朝が来ること、空が澄み渡っていること。
赤子は泣き、青年は本を読み、穏やかな昼下がりがあること。
そんな日々のことを「平和」と呼ぶのではないだろうか。

日本から飛行機で約6時間、カンボジア。
知識人の大量虐殺や内戦の歴史を抱え、復興途上の国だ。

私(佐藤)はライターとしてさまざまな取材をするなかで、カンボジアの医療支援や教育支援を行う学生団体に出会ったことがある。以来、カンボジアへの支援活動やその背景まで含めて、さらに話を聞く機会を探していた。

そんなとき偶然、クラウドファンディング「Readyfor」で見つけたのが、「武器から作られたアクセサリー」カンボジア・エンパワメント・プロジェクト(以下、CEP)だった。

この地でカンボジアのアクセサリー職人Chanta(チャンタ)さんと手をとりあいながらプロジェクトを支援・推進する岡田久幸さんに聞いた、現地での活動の姿を伝えたい。

佐藤 由佳
1993年東京生まれ。新卒でWebディレクターを経験後、フリーライターに。現在はビジネスやテクノロジー分野を中心に執筆。自然豊かな場所が好き。

武器からできたアクセサリー

   

カンボジアの支援をしていくプロジェクトの一つ「武器から作られるアクセサリー」の制作・販売の支援プロジェクトが始まったのは、2017年のことだ。

 

このプロジェクトではクラウドファンディングを行い、100万円以上の支援が集まった。活動のきっかけは、岡田さんと現地のアクセサリー職人Chantaさんとの出会いだった。

 

「同じくカンボジア支援をしている方から”銃弾からアクセサリーを作っている人がいたわよ”と教えてもらったんです。私は以前、カンボジアの爆弾博物館で、銃弾や砲弾を叩いてフライパンにしたり、鍋にされているのを見たことがありました。その記憶とリンクして、ぜひ平和へのヒントを得たいとChantaさんと会ってみることにしたんです」(岡田さん)

   

Chantaさんのアクセサリー工房を訪れた岡田さんは、アクセサリーの美しさと、Chantaさんの想いに触れ「ぜひ日本に持って帰り、紹介したい」と思い立ちます。

   

「Chantaさんは、幼い頃に母と妹を亡くし、ポルポト軍の襲撃で父も亡くした、本当に大変だったときの話もしてくれたんです。今は平和を考えてアクセサリーを作っていると聞いて。私は、そのとき持っていた全てのお金でアクセサリーを購入しました」(岡田さん)

   

現在Chantaさんは、CEPのクラウドファンディングによる支援や継続的な活動を通して、より大きな工房を作ることを目指している。コミュニティを作り、周囲の人々に少しずつでも還元しながら体制を整えていきたいと考えている。

   

「一過性のものではなく、コミュニティとして継続的な運営をしていきたいという考え方には、本当に感激しました。知識人を失い、いまだ多くの人が貧困にあえぎ、学びの機会を十分に持つことができないのがカンボジアです。さまざまな支援が行われていますが、ビジネスの立脚点を現地の人々自らが見出していくことが大切なのではないかと考えています。そのため、Chantaさんの想いを応援していきたいんです」(岡田さん)

   

現地の人々同士をつなぐことで発展する活動

 

もともと国際支援を行なっていた岡田さん。CEPは、アジアの仏教徒の助け合いネットワークである一般社団法人『四方僧伽』のカンボジア事業を引き継ぐ形で、僧侶の斎藤大法さんを代表とし2014年に始まった。

 

Chantaさんのアクセサリー制作支援のほかに、CEPではオリジナルの『仏教読本』を制作・配布し、教育支援も行なってきた。カンボジアは多くの人が仏教徒。現地の大学生や有志団体と活動を共にする中で、子どもたちに仏教の考え方をわかりやすく伝えているのだ。

 

「私は今まで、チベット支援やマイクロファイナンスの事業などに携わりさまざまな支援活動をしていました。その中でもっとボトムアップ的な、現地の人と共に作り上げる活動をしたいと考えるようになりました。そこで、カンボジアの人々と交流をしながら支援をしていくプロジェクトを始めたんです」(岡田さん)

(写真:僧侶の斎藤大法さん)

 

2017年から、CEPはカンボジア人の女性グループ「スナダイクメール」と新たな活動も始めた。フリースクールを自ら運営し、子供たちの教育支援を行ったり、オーガニックファームを経営している有志グループだ。

