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「聞く力」がつくった45年-老舗NGOに学ぶ「世の中から必要とされる方法」

日本で「NPO」や「NGO」という存在が注目され始めたのは、1990年代の後半頃だったように記憶しています。ちょうど世の中では「エコ」「グリーン」「リサイクル」的な言葉が生まれ、流行りだしていた時期でした。

 

そんな時期でしたから、NPO、NGOに対して「ボランティア」「いいことしている人たち」というイメージが作られていきました。一方でそんな先入観が、活動に携わる人たちに「生活を犠牲にしてでも貢献しなくてはいけない」という負担をかけていたり、周囲からの「ボランティアなんだから質素に暮らして当然」という勝手なプレッシャーを生み出してしまった側面があったのも事実です。

 

そんな、どこかいびつな日本の社会活動界隈にあって、活動開始から45年を迎えてなお、成長を続ける老舗NGOがあります。それが特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会。バングラデシュ独立直後の農業支援から始まった同団体は、たくさんの失敗を乗り越えながら、今では数千万円の事業収入を生み出す規模で活動を展開しています。

 

「ないものを押し付けるのではなく、時代や場所から必要とされることを見きわめてともにつくる」という、ベンチャー企業にも似たスタンスで運営される「持続できる理由」について、同団体クラフトリンク部門(フェアトレード事業)担当の長瀬さんに語ってもらいました。

 


 

家の中にいる「見えにくい」被害者

 

―シャプラニールは今年で創立45年ということですが、そんなに昔から日本に国際協力のNGOがあったことに驚きました。

 

私も生まれる前ですが、元々はバングラデシュの独立がきっかけで、「復興支援を担う人材募集!」という告知に応募した人たちの集まりから始まったんですよ。それが45年の中で、今でいうフェアトレードのような活動が生まれていったり。

 

―フェアトレードのような活動というと?

 

1971年にバングラデシュ独立戦争が起きましたが、戦争が起きたときに一番被害に遭うのが女性や子どもです。彼女たちは家の中にいるので社会から見えにくい。もっとも支援を必要としているのに「見えない存在」になってしまっているんです。だったら女性が何かできることはないか、を考えてジュート(バングラデシュ特産の麻の一種。)を編んで「商品」としてつくりはじめたのが、シャプラニールのフェアトレード活動の原点です。

 

―ああ、これはきれいですね…!

 

そうですね。とても細かい丁寧な刺しゅうなんです。こういった商品を日本で販売することで生産者の収入向上につなげた支援を行っています。「ノクシカタ」と呼ばれるバングラデシュの伝統刺しゅうは、400年以上前からベンガル地方で母から娘に受け継がれてきた刺しゅう技術です。

 

 

 

―家庭の技術だったものに注目していったんですね。

 

元々は着古した南アジアの民族衣装(女性のサリー、男性のドーティなど)を数枚重ねて、刺し子を施したものでした。元々あった素晴らしい技術を海外に紹介するため、また女性たちの生活向上につながる現金収入の手段として、家庭内だけで使われていた「ノクシカタ」を海外への輸出製品と変化させていきました。現在では、タペストリーやベッドカバーから洋服の刺繍、その他生活用品としてその技術が活かされています。

 

―現在はさらに活動が広がっていますよね。

 

はい。例えば、子どもの権利を守る活動や災害に強い地域を作る活動ですね。バングラデシュでの児童労働削減の取り組みは、ストリートチルドレンの支援から始まりました。当時、現地のNGOと共にストリートチルドレンが遊んだり基礎教育を受けられたりできるセンター運営をしていて多くの子どもが通って来ましたが、ある日そこに来るのはほとんどが男の子だと気づき始めたんです。「一体、女の子達はどこにいるのだろうか?」と。

 

―どこにいたんですか?

