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「1億円の価値」を果たしたい –3keys森山代表に聞く「戦後日本の子ども事情」(3)

児童養護施設の成り立ちと母子家庭を取り巻く就労の問題について聞いた第1回、現在の課題は「施設の外にいる」子どもたちへの支援であることを語った第2回。続く第三回では、3keys自体の課題とさらなる挑戦について森山氏の話が進んでいく。戦後の「子ども事情」インタビュー最終回。

 

 

児童養護施設の外へ広げるために必要な「仕組みの力」

 

−今後は、3keysの学習支援活動も、児童養護施設にいる子どもたち以外に広げて行く予定ですか?

 

はい。vine (ヴァイン)という窓口を設置して、施設関係に限らず、誰もが相談に来られるようにしています。

 

―設置の背景にはどのような思いがあったのでしょうか?

 

生活保護などの社会制度もある一方で、虐待や貧困の連鎖が続く、という現状には理由があります。制度が使いづらいという問題や「権利は使っていいもの」という認識より「使うのは負け犬」という認識が強かったりするかもしれません。あるいはただ単に知らない。支援があるかないか以前の問題があるから、虐待や貧困の連鎖が続くのだと私は思っています。

 

なら、具体的に何を整えればその人たちが制度の利用につながるのか、貧困や虐待から脱する事ができるのか、というのを見ていかないといけない。窓口を作って、ケースを見て行く、という意味でもvineを作って、誰でも相談できるようにしました。

 

―現在、3keysの活動はどのように展開されていますか?

 

今は寄せられる全ての相談を受けて、関係機関や利用できるものと繋いだり、つなぐ先がなければ私たちが新しい事業を始めるのか、と分析したりもしています。あとは学習支援については、児童養護施設以外への紹介も少しずつ増えて来ています。私たちとしても、まずはうちにいるボランティアさんを紹介するなどして関係性を作って、施設とはどういう違いのニーズがあるのかを知るために、一つ一つのケースから分析しています。

 

―児童養護施設以外へ広げていく際にはまた違うリスクも発生しそうですね。

 

もちろん、家庭だと児童養護施設に比べてより危険度は増えて行きます。もしボランティアが悪い人だったら何かあるかもしれないし、ストーカー事件とかに発展する可能性もある。

 

―その辺りの解決に取り組んでいることは。

 

今、3keysではボランティア登録を厳密にやっています。学歴、所属、会社名も公表してもらい、全員ボランティア保険に入ることも義務づけています。普通のボランティアに比べるとこれはハードルが高いです。写真も全員提出しなくちゃいけないし。個人情報を出したくない人は登録しづらい仕組みにしています。

 

でも、家庭だとベビーシッター事件とかがあるように、それ以上の危険を想定しなくちゃいけないから、踏み出すのにはハードルが高い。だからまずはすでに何かしらの形で支援に関わっている団体と連携して、どこまでできるのかをお互い確認し合い、今は様子をみています。そうして、児童養護施設から始まった支援が今は一般家庭にも届くようにしていこうとしています。

 

―より3keysを必要としている子どもたちへの支援に向かっていますね。

 

そうですね。そうすると、どうしてもお金が必要になってくるので、今は資金調達に走っていたりもします。そのため、現在学習支援はほとんど現場のスタッフを中心に展開できていますね。それまでは私やメインスタッフも現場に行っていましたが、ボランティア主体で回し始められて3年経ったので、一番古い人で今3年継続している人がいます。

 

―今、ボランティア登録会の頻度はどれくらいでやっていますか?

 

年7-8回です。子どもと学習指導をするチューターをマッチングさせたり、フォローするコーディネートスタッフが20人前後、子どもに学習指導をするチューターが年間5-60人います。

 

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▲ 学習ボランティア登録会の様子

 

―運営体制は課題から逆算した3keysオリジナルのものですか?

