬間がやってくる。そんなときは、押し付けられた「美しさ」ではなく、本当は自分がどうなりたいのか、どんな生き方や価値観を「美しい」と感じるのか、捉え直すチャンスとなる。

『amritara』の代表兼商品開発担当の勝田小百合さんは、「美しくありたい」「若々しくありたい」という欲を見つめ、人自身が本来持っている「美しさ」を求め続けてきた人だ。

雨が降り、川に流れ海となり、また雨となるように、人の身体も食べたものが細胞となり、その細胞は日々生まれ変わっていく。その“流れ”そのものが自然の美しさなのであり、私たちもその自然の一部なのだと『amritara』は教えてくれる。

そんな『amritara』を生んだ勝田さんは、どんな想いでコスメづくりに臨み、私たちにどんなメッセージを残していくのだろうか。

佐藤伶
1995年神奈川生まれ。フリーのライター・編集者。RIDE MEDIA&DESIGNにてWEBマガジンの編集を経験した後、「どうせ働くなら人の生きづらさを溶かすものがいい」と一念発起しフリーランスへ。現在は社会課題に特化したPR会社morning after cutting my hairに所属しながら、物書き・編集・PRを行う。

心と体は密接につながっている

今では「アンチエイジングの鬼」とも呼ばれる勝田さん。コスメだけではなく、勝田さんの食事法やスキンケア、心の持ち方など、多くの女性から支持を集めている。しかし、20代の彼女は、真っ赤なリップを塗って夜遅くまでのアルバイト、演劇仲間との喫煙タイムと、今とはかけ離れた生活スタイルだったという。

「何も考えてない、食生活に関してはむしろ無頓着なほうでしたね。演劇のことで頭がいっぱいだったんです。子どもの頃から、周りと同質化されることが苦手で、社会に馴染めない感覚がすごくありました。そんな私がなんとか息ができたのが演劇の世界。とにかく没頭していて。生活は演劇のためにあるものでしたし、自分の体を大切にしようとか、そういう意識は全くありませんでした」

風呂なしアパートで、演劇に没頭する生活を続けていた28歳の時、パニック障害を発症する。夜遅いアルバイト生活が勝田さんの体にアラートを鳴らした。

「何の理由もないのに胸がドキドキするんです。大きくて捕らえようのない不安感に突然襲われる。夜のクラブでのアルバイトは、空気も悪くて身体も冷えるし、休憩時間も短かったんです。しかも、休憩で食べるのは菓子パンとか決して体に良いとは言えないものばかりで。パニック障害になって、これはもう、自分の人生を見つめ直さないとと思いました」

勝田さんがたまたま訪れたのは、ホリスティックの心療内科。ホリスティックとは、人の体を自然の一部として捉え、特定の病気をただ治すというものではなく、体全体の流れや調子を整えていくというもの。

「そのクリニックで出合ったのがカイロプラクティックでした。カイロプラクティックは背骨から出ている自律神経の障害が体全体の健康に影響を及ぼすという視点に立っています。首の矯正をすることで、パニック障害が一気に良くなったんです。体と心は繋がっているんだなと実感させられて、とても感動したのを覚えています。それからは演劇をきっぱりと辞めて、35歳くらいまでカイロプラクティックの勉強に明け暮れていましたね」

カイロプラクティックの道に入ると同時に、勝田さんは「この世界で唯一息のできる場所だった」という演劇から離れる決意をしたのです。

 

今の人生はおまけのようなもの

演劇の世界の中で、少女役や年齢のない役を演じることが多かったという勝田さんは、自分が老いていく姿を想像できないのと同時に、「ずっと少女でありたい」という淡い野望を抱く。いかにナチュラルに、若々しくいられるか。それを面白がりながら魔法のように追い求めることが勝田さんのライフワークとなり、「アンチエイジングの鬼」というブログをスタートするに至った。

そこには、36歳で自然分娩した時の経験や当時少しずつ海外から入ってきていたオーガニックコスメ、植物の力を生かしたアロマなど、勝田さんが「本当にいい」と心から思えたこと・ものが綴られている。そのブログは勝田さんの想像をはるかに超え、多くのファンがつき書籍化の声がかかった。

