鈴木賀子
ジュエリーメーカー、広告クリエイティブ領域の製作会社、WEBコンサルティング企業を経て、2016年より70seeds編集部。アンテナを張っているジャンルは、テクノロジー・クラフト・自転車・地域創生・アートなど、好奇心の赴くまま、飛びまわり中。

ものづくりで地方創生したい…一方で地元の伝統工芸には後継者がいない。今、日本のいろんな街から聞こえる声。そんな中、2つの町の伝統工芸をかけあわせてさらなる魅力をもったものづくりに挑戦している人物がいます。

 

それが、堺の歴史ある刃物製作所で作られた刃と藍染の柄を組み合わせた「藍包丁」を、企画開発したエディットジャパンの坂元晃之さんです。クラウドファンディングで予定の50万円を超えて集まった資金で生まれた包丁がこちら。

 

鋭利な刃物と藍のグラデーションの掛け合わせが生み出す静謐な美しさは、まるで調理器具ではなく、美術品かのようにも思えます。なぜこの取り組みに至ったのか、坂元さんのものづくりにかける想いが生んだストーリーを聞きました。

 

藍包丁に至った職人さんとの出会い

‐この「藍包丁」はどのようにして生まれたんですか?

軸に「日本の魅力を海外に伝える」というのはあったんですが、まず今までの仕事で得たマーケティングの経験をいかして、職人さんとか作家さんとか、伝統工芸品の人たちのマーケティングをする仕事をはじめました。

「あなたたちの作品をこういう風に、海外向けにこういう目線でPRします」とか、「YouTubeでこういう動画を作ればこういうPR効果があります」とか、「SNSをつかってこういう風にすると売り上げが増えますよ」という提案をしていたんです。

それから後で詳しくお話しますが、いろいろな理由があって包丁を売り始めたんですよ。

‐そこで包丁というのが面白いですね。包丁の職人さんとはマーケティングお仕事で出会ったんですか?

そうです。東京ギフトショーの展示会です。いろんなところに提案営業したんですけど、大体皆さんに体よく門前払いされちゃって。

‐なんと。

まぁ当時は実績もなかったし、あんまりうまくいかなかったんですけど、ある堺の包丁屋さんだけは話を聞いてくれたんです。

‐それが、藍包丁の刃をつくってくださっている包丁製作所さんだったんですね。

そうなんです!で、話を聞いてくれたのですが、さらに具体的に予算をかけて施策を行っていくにはまだ壁があったんです。

その理由をずっと考え続けていたんですが「同じ立場になって汗水を流してみたいな経験がないと信用してくれないのかもしれない」という結論に至ったんです。

宣伝屋だから対岸の火事なんでしょう、と思われていたのかもしれないなあって。

ブランディングだ、宣伝・広告だなんだって、わかりづらいんですよね。

僕の中で「〜〜さんと同じ立場になる=販売すること」だと思ったんです。

なので包丁を売ることにしたんです。それで僕のやり方で実績がつけば「坂元さんの言ってた海外向けのPRって正しいんだな」と思ってもらえるだろうなって始めたんです。

‐なんだか戦略的な段階を経たやり方ですね。

素直に実績を上げるには売ることが一番の貢献だ、と考えただけなんですけどね。

‐さらに、包丁だけで売るのではなく、「藍包丁」というのがユニークだと思いました。

包丁って本当に奥が深くて、売るために勉強したんですけど。それで商品と毎日向き合っていると、すごく優れている点と、改善点みたいな、「こうならないのかな」って思うことが出てきたんですね。こうしたほうがもっと売れるんじゃないかっていう。

‐というのは?

包丁って、(見せながら)すごくきれいですよね。その中でも和包丁って、刃が柄の中にガチャーンって入って接着剤で止めてるんです。

だからメンテナンスを怠ると接着剤がやせてきて水が入ってきちゃうんですね。そうすると金属が腐って木も腐って最終的に割れちゃうんですね。

食品を扱うものなので衛生的で安全なものを作りたかった。なので、ここを割れないように、腐らないようにしたいっていうのがひとつ。

‐はい。

あとは日本の包丁の柄って、色が少ないんですよ。ふつうはホオノキって言われる薄い黄色い色か、紫壇っていわれるこげ茶の2種類なんですよ。

それ以外のバリエーションってあまりないんです。あとはプラスチックだったりラバーだったりなので。

なんかもっとカラーバリエーションがあったらいいなと思って、それがもうひとつの理由です。その2つを実現しようと考えたっていう感じですね。

‐そこで、どうして藍染めに目を付けたんですか?

