年収額の差、約5倍。なんのことだかわかりますか?


 先進国と途上国?男性と女性?業界・業種の違い・・・?


実はこれ、日本国内のとある2つの自治体に住む住民の平均を比較したときの差なんです。


日本が「一億総中流」と言われたのも今はむかし。いつの間にかこの国は、生まれた場所で一生が左右される国になってしまっていたーー。


地元が所得額が日本で下から2番目だという事実からそんな状況を肌身に感じ、「地方にいても経済的に豊かになる」方法を実現するために、最先端の農業の仕組みづくりに取り組む人物がいました。

岡山 史興
70Seeds編集長。「できごとのじぶんごと化」をミッションに、世の中のさまざまな「編集」に取り組んでいます。

国立はいいけど私立はダメ。地方の「もったいない」を解決する。

「僕の地元、宮崎県の所得額は全国46位。これを上げなくてはいけない、そう思ったんです。なぜなら所得の差は未来の差だから」

 

そう語るのは、グリーンリバーホールディングス株式会社代表取締役の長瀬勝義氏。彼が今取り組んでいるのは、農業を「稼げる産業」に変えること。

 

全国どこの自治体にもある農業、その可能性を拓くことが所得向上につながるという考えだ。その発想の背景には、自分自身が育ってきた地方ならではの環境特性がある。

 

「大学進学するとき、国立ならいいけど私立はダメ、という家庭が多いんです。自分より成績がいいのにお金の問題で進学できない人がたくさんいた。それはなんてもったいないことなんだろう、って。社会保障で支援する、というのも違う。やっぱり皆がお金を稼げるようにならないと」

 

地方から人が出て行くのは仕方がない。だから、地方にいても稼げる環境があれば地元に戻れる、地元に年収800万の仕事があれば戻りたくなる。人を分散させるためには地方に所得の高いビジネスが必要でその鍵を握るのが農業だ、そんな発想が長瀬さんの背を押した。

 

エネルギー変革で「108倍多くとれる農業」を。

特定の誰かだけが儲かるのではなく、農業を地域全体が儲かる「産業」にする。そのために長瀬さんが目をつけたのは「エネルギー」の活用だった。

 

「既存の農業は2D(平面)で考えていた。それを3Dにするだけで、作業性も生産性もよくなる。飛び地の多い日本の農地では、いかに一株あたりのエネルギー効率をよくするかを考えたんです」

 

20ほどの工法特許を組み合わせてつくったのは、IoTデータで管理するバジルの立体栽培というモデル。従来広大な農地を必要としていた栽培方法を、独自パテントを使った縦型にすることで、108倍の収穫量を実現した。

 

人の移動や農地の管理など、これまで負荷のかかっていた農業のモデルを圧倒的にラクにすることで大幅に生産性を向上させることに成功したのだ。

 

さらに長瀬さんは、栽培のための設備と販路(1年間の全量買取)までを一貫して確保・提供することで農家さんが挑戦しやすい環境を整えている。そこにも、所得向上のための覚悟がある。

 

「せっかくつくった農作物も、適切な値段で売れなくては意味がありません。農家が儲かる値段で買い取ろうと思うと一般的な価格の2倍が必要になります。それでもなぜ儲かるか、それは中間流通を排除しているから。農家さんから2倍で買い取っても売れるくらい、出口での価格すなわち本来の価値が高いんです」

 

だが、それでも生産者やバイヤーさんが一歩踏み出すのには相当な勇気がいる。なぜならば、誰もリスクを取りたがらないからだ、と長瀬さんは語る。

 

責任のなすりつけ合いが農業の足を引っ張る

通常、農業を始めるのには設備投資などで数千万円というお金が必要だ。生産者としては一歩踏み出すために大きな勇気が必要だ。そして、もしうまくいかなかった場合には撤退する勇気も必要になる。

 

長瀬さんが提供するIoT設備の導入には、約4500万円の費用がかかる。これは同様の一般的なシステムの半分以下。投資回収年月が10年かかると言われるところを5年で済むようにしている。それでも一般的な感覚ではまだまだハードルが高いのも事実。

 

だから、と前置きした上で長瀬さんは「ファンドを始める」という。

 

ゼロ円から始められる植物工場ビジネス。出口を確保し、成功確率の高い事業モデルを提供する。先に確保した供給先への責務があるから、生産者が必要とされる状態で農業を始めることができる。ただツールを提供するのではなく、事業として儲かる構造を用意するのだ。

 

「世帯年収800万を実現して、できるという自信がついたところで初めて借金すべきなんです。最初から多額の借金を抱えなくてはいけない現状を解決したい。農業を加速度的に成長させることは難しい。誰が責任とるの?というところでなすり付け合いをやっていて、日本の農業が進化するわけがないんですよ」

 

儲かる農業をつくるために必要なのは、出口があるかどうかだけ。すでにバジルの生産規模では日本一が見えている、という長瀬さんの一貫した思いは着実に実を結びつつある。

 

リスクと対峙する農業は人を成長させてくれる

「農業は装置開発、環境制御、ITだけなどバラバラ。パッケージングされていない。車でいったらタイヤだけ売るようなもの。これまでは農家にノウハウが溜まっていたからそれでもよかった。でも新規就農者には不親切な構造です。農業界を変えるには、農家さんが生産や収穫に集中できる環境をどう整えるか、が大切なんです」

 

データ管理された圃場を提供し、遠隔で生産者をサポートする。そんな長瀬さんのサービスの背景にあるのは、「農業は人ありき」という姿勢だ。

 

農業の本質は植物と向き合うこと。いかにITが進化しようと人間が成長する楽しみを残しておかないといけない、画面を通すのではなく植物に直接向き合う。人間なので学習していく。それこそが生産者に必要なこと。

 

植物の変化により早く気づく、そのためにより小さく無駄なところを省く。わからないことは分業し、オペレーション側のコストを下げる。複数でファーマーをサポートする。そうすることで、いわゆる「農作業」に生産者が集中できる環境をつくるのだ。

 

とはいえ植物は生き物、ときには病気にもなる。だからこそリスクと対峙する農業は面白い、というのが長瀬さんの考え方。試行錯誤の過程が人間としての成長をつくってくれる。実現することで地方で生きていく自信がつく。

 

「ここまでやろうという人はいないですよ(笑)。装置、流通、育成・・・全部、でも農業ってそういうことじゃないの?と思っています。そうやっていれば面白いねと言ってくれる人も出てくる。まだまだ進化させていきますよ」

長瀬さんの取り組みは今、豊かな地方を実現するためのプロジェクト「RELOCA」として、農業の枠を越えた広がりを見せている。

 

持続性、所得、人間としての成長・・・地方で生きるとき、「豊かさ」の定義が都市とは変わるという。果たして、豊かさとはいったいなんなのだろうか。最後に長瀬さんはこんな話をしてくれた。

 

「豊かさとは、第一にお金、次に時間、そして地方にある資源です。豊かさが整った地方を作らないといけない。ただ人が増える、ということではなく、具体的なアプローチで実現していきたいと思っています」