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「医師が活躍する間は平和ではない」―「国境なき医師団」日本人医師語る(後編)

「国境なき医師団」の一員として海外での救助活動を行っている、札幌徳洲会病院の救急総合診療科の外科医・田辺康さん。「国境なき医師団」としての活動を始めたきっかけから、戦地の状況を赤裸々に語った前編に続き、後編では医師の役割を見つめなおし、今後の展望を語っていただきました。

 

 

日本という70年戦争がない特異な国

 

 

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田辺さんは「戦争状態」の地域で活動を行っているうちに、いかに日本が特異な国かを痛感するようになります。

 

「日本は70年に渡って戦争状態になっていない国なので、島国ということもあり戦争状態がどこか他人事のように考えてしまうのかもしれません。「国境なき医師団」にはヨーロッパの医師もたくさん参加していますが、彼らは陸続きの場所で紛争が起こっていることもあって、紛争を身近に感じているように思います」

 

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その中で、紛争による負傷者からは「日本は平和で羨ましい」と語りかけられることもあるといいます。

「彼らは「日本にもこの国の現状を伝えてほしい」と願っています。私が戦争状態の場所へ行く恐怖を超えて海外へ行くのは、そのような悲惨な現実を伝えることが義務だと思う気持ちがあるからです。そして、もうひとつは…外科医として、どこまでの治療ができるのかという可能性にかけてみたいという思いもあります」

 

 

矛盾の中で生まれた感謝…医師が活躍するということは世界が平和ではない

 

 

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紛争で負傷した人々の状態というのは、想像を絶するものだそうです。札幌の緊急病棟には、1年に1回・1万人に1人の割合で交通事故による大きな負傷を抱えた患者が運び込まれる割合だといいます。それが紛争状態の地域では毎日多くの大きな負傷者を治療することになります。

 

「私は外科が専門ですが、整形外科・精神科など総合的な医療の勉強を始めました。そして、「国境なき医師団」の中にいると日本の治療法以外の多くの治療法を知ることができ、その中で最善の治療を選択します。そのようなグローバルな視点を身につけられるのは医師として大変ありがたいことなのですが、難しい治療が増えるということは世界が平和ではないということなので、そこには大きな矛盾をはらんでいるんです」

 

とはいえ、戦争状態の場所において最善の治療を受けられることは、負傷者にとってはありがたいことです。

 

「医師として求められているからこそ、「国境なき医師団」の活動に参加し続けています。負傷者から大きな感謝をしてもらえますし、その感謝をもらえることも恐怖を乗り越える要因になっていると思います。しかしながら、1回現地に赴くと1か月という長い期間札幌の病院を休むことになりますので、家族の理解はもちろんですが、同僚の理解を得ることが大切です。私の場合、幸運なことに同僚が私の活動を応援してくれていることもあり、5年に渡り1か月海外・3か月札幌というスパンで「国境なき医師団」に参加できています。参加したくてもできない医師がたくさんいる中、本当に恵まれていると思います」

 

 

日本の戦後の原風景はこんな感じだったはず

 

 

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11月には再びイエメンに発つ予定の田辺さん。最後に、こんな話をしてくれました。

 

「戦後70年経ったとはいえ、戦争の爪痕は私たちの記憶の中にあるような気がします。私の父は思春期に太平洋戦争を経験していますが、東京の焼け野原の中で遊んだこともあったという話を聞いたこともあります。そこから復興して、現在の日本があるのだと。私は昭和33年生まれで終戦から13年経っていましたが、まだ十五年戦争の影響が完全に消え去ったわけではない時代に生まれたので、思っているほど戦争というものが昔のものではないと思っています。今「国境なき医師団」の一員として戦争状態の地域に行くと、彼らがシンプルに生活していることに気がつきました。今の日本は精神的な病や事件などちょっと複雑な生活が原因の病気が多いように思います。紛争が日常にある人々は、純粋に「生きる」ことに必死なんです。その現実を伝えていくことも、私の役目だと思っています」

 

 

 

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橋場了吾 Ryogo Hashiba

北海道観光マスター

1975年、北海道札幌市生まれ。 2008年、株式会社アールアンドアールを設立。音楽・観光を中心にさまざまなインタビュー取材・ライティングを手掛ける。 音楽情報WEBマガジン「REAL MUSIC NAKED」編集長、アコースティック音楽イベント「REAL MUSIC VILLAGE」主宰。 http://sapporo-mn.jugem.jp/