大川 史織
1988年、神奈川県生まれ。 大学卒業後マーシャル諸島で3年間働いて帰国。夢はマーシャル人も驚く大家族の肝っ玉母ちゃんになること。

戦後70年の今年、7月で69歳を迎える葉祥明さん。絵本作家・画家・詩人である葉さんが描くやわらかなあたたかい画と、そっと寄り添う言葉の作品は、幅広い世代に愛されている。

 

葉さんは、メルヘン画家としての顔を持ちながら、社会問題を扱ったテーマの絵本も数多く出版されている。40歳の時に起こったチェルノブイリ原発事故が、人生を変える大きな転機になったというが、1986年に制作した、「福島の事故を予言したような」絵本「美しい朝に」が出版されたのは、実に25年後の2011年8月10日。3.11の大震災がきっかけだった。

 

戦後1年目生まれの葉さんに、チェルノブイリの経験が葉さん自身に与えた変化と、「メルヘン」な作風の裏に隠されたメッセージについて伺ったインタビュー最終回。


葉祥明【本名:葉山祥明】(絵本作家・画家・詩人)1946年熊本市に生まれる。創作絵本『ぼくのべんちにしろいとり』でデビュー。1990年創作絵本『かぜとひょう』でボローニャ国際児童図書展グラフィック賞受賞。1991年鎌倉市に北鎌倉葉祥明美術館開館。2002年故郷の阿蘇に葉祥明阿蘇高原絵本美術館を開館。

 

『地雷ではなく花をください』『心に響く声』などをはじめ、人間の心を含めた地球上の様々な問題をテーマに創作活動を続けている。http://www.yohshomei.com


マザー・テレサ宛のファンレター本

‐北鎌倉の美術館には、マザー・テレサのデッサン(1994年)が展示されていますね。マザー・テレサの存在が葉さんに与えた影響も大きかったのでしょうか。

葉:はい。絵本『静けさの中で』(1998年出版)は、マザー・テレサに「あなたの言葉を聞きましたよ。

あなたの存在のおかげで、私の生き方は少し、正しくなりましたよ。」ということを伝えたくて、手紙という形で書いた本を作りました。

でも、残念ながらこの本を渡す前に、マザー・テレサは亡くなりました。

‐『静けさの中で』というタイトルは、どのような意味ですか?

葉:マザー・テレサが、毎朝20分ひとりで静かに祈る時間をとても大切にしているということを知り、その時間こそマザー・テレサ自身を表すと思い、タイトルにしました。

興味深いことに、マザー・テレサは「あなたにとって、神とは何ですか?」という質問に「思いやりです。」と答え、ダライ・ラマは「親切です。」と答えた。

西洋と東洋の両宗教人が「神」を「人の優しい心」と答えているのを知って、僕はとても嬉しかった。

言葉には、光の言葉と陰の言葉があるけれども、光の言葉で人にエネルギーを込めて伝えると、ちゃんとそれは相手に伝わるんだよね。

 

 

戦後日本の色は「グレー」、戦後70年の今は「カラフル」

‐過去に葉さんはインタビューで、「戦後の日本は『グレー』に見えた」とおっしゃっていました。今の日本は、何色に見えますか。

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葉:今の日本も、様々な問題がある。しかし、純粋な気持ちで見ればね、めくるめくような万華鏡カラフルだね。

平和で、豊かで、みんな元気。僕は光と陰を両方見るから、今の日本を悲観的には見ていない。

でも、万華鏡だけを見ていると、ちょっとおかしくなっちゃうから、全体と部分、グローバルとローカル、全方位的な見方をする必要があるよね。

そんな中で自分はどうするかってことだ。

例えば、よくできた映画は、クローズアップと遠景と、光と陰をうまくつかって、レンズを変えていますよね。

フォーカスもするし、マクロでも見る。多元的、複合的な見方で、人類は星を眺めたり、顕微鏡で病原体を見つける。

いろんな角度、視点から世界を見ることで、自己の立ち位置を確認したり、他者をその人の背景を含めて理解したりできるようになる。

大きな河の流れと共に大海へ出る事ができるのに、川の支流のよどみに自ら入り込んで出られなくなって、苦しむってことが誰にでもあるでしょう。

しかし、世界は広い。大きく、自由であることを、若者に伝えたくて最新刊『17歳に贈る人生哲学』では書いたの。

 

