春。


明るいイメージで語られることが多い季節だが、一部のひとにとっては、将来への不安が頭をもたげる憂うつな季節だ。その両方の顔を持つ最たる例が、「就職活動」。繰り返し現れるYouTubeのCMも、こころなしか就活生向けの内容が増えた。


しかし、そんな状況でも揺らがずに「自分の人生」をたくましく生きる人もいる。私がこれまでインタビューしてきた人たちの多くも、「就職活動をしていない」ことが共通項。


彼らは大学生のあいだ本気で「自分」と向き合い、できること、やりたいことを見つけていった人たちだった。


選択肢が多様化する現代、生き方の“模範解答”なんてない。筆者はそう思いながら、新しい生き方を開拓する若者にインタビューを続けてきた。


・金井直樹さん
2度の退学・2度の留年…27歳の学部生が見つけた「僕ができること」

・小村政文さん
元転勤族のモヒカンブロガー・勝手につくば大使が見つけた「地元の風景」

・堀元見さん
非日常クリエイターが「あの村」で描く娯楽の未来ーこれからみんなでつくってあそぼう


そして今回紹介するのも例に漏れず、就職活動をしなかった3人の青年たちだ。合同会社Staylink(ステイリンク)の共同代表・河嶋峻さん、柴田涼平さん、木村高志さんは、大学4年の春「起業」をキーワードに集まった友人同士。

(写真:左より柴田涼平さん、河島峻さん、木村高志さん)

現在、『場を通して、人をプロデュースし、夢を実現できる社会を創る』をミッションに、札幌の地でゲストハウス「waya」「waya別館」「yuyu」を運営している。他にも、小学生向け放課後スクール事業、タイ人向け観光プロモーション、ツアー事業を展開中。札幌の地で、精力的に活動を続けている。


オープンから3年、「waya」「yuyu」は札幌市内のゲストハウスの中でも群を抜く満足度とリピート率の高さを誇る。


東京のいち大学生だった彼らが、札幌でどのように多くの人びとの「居場所」を構築していったのか。金井直樹さんに引き続き、札幌で取材をおこなった。友情で未来を切り拓いた、3人の起業ストーリーに迫る。

半蔵 門太郎
ビジネス・テクノロジーの領域で幅広く執筆しています。

他人が“家族”になる場を作りたい。試行錯誤のなかで見つけた目指すべき「ビジョン」

3人がはじめて会ったのは大学3年の3月。周囲の学生は、就職活動に向けて動き始めていた。

 

共通点は「起業したい」思い。河嶋さんの自宅に集まり、連日連夜、ブレストで起業のアイデアを出し合う。

 

・アマチュアスポーツチームのチーム管理SNS

・新しいクラウドファンディングサービス

・地元の美味しいお菓子を詰め合わせたオリジナルのギフトボックスの提案

・地元の大学生が地元の中学生に勉強を教える、地元完結型の学び場

 

アイデアを出しては頓挫し、出しては頓挫を繰り返す。気づけば半年が経過していた。

 

周囲の学生は就職活動を終え、晴れやかな表情を浮かべている。職が決まらず話し合いばかりしている3人を心配する声も少なくなかった。河嶋峻さんは、当時を振り返ってこう語る。

 

河嶋峻さん(以下、河嶋):最初はダメだったら就活しようと思っていましたが、周囲に言いふらしているうちにあとに引けなくなって。焦りはありませんでしたが、このまま答えを見つけられなかったらどうしようという不安はありました。周囲からは、みじめな3人に映っていたかもしれません。

 

そんななか、突破口を開いたのが「JimoTrip(ジモトリップ)」だった。河嶋さんの地元・北海道別海町(べつかいちょう)の地元住民と一緒にツアーを企画し、東京の学生を招くというもの。属人的に呼びかけを行い、8名の学生を別海町に招いた。

 

JimoTripは大成功だった。ツアーの最終日には、東京の学生と別海町の人びとが家族のように会話をしている姿が。その姿は自分たちが目指すべき「場」の構築へ、大きなヒントを与えてくれた。

 

 

柴田涼平さん(以下、柴田):起業を決めたときから「地域」「交流」「場」はキーワードでした。当初はインターネット上のサービスを想定していましたが、JimoTripをきっかけにオフラインで生まれるつながりのすばらしさを感じたんです。JimoTripでの体験をヒントにアイデアを練り直したところ、ゲストハウスって、いいんじゃない?と。

