伊藤 大成
1990年、神奈川生まれ。島とメディアをこよなく愛する25歳.

戦後日本を象徴するキャラクター「鉄腕アトム」にちなんだ「アトム通貨」。

 

高田馬場生まれの通貨が、地域通貨の成功例として注目を集める秘密に迫るこの企画。

 

アトム通貨を手に入れる旅(第1弾記事第2弾記事)を経て、訪れた終着地点は、アトムの版権を管理している手塚プロダクション。

 

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今回お話しを伺ったのは、手塚プロダクションクリエイティブ部プランナーの日高海さんだ。

 

手塚治虫の理念を受け継いだ「アトム通貨」

伊藤(以下、伊藤):全国でアトム通貨が流通していますが、なぜアトムが高田馬場の地域通貨になったのでしょうか?

手塚プロ日高 (以下、日高):アトム生誕の町のご縁から、高田馬場の街の方々みなさまには、手塚治虫とその作品をとても大切にしていただいています。

駅にある手塚作品キャラクター壁画の設置や、駅の発車メロディーをアトムのテーマにするなど、全て高田馬場の街の方々が自発的に動かれて実現したものです。

伊藤:以前まで高田馬場駅を使っていましたが、あのメロディーは手塚プロの方が手配したものだと思っていました…。

日高:地域の力は偉大ですね。また、街のみなさまの発案で様々なイベントが行われました。

2003年4月7日の鉄腕アトムの誕生日には、商店街で手塚キャラクターの仮装パレードを行い、盛大に祝ってくださいました。

編集部 伊藤:街の方々は本当に手塚作品を愛されているのですね。

日高:嬉しいことですし、ただ頭がさがるばかりです。こうした取り組みに対して、私たち手塚プロも街に何か恩返しができないかと考えました。

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伊藤:その結果がアトム通貨であると

日高:はい。ただ手塚プロだけで立ち上げることはできませんので、弊社をはじめ、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター、早稲田大学周辺商店会連合会、高田馬場西商店街振興組合の4者の協働事業として、2004年4月7日に流通をスタートさせました。

伊藤:そこから地域への恩返しが始まったということですね。

日高:はい。おかげさまで12年目に突入しました。私たちは、アトム通貨をありがとうの気持ちを伝える「サンクスマネー」と呼んでいます。

アトム通貨のやりとりを通じて、誰かに何かをしてあげたい、何かをしてくれた人への感謝の気持ちを形にしたい、そんな思いが高められるツールになればいいなと考えています。

伊藤:なるほど!私もアトム通貨を入手するやりとりを通して、人と人とのつながりを感じることができました。

日高:私たちはこの通貨を、手塚の講演会などの語録をまとめた著書『ガラスの地球を救え』から、「環境」「地域」「国際」「教育」という4つのキーワードを理念として取り決めて運営しています。

手塚が未来に向けて発信していたメッセージがマンガやアニメとは違う形で伝わっていくのは嬉しいことです。

伊藤:通貨自体を流通させる事によって、手塚先生の理念を継承していくのですね。

日高:そうですね。手塚治虫自身、職場が高田馬場にあったこともあり、地域の方とのふれあいやお祭りへの協力などを積極的に行っていたとも聞いています。

その関係性を継承する為にも、アトム通貨の導入は有効的だと感じています。

 

アトム通貨が生んだ地産地消の絆「内藤とうがらしプロジェクト」

赤く実ったとうがらし

伊藤:アトム通貨を軸として新たに始められた取り組み等はありますか?

日高:アトム通貨をきっかけに始まった取り組みで、「内藤とうがらし再興プロジェクト」があります。

内藤とうがらしは、江戸時代に新宿御苑から高田馬場にかけて生産された、この地域の特産物です。江戸時代はそば文化がとても栄え、とうがらしに対する需要が高かったそうです。

その為、生産も活発でこの辺り一面が真っ赤なじゅうたんと言われるほどのとうがらしが栽培されていたようです。

伊藤:今の景色からは想像もできませんね(笑)

日高:たしかに(笑)今でいう地域ブランドだった内藤とうがらしを、復活させようという動きがここ数年盛んになってきました。

そこで、アトム通貨で仲間になったみなさんと2012年から「内藤とうがらし再興プロジェクト」を立ち上げました。

伊藤:とうがらしは、どちらで栽培されているのですか?

日高: 昨年、内藤とうがらしが江戸東京野菜に認定され、都内の農家で本格的な栽培が始まっております。

ただし、我々のプロジェクトでは、畑ではなくコンセプトに賛同してくださる企業や店舗の建物にあるベランダなどで栽培しているのが特徴です。

伊藤:栽培にはどれだけの企業の方に参加して頂いているのでしょうか。

苗付けの様子

( 写真:内藤とうがらし苗付けの様子)

 

日高:2012年のプロジェクト開始時には17社の企業に参加して頂きました。

内藤とうがらしをきっかけに、新たな輪が広がり、2014年度には栽培が60社、料理提供を含めると100社以上との繋がりができました。

伊藤:100社以上!プロジェクト自体もどんどん広まっているのでしょうね。栽培されたとうがらしは、どのように使われているんですか?

日高:とうがらしは私たちが回収して地域の飲食店にお配りし、料理を提供していただいております。

また、単に料理店で調味料として使うだけでなく、とうがらしを使った創作料理の検討会や、とうがらしをメインにした街バル「バル辛フェスタ」なども開催しました。

ここでも違った形で街の活性化にも貢献させていただいています。

バル辛フェスタ

伊藤:今までのお話しを聞いていると、アトム通貨を発端として地域のあり方を再構築することも夢ではないですね。

日高:アトム通貨の取り組みについては、先日“アトム通貨で描くコミュニティ・デザイン”という本を新評論より出版しました。

通貨のしくみ、プロジェクト成功のひみつなど赤裸々に語っています。

私も広報の視点から執筆させていただいています。地域活性化やキャラクタービジネスに興味がある方や、コミュニケーション構築に苦戦されている方、老若男女問わず気軽にお読みいただける1冊に仕上がりました。

沢山の人にこの本を読んでいただき、アトム通貨の理念が広がればよいなあ、と思っています。

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伊藤:なるほど!一番飯店の店長さんにもその本をご紹介して頂きました。

アトム通貨をもっと深く知るためにも、拝読させて頂きます。今日はありがとうございました!

日高:ありがとうございました。

 

 

手塚治虫が思い描いた理念を「通貨」という形にのせて、全国に流通している「アトム通貨」。

 

誕生から丸11年。「地域通貨」の枠を超え、人と人、更には地域同士をつなぐツールとして、幅広く展開されている様子を、発祥地・高田馬場から見る事ができた。

 

今回ご紹介しきれなかった「アトム通貨」の魅力は、4月10日に発売された「アトム通貨で描くコミュニティ・デザイン」(リンク)の中で紹介されている。「アトム通貨」を通じて、マンガ・アニメとは異なる手塚治虫の世界を堪能してみてはいかがだろうか。

 

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『アトム通貨で描くコミュニティ・デザイン: 人とまちが紡ぐ未来』(2015)

http://www.amazon.co.jp/dp/4794810059/