岡山 史興
70Seeds編集長。「できごとのじぶんごと化」をミッションに、世の中のさまざまな「編集」に取り組んでいます。

突然ですが、あなたは「服」が好きですか?

 

 

今の日本では「安くて、丈夫で、そこそこおしゃれ」という製品が増えたおかげで、洋服に関する買い物は、誰もが簡単に70点くらいを取ることができるようになったんじゃないか、と個人的には思っています。

 

でも、それによって「服を楽しむ」という機会って減っている気がしませんか?

 

「たしかに昔はもっと楽しかったかも」「そもそも楽しむものなんだっけ?」「服にお金を使うのはもったいない…」

 

いろいろな声はあれど、一番多いのは「服に興味がない」かもしれません。

 

そんな時代に「ドレスコードは“思い出の服”」という異色のフェス「instant GALA」開催を発表したのが、アパレルブランド「INHEELS」COOの布田尚大(トップ写真右)さんと、「MUKU」代表の松田崇弥さん(トップ写真左)。それぞれ、「エシカルを格好いいものに」「知的障がい者のヒーローをつくる」というミッションを掲げたものづくりに取り組んでいます。

 

70Seedsでも以前紹介した2人、いったいどんな想いで今回のフェスを仕掛けたのか。開催直前のリアルな思いを聞きました。

 

※この取材は生配信のもと行いました。全編をご覧になりたい方はこちら。

 

取材・文:岡山史興

 


 

 

「服に興味がない時代」の「好き」

 

「服フェスをやる」

 

そう聞いたとき、初めに浮かんだのは「“服が好き”という人がどれだけいるのだろう」という疑問でした。

 

これほど服が売れない時代、いくら「フェス」と銘打っていても、どれだけの人が興味を持ってくれるのだろう、と。

 

そんな疑問に、布田さんが返したのは「服が好き」というのは「服に興味がある」ということとイコールではないということ。

 

「僕が服を好きになったのって、高校時代、周りのカッコイイ人たちが裏原宿系のファッションをしていたこと。服そのもの以上にそこに憧れて、っていうのが大きいんですよね」(布田さん)

 

服のデザインがいい、おしゃれをしたい・・・「服が好き」という言葉の裏側にあるもの。それは存在への憧れや価値観だ。それならば、服そのものが好きかどうかは関係ない。自分の好きな人や好きな価値観が詰まった場としての「フェス」、その場の主役は服ではなくて「世界観」なのだ、と語ります。

 

ただ、ここでまた気になったことがひとつ。服で得られる「かっこよさ」「気持ちよさ」。でも、その基準は人によって違うはず。価値観が違ってもみんなが共通して持ちうるポジティブな感情なんてあるのでしょうか。

 

そんな問いに、2人はこう答えました。

 

 

「周りの人を見てると、友達がつくった服を買う、顔が見えるところでものを買ってつながることが気持ちいい、という価値観がそだっているように感じているんです」(布田さん)

 

「だから、気の合う仲間と集まって楽しく過ごす、そんな場にしたいと企画したのが『instant GALA』なんですよ」(松田さん)

 

特定の「何か」をテーマにするわけではなく、「好き」が集まる場をつくるから「心地いい」。軽く衝撃を受ける発想でした。たしかに服のことだけを考えていては生まれえなかった場でしょう。

 

気づけば、そんな「instant GALA」に挑む2人に、もっともっと聞きたいことが生まれてきた自分がいました。

 

 

「思い出の服」がない人はどうすればいい?

 

‐世の中が「服離れ」している中、2人のつくっている服は結構高いものだと思うんですが、どんな方が買うものなんですか?

布田:正直、売れるからつくる、ではなくて“イケてるもの”をつくりたいと思ってるんです。そんなものを買ってくれる人は想いやストーリーに共感してくれる。それは毎年買い替えるファストファッションじゃできないことなんですよね。

‐それって、そもそも「服をつくる」っていう感覚からちょっと違ってるように感じます。

松田:そうですね、僕らの場合も知的障がい者の創造性みたいなものを、プロダクトというフィルターを通して伝えていきたいと思ってるんです。

‐なるほど。2人とも、ブランド自体はいわゆる「エシカル」的ですよね。でも、今回のテーマである「思い出の服」って、あまりそこと直結しないというか、ある意味異質な印象です。

布田:まさにそう思ってもらいたくて。たくさんの服が捨てられている現状に対して、「捨てるのってどうなの?」「ファストファッションはやめよう」なんて声高に叫ぶのってちょっと違うんですよ。

それよりも「自分だけの記憶がある一着を着るのがクールだよね」って言える、そんな文化をつくっていきたいんです。

‐たしかにその方がハッとさせられる気がします。ちなみに「思い出の服」って、どんな服なんでしょう。

松田:「いい服」じゃなくて、「捨てられない服」だと思います。着ないんだけど、なんとなくメルカリとかにも出せないような。

布田:たとえば、僕がイベントで着ようと思っているのはTシャツ。一日中テニスをしていた学生時代、仲のいい先輩と一緒に作ったTシャツがあったんですけど。当時の思いがよみがえってまた頑張ろうと思える服ですね。