 

JimoTripで実現した、見ず知らずのひとが実家に帰るような笑顔で「ただいま」と言える“居場所”を作りたい。3人の思いが1つになった。

 

それから議論とリサーチを重ね、場所を札幌に決めた。当時、札幌のゲストハウスは10軒程度。観光客数が伸びるなか、安く泊まれるゲストハウスは需要があると踏んだからだ。メンバーのうち、柴田さん河嶋さんが北海道出身なことも理由の1つだった。

 

こうして、3人の若者の“Sapporo Guest House Story”が始まった。

 

(写真:3人が起業までのストーリーを綴ったブログ  SpporoGuestHouseStory)

 

 

地獄のアルバイト生活が、3人を“仲間”にした

 

「札幌でゲストハウスをはじめる」

 

大上段の目標は決まったが、やるべきことはたくさんあった。なにより1番ネックなのはお金。就職先がない3人はアルバイトをするしかなかった。「4月までに1人100万ずつ貯める」を目標に設定し、半年間アルバイトをいくつも掛け持ちした。

 

河嶋:いままで振り返ってみて、アルバイトをしている半年間が一番辛かったですね。早朝の仕入れ、ピザの配達、カレー屋、サッカースクールのコーチ…。体力的にも精神的にも、毎日が限界でした。ある日原付で移動していたら無意識に「体力の限界!!!体力の限界!!!」と発狂していることがあって(笑)。叫んでないとやってられない、極限状態。

 

 

 

 

 

平日は20時間近くアルバイト。それでも、毎週土曜日に設定した2時間のミーティングを励みに働いた。

 

 

 

 

河嶋:土曜日のミーティングで2人に会うと、2人とも死にそうな顔をしているんです(笑)。それを見て自分だけじゃない、頑張ろうと思えました。1人では絶対に続けることはできなかった。「3人じゃないとできなかった」という“事実”と、支えてくれたことへの感謝が、いまでも原動力になっています。

 

 

 

 

アルバイト生活を乗り切ったという“事実”は、3人を単なる“友達”から本当の“仲間”にしたのかもしれない。

 

 

 

 

柴田:でも、もうアルバイトはやりたくないです(笑)

 

ボロボロになりながらも、なんとか全員目標金額の100万円を達成。起業を志して1年、札幌の地に足を踏み入れることができた。

 

 

人脈も物件も「ゼロ」からのスタート。オープニングパーティに100人のゲストを迎えるまで

 

札幌に訪れ、最初にはじめたのは物件探しだ。午前中はコワーキングスペースでミーティング、午後は別行動で物件を探した。しかし、ほとんどの不動産会社から相手にされない。職を持たない23歳の若者に対する社会の風当たりは冷たいものだった。

 

そんな状況のなか、同じコワーキングスペースの利用者から「商店街の空き店舗を活用してみてはどうか?とのアドバイスを受ける。

 

木村高志さん(以下、木村):物件が見つからず迷っていたさなかだったので、札幌の商店街に片っ端から電話しました。すると、札幌でも古い商店街の1つである行啓通(ぎょうけいどおり)の理事長さんに興味を持ってもらい、昔住んでいた空き家を紹介してもらえることになったんです。町からは外れた場所でしたが、安く貸してくれるところが魅力的でした。

 

(写真:改装前のwaya)

 

木村:貯めた資金が減っていくなかで焦りもあり、「このタイミングで借りないとなにも始められない」と思いました。なにより、起業するといったまま結果を残さずに1年が過ぎてたので、はやく始めたかった。なにかをカタチにしたかったんです。

 

 

 

 

 

 

 

物件が決まったら次はリノベーション。そこでも、安易に業者に頼むことはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「みんなが愛情を持てる“居場所”になるよう、完成するまでのストーリーを共有し、多くの人と喜びや楽しみを分かち合いたい」

 

できることはすべて自分たちの手でおこない、Facebookでその様子をつぶさに伝えた。毎週末には改築イベントを開催し、平日でもFacebookページで改築の手伝いを呼び掛けをおこなう。

 

すると、Facebookから、クラウドファンディングから、道行く人から、改築を手伝いに来てくれる人が現れるようになる。仲間の輪は広がり続け、最終的に3か月で200人以上の人々がリノベーションに参加してくれるようになった。

 

 

