秋冬にはかならず袖を通す、あたたかい衣服、ニット。
幼少時に親御さんが手編みして作ってくれた方も多いと思います。

でも、あなたは最近編み物をしましたか?そもそも、編み物をしたことがあるでしょうか…?

編み物が日常的でなくなってきている今。日本におけるニット業界は衰退の一途を辿っています。(2013年経済産業省調べ)

そのようなニット業界を盛り上げようと「ニッティングバード」を立ち上げた、田沼さんにお話を伺いました。

鈴木賀子
ジュエリーメーカー、広告クリエイティブ領域の製作会社、WEBコンサルティング企業を経て、2016年より70seeds編集部。アンテナを張っているジャンルは、テクノロジー・クラフト・自転車・地域創生・アートなど、好奇心の赴くまま、飛びまわり中。

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ニットを総合的に学べる学校は片手ほどしかない日本

‐ニッティングバードとはどんな活動なのでしょうか。
 

「ニットで世界をやさしく」をコンセプトに教育・情報発信・研究機関として活動するプロジェクトです。「ニット=編む」という行為を多くの人に知ってもらうため、以下のことをしています。

・ニットの需要と供給を増やすべく、ニットに関する情報・知識・技術をアーカイブ。手編みにだけでなく機械編みや糸そのもの、ニットの仕事に関する事柄の紹介

・量産できる生産ラインを考えながら、製品だけでなく、材料の糸から新しいモノづくりや開発に挑戦。

・創作意欲が湧くようなワクワクするようなキットやワークショップ企画と開催。また大学の講師をおこない、編み物を初めてやるきっかけと、仕事にするきっかけを得られるような仕掛けづくり。

‐この活動をなぜ始めたのですか?

 地元が群馬県太田市だったことがきっかけですね。繊維の街、桐生市が近く、世界的なブランドの下請け工場などがあることを知っていました。

地元で育ちながら、ニット業界が衰退していることを肌で感じて、何か恩返し的なことができないか、というところがスタートです。

 ‐恩返しですか?

 ニットって手編みが身近かもしれませんが、じつは大部分が工場での機械編みなのです。工場には、そこでしか作れないもの・クオリティが高いものがあるんですよね。

たとえばヨウジヤマモトCOMME des GARÇONSなどの世界的に有名なファッションブランドの多くが日本の工場で作られて、評価されています。

でも発信力がないから、その事実を知らない人が多くて、もったいないなと思っていました。

‐たしかに、なかなか知られていない印象があります。

あとニットというものは、糸一本から考えることができることが魅力だと思っています

形と、ガラと、素材と。テキスタイルデザインもアパレルデザインも、全部合わせて考えるからすごい楽しい。

 ‐一口に「ニット」と言っても様々な段階があるわけですね。
 

そう。つまり、僕はニットていう技術はすごいんだよ、幅広い楽しみ方があるんだよ、ということをいろいろな人に知ってほしいんです。

知ってもらえた上で、始まることがたくさんあるんだろうなと思っています。

技術や知識はネット上でもそれほどまとまっていないので、知ってもらう場のひとつとして、WEBメディアをしています。

‐技術も知識もまとまっていない。それは問題ですね。他に田沼さんが感じるニット業界の問題はありますか。

そもそもニットのデザイナー自体が少ないということが挙げられます。なぜかというと学校が少ないから。

機械編みの工場への指示書の書き方も、手編みのことも、仕事にするための総合的なニットのことを教えてくれる学校は、国内に片手くらいしかないんです。

あとは、日本におけるニットデザイナーは基本女性が多い。ライフステージの変化で途中でいなくなってしまうこともあって、後継を育てる環境もないのが現状です。

‐それももったいないことの一つですね。

「何となくこんなニット製品つくりたい」ではなく、知識を持っている人が企画した方が円滑に進むし、それこそ工場の選定や手編みの背景を考えて企画していないと、量産ができないという。作り手の事情がニットを生産するときにハードルとなって立ちふさがるんです。

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‐なるほど。

あとは、仕事として成り立つっていうのも少なくて。編み物にハマって趣味にしている人いますよね。

でもそれを仕事にすると考えたとき、編み物で生計が成り立ってる人ってあんまりいないと思うんですね。実際、OEMしていたり企業デザイナーですという方が、仕事として成り立ってる。

そういった意味でニットを総合的に学び、機械編みにするか手編みにするか選択できる方が仕事するとしても有益だし、ニットの発展につながると思っています。

僕みたいな考えをもった人がひとりでも増えたら、仕事にしたい人や手編み面白いと思ってくれる人がもっと増えるんじゃないかな、と。

 

 

