自分と、自分の大切な人たちの暮らしをどうやって守っていけるだろう?
コロナ禍を経て、この問いかけが重みを増し続けています。

考え続けるためのヒントは「共助」。それは大きな仕組み(公助)や個人の努力(自助)だけではなく、ひとりひとりが支えあって適切なサイズの「枠組み」をつくることです。

70seeds編集長・岡山が「日本一小さな村」で始めたあたらしい学童保育施設「fork toyama」もその試みのひとつ。この連載では、地域や子どもたちのための仕組みづくりに取り組む方々との対談を通して「これからの時代に必要な“共助”とは?」について考えます。

お一人目となる今回は、認定NPO法人D×P(ディーピー)代表の今井紀明さんにお話を伺いました。「公助になかったから、自分たちが作るしかなかった」と語る今井さん。D×Pの活動を通して考える「子どもたちのための“共助”」とは、どのようなものなのでしょうか。

認定NPO法人 D×P
「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」の実現のため、オフライン・オンライン問わずさまざまな形で若者たちをサポートしています。その財源のほとんどが、毎月寄付をする月額寄付サポーターからの寄付。最近では新宿歌舞伎町のゴジラ前ビジョンで10代向けの相談サービス「ユキサキチャット」の広告動画を配信したことでも話題になりました。

あたらしい学童保育 fork toyama
行政に依存せず、個人の責任にもしない「みんなで営む”みん営”の子育てのしくみ」を掲げ、日本一小さな村富山県舟橋村で2022年7月にプレオープンした保育料ゼロの民間学童保育施設。現在クラウドファンディング中。

 


「ブレーキをかけながら支援している」歯がゆさ

岡山:最近、子育てに関して家庭の責任・自己責任とされる風潮が強まっていることに行政の限界を感じていて、“みん営”を掲げた学童保育施設『fork toyama』を立ち上げました。以前からD×Pの寄付やつながりを必要な人に届けるアクションは共助の極みだなと思って参考にしていたのですが、今活動はどのくらい広がっているんでしょうか。

今井:D×Pでは現在、13歳から25歳までの若者たちに向けた事業をおこなっており、2600人以上の方が賛同して月額寄付サポーターになってくださっています。この2年で食糧支援は7万食、給付金は4000万円近く届けられ、オンライン相談「ユキサキチャット」では昨年だけで2000人弱と対話をしました。ただ、全然スピード感が足りていないと感じています。

岡山:スピード感、ですか。

今井:はい。2000人がオンラインで相談してくれたと言いましたが、それはまだまだ氷山の一角でしかないんですよね。国勢調査では、一人暮らしをしている15歳から24歳は198万世帯おり、そのうち3割は年収が200万円以下だと言われています。コロナ禍や食糧・電気価格の高騰もあり、単独世帯だけでも60万人近くがしんどい生活を強いられている予測が立ちます。僕たちは、その1%も支援ができていないんですね。忸怩たる思いしかないです。

岡山:なるほど……。

今井:今の社会にある若者への支援は、親に入る給付金か、学生向けの10万程度の給付金のみで、生活困窮している若者に対するアプローチが本当にないんです。相談者がどんどん増えていくので、ブレーキをかけながら発信しているような状態で、もどかしさも感じますね。できるだけ体制は整えているけれども足りていない、という気持ちが大きいです。

岡山:以前、70seedsで取材させていただいた後も、毎日のようにサポーターが増えていく様子を見て、支援の輪が広がっている手応えがあるのかと思っていましたが、まだまだそうではないんですね。

今井:やっぱりまだまだ支援が足りていない、という思いは強いですね。圧倒的に足りていない。

若者にバフをかけられる社会を

岡山:D×Pの若者支援について、あなたたちがやらなくていいというか「国の仕事では」と言われることはありますか?