この衛生性とビジュアルの2つの課題を1つで解決したいなって思ったんですね。

藍染めが、今までの日本の暮らしの中で、抗菌防臭防虫効果があると使われていたっていう歴史を知って、さらに藍染めのグラデーションをやっている職人さんがいるっていうのを聞いてこれだ!と。

機能性もデザインも両立できるのが藍染めだなと思ったんです。

‐考え方がやっぱりマーケティングをやっていた人ならではだなと。

たまたまですけどね。(笑)藍染めだけではなくて、衛生的なものを目指すんだったら徹底的にやろうと思いました。

まず柄に使われている材木。ふつうはホオノキを使っているんですけど、ヒバの木を採用しました。

ヒバっていうのはヒノキとかと同じファミリーで、腐りづらさを示す「不朽度」がトップなんですよ。なので絶対ヒバに藍染めをしたら課題解決できるって思ったんですよね。

包丁屋さんに「藍染めした包丁って面白いと思っているんですが、もし商品開発するならご協力いただけないですか?」とお聞きしたら「いいですよ」と快諾していただきました。

よし!って思って、次にどんな藍染めにするかっていうときに、木を染めなきゃいけないので、木の藍染ができる徳島の舞工房さんとお仕事をさせていただくことになったんです。

‐なるほど、そういう流れで。どれくらいの期間で開発されたんですか。

構想を練って、エイヤで残り2か月で作りました。

‐早くないですか?!

藍染の舞工房さんに資料を送ってそこから電話ベースで話をして進めていくと、どんどんどんどん話が進んでいって。

お互いこのプロジェクトで多忙で、やっと顔合わせができたのは、2回目の試作になってからでした(笑)

代表の多田さんが本当にクリエイティブな美意識の高い素晴らしい職人さんで、その方が面白がってくれたからできたなっていうのがありますね。

‐そのスピード感は得難いものですね。話は変わりますが、伝統工芸って手間ひまがかかっているので、その分お値段に反映されると思うのですが、藍包丁もいいお値段ですよね。

藍包丁が普通の包丁より高いっていうのは、藍染めの工賃も入ってるんですけど、ヒバで作ってるっていう材料費があって。

でも作るからには機能性も重視しないといけないと思っていたので、そこはこだわって、高くなっても作ろうとしました。

‐こだわった故のこの値付け。

はい。包丁って日常に普通にあるものなので、その価値に普通目を向けないじゃないですか。

何万円も出すっていうのは、一般的な感覚からすると難しいところもあって。

だから、包丁の“いいもの”って素晴らしいんだよっていう周知から始めないといけないなっていうのは思いますね。

‐包丁界の認知というか、ブランディングから始めないといけないということですか。

そう考えています。ちなみに藍包丁はものづくりや職人文化の価値を理解していただいている人達をターゲットにしています。

じゃないと“包丁”として売れないので、モノに詳しい人とか、料理が好きな人とか、包丁が好きな人とか、こだわりのある方であれば、藍包丁の魅力を感じていただけるはずだという自信がありますね。

‐そこも戦略的ですね!ちなみに包丁って、プロと家庭で使うもので違いってあるんですか?

ありますよ〜!プロ向けの包丁でもそのなかに更にランク付けがあって、基本的には刃の種類、金属の種類で値段の違いがあるんですよね。ちょっと難しいですけど、説明しますね。

 

切りたいもので使い分ける包丁

包丁の値段に関わる要素は、基本的に刃の形と柄の形と素材の三種類です。

まず、大きく和包丁洋包丁に分かれます。その違いはざっくりいうと洋包丁は両刃和包丁は片刃ですね。あと柄の挿し方の違い、そして刃の素材の違いがあります。

‐坂元さんの「藍包丁」の形は一般家庭にもあるものと同じですよね。

そうですね。でも本当に1000円2000円で買う包丁の金属とは、切れ味が全然違いますよ。試しに紙を切ってみますね。

‐紙がサクサク切れていく!すごい。こんなに種類があるのは、それぞれ使い方が違うってことですか?

