兪 彭燕
1989年、上海生まれ日本に根を下ろしてはや20年。音楽とサッカーが好き。バイブルはスラムダンクと寺山修二の「書を捨てよ、町へ出よう」

 

(写真:リトアニアでは書道を一緒に)

 

戦後70年を迎えた2015年、平成生まれの子どもたちは、「戦争」をどのように感じているのでしょうか。
もはや過去のこと?無関心?それとも、これからも起こること?

 

SGHアソシエイト校であり、平和や国際的な連携を実践するユネスコスクールにも選ばれている湘南学園では、アウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所(以下、「アウシュビッツ」)などを訪れるサマーツアー、「ポーランド・リトアニアヒストリーツアー」を開催しています。

 

歴史の暗部ともいえる場所に訪れた、弱冠14、15才の中学生や高校生たちはそこでどのような「戦争」と出会ったのでしょうか。全国でも珍しい取り組みである同校の「サマーツアー」について、前後編でお届けするこの記事、前編となる今回は実際に参加した中高校生たちにインタビューをしました。

 

後編では、国威が発揚されていく1933年に「自分たちの学校を創ろう」を合言葉に創立された湘南学園のこと、同ツアーの成り立ち、インターネットで調べれば何でも出てくる時代において「体験」を提供する場としての、学校のあるべき姿、教育にかける思いを先生方に伺います。

 

 

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写真後列左から:松井先生、木村さん、田中(け)さん

写真前列左から:田中(れ)さん、鈴木さん、吉川先生

 

 

 

アウシュビッツは、「怖さがなかったことが、怖かった」

‐今回「ポーランド・リトアニアヒストリーツアー」に参加してみて、変わったことは?

田中(れ):リトアニアではホームスティもしていたので、リトアニアがテレビに出てくると、「あ、行った事がある!」と、リトアニアに親しみを持てるようになりました。

‐ホームスティ、楽しそうです!ポーランドでは「アウシュビッツ」に行かれたわけですが、「アウシュビッツ」に関しては、どのように感じましたか?

 


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(写真:アウシュビッツでの一枚)

 

田中(け):実際に行ってみたら、博物館みたいで、訪れる人もいっぱいいるし喋っているし、そんなに怖さがなかった。でも、僕は、怖さがなかったことが怖かったです。

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鈴木:「ひんやり」としていて雰囲気はあるんだけど、でも、明るかったな。

田中(れ):やっぱり重いような気分にはなったけれど、私ももっと悲惨なものをみると思っていたから、きちんと展示されていてびっくりしました。私は、「アウシュビッツ」より「KGB博物館」がつらかったです。処刑場がそのまま残っていて、処刑の再現VTRもあって、きつかったです。

‐意外です。これも実際に行ったことで、イメージ上の「アウシュビッツ」から脱却した結果と言えそうです。そして、リトアニアでのホームスティはどうでしたか?

木村:カウナスとドルスキニンカイでそれぞれホームスティをしていたのですが、晩御飯を一緒に食べながらお話をしていたのが楽しかったです。誕生日会にも参加できました。

鈴木:僕は、もともと精神的なショックを受けない方だから(笑)。

アウシュビッツでも、考えさせられたけど、ショックはそこまで無かったです。

やっぱり、ホームスティが一番印象に残っています。出てくる料理も違うし、言語の壁や文化の違いを感じました。

あと、ホームスティ先に11歳の子がいて、その子とサッカーやったりバスケやったり、すごく楽しかったです。


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「今の社会は戦争に向かっていると思う。僕は、傍観者になりたくない」

‐楽しい旅でもあったのですね。戦後70年を迎えて、日本での社会動向もありますが、今回の「ポーランド・リトアニアヒストリーツアー」を経て、どういう意見をもたれましたか?

田中(れ):今度の研修旅行で広島に行くのですが、その事前学習も含めて、過去のことをよく知らなきゃいけないなと思いました。

木村:平和にしていくためにはどうするか?を考えるべきだけど、そのためにも昔あった辛いことも知っていかないといけないんだと思いました。


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鈴木:自分の印象として、「アウシュビッツ」でも「KGB博物館」でも、民衆というか民間人は悪くないと思うんです。

今もそうだけど、あんなに国民がデモをやっているなかで強行採決してしまって、歴史に学んでいないな、と思います。

でもデモをやっている人達が全員選挙に行っているかといえばそうじゃなくて、選挙行かないのにああいうこと言うのは、筋が通っていないと思う。

投票率が50パーセントしかないということは、国民の二人に一人が選挙に行っていないということで、その半分にしか選ばれていない首相が強行採決するのもおかしいし、政治家が国会で寝ているのもおかしい。

戦争は悪いものだとみんなわかっているはずだけど、上の人は戦争をしても、お金が増えるだけなんだろうな。結局闘うのは、上の人達じゃないから。

だから、上の人達は痛くも痒くも無いけど、今の社会は戦争に段々と向かっているな、というのが今の正直な印象です。

‐なるほど。

鈴木:あと民主主義って、多数決が絶対だとは思わないんですよ。

少数意見も拾ってあげないと、あと、今回のツアーに参加して、傍観者というものに自分はなりたくないと思いました。

今の時代は、傍観者が増えていると思う。

学校や授業とかででも、多数決や投票をしても、「あ、多いから俺こっち行くわ」みたいなのが増えている。そういうのが減って、自分から意見を言う人が増えてくると良いなと思うし、自分もそういう人間になりたいです。

田中(け):ヒットラーがでてきて、国民はヒットラーがまずいことをしているのに嘘を信じてついていったじゃないですか。

自分でちゃんと全てを知って決断していくのが重要かなと思います。

今、思うんですけど、中国人や韓国人のことをあまり理解せずに差別していると思うんです。

みんながそうじゃないとは思うけれど、もしそういうのが浸透して、ヒットラーみたいな人が出てきたときに、どうなるのかな、って。

最終的に自分で決断するのが重要だと思います。

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同ツアーへ参加した生徒たちは、同日のうちに感想文を書いています。

「アウシュビッツ」を訪れた日の感想文を抜粋します。

中学生と高校生が、「アウシュビッツ」を通じて感じた戦争の姿、考えたことを、皆様はどう思いますか?

 

『アウシュビッツ強制収容所は前にも聞いた通りここで大量虐殺が行われているという実感がわきませんでした。何人が殺されたという事を聞いても実際そのような数の想像は出来ません。これは問題だと思います。戦後、虐殺を命令した戦犯たちは皆このように言いました。「私は命令されたことを実行しただけだ」と。・・・このような事は今でも十分あり得ることです。国民の大半は傍観者で、どちらかの意見についていく傾向があるそうです。僕もアウシュビッツに行き、色々なことを考える前は傍観者の一員でした。しかし、今は自分で考えるということをしていこうと思います。』

 

『今日、実際にアウシュビッツに行ってそこで具体的にどんなことが行われていたかというのがわかりました。たくさんの人を一度に殺すガス室や、殺された人からとった髪の毛、一度も開けられることのなかった荷物など衝撃的なものが多くありました。こういった事を二度と起こさないためには一人一人がまわりに流されないために自分の考えをきちんと持つべきだと思いました。・・・今年は戦後70年という事で色々な事が行われていますが、節目の年だからという訳ではなく毎年きちんとこういった問題について考えていかなければならないと思いました。』

 

感想文より)