今井:めちゃくちゃ多いですね。特に現金給付に関しては「本当は政府がすべきことなんじゃない?」って、SNSのコメントで何回書かれたかわからないほど。ただ、そうは言っても、生活保護の手前の支援を誰もやらないから作るしかなかった、みたいなところはあります。

岡山:あ〜!生活保護を受けるほどではないけれど困っている、というケースへの支援がすっぽり抜け落ちている感覚はあります。

今井:例えば、つい最近面談した10代の子は、親と連絡が取れずに一人暮らし。学費も自分で出しているのに、コロナになって急に生活が成り立たなくなったと。いろいろなものを滞納していてまずいのだけど、未成年なのでカードローンも組めないし金融にも頼れないんですね。極端な事例かもしれないけど、こういうパターンはあります。

岡山:何も支援がないなかで、いきなり生活保護を受けるか・受けないかという選択になってしまうんですね。

今井:そうなんです。僕らも「その手前の支援が必要だ」と国に提言していこうとは思いつつ、まず生活保護に対して拒否感がある人がすごく多いんですよね。それは行政の過去の対応で信頼を失っていたり、周りからの目を気にしていたり。彼らにとって、もっと使いやすい制度が必要だなと思うことは多々あります。

岡山:心情的な部分での使いにくさはしんどいですよね。生活保護に限らず、そういう方々は誰かに助けてもらうこと自体が、申し訳ない・恥ずかしいと思ってしまう。日本において、一般的に根付いてしまっている感覚かもしれませんが……。

今井:本当はずっと前から「生活保護は権利だ」という文化形成をしてこなければいけなかったんですよね。自己責任ではなくて、しんどいときは躊躇なく使っていいんだよというメッセージを、国や自治体、企業のリーダーたちが声に出していくことが重要だと思います。

岡山:たしかに。権利として当たり前に認められた制度にならないと、形だけを変えても何も変わらないですよね。

今井:生活保護の件含め、今の社会は明らかに若者たちの未来を奪っているとしか思えないんですよ。結果的に、社会にとってもマイナスでしかないなと思います。

岡山:能力や意欲があるのに、環境や社会通念に阻害されているのはすごくもったいないと僕も思います。

今井:ただでさえ、若者は不利な状況に立たされやすく希望を持ちにくい。その上、助けてと言えないなんて、デバフ効果(相手に不利な状態を発生させ、相手の能力を低下させること)ですよね。少子化対策も大事ですが、若者たちが能力を伸ばしていける社会にしていくことが大事だと思っています。

岡山:子どもや若者が、これからの社会を作っていく人たちですからね。

今井:スウェーデンでは、6〜25歳までの若者の活動に、国から25億円ものお金を出すんだそうです。同時に、若者たちの意見を聞く機会も作っている。それくらい若者というのは貴重な存在だし、意見を聞くべき存在なんです。僕ら大人は、子どもたちの権利やポジションをドラスティックに変えるようなものを作らないといけない。そうしないと次の世代が未来に希望を持てない、と考えています。

岡山:社会を大きく変えていく必要がある、と。

今井:そうです。日本で生活しているとまだまだ声を上げづらい雰囲気があるんですが、もっと違和感に対して自由になって、声を上げていっていい。僕らも若者の声を政府に届けようとしているし、大人たちは若者たちに権限を渡していくんだと考える必要性があると思います。若者が学べて発言できる環境を作り、若者や子どもたちを圧倒的に応援していくべきなんです。

子育てを家庭だけに押し付けないために

岡山:最近「親ガチャ」という言葉が話題になって、贅沢言うな・失礼だ、という批判も多く出ました。今井さんはD×Pでさまざまな家庭環境の若者と接していて、「家庭」とはどういうものだという視点を持っていますか。

今井:現場で見ていると、これまでのメリトクラシー(能力の高いものが上に立つ社会)に比べて、ペアレントクラシー(親の影響力が強いと上がっていける社会)という状況は出てきているのかなとは思いますね。これは仮説なんですけど、SNSなどの普及によって親も子どもも「自分が見たい世界」だけを見る環境になっている。同時に、核家族化して周りに頼りづらい雰囲気のなかでは、日々触れるのも自分たちだけの世界になる。そうすると、家庭環境や親の経済的な状況によって、世界が閉ざされていくような状態がより起こりやすくなっているのかなと感じています。

岡山:なるほど。関わる世界が家庭や親子だけ、になっているということですね。そういえば、「子ども庁」が「子ども家庭庁」に名称を変えたことも話題になりましたよね。「家庭こそが子どもの居るべき場所だ」という通念のなかで、環境によっては家庭にいるほうが危ない子どもたちもいる。家庭に頼れない人たちのために、誰がどう関わっていくべきなんでしょうか。