 

調査を行ったら、女の子たちは他人の家で雇われ「家事使用人」として働いていることが分かったんです。これが現在行っているプロジェクトを始めるきっかけとなりました。そこには、当事者だけではなく、女の子達を取り巻く、両親や雇用主、行政と地道に交渉を重ね、日中働く少女たちが少しでも教育を受けられる様に支援センターに行く機会を作っています。

 

―確かに、女の子を動かすには雇用主を動かさなくてはいけず、そうするためには…と考えていくと周りを動かすことは必須ですね。

 

ほかには災害の多い地域のコミュニティで被害軽減するためのコミュニティ防災の取り組みを各地で進めており、2015年に起きたネパール大地震の被災地でも継続しています。現地の人々にとって本当に必要とされている支援を見つけて、行うようにしているんです。

 

 

フェアトレードは存在証明

 

―フェアトレードと一口に言っても様々な考え方やジャンルがありますよね。

 

はい。私たちが一番大切にしているのは、現地の人のエンパワメント、すなわち自信につなげることです。バングラデシュで活動を始めた頃は、今とは違って女性が「働きに出る」ことが文化や習慣もあり、とても珍しいことのように受け取られる社会でした。そのため、仕事を持つことで女性の地位が社会にも認められるようなり、こういった商品をつくることによって生きる自信にもつなげられることができればという想いもありました。

 

 

―ただ、フェアトレードにありがちなのがチャリティ、ボランティア的な見られ方をされてしまうこと。シャプラニールではそういった色が弱いように見えます。

 

シャプラニールも昔はそうだったのかもしれませんね。

 

―どうやって変わってきたんでしょう?

 

そこから粘り強くコミュニケーションして、現地の技術力が上がったことで魅力ある商品になってきたことで、幅広い層の方に手に取ってもらえるようになってきています。フェアトレードの商品の中には、チャリティの概念だけでは買えない高級品も生まれています。ただ、そうすると一方では「フェアトレードは高価なもの」という意識も持たれてしまう。物で溢れかえっている時代で、なおかつ100円でチョコが買える時代ですから、その裏にあるストーリー、わたしたちの現場を知る強みや現地の素材を活かした商品の良さという付加価値を伝えていかないと消費者には選んではもらえません。

 

―ストーリーと品質・技術向上はどちらが先なんですか。

 

これは両方ですね。今は、お買い物をするとき同じ様な商品があっても「健康にいいもの」、「デザインが好き」といくつかを比較して最終的に自分の生活にあったものを自然と選んでいると思うんです。だから私たちはただ「高価な海外製品」を売っているわけではなく、AよりBがなぜいいか、を投げかけていかないといけない

 

 

 

そこで日本で受け入れられる魅力ある商品をデザインすることも大切なのですが、消費者ニーズだけに引きずられすぎない商品開発を心がけています。そもそも、私たちのフェアトレード商品は、現地の人をエンパワメントすること、生活向上を支援することを第一に考えた活動ですから。

 

―年次の活動報告資料を見ると、フェアトレードの事業で5,000万円の売上とあります。寄付だけでなく、事業がこの規模で成り立っているのって単純にすごいことだなと思うんですが。

 

それも日々の活動を支えてくれている会員さんや私たちの商品を継続的に買い支えてくれる方々がいるからだと思います。長く続けてこられたことは、書籍を出したりして「こういう風に問題解決してきた」ということを正直に見せることで、多くの方から信頼をいただけてきたこともあるかもしれません。時代時代に合わせた支援に共感をしていただけたのだと。

 

 

「援助」が引き起こした事件

 

―45年の中で終わっていった事業もあるんですか?

 

もちろんありますよ。それは現地での自立した運営が可能になったから、という場合と続かなかった場合とありますが。

 

―現地の自立した運営が可能になったプロジェクトにはどんなものがあるんですか?

 

例えば「家事使用人の女の子に教育を」というプロジェクトのうちいくつかの支援センターは、シャプラニールの支援期間が終了後も現地の住民グループが現在運営を行っています。当事者だけに支援をするのではなく、当事者の女の子を取り巻く人に理解を得ながらプロジェクトを進め、最終的には当事者主体の動きとなるよう進めています。

 

―なるほど。

 

そうしないとただ外国のNGOがやってきてなんかやって帰っていった、になってしまうから。それは設立当初の失敗から学んだことですね。

 

―現地、当事者主体の仕組みづくりの形に気づいたのには何かきっかけがあるんですか?

