Home / Social / 原点は母の背中-こども宅食は「相談できる関係」を育む

原点は母の背中-こども宅食は「相談できる関係」を育む

 

厚生労働省の調査によると、日本における子どもの貧困率は2015年時点で13.9%。つまり「7人に1人」の子どもが、貧困状態に陥っていることになります。さらに、ひとり親家庭にしぼるとその割合は「2人に1人」にまで高くなります。

 

そうした子どもたちに向けて、新しいセーフティーネットを作る取り組みが始まりました。東京都文京区と5つの団体が運営する「こども宅食」です。生活の厳しい家庭を対象に、1~2か月に一度、米や飲料水、レトルト食品など約5~7kgが宅配されます。

 

こども宅食は、ふるさと納税の制度を活用したことでも注目を集め、2017年度は8000万円以上の寄付が集まりました。4月からは2018年度の寄付受付をスタート。

 

立ち上げを担当した認定NPO法人フローレンスの山崎岳さんにお話を伺いました。

 

 


 

周囲に見えづらい日本の貧困

 

―最初にこども宅食を始めたきっかけについて教えてください。

 

これまでフローレンスは、病児保育に取り組んできました。お子さんが病気になり、保育園に行くことができないときに、ご自宅に訪問してマンツーマンで保育を行う事業です。

 

その中で、ひとり親家庭に対して、寄付を原資に低価格で病児保育を提供していく中で、ひとり親の貧困や、子どもの貧困の問題に直面しました。この問題をどうにかしたいと、2年前に「子ども食堂」を開催したのが始まりです。

 

―子ども食堂は、全国でネットワーク化されている取り組みですよね。

 

はい。地域の人達がボランティアベースで、子どもたちに向けて、無料もしくは低価格で食事を振る舞うコミュニティです。

 

―そこからこども宅食へと変わったのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

 

フローレンスは中央区で3回開催したのですが、来てくれた40~50世帯の中で、あきらかに支援が必要という家庭が「1世帯」しかいませんでした。子ども食堂は、子どもたちに足を運んでもらう仕組みなので、本当に困っている子どもが、何らかの理由で足を運べない可能性があります。支援者側が出張って、支援を届けていく必要性を感じました。

 

そこで文京区を含めた複数の団体と、子ども宅食の実現に向けた取り組みを始めました。2017年7月から、ふるさと納税という形で寄付の受け付けを開始しています。

 

 

子ども宅食は共同事業体という形で、複数の団体が関わっている

 

 

食品を届けることが一番の目的ではない

 

―ふるさと納税という仕組みを活用したのはなぜでしょうか。

 

ふるさと納税は、控除の仕組みがとても寄付をしやすくしています。寄付する側のハードルが非常に低いだけでなく、返礼品として、地域の特産物も送られる仕組みなので、スキームとして優れています。

 

しかし、ふるさと納税は、自治体と連携しなければ活用できません。こども宅食の場合、フローレンス代表の駒崎が文京区の成澤区長と意気投合し、返礼品を用意せず、全てこども達に還元される仕組みになりました。

 

―初年度は、目標金額は2000万円に対し、8000万円以上の支援が集まりましたね。

 

これまでクラウドファンディングに数回挑戦していますが、社内の力を総動員しても、達成するまでが本当に大変です。今回、多くの人の共感を得ることができて非常に嬉しいです。

 

―フローレンスさんのクラウドファンディングに関しては、駒崎さんが情報発信をすることで多くの支援が集まる「駒崎砲」という言葉もありますよね。

 

たしかにこれまでの新規事業は、駒崎の情報発信から拡散する傾向があったんですが、実は今回に関しては、ふるさと納税をどこにしようか迷っている方の寄付が多かったんです。

 

フローレンスや駒崎のことを全く知らない方、ネットを見ていないけれど文京区の区報で知ったおじいちゃんなど。データを見てみても、これまで巻き込めなかった幅広い層からの支援があり、皆さんの善意を巻き込む装置として、機能したのかなと思います。

 

―ふるさと納税を活用したという以外にも、希望者が申請を行いたいときにLINEで可能なのも特徴的です。こちらには、どのような狙いがあったのでしょうか。

 

窓口に行きづらいとか、書類を書く暇もないという方も多いので、LINEという日常的に使うツールを活用することで、ハードルを下げるのが狙いにありました。

 

食糧支援を行っている区は他にもあるのですが、申し込みが15%くらいだったと聞いています。こども宅食の場合、案内をした家庭のうち45%が申し込みをしてくれました。

 

―LINEでのつながりが生まれることによって、食品を届ける以外にも運営側から各家庭に対してアプローチがすることが可能になりますね。

 

そうなんです。こども宅食の一番の目的は、食品を届けることではありません。今は2か月に1回、5~7kgの食品を届けているのですが、それだけでは生活自体は改善されません。

 

毎日5kgの食料を届けられるなら別ですが、2か月に1度ではなかなか難しいです。私たちが目指しているのは、食品を届けることをきっかけに「つながりをつくる」なんですよ。

 

―実際に顔を見て、コミュニケーションをすることが大事だと。

 

先ほども述べたように、ひとり親の困っている家庭は、なかなか自分から相談ができなかったり、忙しくて書類を書けない方も多いです。こども宅食では、そのような家庭に食品を届けながら、つながりを作っていくことで、各家庭を支える仕組みできればと思っています。

 

こども宅食の仕組み

 

 

「社会として応援している」ということを伝えたい

 

―山崎さんは、ブログで自身の幼少期について書かれていましたね。フローレンスに入社し、子ども宅食に関わるようになったのも、その影響が大きかったのでしょうか?