‐「ファッションのフェス」というと着飾らないといけない、というイメージが強いので新鮮ですね。

布田:祭りという意味の「GALA」という名前に込めたのは「おしゃれなだけじゃなく、想いのある服を着て集まろう」という想いなんです。あの時、この服を着ていた自分がもう一度ここにいる、という感覚は近いですね。

‐それとても共感します!ただ、服に思い出がない人もいるんじゃないか。というより、思い出がある人の方が少ないんじゃないか。とも思うんですが。

松田:持ってなくてOKなんですよ。むしろ当日思い出作ろうぜ、という。

布田:そう、同じく主催者を務めてくれている、赤澤える(「LEBECCA boutique」ブランドディレクター)さんも連載で答えてるんですよ。佐藤ノアさん(当日出演するバンド「suga/es」のボーカル)に同じように訊かれて。

(写真:真ん中が赤澤さん)

 

‐おお、何と答えたんですか?

布田:「何もない服で着て行けばいい、私たちが思い出をつくってあげるから」って。

 

‐格好いいですね・・・!

 

「フェスTねまき問題」と「時消費」

‐そういう話でいくと、フェスの思い出といえば「フェスT」的なところがありますよね。

布田:そう、そこもあって。フェスに行くとき、H&Mとかで適当な服を買って着て行って、汚れたら捨てる、みたいなことってありがちだと思うんです。

現地でフェスTを買っても、その後はねまきになるとか。それって、その場は楽しくてもあんまりよくないよねっていう。

‐大量生産、大量消費から変わりつつある現在、「フェスTねまき問題」を越えて、「着ていった服が特別になる」みたいな感覚って今っぽいのかもしれませんね。

松田:今、「モノからコト」の次、「時(とき)」消費っていうらしいですよ。「未来に対して投資する」世の中になりつつあるという。

‐そういう感覚ですよね。

布田:ちょっと話変わるんですけど、「instant GALA」ではアーティストさんとかのフリマもやるんですけど「おばあちゃんがつくってくれた服」とかあるんですよ。

思い入れがあるものって、そういうものもあるんですよね。

‐持ってても捨てにくいものというか。

布田:思い出の賞味期限を延ばす、みたいな感覚があるかもしれませんね。

‐それは楽しいですね。

布田:ちょっと「昔のひとネタ」を絡めつつ楽しむハロウィンみたいな感じで遊びに来てほしいですね。ちなみに思い出の服を着てると会話のきっかけになりやすいんですよね。

松田:その服、どんな思い出あるの?みたいな笑。

 

「武器としてのエシカル」

布田:ちょっとまじめな話になっちゃうんですけど、日本で捨てられてる服の量って、いくつか類推ベースの算出データがあるんですが、毎年大体25メートルプールに2700杯分って言われてるんですよ。

そっちにもアプローチしたいと思ったときに、「思い出の服」にフィーチャーしたら捨てられるものも減るかなって。

‐でも服が買われなくなったら2人は困りません?

松田:困りますね。でも、そうなったら思い出を詰め込みたくなるものをつくっていくかな。

布田:僕は服に限らず、そこに関わる今回のイベントみたいなものをつくっていきたいですね。

松田:instant GALAはカルチャーづくり。MUKUは知的障がい者の最高にやばいアートをプロダクトに落とし込む、ということから始まったんですよね。

だからそういう服がイケてる、イケてる服を着る=格好いいというカルチャーをつくることに挑戦したいですよね。

‐その裏には「エシカル」という文脈自体への課題感もありますか?

布田:エシカルってこれまで「普段の格好に採り入れることでいいことしよう」みたいな文脈だったんですよ。

でもエシカルな服を一品入れる、ではなくて、着るのが当たり前というか、エシカルな服だけが輝く場をつくりたいというのが僕のやりたいことですね。

‐最後に聞かせてください。服を着ることの気持ちよさってどこにあるんでしょう?結局、今回のイベントってお客さんが気持ちよくなって成功だと思うので。

布田:思い出もそうだし、着ていることの意味を常に感じられることだと思ってます。たとえば好きなギャルソンの服を着ているとき「今日はギャルソン着てるから頑張ろう」って思えたりするんです。

普通の服を着ていてもそうは思えない。単純に肌の上に乗っているだけではなく、「着ている意味」が淡く意識の中にあることかなって。

松田:服の気持ちよさって最大級の自己満足だと思うんですよね。だったら、何でもいい、どういった理由でもいいから最大級に自己満足できる服を着ることかなって思います。

‐そういえばこの前ファッションブロガーのMBさんも語ってましたね。「ファッションだけで人生が変わるって」。

布田:服は武器ですからね、エシカルは戦闘服。

 


【関連記事】

・服づくりからカルチャーづくりへ-INHEELSが問い直す“エシカルファッション”の意味

・知的障がい者のヒーローを作る、ブランド「MUKU」を生んだ双子が紡ぐ物語