違いますね。全然違います。 藍包丁の品揃えは三徳牛刀柳刃の3種なんですけど。

中小の二つは両刃と呼ばれていて、柳刃だけ片刃っていうやつなんですよ。で、片方にしか刃がついてなくて。

これは右利き用なんですよね。左利き用はそろそろあたらしいラインナップに加わる予定です。これは本当に、切ったときにこっちが綺麗に断崖絶壁になるんですよ。

‐そっか!だから普通の包丁でお刺身を切ってもきれいに切れないんですね。なるほど!

そうそうそう。断崖絶壁の角がキリってなった、お店で出るようなお料理ってこういう本格包丁でちゃんと切ってて、コレで切るとお刺身が綺麗に並ぶんですよね。

両刃はパワーとスピード重視といいますか、片刃は食材の美しさを引き出すための包丁なんです。

すぐ消費してしまう食べ物にまで美意識を持ち込んだ日本人ならではの包丁だと言えますね。

‐素材で使い分けるのか、面白い!

面白いんですよ包丁って。そもそもこれが日本古来の包丁なんですよね。

 

好きなことで生きていく

‐企業名が「エディットジャパン」日本を編集するという意味ですね。

日本の魅力を再編集したいなと思って。せっかくいいものがあるのにうまく伝わってないなと思って、それをうまく編集して伝えたいという想いがこめられています。

‐日本の魅力が伝わってないなって思ったきっかけはあったんですか?

私、高校時代にカナダに留学して、社会人になって外資系の企業で働いて、外国に住む機会があったんです。

本当に、包丁1つとっても、日本で売ってるものの方が切れるのに、なんで海外の包丁使ってるんだろうとか、車でも、海外車よりも日本車の方が燃費がいいのに、長く使えるのに何で日本のが使われていないんだろうとか、日常生活で感じたんです。手仕事品から工業製品まで。

海外にいると日本の製品って当時はほとんど見かけなかったので、日本のモノの魅力が届いてないなって思ったんです。

‐そんな現状は知りませんでした。海外に住んだからこそわかることですね。そこから独立して会社設立に。

元々海外営業の仕事をしていたんです。営業は得意な仕事ではあったんですが、好きな仕事ではなかったんですよね…。

仕事にするほど好きなものがなかったので、ずっと得意なことで生きていこうと思っていたんです。

そのうち自我が芽生えたというか、「仕事にできるかは別として、好きなことに携わらないと人生つまらないな」って言う風に思い始めてきたのが30過ぎたころですね。

10年近く海外営業をやってきたのですが、もうちょっと自分のフィーリングを大切にしたいなと思い始めて。

そんなタイミングで、嫁のお父さんが高知県で有機ハーブ農家をしているんですけど、自分の想いや哲学をもってハーブを育てている姿を見て素敵だなと感じるようになってきたんです。

ただ、クオリティーが素晴らしいのに、本人が口下手だからあまり営業や宣伝が得意ではなくて(笑)。

それが、海外での日本の製品に対する思いと合わさって、「海外に日本の手仕事の良さを伝えていきたい」ってぼんやり思うようになったんですね。

‐それはいまからどれくらい前ですか?

2~3年位前ですかね。そこで、自分が独立するには何が足りないのかなーと思ったときに、勉強しなきゃいけないなと思ってBtoCのマーケティングの会社に入ったんですよ。で、そこで1年半勉強して、独立。

そのあと「カンブリア宮殿」というテレビ番組で「エイトワン」という愛媛の会社の社長が「日本を元気にする色んなビジネスを作りたい、そして海外に届けたい」っておっしゃってたのをみて。で、愛媛は嫁の実家の高知県の隣だから遠いイメージはなかった。

‐行動力がすごい!

