札幌市が30年以上も前から、IT産業を基幹産業にしようと注力しているのを知っていましたか? 1986年の「札幌テクノパーク」という情報産業に特化した産業団地の分譲開始に始まり、現在では全国でも有数のIT産業の集積地となっています。そして、いま新たに産学官連携でAI(人工知能)を軸にした取り組みに力を入れているといいます。
その札幌市は2017年10月3~6日に幕張メッセで開催された、IT技術とエレクトロニクスの国際展示会「CEATEC JAPAN 2017」(以下、CEATEC)に初出展。札幌市 経済観光局 IT産業担当係長の吉田泰斗さんに話を聞きました。
“東京にこだわらない働き方”を推進する「OFF TOKYO」。70seedsも主催者の一員として関わるこのプロジェクトとの連動コンテンツとして、IT先進自治体の取り組みをご紹介します!
AIを軸にした産学官連携で地域経済の活性化を目指す
‐今注力されている取り組みは何ですか?
今AIやIoT、ビッグデータといった先端技術による「第4次産業革命」が、社会構造の変革をもたらすほどのインパクトがあると言われています。
こうした転機を捉えて、競争力を高めるチャンスにしよう!ということで、先端技術による新ビジネス創出を目指して、2016年8月に産学官連携で「札幌市IoTイノベーション推進コンソーシアム」を旗揚げしました。
2017年6月には、このコンソーシアムの専門部会として「Sapporo AI Lab」を設立して、AIを軸とした産業振興の取り組みを進めています。
‐産官学連携がうまく進んだわけですね。
はい。地域のIT企業の皆さんにお話を聞くと、技術志向が高く、先端技術の活用に意欲的な企業が多いのですが、実際に取り組もうとすると、大学との共同研究などに高いハードルを感じているようでした。
一方で、Sapporo AI Labのラボ長である北海道大学の川村秀憲教授のように、産学連携に熱心な先生が多くいらっしゃいます。
そこで、IT企業と大学を橋渡しする場として、Sapporo AI Labを立ち上げました。
2017年6月の設立記念イベントは、当初想定していた60名の定員を超える170名に参加していただき、すごい熱気とともに期待の大きさも感じましたね。
‐Sapporo AI Labでは、どのような取り組みが進められているのでしょうか?
札幌をAI関連企業やAIエンジニアが集積する場所にしたいと考えていて、そのためのにAIエンジニア育成を進めています。
8月に、まずは初心者向けAIエンジニア勉強会を開講しましたが、多くのお申込みをいただきました。今はステップアップ編を準備しています。
‐そして、今回のCEATECでも展示しているAI実証事業ですね。
はい。この事業は、市コールセンターの応対履歴データをAIの学習データとして使って、交通案内をテーマとしたAIボットの試作を行っています。
公共交通の経路に関する問合せに対して、文字による対話形式での案内を自動で行うものです。
この事業では、地域の企業にAIエンジンから開発してもらい、実際に試行錯誤しながら開発経験を積むことで、AIの研究開発に必要な高い技術やノウハウを蓄積してもらうおうと考えています。
(写真:CEATECで公開されたAI自動応答システムのデモ)
生産性向上が大きなテーマとなっていますが、地域の中小企業では受発注に今もFAXや電話を用いている企業が意外と多く、IT利活用の余地はまだまだ大きいと感じます。
一方で、地域のIT企業は、日頃の取引を通して様々な業種の最新のニーズを掴んでいます。
そこで、AIの研究開発スキルを高めた地域のIT企業が、AIを用いて独自の製品やサービスを展開できれば、生産性向上をはじめ地域全体の経済活性化に貢献できると考えています。
‐もう一つの「AI俳句実証プロジェクト」も面白そうな実証事業ですね。
ありがとうございます。絶賛売り出し中のプロジェクトです(笑)。
これは「俳句」をテーマに、市民の皆さんと一緒にAIを学習させることで、感性や独創性を持ったAIによる文章生成を目指すものです。
写真画像の情景にピッタリな俳句をAIが創作するものですが、今はまだ「日本語か?」という句が出てくる段階です。ぜひ、今後の成長を温かい目で見守っていただければと思います。
‐CEATECに初めて出展しようと思ったのはなぜですか?
Sapporo AI Labの取り組みはもちろんですが、一緒に出展している札幌のIT企業は、それぞれ独自のアプローチでAI活用に注力しています。
こうした企業を広く発信したいと考えて、CEATECに出展しました。実際に、この場で新しいつながりも生まれています。
札幌にAI関連の企業が増え、多くのAIエンジニアが集積し、首都圏の企業ともドンドン一緒に仕事ができたら良いなと考えています。
(写真:CEATECの札幌市ブース)
30年以上に渡る札幌のIT産業の歩み
‐札幌市がITに力を入れている理由は何ですか?
今から30年前、札幌は製造業が強いわけではないため、情報産業を基幹事業として育成するという構想を掲げて「札幌テクノパーク」と呼ぶIT企業を集積する産業団地を整備しました。
テクノパークは、2016年に30周年を迎えて、現在は40社くらいの企業が集まっています。いまでは、IT産業は札幌の基幹産業の1つとなっています。
‐札幌市ならではの魅力は、その30年の歴史といえるのでしょうか。
そうですね。30年の歩みの中で、それぞれの時代に先端技術を使って新しいものを生み出す動きが、産学官を巻き込む形で行われてきました。
そうした中で培われた経験や人的ネットワークは札幌の財産です。こうした土壌があって、Sapporo AI Labの取組もあるわけで、新しいことに挑戦するフィールドとしてすごく魅力的な場所だと思います。
(写真:札幌市 経済観光局 IT産業担当係長を務める吉田泰斗さん)
‐ありがとうございます。最後に、地域に対するご自身の思いを聞かせてください。
札幌は、自然に恵まれ、おいしい「食」も揃っていて、毎日の生活を思い切り楽しめる、本当に良い場所だと自信を持ってお伝えできます。
もちろん、仕事の面でもエンジニアの方々が挑戦できる環境があります。ぜひ札幌への移住をご検討ください!