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古民家マッチングで「人の気持ちがわかる街」の魅力を届けたい-小樽民家再生プロジェクト

北海道の空の玄関口・新千歳空港。そこから札幌へ向かうJR「快速エアポート」の終着駅としても知られる小樽。

その小樽には、函館と並び最初に開拓された港町であることから、かなり年季の入った建物から最新の建物まで、さまざまな時代の建物が混在しています。また、伊藤整や石原裕次郎など多くの著名人が愛した町としても有名です。その「人を惹きつける理由」について、NPO法人小樽民家再生プロジェクトの代表・中野むつみさんは「小樽は“人の気持ちがわかる街”」と語ります。

その中野さんも、実は小樽出身ではありません。“よそもの”でもある中野さんが、なぜ小樽のために活動し続けているのか、その理由から小樽という町の魅力が見えてきました。

 


 

『小樽はもうダメだよ』からのスタート       

 

-中野さんは小樽出身ではないんですよね?

 

はい、札幌生まれの札幌育ちで今も札幌に住んでいます。小樽には縁もゆかりもありませんでした(笑)。本州からお客様が来られたときに、遊びに来る程度の関係性でした。

 

-その関係が変わったきっかけは何だったんですか?

 

私の本業の仕事(まちづくりに携わる会社の役員)で、『これからは古い建物を有効的に利用するべきではないのか』と考えていたときに、中小企業同友会という集まりの用事でたまたま小樽に来ることがあったんです。それが2011年の秋ですかね。その集まりというのが、小樽にはよくある、急な坂道を上がっていった場所にある古くて外観を綺麗にしている建物だったんです。そこで用事が終わって、ふと窓の外を見たときの景色にハッとしたんです。

 

-海が見渡せるような…?

 

はい、私が描いていた『古い建物の利用』とその景色がぴったり合致したんですよね。『この町は宝の山だ』と。札幌から電車で30分という立地条件も良いですし、外観はそのままでも中を快適にしたら、絶対人は住んでくれる、と確信したんです。それで小樽の知り合いを集めて一緒にやろうよという話をしたら、一様に『小樽はもうダメだよ』って(苦笑)。

 

-あらら…。

 

坂もきつい、雪も多い、こんな街に住みたい人なんていないよというわけです。とはいえ、札幌人だけでプロジェクトを進めても絶対うまくいかないので、その同友会で知り合った札幌在住で小樽の観光案内人をしている方に相談したところ、仲間が集まってきまして。それで、小樽の宝である古い建物と入居したい人のマッチングするプロジェクトがスタートしました。

 

 

小樽で体験した遠い記憶がフラッシュバック

 

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-そこからは順調に進んでいったんですか?

 

実は2年くらい打ち合わせのみで終わりました(笑)。それで、まず小樽の古い建物にはどのような方々が住んでいるのかを調べようという話になって、実際にいろいろな場所に聴きにいったんです。そうしたら、多くの建物が住居ではなく商店や工房として使用されていることがわかりました。私が最初思い描いていた住居での利用は、寒さ対策がネックになって難しいということだったんです。

 

-そこから方向転換が始まったわけですね。

 

寒さ対策をしようとすると、ものすごい内装費がかかってしまうので。そこで、商店や工房での利用に切り替えて、相談会を開催しました。古い家を「貸したい人」と「使いたい人」が集まる相談会ですね。マッチング事業をしようとしていたのに、どちらの実態も知らないまま話し合いばかりしていたんです。予想では「貸したい人」がたくさん来るだろうと思っていたら、逆に「使いたい人」が多くやって来たんです。

 

-需要と供給のバランスが…。

 

そうなんです。これまでに5事例成約しているんですが、ひとつ成約するのに半年くらいかかります。これは、古い家に対して貸したい人・使いたい人両者の思い入れの強さが理由なんです。その思い入れが何なのか……この活動を始めてから、昔の記憶がよみがえってきたんです。

 

-小樽での記憶ですか?

 

はい。私が30代の頃看護師をしていたのですが、小樽に実家がある若い看護師の親御さんが亡くなってお葬式に来たことがあるんです。今の小樽でもよく見かけるのですが、坂の途中にあるモルタル2階建ての町内会館で通夜が行われました。その通夜が終わったあと外に出たときに、『人の気持ちがわかる街だなあ』と思ったんです。その若い看護師の深い悲しみが、街から感じられたんです。海へ向かう坂、少ない街灯、さまざまな時代の建物がひしめき合う街並み……それだけなんですが、こんなに『人の気持ちがわかる街』があるのかと。今でもこのときのことは鮮明に覚えています。

 

-その記憶が、今のプロジェクトにつながったわけですね。

 

小樽の持つ雰囲気というか、気というか……それが、小樽が人を惹きつける理由なのだと思います。

 

 

地元の人が気づいていない小樽の魅力を掘り起こしていきたい

 

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-実際、どんな方々からの「使いたい」という希望があるんですか?

 

多くは古い家で商売をしたいという方々で、小樽以外からの移住者ですね。これまで成約した5事例も、4事例は移住者なんです。どの街でも同じかと思うのですが、自分の住んでいる街には馴染みすぎて魅力になかなか気づかないものです(笑)。「貸したい人」がなかなか現れない理由も『こんな古い家だと誰も使ってくれないだろう』という思いなんですよね。

 

-傍から見ると宝なのに…。

 

そうなんです。家の価値・街の価値を知ってもらうということの掘り起こしもしないと物件は出てこないだろうということで、講演会を開いてお話をすると、『小樽ってそんなに素敵な街だったんだ!』って皆さん喜ぶんですよ。古い家の趣というのは人それぞれの価値観だとは思うのですが、少なくとも建物が人を呼んでいるというのは間違いないと思います。

 

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-確かに、札幌で育った私も小樽に来ると感じるものがあるんですよね。

 

特に今の時代に求められる街なんじゃないかなと思いますね。今が、小樽がもっと元気になるチャンスだと。今の小樽は小さなお店がどんどん増えているので、観光客の方々が街の中を巡って歩けるようになってきたんです。街の本当の良さは、歩くことで感じてもらえると思いますし、小樽の場合は街中に古い建物があるので、それも北海道の中では珍しい風景になっていると思いますね。

 

-小樽が人を惹きつける理由がわかるような気がします。

 

私たちが仲介して移住した方に、地元の方から差し入れがあるそうです。『よく、こんな古い家にやって来たね』って(笑)。でも、その建物があるからこそ、小樽という街が魅力的なんだということを今後も伝えていきたいですね。

 

 


 

【取材を終えて】

「これからは東京にも活動を伝えていくんですよ」と中野さんが見せてくれたのは、できたてホヤホヤの移住・企業支援に関するパンフレット。その冊子には、小樽への移住者インタビューがたくさん掲載されています。その中で語られているのは「小樽の人の親切さ」と「建物の持つ趣」です。それぞれ移住の経緯は違いますが、小樽の建物の魅力に惹きつけられた方々ばかりです。

その仲介を行う中野さんは、今では週に1回ペースで小樽に通い、「小樽の良さ」を伝える活動を続けています。「外部の人間だからわかることもありますから」と語る中野さんですが、小樽への思いを語る表情からは地元の人以上の愛を感じました。

 

【ライター・橋場了吾】

北海道札幌市出身・在住。同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。 北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。