藤田 郁
京都出身。IT企業、戦略PR会社を経て、2016年より70seeds編集部に所属。主なテーマは、地域、食、女性の生き方、ものづくり。"今"を生きる人たちのワクワクする取り組みを追っています。
鈴木賀子
ジュエリーメーカー、広告クリエイティブ領域の製作会社、WEBコンサルティング企業を経て、2016年より70seeds編集部。アンテナを張っているジャンルは、テクノロジー・クラフト・自転車・地域創生・アートなど、好奇心の赴くまま、飛びまわり中。

日本で生きているとなんとなく感じるマナー、「宗教のお話はタブー」。

 

だけれども、長く支持されてきた宗教には、特定の宗教を持っていない人にとっても有益な教訓があるんじゃないかと思います。

 

そんな宗教の中でも、日本人にとって身近な「仏教」。そのとある宗派で「若者を対象にしたあたらしい取組み」をすると知りました。それが浄土真宗本願寺派で主催する「スクール・ナーランダ」です。

 

2500年前にインドに存在した総合大学、ナーランダー僧院が由来だという「現代版寺子屋」。なぜ今このような取組みをはじめたのか、自身も僧侶である「浄土真宗本願寺派 子ども・若者ご縁づくり推進室」榮 俊英 部長さんにお話を伺いました。

 

 

時代と人に合わせた、仏教の伝え方

西本願寺にいらっしゃったことはありますか?

‐はい、学生時代の修学旅行で1度。もう10年以上前ですが。

西本願寺は、全国にある浄土真宗本願寺派の本山で、おなじ宗派のお寺が全国にあります。

その中でも、この建物は世界文化遺産になったのですが、いらっしゃったときのイメージはどうでしたか?

‐すごく立派な建物という印象でしたね。

暗いだとか、マイナスのイメージはないですか?わからないんですよね。若い方々にとってどういう風に受け取られているのか。

文化遺産なだけでなく、ちゃんとお寺としての機能を果たしているというのを示していかないといけない。今回の「スクール・ナーランダ」という企画はそんな課題の解決方法のひとつなんです。

‐この企画は「こども・若者ご縁づくり推進室」という部署で取り組まれたと伺いました。若者にスポットを当てているということですよね。

まず、この「こども・若者ご縁づくり推進室」が立ち上がった経緯について教えてください。

推進室の事務所が立ち上がったのは、平成26年の4月1日です。その年にご門主のお代替わりがあったんです。

お代替わりっていうのは、前の門主が、次の門主に継がれるというもの。その機会に「今私たちが受けている教えを次の方へ伝えることを宗派みんなで考えてみましょう」となってできたのがこの推進室です。

少子高齢化、宗教離れ、お寺の数の減少。いま日本の仏教を取り巻く環境はなかなか明るいとは言えません。

だから仏教2,500年浄土真宗800年に渡って受け継がれ人々の心の支えとなってきた教義を次世代に引き継げないのではないかという危機感があります。

どうしたら、若い世代の方たちに伝えられるか?そうしたことに取り組むための部署です。

‐たしかに同世代を見渡しても仏教に親しんでいる人は少ないように思います。

今、団塊世代と言われている方々は、当時の高齢者の方からたくさん話をお聞きになった層なんです。

だからその思いや話を次世代の方、今の若い方へ伝えてもらいたいのですが、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に暮らしていないご家族が増えましたよね。

だから家庭の中で伝えていただけるお話の濃さがだんだん薄くなっている。

本願寺派では、意識的にね、ご縁をいただいた者が次の方へ伝えていくことに取り組むことにしたんです。

つながりをしっかりつくれているのか?ということで今回若者をターゲットにしたんです。

‐そうすると、昔は若者にとっても仏教は身近な存在だった、ということなんですね。なんだか意外です。

いつの時代も悩みや苦しみがあることは変わりません。現代の若者たちの悩みや苦しみに、本来応えるべき役割を果たせているのでしょうか。こちらからうまくアクセス、アプローチできていない。

親鸞聖人が経典の教えを「和讃」という詩(うた)にされたり、蓮如上人が「御文」という分かりやすいお手紙を書かれたりと、時代と人に合わせた伝え方を工夫されてきています。おなじように時代に合った方法にしていく必要があります。

‐とはいえ、これだけ身近なところから離れてしまうと、気軽にアクセスできるものでもなさそうですよね。どんな工夫をしているんですか?