「当時は日本のオーガニックコスメがあまりなかったので、海外のものを中心に紹介していました。長い時間をかけて輸送されてきた商品は、変質しないようにアルコールが多かったり、オーガニックコスメでも許されている防腐剤が入っていたり。正直、どれも少し気に食わなかったんですよ(笑)。やっぱり国内で地産地消したほうがフレッシュだし、輸送コストもかからない。ブログの読者からも『そんなに知識があるなら、つくってよ!』って声も上がっていました。もう自分で実現するしかないなぁって思ったんです」

幼少期から周りと同じことするのが苦手だった勝田さん。そんな気質がカチッとハマり、添加物や農薬など気に入らないものを排除したものづくりが始まった。

 

一般的に“無添加”と名乗れるものであっても、化粧品の裏の表示にはシリコーンオイルや防腐剤が入っていることに違和感を抱いた勝田さんは、『amritara』独自の基準「10の約束」を掲げた。「たとえ植物由来であっても合成界面活性剤を使わない」「表示義務のない微量成分をも公開する」「合成防腐剤不使用」など、本当に肌に必要なものなのかどうか問い続け、全成分に誇りを持ったものづくりを極めていく。

それから、売り上げの一部を西アフリカの青少年や女性たちへの教育や図書館設立にあて、農薬を使用しないフェアトレードのシアバター(※シア脂)を使った「アロマティック クレンジング クリーム」や紫外線吸収剤や酸化チタン、酸化亜鉛を使わずに、美容天然ミネラル「酸化セリウム(※紫外線散乱剤)」を配合した「オールライトサンスクリーンクリーム」など、オリジナリティに富んだ数々の人気商品が生まれていった。

「それまで演劇ばかりやっていたので、社会的な信用が全くなかったんですよ。どこもお金を貸してくれなかったり、一からコスメづくりなんて無理だよと周りから散々言われていました。でも、無理だよって言われるほど、じゃあやってやろうって思うんですよね(笑)。ナチュラルな方法でずっと若くいられるってことは、なかなかのチャレンジ。それが叶ったらすごく面白いなぁって」

勝田さんをそこまで掻き立てる原動力は、ある種、“前向きなあきらめ”のようなものだった。

「ノストラダムスの大予言を信じていたので、もともと30歳くらいまでの人生だと思ってたんですよ。だから、私にとって今はおまけのようなものなんです。おまけって言うと伝わりにくいかもしれないですが、今この世界にいること自体が壮大なファンタジーのような感覚で。でも決して投げやりなわけではなく、ファンタジーの中で真剣に生きています。
だから、すごく執着がないんです。どんなに若々しくいたとしても肉体はどうしても有限。いずれ私は魂だけになるのだから、どうせならやりたいことをやればいい。自分が食べたいものや使いたいコスメがないならつくればいいんです」

真の美しさは、人も自然も滞りなく流れる循環から

今この世界にいること自体が壮大なファンタジー。人間自身も自然の中の大きな循環の一部であるという感覚が、この勝田さんの足取りの軽さを生んでいるのかもしれない。

そんな勝田さんが思う「美しさ」もやはり、自然の中に溶け込む“オーガニックな生き方”だった。その哲学は、グリーン電力100%の直営店や森林浴効果もあるオフィス、使用済みの化粧容器の回収など、コスメづくり以外にも多角的に現れている。

「流れのいいものってすごく気持ちがいいんです。人も自然も全部つながっていて、滞りが起きないようにさえしていれば、仕事もだいたいうまくいきます。逆に、人間のエゴを押し付けすぎるとろくなことがないんです。原価を安くするために、安い賃金で人を働かせたり、たくさんの森林が伐採されていたり。オーガニック製品は、人も植物も生物も太陽も月も風も、全部が揃って初めて成立するもの。みんなが応援してくれないと完成しないんです」

真の美しさとは、流れの良さであり滞りのない状態。滞りが生じると、人が病んでしまったり、環境汚染が起きたり、どこかで無理が生じてしまう。

「今はね、一見いいように見えるものでも、そこに歪みというか誤魔化しが結構あるんですよ。人の一生で言うと、『今だけ適当でいいや』ってあまり体に良くないものばかり食べていると、その時は大丈夫でも、私がパニック障害になったように、あとから返って来たりしますよね。
3人に1人がアレルギーになっていたり、3人に1人が癌で亡くなっていたり、こんなにも自殺者が多かったり。すごくおかしなことが起こっているのに、その原因が普段の生活に密接していることに気づいている人があまりにも少ないんです」

