皆さんは、「島根県」という地名を聞いて、どんなイメージをされるでしょうか。出雲大社?松江城?



古くからの歴史を誇る街、というイメージが強いかもしれません。



しかし、近年はIT企業が進出し、エンジニアの移住が増えています。移住者たちのコミュニティ事情にスポットを当てて、島根県庁でIT人材の誘致を担当している植田智則さん、廣澤博さん、吉川雅司さんにお話を伺いました。



“東京にこだわらない働き方”を推進する「OFF TOKYO」。70seedsも主催者の一員として関わるこのプロジェクトとの連動コンテンツとして、IT先進自治体の取り組みをご紹介します!

庄司 智昭
編集者 / ライター|東京と秋田の2拠点生活|inquireに所属|関心領域:ローカル、テクノロジー、メンタルヘルス|「おきてがみ( note.mu/okitegamilocal )」というローカルマガジンを始めました

働く場所としての島根の環境とは?

‐島根県では、移住者向けにどんな取り組みをされているのでしょうか。

植田さん:島根県へのUIターン転職支援サービス「IT WORKS@島根」を立ち上げ、移住希望者の方へ、県内IT企業の求人情報の配信や企業見学・面接の調整代行、東京・大阪で転職イベントの開催などを行っています。

(写真:島根県庁でIT人材の誘致を担当している植田智則さん)

 

‐移住者の方の人数を教えてください。

植田さん:ITエンジニアでいうと、毎年20人前後です。

‐どんな方に来てほしいですか?

植田さん:即戦力として活躍できるエンジニアさんにぜひ来ていただきたいです。

県内のIT企業の業績は好調で、求人が多く出ています。目標としては年30人くらいに増やしたいですね。即業務に携わることのできるエンジニアさんが不足しているので、県としても支援しています。

‐エンジニアの方が働く環境として考えると、島根はどんな地域なのでしょうか。

植田さん:松江市や出雲市などは全てがコンパクトにまとまっていて、住みやすいと思います。

住宅地と買い物ができるところがあって、当然学校や病院もあります。ちょっと足を延ばすと自然も豊富です。通勤なども時間はかかりませんし、そういうところは都会と比べてメリットかな。

‐他の地域はどんな環境ですか。

吉川さん:買い物のことを心配される方もいらっしゃるかと思いますが、心配はいりません。

地方とはいえ、単に田舎というわけではなくて、生活に必要な買い物は移動範囲内でできます。

それに今は通販で何でも買えて、翌日には届きますしね。困っているケースはあまり聞いたことがないですね。

‐移住者の方はもともと島根にご縁のある方が多いのでしょうか。

植田さん:近年はUターンの方だけではなく、Iターンの方も増えています。ご本人は島根に縁はないけれど、パートナーの方が島根出身ということで、島根にIターンされるケースも増えています。

Iターンされて島根に家を建てた方もいます。島根は持ち家率が高いんですよね。

「家があって暮らしていけて、子ども達にも楽しく過ごしてほしい」と考えている方にとっては良い環境だと思います。

‐移住者の方の共通点はあるのでしょうか。

植田さん:何事も楽しむ、前向きな方が多いと思いますね。外の刺激を許容して一緒にやっていく方が目立つかな。

でも、いろんな人がいますね。仕事がおわった後は自分の趣味などを重視する方もいますし。

廣澤さん:地方文化の中で好きなものがあったり、自然が好きな方、何かしら島根県の中に好きなものがある、何かに惹かれて移住しているケースがあると思います。

 

「みんなが主役になれる街」島根

‐移住者同士の横のつながりはいかがですか?

植田さん:都市部ほど数は多くありませんが、島根にも各地域にコミュニティがあり、企業の垣根を越えてエンジニアが参加し、色々な活動が行われています。

特に島根にはRuby開発者のまつもとゆきひろさんがいらっしゃるので、Ruby関連のコミュニティやイベントが多いです。

こうした活動に移住された方も積極的に参加されており、地元のエンジニアも含めて交流は盛んです。移住者の中には、自らコミュニティを立ち上げたり、イベントを開催したりと、エンジニアの中心となって活躍され、地域を盛り上げてくれている方もいらっしゃいます。

島根のコミュニティの良いところは会社の垣根がないところですね。小さな地域ですので、何かあれば直ぐに新聞に取り上げてくれます(笑)。

だから、地域を盛り上げる活動を始めると、いろんな人が支援してくれたり、協力してくれたりします。

‐印象に残っている活動や団体を教えてください。

植田さん:2016年12月に、1日ごとに移住してきたエンジニアが記事を書いていく「松江移住ITエンジニアアドベントカレンダー」という企画がありました。

これは、移住者の方が日替わりで日常の生活や仕事の記事を書いていって、これをみんなで読んで移住者同士の交流を促進しようという企画でしたが、インターネットに公開することで、島根の移住ライフの魅力発信に繋がっていきました。

この最後の記事はまつもとゆきひろさんが書いてくれました。

‐おもしろいですね。企画したのはエンジニアさんなんですか?

吉川さん:松江市の職員さんです。行政の担当者の発案に、エンジニアの方が協力してくれて、まつもとさんも記事を書いてくれる。

こうした繋がりの強さが島根の特徴だと思います。東京でキーマンになるのは難しいことだと思いますが、島根県という環境では、活動が目立ちやすいし、キーマンにもなりやすい。

「島根だと割と簡単に知事に会えるんです」とまつもとゆきひろさんが言っておられ、なるほどと納得しました(笑)。みんなが主役になれる街なんですよね。

‐みんなが主役になれる街。良い言葉ですね!

 

移住者のライフスタイルを一緒に考えていきたい

‐企業側の話を聞かせてもらえますか。

植田さん:東京や大阪・名古屋に拠点を置く企業が、この5年間で30社、島根県に進出してくれています。IT企業の集積が進んでいて、企業の垣根を越えたエンジニア同士の交流もより盛んになっています。

海外展開を積極的にしている企業や、スタートアップで規模拡大をしている企業もあって、ユニークですよ。

その会社を希望してUターン・Iターンをしている方も多いですね。

‐移住支援をやってきてよかったことはありますか?

吉川さん:島根県の支援を知らないまま帰られる方も中にはいるんです。

そういう方がたまたま何かのきっかけで、私たちのところにきてくれることもあります。私たちの相談がきっかけで仕事が決まったケースが何回かあるんですよね。

こういう支援が必要なんだと再認識しますし、もっと県全体の制度を広報しなければいけないと感じました。

‐どんなところに注意をして支援していますか。

植田さん:助成金などお金で誘導するのではなく、ご相談に対する丁寧な対応、汗を流す部分を非常に大事にしています。島根ではIT専門のコーディネーターを県内外に配置し、相談者に寄り添った対応を大事にして活動しています。こういう自治体はあまりないのではと自負しています。

‐ありがとうございます。最後に、これからやってみたいことを教えてください。

植田さん:今までは企業を紹介する、求人を紹介することをメインでやってきましたが、これからは移住を決断してもらうための課題解決にまで踏み込みたいと思っています。

今転職したいと思っている理由をお聞きして、島根への移住という手段を解決方法の一つとしてお伝えできればと思っています。移住者のライフスタイルを一緒に考えて、提案ができるようなサービスを目指しています。