今井:そもそも「子どもを家庭だけで育てる」という考え方自体が、デメリットが大きいと思いますね。子どもたちの可能性を狭めてしまうことがあるし、親にとっても生きづらさを生む。僕自身も子育てを始めてから、周りに頼る視点がないとすごくやりづらいと感じています。今、週に1回、地域のお子さんを預かる日を作っているんですよ。そうやって助け合うことで、他の家庭からの学びもあるし、自分自身の子どもに対する許容度も上がっています。閉ざしていたら、きっと窮屈だったと思いますね。

岡山:子どもたちにとっても、良い環境ですね。

今井:そうなんですよね。子どもたちも他の親や家庭からさまざまなものを学んでいると思います。「家庭だけで育てる」という発想を捨てて、いかに開いていくか。日本だとそれが恥だと思われてしまう部分があるんですが、親が子育てが苦手でもいいんですよ。しかも母親に機能が求められすぎていると感じますね。男性が得意ならその機能をやってもいいはずなのに。

岡山:例えば、シェフは料理のプロとしてリスペクトされますが、子育てはみんなが「自分も経験したから」という理由でなかなかリスペクトされにくい環境があるのかなと思っていて。「できて当たり前」みたいな先入観も、親が周りに頼りにくい要因かもしれません。

今井:僕もできてるかわかんないですよ。

岡山:わかんないですよねえ。みんな「わかんない」と言っちゃえたらいいのにって思いますけどね。

今井:仕事だったら、大変なプロジェクトを全部自分で抱え込むことなんてないのに、子育てになるとなんで家庭だけの責任になるのかなって思いますよね。子育てを家庭だけに押し付けないことが大切だと思います。

微力の集まりが共助をつくる

岡山:今回のテーマでもある「共助」って、便利な言葉だなとは思っていて。共助という名の「バラついた自助」に陥る可能性もあって、自助・自立ができない人たちには共助が回ってこない可能性も高いと思っているんですよね。共助の実現にとって要になる人やアクションってなんなんだろうって、今井さんに聞いてみたかったんです。

今井:難しいですね……。僕が思っているのは、共助って公助のモデルケースになりうるということ。必要とされる仕組みを民間が作っていくと、政府が真似したり取り入れることがよくありますよね。「バラついた自助」の文化形成をしないためには、求めにくくて使いにくい公助を改善することと、共助のモデルを作っていくことが大切なのかなと思います。

岡山:公助が共助をモデルにしていく、というのは納得感があります。前例がない状態だと大きな組織はスピーディーに動けないので、だったら前例を作ってしまうのが早いですよね。

今井:岡山さんが取り組んでいる学童保育も、そのような動きなんでしょうか?

岡山:そうですね。行政に署名を出したりしてもなかなか変わってこなかったので、自分たちで作ろう!と。期待するよりも行動したほうが早い、というのは実感しているところですね。

今井:そう考えると、やはり公助をアップデートしていく必要もありますよね。そのためには、個人の力が必要だと常々思っているんです。ひとりひとりの力は無力に思えるかもしれないけれど、“微力”なんですよね。微力なら集合すれば変えられるんだと信じて、日々の生活から声をあげて変えていくことが民主主義だと思っています。そこから公助が変わっていくかもしれないし、岡山さんの学童やD×Pのような共助が生まれるかもしれないですよね。

岡山:そのとおりですね。

今井:D×Pの活動資金のうち8割が寄付、しかもほとんど個人寄付なんです。小さくても積み重ねがあって、10代の孤立の問題に向き合えている。ひとりひとりの力はまったく無力ではないな、と感じています。

岡山:みんな、0か100かを求めすぎているのかもしれませんね。たとえ0.1だったとしても、それは0ではない。

今井:本当にそうです。NPOで活動していると、世界が劇的に変わることなんてなくて、微力が積み重なることで社会を動かす力になっていると実感します。

岡山:D×Pでは、2600人を超える「微力」が集まった結果、食糧支援や現金給付などで明確に助かっている人がいる。それは個人にとって自信にしていいことですね。世の中を変える力は、ひとりひとりの中にあるということを、説得力のある形で認識させてもらいました。ありがとうございました!


第一回目から、個人の力が集まってできる「共助」に大きな可能性を感じる対談となりました。今井さん、ありがとうございました!

今井さんが代表をされている認定NPO法人D×Pへの寄付はこちら、学童保育施設「fork toyama」の詳細・クラウドファンディングはこちらからご覧ください。