 

そうですね。はじめからここまで設計していたというよりは、やっていきながら整えた側面の方が大きいと思います。前は事務を担っていた5人の代わりに、全部私が事務を管理したりとかしていたんですが、今は私がやっていた部分も、ボランティアが担えるように仕組み化しつつあります。そうすることで、関われる人が増えていって、子どもに自分の生活の5%でも子どもと関わる人を増やして行きたいな、と思っています。

 

 

親が果たす「1億円の価値」を満たす「地域」になりたい

 

―もし日本が戦争をするようなことになったら、今関わっている子どもたちの状況はどのように変わると思いますか?

 

結局、関わっている子どもに明確な責任を持っている大人はいないということが大きな鍵になっていると思っています。世間では「社会的養護」と呼ばれていて、「家庭ではなく社会で育てましょう」と言っているけれど、社会ってとてもあいまいな存在なので。

 

―というと?

 

例えば、児童養護施設にいる子どもたちへの支援は制度化に至るまでが遅くなりやすいです。障害や難病を持った児童には、父母会が機能しています。曽我めぐみさんのケースも、父母会が動いた。数で比較すると、北朝鮮に拉致された人は児童養護施設の子どもたちの数に比べたら少ないけれども、政府の動き方やメディアの取り上げ方に大きな違いがあるのは、児童養護施設の子どもたちには父母会が機能しないからだと考えています。それは父母会ほどの力や思いを持って、明確に彼らが置かれている環境を問題視して声をあげたり、子どもたちの権利を誰よりも強く主張してくれる存在はいないということです。

 

職員や仕事として関わっている皆さんが思いを持っていないわけではありません。強い思いを持っています。ただ、職員さんも仕事として子どもたちに関わっているので、適切な距離感で、思い入れを持ちすぎないことも大切になります。自分がずっと生涯関わっている子どもの面倒を見るわけではない中で、どこまでその時に子どもに必要なものを判断して主張してよいかわからなくなる時も多いそうです。それはボランティアさんにも当てはまります。1人の力や思いが父母会に比べて弱いならば、やはりたくさんの人が団結して、親くらいの声の大きさを作っていく必要があると思います。

そのような状況で、戦争がどのくらいのスピードで動いたり、どういう形で動くかにもよるけれど、一般家庭に比べたら、いつの間にかこの子たちが真っ先に戦地に行っていた。ということはもしかしたらあるかもしれません。

 

―森山さんにとって「家庭」とは何ですか?

 

責任や覚悟、でしょうか。法律的にも、18歳まではどんなに自分が強く思っていても、同意してくれる保護者がいないと何もできません。社会的にも、いろんな面で力が弱い存在だから、何かあったらその子を守る、という覚悟があることが、家族なのではないでしょうか。その人を守ろう、というのが家族だと思っているので「血縁」というよりは「覚悟」かな。

 

―今後の3keysの展開、抱負を聞かせてください

 

親とか家族の力ってとても大きいので、それに代わるものを社会の中で生み出して行きたいです。社会的養護って言葉としては綺麗だけれど、責任が分散されていて誰も責任をとっていないし、力としては家族よりとても弱いのではないかと思ってしまうことが多々あります1人2人の家族よりも、社会を家族と捉えたら1億3千万人いる分、誰にでも責任を押し付けられる分、すごく弱くて。社会的養護と呼ぶからには、親くらいの力を持つセーフティーネットなり、力になって行く必要があるかな、と思っています。

 

今だと、3keysですらも年間100人くらいの子どもたちにしか関わっていないし、お金でいったら施設の子どもを18歳まで育てるのに、税金が1億3千万円かかるけれど、一般の家庭では、3000万円から4000万円といわれているんです。つまり、1億円は親がボランタリーにやっているそれくらい親の担っているものは大きくて、社会がそれを肩代わりするというのは実は早大なことなのです。ボランティアとか社会的養護と、言葉にするとなんだか重みが減りますが。

 

―それが「地域の代わりになる」ことであると。

 

ただし、昔でいう地域とまったく同じものを作れるとは思っていません。昔に比べて、今は交通の便もいいし、インターネットもあるので、わざわざ隣近所と付き合う必要もない。むしろ、それを嫌がる人の方が多いのではないでしょうか。今の形にあった現代のバージョンで機能する「地域社会」を作る必要があると思っています。

 

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