 

10歳のわたし、70歳のわたしも17

17歳に贈る

(写真:2015年 PHP研究所)

葉:これは言葉だけの本で、最近は絵のない出版物も多くなってきました。

僕は、絵は理屈抜きに「美しい」「綺麗」なものを描く事を意識しているけれど、言葉では、知性や詩心によって人の心の奥深いところへ届くように心がけている。

これは17歳の人に向けて、という設定で書いたけれど、10歳の子どもや、70歳の老人が読んだっていいわけ。

僕の本を0歳から100歳まで」という言い方をするのは、そういうこと。

‐17歳は、通過点でしかないわけですね。いろんな年代の読者が受け取ったさまざまな感じ方そのものが、作品になる。

葉:僕の作品は、実は未完の素材で、それを完成させ、味わうのは読者の皆様。僕の絵や言葉は、僕のものじゃない。

水や光や空気は、誰かが作ったものじゃないし、誰のものでもないのと同じ。だから、僕の本は、光や水や空気と一緒なんだ。

もっと言えば、僕自身も光や水や空気。そう考えると、だんだん人間じゃなくなってくるわけですよ(笑)。

肩書きに、「絵本画家・詩人」とあるけれども、「光、空気、水」と書きたいところです。

人の知性や感性が進化すると、高い次元の思考ができるようになる。そして、意識も高次元へと広がって行く。

そうすると、人は物事を多元的にも、また時空を超えてみる事もできるようになる。

古代ギリシャの哲人・ソクラテス、プラトン、アリストテレスたちの到った哲学真理も、みんなあなたのものでもある。

「わたしに敵はいない」という意味は、ぜんぶわたしだ、って意味なの。だから「汝の敵を愛せよ」。

隣人愛というのは、隣人という「別の人」ではなくて「わたし」なんだ。敵はいない。敵もわたしもひとつって訳。

世の中は今、あらゆるものが小さく分けられ、個別化しすぎている。

でも本当は一人一人の人間は、性別も年齢も職業も関係なく、そこには、すべての宇宙やいろんな出来事が網羅されている全体的な存在なんだ。

‐葉さんにとって、「平和」とはなんですか。

葉:単に戦争の反対語に留まらず、心の「平安」のこと。心の安らいだ状態。他人的にも国家や社会的にも自由である事。

それから大切なのは、地球の自然を資源としてみない。「美」としてみる。

そして、有り難く見る。あおい美しい地球という惑星で住まわせてもらっていることへの感謝を忘れないってこと。

 

-70seeds読者へメッセージ

 ‐最後に、70seeds読者へメッセージをお願いします。

葉:自分とは何か。自分を知って、自分らしく生きてください。それが人生のすべてを開くと思うのね。

戦前であれ、戦後であれ、自分らしく。自分らしくない生き方は、誰も強制したり、それに嫌々ながら従う必要はない。

すべての基準は、自由な存在である自分にある。その「自分」というものをこの人生で探求してもらいたいね。

別れ際、葉さんはこうおっしゃった。

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今日は僕の話をしたけれども、葉祥明を伝えるのではなく、世界のことを伝えるものになってほしい。

この記事が、自分のことを知るヒントになったらいいな。自分自身の中に、宇宙の始まりから人類の歴史まで、すべてを含んだものがあることに気付いてほしい。

そうすると、自分も他の人にも一人一人がどんなにかけがえなく、大切な存在か、理解できるようになると思う。

 

第三回までお送りした葉祥明さんスペシャルインタビュー。「メルヘン」の枠には収まりきれない絵本作家・葉祥明さんの考え抜かれた表現とその背後にある「世界」や「いのち」への「愛」を3回に分けてお送りしました。