若者に伝える上での課題は、イベントだけでもストレート過ぎてもダメということです。僧侶や寺院もいろいろな試み、取り組みを全国で行っています。

寺院でのコンサートや展覧会、マルシェなどなど。敷居が高いと思われがちなお寺に足を運ぶきっかけとしてはもちろんよいことですが、人が来てもその後になかなかつながらないのが実情です。

かと言って、ストレートに「法話」を聴きに来てくださいと言っても、なかなか若い人たちにはハードルが高いですよね。

‐それはそうですよね。

今貧困、いじめ、ひきこもり、LGBTなど子ども・若者を取り巻く問題が多く取り沙汰されています。

そうした生きづらさを抱える若者たちにどう寄り添うか、推進室では僧侶たち自身が学んだり、実践していくための事業を行っています(※編集部注:「思春期若者支援事業」というそうです)。

一方で、目に見える問題でなくとも、これからの未来への漠然とした不安などを多くの若者は感じています。今回の「スクール・ナーランダ」は、そのような方たちに向けた取り組みです。

 

三方よしな企画づくり

‐なるほど。ラッパーやアートディレクター、映像人類学者などかなりバラエティに富んだ講師を招聘されていますね。この企画にこめた意図や思いをおしえてください。

三方よし(若者、社会、宗門)を意識しました。現代は、大人にとっても未来を非常に見通しづらい不確実なものとなっています。

これから社会に出る若い人たちに、このような世界を生き抜くための「軸」を作るためのヒントを得られる学びの場を作ることを考えました。

‐軸、ですか。

「スクール・ナーランダ」は2,500年続いた仏教含め、科学、音楽、美術、哲学、天文学など多様な分野の人類の叡智を横断的に学ぶ場です。

講師は僧侶だけでなく、それぞれの分野で活躍するトップランナーたち。これは若者のニーズです。

実際ボランティアで運営チームに参加してくれている学生の意見を聞いて選ばれた講師がいます。また、2020年に受験制度が変わるように、日本の社会は主体的に考え行動する人材を求めています。

‐それを意識した授業もあるんですね。

具体的には受け身の授業だけでなく、グループディスカッションやワークショップ、フィールドワークなどの体験を盛り込み、「アクティブ・ラーニング」の場を作り出すことで社会のニーズにこたえたいと思っています。

そして、各分野の講師がそれぞれの授業をするだけでなく、必ず僧侶とのディスカッションをプログラムに入れています。

宗門としては、他の分野の講師に惹かれてきた方が自然に仏教に触れる機会となり、興味を持ってもらえたらと考えています。これはお寺側のニーズですね。

‐お寺っぽくない言葉が出てきたと思ったら、ちゃんとお寺に落ち着きましたね(笑)。三方よし、という考え方はとても関西的な気がします。

ここに込めた想いとしては、仏教にあるしっかりとした軸を若者につたえること。若者たちにとって、これからどういう学校に行きましょうかとか、仕事はどうしようとか、何に軸を置いて人生を生活を考えていくかというときに、仏教の軸が「有益」だということを伝えたい。

お寺の思いだけだと、押しつけがましい感じがしますので、各界で頑張ってらっしゃる方、活躍されている方の生き方とか、考え方を聞かせていただきながら、仏教的な考え方ですとこんな考え方がありますよ、と提案していくということですね。

‐こういった斬新な取組をするにあたって、まわりの反響はどうだったのでしょう。

宗派として、危機感を持って新しい取り組みをしなければと考えているので、大きな反発はありませんでした。他の宗派・教団の方からも高い評価の声をいただきました。

 

若者が未来を切り開いていく力に

‐これからの取組みを教えてください。

今後も継続して開催する予定です。京都の本山だけでなく、3月に富山で開催します。その後も全国の宗門寺院で開催していきます。地方ではそれぞれの地域の魅力や課題を学ぶ機会になってほしいと思います。

宗門が目指しているのは、「自他ともに心豊かに生きていくことのできる社会の実現に寄与すること」。

このスクール・ナーランダを通して、仏教的な世界の捉え方、生き方を自身の「軸」の一つとして持ち、未来を切り開いていく方たちが少しでも増えることを願っています。

‐自他共に心豊かに生きることのできる社会の実現。とてもよいビジョンですね。

まぁこの事業にしろ、私たちの浄土真宗の教えを押し付けようとしているわけでは無いんです。

それぞれの生き方に関わっている教えだと私が思っているから、参考の一つにしてもらうなり、それこそこのような考え方があるんだ、と知ってもらえたらなぁという感じですね。

特別なときだけでなく、いつでも「ありがとう」といえる気持ちを持つ生き方。そのような生き方ができればよりよい違った生き方ができると思います。

‐なるほど…その言葉の意味をかみしめたいと思います。

 

このような本願寺の方々の想いがこめられたスクール・ナーランダを編集部で実際に体感してきたレポートはこちらです。