 

はい。小学生のときに父親が不倫をしてから、母親が女手一つで育ててくれたんですね。部活はできなかったのですが、教育と食には投資してくれて、大学まで通うことができました。母親が一人で頑張っている様子を間近で見てきたのは大きかったですね。

 

―当時の印象的なエピソードは何かあったりますか。

 

私の地元は、小学校の卒業式のときに中学校の制服を着るという風習がありました。でも私だけ制服を用意することができず、一人真っ白な私服で参加したのは辛かったですね。

 

卒業した先輩からもらう文化もあったのですが、母親が仕事と子育てで手一杯だったので、周囲とのつながりがなくて。そこに母親が負い目を感じているのを見て、貧乏もそうですが、周囲とのつながりがなくて辛い思いをする状況をどうにかしたいと思いました。

 

―親族などの力も借りられない状況だったのでしょうか?

 

母親の実家に祖父母はいたのですが、あまり関わりがなくて。しかし、定期的に畑で育てた野菜を段ボールに詰めて送ってくれたんですよ。そこで、母親が祖父母に毎回電話をしていたのが印象的で。

 

自分から周囲に助けを求めるのは難しいけれど、定期的にコミュニケーションをとり、徐々に相談できる関係性になることの重要性を今になって感じています。

 

―LINEで相談ができる仕組みを作ったのも山崎さんだったんですか?

 

はい。最初は、食品を届けたときに玄関先でコミュニケーションをとろうという方針でした。しかし自分の体験から、いつでも気軽に相談できるような仕組みも必要だと思っていたので。自分で誰かに助けを求めることって、なかなか難しいんと思います。

 

―辛いときほど、SOSって出しづらかったりしますもんね…。

 

母親から「殺人犯がいたら、あなたの前に立って守って上げる」と言われたことを鮮明に覚えています。親って子どもを守りたいと思っているし、勉強をさせてあげたいのに、できないのは辛いことだと思うんですよ。今回の事業では子どもだけでなく、家庭をまるっと支えることで、「社会として応援している」ことを伝えられるようにしていきたいです。

 

こども宅食の事業立ち上げを担当した山崎岳さん

 

 

長期的には他の自治体に展開へ

 

―今こども宅食を利用しているのは、どのくらいの家庭ですか?

 

文京区で、児童扶養手当や就学援助などを受けている家庭が約1000世帯あります。初年度の利用申込は150世帯ほどではないかと見込んでいました。

 

しかし、LINEを活用して、手軽に申し込みが出来るようにしたことで、想定の3倍の約450世帯の方々からお申込をいただきました。そのため、配送にあたり抽選を行い、150世帯のご家庭に、2017年10月、12月、2018年2月と計3回、食品を届けてきました。

 

多くの方から多大なご支援を頂いたおかげで、ようやくこの春(2018年4月)から、お申込みいただいた450世帯すべてに食品を届けられることになりました。

 

―これまで食品を届ける中で、こんな声をもらったなどの成果はありましたか。

 

困っている両親やひとり親は忙しかったり、周囲が共働きで会話に入りづらかったりするので、孤立してしまうことが多いんですね。

 

しかし、こども宅食を届けたことで「誰かに応援されているような気がして、勇気をもらえた」と言っていただいたのは嬉しかったです。

 

あと印象的だったのは、子どもが友達を家に呼ぶときに、これまでお菓子を出してあげられなくて、なかなか「呼んでいい」と言えなかったお母さんがいて。こども宅食が届くことによって、「友達を呼びやすくなったのがありがたい」と言ってもらえたりしましたね。

 

―2回目の配送は、クリスマスシーズンに行われたんですよね。

 

はい。お菓子の詰め合わせやズワイガニの缶詰も入れたんですよ。そうしたら「当日まで子どもには見せないでおきます」とか「お酒のおつまみにしたい」と言ってくれる人もいました。親のサポートにつながっていることも分かったのが一つの成果かなと。

 

―逆に課題などはありますか?

 

貧困で困っている状況が、なかなか伝わっていないことですね。文京区は物価が高く、お金持ちな人が多いと思われがちですが、見た目だけではなかなか分かりません。

 

今は安く買える服もあって、外見はしっかりしているけれど、えりの裏側を見ると全く洗濯をしてないことが分かったり。立派なマンションに住んでいるように見えても、中では一日一食で、電気代節約のために夜に電気をつけなかったり、家具もボロボロなんてこともあります。このような状況を丁寧に伝えていくことも、こども宅食の役割だと思っています。

 

―ありがとうございます。こども宅食の継続性という意味では、毎年ふるさと納税を募集するモデルになるのでしょうか。他の地域への展開も考えているか、最後に教えてください。

 

ふるさと納税はクラウドファンディングに近いので、継続するための資金を毎年募るのは難しいのが正直なところです。ですが、長期的には他の自治体でも展開していきたい。

 

4月からは450世帯への配送をスタートしますが、450世帯に留まらず、今年度中に昨年度の4倍である600世帯のもとへ、こども宅食を届けられるようにしていきたいです。

 

また文京区で既に活動されているNPOや団体などと連携しながら、各家庭にあったサポートをすることで、子どもの貧困を文京区からなくすまでコミットできればと思っています。

 

2回目の配送作業を行ったときの記念写真 提供:フローレンス

 

 

【関連記事】

・店員が「猫」の本屋さん! 夢を形にするため、走り抜けたオーナーの1年間

・ムスリム女子学生が「自撮り」で見つめる信仰と自由

・「町に嫁入りしたような毎日」 隣り合った人と晩酌してしまう小料理屋で、女将が結ぶ縁

・LINEで妊婦に席を譲る! &HAND実証実験で見えた「日常にしたい風景」

 

(執筆:渡辺結/編集:庄司智昭)