ありとあらゆる化粧品やスキンケアアイテムを手に取りやすくなった現在。本当にいいものなのか分からないまま肌に塗ってみたり、お手軽にできる整形に手を出してみたり。「美しさ」へのアプローチは人それぞれであるものの、あまりにも今だけの快楽や利便性に囚われてはいないだろうか。

「今が良ければそれでいい!という人のことを否定するつもりはありません。しかし、『今だけ』を続けていると、将来どこかで歪みが出てしまい長続きしないんですよ。それは自然の流れに逆らっていることだから。私はやっぱり流れのいいものが本質美だと思いますし、『ナチュラルに若々しくありたい』という私自身の願いを叶えるためには、継続的に続けられる“健康美”が必須なんです」

「環境のため」と「自分のため」の両輪を叶える

本当に肌にいいコスメづくりを実現させるために、どこで誰がつくったのか全成分に関して語れる状態を目指しているのが『amritara』の特徴であり、勝田さんのストイックさを痛感させられる。

「私たちのものづくりの根っこは農業です。既にできている原料だけに頼るのではなく、原料ですら種から自分たちでつくっていくというやり方が、『amritara』ではもはや当たり前になっています。70年先まで私たちがものづくりを続けていくためには、自然を循環させ、農業が継続できる未来をつくっていく必要がある。私たちが環境に配慮することは、ものづくりを続けていくにあたって必然の流れなんです」

『amritara』は九州に自社農園を抱えており、地域との関わり方の視点でも、継続性を大切にしている。搾取をしないことはもちろん、短期的な寄付だけではなく、その地域ならではの特産品を使うことで、自走を促す試みだ。

例えば、佐賀県唐津市で育った「自然栽培レモン」を主役にした季節限定商品「シトラスシリーズ」。「地元の産品を使ってコスメを開発し、地域活性化に繋げたい」という活動家との出会いを経て、2016年の「クレンジングクリーム」の開発から始まり、今年は「オイルインミスト」が発売された。

「シトラスシリーズ」が始まった当初は、レモンの精油のみを使用していたところ、現在では果汁、精油、蒸留水と、1つのレモンのあらゆる要素を生かしながら4点もの商品開発に至る。地域の原料を余すことなく使いきることを目指したこのシリーズは、『amritara』が5〜6年間もの長い時間をかけて地域と密な関係を築いてきた証だ。そして、その関係はこれからも続いていくことだろう。

SDGsが叫ばれ、未来のためにできることを模索する企業はここ数年で一気に増えている。しかし、『amritara』はこれまでやっていきた自分たちなりの「オーガニックな生き方」を貫いていくのみだと語る。

「SDGsの影響で『未来のために』というイメージがすごく強くなっていると思うのですが、過去も今も未来も全部がつながっていますよね。今が変わると未来も変わるし、今の意味づけによって過去も変わるじゃないですか。点ではなく線なんです。だから、今まで何もしてこなかった会社が急に環境にいいものをつくろうって言ってもそう簡単にはいかない。私たちは世の中がどうなろうと、これまで私たちが信じてきた“オーガニック”というあり方を続けていくだけです」

 『amritara』が目指すのは、商品を通じて少しずつその哲学を浸透させていくこと。環境にいいものを取り入れようと思う人は未だ少なくても、勝田さん自身がそうであるように、「美しくありたい」「若々しくありたい」と願う人はたくさんいる。そういった人たちに「真の美しさとは何なのか」を問いかけ、流れる循環の輪の中にお客さんをも巻き込んでいくのが『amritara』の姿だ。

「環境にいいものを生活に取り入れよう」というのはもはや常套句。「美しくありたい」というちょっとしたわがままの延長線で、環境に優しい“オーガニックな生き方”を選択することができたなら。自然界は高尚なものではなく、私たちの一部としてグッと近くに感じられるかもしれない。

勝田小百合(かつた・さゆり)
アムリターラ代表兼商品開発。高校2年生の男の子の母。カイロプラクターでもあり、都内にある治療室で多くの女性を施術。最新刊は「老けないオーガニック」(ワニブックス)。“ナチュラルに美しく健康に生きる”をテーマに、日々、精進を続ける50代。