 

「若い彼女たちが、現地でこれだけのビジネスやプログラムを展開していることに感銘を受けました。そこでメンバーに、オリジナルプロダクトの開発・販売を提案したんです。Chantaさんの作ったアクセサリーを買い上げ加工し、彼女たち自身がお土産品として販売を行う仕組み。ホテルでのお土産品として旅行客向けに販売を行っています」(岡田さん)

 

フリースクールの経営では、子どもたちに勉強を教えるティーチャーの育成も行なっている。学力はあるが、金銭面の問題により”大学に行けない高校生”に対して、安価ではあるが報酬を発生させながら、幼い子どもたちの先生になってもらうプログラムだ。

 

CEPで制作・普及を行なっている『仏教読本』のことも伝えると、ティーチャーの育成プログラムやフリースクールの中で、ぜひ教材として使いたいと導入が決まった。このオリジナル読本は、子供にもわかりやすいようにイラストを用いて仏教の教えを説いている。

 

「仏教は身近な存在です。しかし悲惨な歴史から現在まで、”寺院やお坊さんの現状復帰”はある程度されましたが”人々の心の復興”はまた別物なんです。たとえば日本でいう『お天道様が見ているから悪いことはしてはいけませんよ』などの考え方は見られないですし、金銭的報酬以外のものに基づくことができる人はまだまだ少ないように感じます」(岡田さん)

(写真:CEPオリジナルの『仏教読本』)

 

ボランティア精神や、道徳精神、相互扶助の考え方などを浸透させていくには「制度設計から入るのではなく、”心のタネ”を蒔いていくことが大切だ」と語る岡田さん。スナダイクメールとの出会いは、まさに”芽”が出始めていることを表しているのだろう。

   

心のタネを蒔き、持続可能に生きることを伝えていく

 

現在のカンボジアの平均年齢は24歳。取材者である私と同年代である。1970年代後半のポル・ポト政権下の大量虐殺によって市民の4分の1が犠牲になり、著しく若い平均年齢はその歴史の悲惨さを物語っている。カンボジアの復興や発展を考えるにあたって、私は改めてこの国で起こったことや課題、現状について聞いてみた。

 

「例えるとすると、今この瞬間に30代、40代などすべてのインテリジェンスが失われるようなことが起こったのです。そんなことが起きれば日本だって立ち行かなくなることが想像できるでしょう。何百年も培ってきた風土や慣習、考え、知識が失われてしまったのがカンボジアなんです」(岡田さん)

 

「学ぶことができない」というのは、つまり「文字が書けない」「読めない」ことだと思っていた。文字が書けない、読めないことによってどのようなことが起きてしまうか、支援活動の中で印象的だった家族の話を教えてくれた。

 

「カンボジアでは、さまざまな支援事例があります。以前私が別の団体で行なっていた『米銀行プロジェクト』は、貧困によりお米がない、稲作ができないという人のために、稲を作るためのタネを貸し付けるプロジェクトでした。実ったら、その何%かの種もみを返す仕組みです。しかし貸し付けたある一家は、その種もみをそのまま売って、お金に変えてしまったのです」(岡田さん)

 

このような現状を目の当たりにして岡田さんは、カンボジアの人々が、難しい概念を理解したり、金銭報酬以外のところに立脚することの難しさを感じている。彼らにお金を渡して支援するだけではない、より根源的な支援が必要なのではないかと考えてきたという。

 

「持続可能な形で生きていくこと、こうやって生きていくことが大切なんだよ、という基本の部分が抜け落ちてしまっている現状があります。基本的な生き方とか、生きる指針みたいなものをどうやって伝えていけばいいのかなって。そして、ビジネスをどのように展開していけばいいのか。人々がきちんと自立できる”硬い大地”のようなものが必要なのではないかなと考えているんです」(岡田さん)

 

人々が理念や生きていくための考え方に立脚できるように、今後は引き続きアクセサリー制作を支援しながら、仏教の考え方に基づいた心の教育支援も行なっていく。

 

「”心のタネ”をまいて、みんなで共有しながら大きくなっていくようなことが理想かなと。様々な課題はありますが、現地を訪れると、ゆったりした時間の中で少しのミスや遅延はおおらかに許すような良さも感じていて。Chantaさんやスナダイクメールのメンバー、そしてプロジェクトに関わる様々な人々と対話を続けながら、これからも支援を続けていきたいと思います」(岡田さん)

 

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