 

実は昔、シャプラニールの支援がきっかけで事件が起きたことがあったんです。

 

 

―事件!?

 

女性に仕事があれば現金収入が生まれるだろう、という考えで支援をしたところ、それを良く思わない人もいたんです。それで、最終的に村人に襲われたる事件に発展しました

 

―そんなことにまで…。

 

あとは、事件ではないのですが、大きな学びのひとつとなった出来事があります。活動の中で鉛筆やノートなどの学校で使える文房具などを日本で集めてバングラデシュの子どもたちに渡しました。が、子ども達が学校で使わず市場で売っているのを発見してしまったんです。

 

―それはなぜ?

 

彼らは、その日の食べ物を買うお金に替えていたんです。そんな失敗から、まず現地の方の声を聞くことや、その土地の慣習にそった活動が大事だと痛感しました。そして、当事者だけでなく徐々にその人々を取り巻く人々にも理解してもらっていく過程が必要だということを学んだんです。

 

―そんなことがあったんですね…。

 

その教訓や学びは現在の活動にも大きく影響しています。私たちが初めて国内の支援事業を行った東日本震災での緊急支援・復興支援活動でも活かされましたね。まず必要なのは現地が何を必要としていることを知る。一人ひとりに聴くのは難しくても取りまとめている人に聞いて、本当に必要な支援は何かを調べました。そして、私たちは「支援からも取り残されてしまった方々を支援する」と決めて緊急救援活動を始めたんです。

 

 

自走できる仕組みに必要なのは「聞く力」

 

 

―NPOの活動でよくありがちなのは支援する/されるという立場が固定化して失敗していくという…。

 

キーワードは「共生」、相手と対等な立場で一緒に良くしていく、ということです。どちらかがどちらかを「助ける」感覚だとずっとその立場が成立していなくてはならない。食料です、と差し出すのではなく、どうやったらそこから脱出できるのかをつくる。私たちのできる支援は「対等な立場で」やること。それを現地の方も理解しているから、「援助」ではなく「共生」なんです。

 

―似たような話でいくと、以前別の方へのインタビューで、「NPOは弱者を見つけてくることで自分たちの立ち位置をつくっている、だから持続しない」というニュアンスの指摘がありました。シャプラニールの活動はあんまりその枠組みに当てはまらなさそうなのが面白いなと思います。

 

私たちは説明責任を大事にしてる、というのはありますね。こんな成果を出している、と伝えて、会を支えてくださっている方々に知ってもらう。現場の目線でリアルなことを知ってもらう、現場ではこんなことが起きているという。それは自分たちが活動したいからしている、のではなく現地のニーズがあるから。会員の方に意見を聞いて活動を改善していく、私たちの目線を共有してくださる方を巻き込んでいくのが私たちの立ち位置ですね。ニーズをサポートしている。

 

―仕組みづくりですね。そのあり方って実はすごく難しいことのような。

 

本当にそうです。そんな中でも一貫したミッションで動いている、形を変えながらもそこは守っていることが効いているのかもしれませんね。当事者の目線に立って一緒にやる、失敗から学んだことを活かすという。

 

―それは何がキーになっているんですか?

 

現地で必要な支援は何か、そして現地の人々の自立した活動につながるような支援をすることです。活動の中での学びや活動を続けるからこそ出逢える縁もあります。先週、販売を開始したネパール産のコーヒーも私たちの目指す活動に共感してくれた方のおかげで実現したものなんですよ。

 

―老舗なのに常にアップデートされ続けているのが持続性を作っているのかもしれませんね。

 

そうですね。もしかしたらNGO・NPOって「最前線の現地できらびやかに活動してる」と思われるかもしれませんが、国内での活動も私たちの活動現場の一つで、とても大切な場所なんです。東京事務所ではどんなふうに活動をしているのかも、ぜひ見て欲しいです!小さなことの積み重ねが今をつくっているということも。事務所には、私たちだけでなく、毎日ボランティアの方がステナイ生活の仕分け作業などをしていただいています。こういったご協力やご支援のことも知っていただきたいんです。

 

 

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岡山史興

70seeds初代編集長

1984年、長崎県生まれ。ストーリーをデザインしています。