「母子家庭の貧困率が先進国で2番目に高い」事実が、日本における女性の就労環境と繋がっていることを紐解いた前回記事

女性と子どもを取り巻く「仕事」や「教育」の課題に、地域社会の役割を「ボランティア」の力で担っていこうと取り組む、NPO法人3keys代表の森山誉恵氏インタビュー第2回。

大川 史織
1988年、神奈川県生まれ。 大学卒業後マーシャル諸島で3年間働いて帰国。夢はマーシャル人も驚く大家族の肝っ玉母ちゃんになること。

目指すのは、常に5%子どものことを考えているボランティアの「地域社会」

‐3keysの主な活動である学習支援事業「prele(プレール)」について教えてください。

創立時から含めると計7年続けている「 prêle (プレール)」は、ボランティア主体の学習支援事業です。

ボランティアを前提にしているのは、昔の地域の代わりを作りたいと思っているからです。本業ではない、親ではないけれども、誰かが誰かを助けている構造を作りたい。

職業として広げようとはしていないので、その分ボランティアや寄付による運営体制を整えています。

‐ボランティアである意味とは?

ボランティアをする人にとって、ボランティアは日々の生活の中で一番大事なものではないですよね。

家庭や仕事が先にあります。ライフワークとして取り組んでもらいたいし、昔の地域ってそういうかんじだったと思うからです。

3ヶ月、1年だけやるもの、と期間が決まっているのではなく、常日頃子どものことを生活の5%、10%でもいいから心がけていて、何かあったときにすぐ動ける距離感にいること。

それが、昔の「地域社会」だと思うので、それぐらいのことをみんながやるようになってはじめて、地域の代わりになるのかな、と思っています。

また、NPO業界の中では、3、4年同じ団体に関わり続けるボランティアは意外に少ない。単発で夏休みだけでとか、プロジェクトで3か月とか。

それが3keysだと、3、4年続けているスタッフがほとんどです。それは3、4年続けられる前提で仕組みを作っているからだと思っています。

‐具体的な仕組みにはどのようなものがあるのでしょうか。

例えば、交通費の支給、自己負担はなるべく少なくする。電話をよく使うボランティアには、通話料の補助。負担が増えてきたら、ネット環境を整えて、自宅で作業できるように環境を整えます。

そういうボランティアが本業や家庭の邪魔にならない、趣味プラスアルファくらいの負担でできる、それぐらいの心持ちでできることを意識しています。

 

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(写真:ボランティアの面接風景)

 

そうすることで、「一握りの人が一生懸命やる特殊な活動」ではなくなります。

極端に言えば、ヨガをやる感覚で「やってないの〜?」と声をかけられるくらいの特殊過ぎない、日常の延長としてボランティアの方々に関わっていただくことを心がけています。

‐学習指導を行う上で、理想のチューター像はありますか。

子どもの目標や課題によって異なるので一概には言えないです。

熱血過ぎると、子ども自身の努力が少なくなってしまい、達成感を得ることはできない。

逆に子どもの自主性を尊重しすぎるには、対象としている子どもたちにまだ意欲や習慣がなくてうまくいかないこともあります。両者のバランスをとっていくためにも、チューターを支える仕組みが大事になってきます。

 

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(写真:小学生への学習指導現場)

 

児童養護施設の外にいる「99%」の子どもにこそ支援が必要

‐理想の地域像を描く中で、現在何%の「仕組みづくり」ができていますか?

1パーセントくらいでしょうか。3keysだけで100%を目指すこともしていないし、3keysができることは運営モデルを作るとか、限定した範囲でしかできないと思っています。そういうものを他の地域で実践してもらうことが3keysの役割になると思っています。

児童養護施設の学習支援は、活動を始めた時は全く制度化されていなかったのですが、今年度から国から児童養護施設に入所する小中高生に何かしらの学習支援費が出る事になったんです。

そうすると、塾や社会福祉法人、行政の委託を受けた事業者などが今後参入して、どんどん活動の輪が広がりやすくなっていく。

そこまで行ければ、いろんな地域の人がある程度関われるようになり、少しは前進することを期待しています。

わたしたちは、まだ制度すらないところの中でモデルを作って、「あ、こういうやり方があるんだ」ということを見せて行く事が大事かな。と考えています。

‐そうすると、未来は明るくなってきたということでしょうか。

マクロな視点で見たら、希望が少し増えたかもしれません。でも、子どもの視点から見たらその変化はほとんど関係なかったりします。

児童養護施設にすらまだ来れていない子どもや、制度の網にひっかかっていない子どもたちは、亡くなってはじめて発見されたりとか、大人になって根深くなって表面化したりすることも多いので。

そのような状況にいる子どもたちは特に見えづらいです。どれだけ根深い問題がまだまだ眠っているんだろう、ということはよく思います。

‐児童養護施設の外にいる子どもたちは現在どのくらいいるのでしょうか。

子どもの6人に1人が貧困で、児童養護施設にいる子どもは人口比で600人に1人。

そこから考えると、今の課題は逆に施設に支援が集中しすぎていることです。

単純に計算しても、600人に100人は貧困な中、その内の99人には支援が行き届いていないわけで。

家にいて虐待を受けている子たちに届けるには、まず発見をするところからですが、違ったら近所迷惑になるし、引きこもっていたり、親も神経質になって暴力的になっていたら関わりたくないし、という理由等で、発見・通告されづらい状況です。

本当はまだ100人に1人くらいにしか支援が行き届かない状態、十分な支援ができていない状態です。

 

次回記事では、児童養護施設の「外」にいる子どもたちの支援を含めた、3keysのさらなる挑戦についてご紹介します。