そしたら「お会いしましょう」ってお返事いただいて。今考えると、よくお会いしてくれたなって感じなんですけど(苦笑)自己紹介の簡単な資料をみせながら意見交換をさせてもらったんです。

「自分は日本の魅力をこういう風に思っていて、こういう風に伝えていきたいと思ってるんです」といった話をしたら、「それ面白いですね。ぜひ会社としてやってください」って言われたんです。

‐胸が熱い展開です!そこから“職人コラボレーション”という価値のあるコンセプトができていくわけですね。

 “職人コラボレーション”というコンセプトにたどり着いた時には自分でも「これだ!」って思いました(笑)意義が2つあるんです。

1つめは、一つの製品で複数の産地にしっかりお金を産むっていう点。包丁が売れれば、大阪にも徳島にもお金が落ちる。

そしてほかの地域の職人さんが、堺の包丁の価値を上げることができるんですよね。それが今回徳島県の舞工房さんだった。

日本には掛け合わせることができる技術がいっぱいあるので、このコンセプトが広がれば日本各地が元気になるんです。

テレビの前で職人さんが「あの地方のアレは売れてていいなぁ」と言ってたら。もしかしたらそのプロダクトにかけあわせられるかもしれないんですよ。

「いやいや、あなたの技術でも関われるんですよ」ってことを僕は言いたいんですよね。それを提案するのが僕の役割かなと思います。

‐そう提案された職人さんは目からウロコだとおもいます。

もう1つは、価値の深掘りっていう所です。最近日本の伝統工芸品は注目されて、いろんなデザイナーさんが関わってきていておしゃれなものがたくさん出てきています。

ただ、個人的には、デザイナーさんよりも職人さんの顔が見えるような製品が好きなんです。

なので、職人がもっと前面に出るもので、新しいものを作りたい。ジャンルは違っても技術は素晴らしいので、その技術たちだけで掛け合わせることで価値が上がるものですね。

‐その考え方、好きです。でも職人さん側からは出てきにくいものだと思うので、坂元さんの働きかけはとても価値があると思います。実際に複数の産地の方と仕事をして課題を感じることはありましたか?

ありますよ。やはり長い歴史のある技術や産業は、伝統を守ってきたっていうのが背景としてある。

守るイコール他のモノを取り込まないようにしてきた。そこに僕は手を加えるわけなので、理解を得るために、最初の信頼関係の構築ってすごく重要だということは、営業の経験からも分かっていました。

今回の包丁屋さんとは関係と実績を作ってからの企画だったので、ある程度すんなりとできたのかもしれません。

‐取り組む下準備ができていたんですね。

これがもし会社を立ち上げてすぐ提案しても、乗ってくれなかったと思いますね。

なのでまず伝統産業とお仕事をするには、彼らの郷に入って、彼らのやり方で実績を作り、見せてから提案する。

このフローじゃないかなと思うんですよ。とにかく、ビジネスマンとして行っちゃダメですね。

ビジネスではあるんですけど、スーツではなく作業着で。つまりは相手へのリスペストを胸に、頭を下げてドアを叩く、ということです。

‐それ、他の取材者さんからも同じことを聞きますね。

相手の心情を無視した、自分目線のビジネス提案を続けていたら、ずっとよそ者のままだと思います。

ローカルなところと新しいことをするには郷に入らなきゃいけないなっていう風に思います。

‐すごく役に立つ話。

ありがとうございます。自分のアイデアが絶対イケる!って独りよがりに思っても、たぶんうまくいかないんですよ。

忍耐が必要なんですよ。そこを乗り越えた先に勝機があるんだと思います。

みんな忍耐が必要なところで諦めちゃうので、そこから続けることが大事だと思います。

‐”職人コラボレーション”第一弾が藍包丁ということですが、第2弾の構想はありますか?

しばらくは包丁をやろうと思っています。藍包丁を作って、クラウドファンディングで成功して、売れて、ありがとうございました!はい次!て違うな、と。

僕が包丁屋さんと出会って、新製品を開発しましたけど、業界全体にはもっと大きなテーマがあるんです。

それが職人さんの高齢化問題、後継ぎ問題。日本の包丁生産キャパシティーに関わる問題ですし、堺刃物そのものの存在を絶やさないためにも重要なテーマです。

なので最終的にはそこまで貢献していきたい。それにそうしないと「ただのビジネスマン」になってしまう気がして…なので次も包丁、その次も包丁と考えています。

‐坂元さんの業界に対する恩義を感じます。

本当にそうですね。いっしょにやってくれている包丁屋さんに対する恩義だと思います。

名もない自分の会社の話を聞いてくれて、僕が販売したいって言ってくれたときも、新製品開発をしたいと言った時も「やってみようか」と言ってくれて…そこは本当に恩義ですね。

‐すごく、幸せな出会いだったんですね。

ホントですね。ありがたいですね。

 


 

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