ニットを仕事にしたいこどもが増えたらうれしい

‐田沼さんはニットのことを学ぶために、ロンドンに2年間留学していたそうですね。

ロンドンはコスモポリタンな街です。本当に色んな人種、色んな価値観、色んな宗教の人と会えた。自分の考え方を形成するうえですごく影響を受けました。

たとえば学校に本場のイギリス人が少ない。他のユーロ圏とかアジアの人が多いんですね。だから本当に色んな話し方、考え方ができて、すごい勉強になりました。

学校でファッションを勉強するかたわら、当時ロンドンにいたクレア・タフさんというニットデザイナーに師事しました。

ヨーロッパは工業としてのニットはもちろん盛んで。男女問わずに、職業です。日本では女性が多いですけど。海外のニット業界のことを学べたことも有益でしたね。

‐そして帰国して、ニッティングバードを始めたのですね。

帰国してから東京ニットファッションアカデミーという学校にも行きました。その後、今の前身になるウェブマガジンのニッティングバードを始め、今では5年経ちました。

僕は、もっとニットの需要と供給を増やしたい、ニットを盛り上げたいっていう思いがあります。

一般の人の目線を考えると、手芸ってちょっと古くさかったり、あんまり面白いイメージって無いんじゃないかと。時間もかかるし、むずかしい。

ワークショップで数時間かけてちいさい作品をつくっても得られる達成感が少ないと思うんです。

‐そうですねぇ。

 僕はもっと若い人にニットを手に取ってほしいし、彼らが「ニットに関わる仕事がしたい」と思えるような世界にしたい。

こんなに面白いんだよって発信することで、ニットを始める小さい子も絶対いると思うから、そういう人を増やせないと、ニット業界の未来は無いと思うんです。

だから、はやく編めたり、若い人の感性に響くようなクオリティの良いものがつくりたくて、糸から開発してます。

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‐糸から、というところが徹底していますね。

僕が考えるニットっていうのは、ニット製品。編み組織全部ニット(編み物)なんです。つまりTシャツ・カットソーも組織としてはニットだし、編んでたらニットなんです。

ニットは、伸び縮みしますし、ハイブリットでゴム糸&針金みたいに素材次第で、なんでも編んでつくれてしまう。

最近ではアッパーが一枚仕立てのニットスニーカーが増えてきたり、医療品や自動車の部品などの異なる分野でも使われ始めていて。ニットは優秀なんです!

 

 

編み物は自然の抗うつ剤?

‐なるほど。未来に残すべき技術なんですね。これまでどんな反響がありましたか?

ニットを仕事にするための直接の道はまだしっかりと整えられていないですけど、そのような転向を考えている人が増えているらしいと聞くようになって、すごくうれしいです。

デザイナーさんの思い通りのデザインが作れる工場や編み機の選定なども専門知識が必要で、共通言語でコミュニケーションがとれないと、難しいことが多いんです。

自分が間に入った時に円滑に運んで、良い製品ができたときはすごく嬉しかったですね。

それに、男性デザイナーが増えてきてるかなって。理由はニットの数学的な要素。理数系やデジタル領域の人が最近ニットデザインをしているみたいです。

‐今まででいちばん大きかった反響を教えてください。

それだと「禅ニッティング」ですね。ようは「お坊さんが手編みしている写真」を撮って記事にしたんです。

‐どういうことですか(笑)

何でこんなことしたのかというと。手編みと座禅は「しているときの心境がすごい似てる」説を推しているんです。

編み物をしているときは基本何も考えないし、したあと頭がすっきりする。これは何かと似てるぞ、と。座禅だ、と(笑)

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 実際海外での事例が出てる。
手を動かすことで、健康面に色んな作用が出ることもあり、ニットってこういう面もあるんだよと伝えたくて、僕が髪をそって坊主になって記事を書きました(笑)。

たくさんの人に見ていただけたようで、体を張った甲斐がありました。

‐今後はどんな活動の予定がありますか。

 今後も糸の開発やウェブマガジンの記事、YouTubeの動画などのコンテンツを充実させて編み物ユーザーが楽しんでもらえる仕掛けを沢山していきたいな、と。

あと、2016年11月におもちゃの家庭用編み機が発売されたんです!なので、今は殆ど製造もされず、使われてもいない家庭用編み機を復権させるためのムーブメントを作っていきたいとも思っています。

まだまだニット業界や工場が抱える悩みは尽きないので、デザイナーの本質の「問題を解決する」ということに力を入れていきたいと考えています。

 

 


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【取材&執筆・鈴木賀子】

2016年よりStoryDesignhouse所属、70seeds編集部メンバー。茨城県南出身。下町好き。食い意地が張っている人種。興味領域はITからクラフト、自転車、アート、料理など。