そして2015年10月、無事にオープンを果たす。オープンイベントには、100人を超える人びとが訪れた。

「おめでとう!」

「完成できて本当に嬉しいよ!」

「これからが楽しみだ!」

 

イベントに参加した人たちが、自分事のように完成を喜んでくれた。それは別海町の「JimoTrip」で見た、地元住民と東京の学生が家族のように会話をしている姿と同じ、目指していた光景だった。

 

オープン後の客入りも想定以上だった。3年で目標としていた数字をたった3か月で達成。次のステップへ移行するのも時間の問題だった。

 

 

場所を越えて「リンク」する

 

 

 

 

 

それからStaylinkは「waya」の1階部分にバーをオープンしたり、2号店「yuyu」をオープンしたり…2018年の3月には、3号店となる「waya別館」をオープン。次々と事業を拡大している。

 

 

 

 

 

木村:wayaのテーマは「冒険」で、若いバックパッカー向けの好奇心をくすぐる内装。2号店の「yuyu」は家族連れでも訪れやすいよう個室を多めにし、温かい内装にしました。

 

(写真:ゲストハウス「yuyu」の内装)

 

日本において「友達と起業」は避けられがちな傾向にある。「友達」という関係性に甘んじ、仕事に緩みが生まれてしまう恐れがあるからだ。しかし、Staylinkの3人が守りに入ることはない。

 

河嶋:アイデアを出し合い失敗を繰り返してきた経験が、怖がらずに前に進めてくれる原動力になっています。もし守りに入ってwayaを3人で経営していたら、つまらなくて解散してたかもしれません。1個の場所ではなく、楽しい「場」をどんどん増やしていきたいです。

 

 

3人の関係性について、柴田さんはこう語る。

 

 

 

柴田:3人は“友達”よりも体育会の部活動みたいな関係性です。練習が終わると仲いいけど、練習や試合の最中はチームメイトでありライバル。背中を押してもらう反面、いつも刺激をもらっています。まぁ、甘えるときもあると思うけどね。

 

ひとつ屋根の下でアイデアを出し合い、しんどいアルバイト生活を乗り越えてきた蓄積が、“友達”という弱点を最大の武器に変えた。

 

 

 

 

現在、ゲストハウス運営は安定期に入り、3人はそれぞれの「やりたいこと」に向かって歩みだしている。河嶋さんはStaylinkの新規事業担当として多くの起業家と会い、ワクワクする出会いを探している。

 

 

 

 

 

 

河嶋:「今後の展望」とか聞かれても、ないんだよなぁ(笑)。これからStaylinkは会社として新しいフェーズに入っていきますが、みんなで楽しく働けるいまの環境を残していきたいです。個人的にはたくさんの人と出会い、たくさんの仕事をしたい。「この人といったら成功する」ではなく「この人と成功したい」という思いを忘れず、楽しんで仕事を続けられればと思っています。

 

 

 

 

柴田さんは昨年夏に、3人の起業物語をロールプレイングブック(ゲームブック)として綴った本作るべく、クラウドファンディングを実施。「環境のせいで夢を諦めてしまいそうな子どもたちに届けたい」と語る。

挑戦するすべての人に向けて、RPB~ロールプレイングブック~を出版したい!

 

柴田:自分自身、かなり泥臭く「起業」という夢を叶えてここにいるので、こんなに不器用でも夢を叶えられることを知ってほしい。僕自身、小さいころはサッカー選手になるという夢がありましたが「サッカーは趣味で続けなさい」と否定されて育ってきました。

 

 

親はなんとなく言っているかもしれませんが、「言葉の力」は強い。「言葉の力」に負けない挑戦への思考力と決断力を養い、夢への後押しができるような本になればいいなと思っています。

 

 

 

 

木村さんはインタビューが終わったあと、「映画を1本作ってみたい」と夢を語ってくれた。

 

それぞれが「個」として目指す景色がある一方で、“Staylink”という「場」でつながり、シナジーを生み出している。友情で世界を変えることはできる。彼らを見ていると、そう言い切れる気がした。


 

【編集後記】

合同会社StayLinkでは、共に働く仲間を募集しているそう。職種は、ゲストハウス「yuyu」のディレクター。彼らと一緒に札幌の地で「場」を中心とした物語を紡いでみませんか?

《採用募集》 We are recruiting!

ここまで読んでくださった方達に、いいご縁がありますように。