自分の面白いと思う世界を実現したい。子どものころ、誰しもがそう思うものの、社会との要請・自分の実力を知り、妥協案を探す。「そうやって大人になるんだよ」、見知らぬ大人が、大学生に向かって言っていそうなセリフだ。


でも、この男は違った。20代後半に差し掛かる年齢を迎えようとも自分の「面白い世界」を妥協しない。貪欲に、時に狡猾に、自分のオモシロを叫び続けている。


堀元見、26歳。彼はこの世で一番、真剣に“遊び”と向き合い生活している。


1年前、70seeds編集部では彼の「あの村」での挑戦を追った。「あの村」は千葉県鴨川市を舞台に始まった村づくりプロジェクト。堀元さんの野望「創造する娯楽」の旗の下に始められた。


「あの村」が描く娯楽の未来 ー非日常クリエイター堀元見の「あそび」


しかし、2018年6月に撤退。あらたな事業として「あそびカタン」というWebサービスを始めた。この1年間、堀元さんのなかでどのような変化があったのか?インタビューを通じて迫った。

半蔵 門太郎
ビジネス・テクノロジーの領域で幅広く執筆しています。

回収できないコンテンツ。少しづつ疲弊していった

ーまずは「あの村」での1年間お疲れ様でした。率直にいま、どんな心境でしょうか?

いま、楽しくてしょうがないですね。「あの村」は今年7月19日までサービスを続けていましたが、主な業務内容は嫌いな雑務ばかり。実は昨年11月ごろから飽きを感じていたんです。

辞める旨を伝えたあとはさまざまな反応がありましたが、言いたいことを言えてスッキリしましたし、いまは自分のやりたい企画をどんどん考えることができる。自分の「面白い」を突き詰めることができる環境があるだけで幸運だなと感じています。

ー「あの村」は家入一真さんが買収することでも話題になりました。堀元さんが手放したあとも「あの村」は存在しつづけますが、どのようにコミットしていくのでしょうか?

コミットする気はまったくありません。山奥の土地を使ううえでの実務的な面でアドバイザーを努めますが、運営に携わることはないですね。

ー完全に「次」に切り替えているんですね。それでも少しだけ、あの村の話を聞かせてください。そもそも、堀元さんは「あの村」でどんなことを実現したかったのでしょうか?

あの村で実現したかったのは「創造する娯楽」です。インターネットやスマホが社会的なインフラとなり、誰もが発信者となった現代。言い換えれば、ここ5年で誰でもクリエイターになれる時代になりました。いまではYouTubeやTikTokがその先駆けとなっていますよね。

そんな「創造する」時代の新たな娯楽のプラットフォームとして、「村」は最高の場所だと感じていたんです。

ーなぜ「村」が最適解だと感じたのでしょうか?

大学卒業後、“非日常クリエイター”の肩書でイベントを多数開催していました。そのなかで、人びとのクリエイティブが発揮された成果物=「コンテンツ」が最も多く回収できたのが「あの村」でのワークショップだったんです。

何もない山の中で文明を築くために、否応なくクリエイティビティが発揮され、自然発生的にコンテンツが生まれてくる。

人びとの創造性を発揮するプラットフォームとして「村」は最適解だ。時流を捉えると確信し、事業を立ち上げました。

ー堀元さんの思想、いま聞いても「アツい!」と思います。なぜ撤退してしまったのでしょうか…?

1番の要因は、期待に反して「コンテンツ」を回収できなかったこと。山中で村を運営するにあたり、ぬかるんだ道に砂利を敷いたり、邪魔な竹を燃やしたり、来客に追われたり…。

雑務に忙殺され、コンテンツまで辿りつけない時間が長く続きました。大上段のテーマを達成できない時間が長く続いたことは致命的でした。コンテンツにたどり着けないまま、少しずつ「飽き」を感じるようになっていきましたね。

ー撤退を明確に決断したのはいつでしたか?

あの村の仕事で疲弊すればするほど、外部からいただく仕事が楽しく感じるようになってきて。「村でなくてもエキサイティングな仕事っていくらでもあるな」と思うと、村へ行く足が重くなっていきました。それが昨年の11月くらい。

それでも、事業のアイデアはイケてるし顧客もいる。地道にやっていけば、いつか何とかなると続けていました。

しかしある時、僕自身が「あの村」を楽しめていないことに気付いてしまって。予定されていたイベントをすべて終えた5月ごろ、撤退を決定。辞めることを村民の皆さんや土地の所有者・協力者に連絡しました。

 

次なる事業は「陰キャラ専用」の遊び紹介サービス

ー現在、新たなサービスに着手していると聞きしました。

「あそびカタン」という、誰でも自由に遊びを投稿できるウェブサービスを運営しています。僕は“あそびのクックパッド”と説明していますが、みんなが自作したオリジナルのあそびを、手順や必要なものなどと合わせて投稿できるサービスです。

ーあそびを投稿できるサービス。

あそびを紹介するサイトはこれまでにありましたが、海や山のアクティビティや観光スポットを紹介する「リア充向け」のものばかり。いままで、ジメジメした部屋で暇を潰そうとする「陰キャラ」が遊びを探せるサイトはありませんでした。

Googleで「あそび 3人」と検索しても、面白そうな遊びは出てこない。「あそびカタン」は、そんな陰キャラが暇を潰せる絶好のツールになる可能性を持っています。

ーほうほう。なぜ「陰キャラ」向けなのでしょうか?

 

 

部屋でできるあそびが多いのも理由の1つ。もう1つの理由として、大喜利のような文化が醸成されていることがあります。サービス最初期についたユーザーがインターネット的な笑いを好む人が多く、「あそび」とは呼べない酷いアイデアを笑い合う土壌があるんです。たとえばこれ、あそびカタンに登録されていた遊び「うんこうんこバイセコー」なんですが…。

 

 

ー友達の自転車でウンコを踏みつける…。しょうもなさすぎる!!!

でしょ(笑)。「あそびカタン」は2012年から存在しているサービスなのですが、しょうもない遊びを投稿して楽しむ独特の文化が完成していて(笑)。

遊びを探す反面、大喜利の回答を見るように回遊しながら大笑いできるのも「あそびカタン」の大きな魅力の1つであり「陰キャラ専用」となっている大きな要因です。

ー「うんこうんこバイセコー」のおかげで一目ぼれしました…。あそびカタンは今後、どう運営していくんですか?

「あの村」と比べ「あそびカタン」は物理的な抑制もなく、展開の仕方がたくさんある。コンテンツを効率よく回収できるので喜びを感じています。今後はリアルイベントで遊びを体験したり、YouTubeでコラボしたり…。さまざまな横展開を予定しています。

ー今後の活動が楽しみです…!

 

行動の源泉は「面白くないものが許せない」

ー「あの村」に「あそびカタン」。さまざまな事業を立ち上げている堀元さんですが、行動力の源泉はどこにあるのでしょうか。

僕のエゴとしてずっと持ち続けているのは「面白くないものが許せない」こと。「あの村」「あそびカタン」も従来の“消費するだけ”の娯楽に対するカウンタースピリットがありました。

面白いものは「これ面白いからみんなもやろうぜ!」、面白くないものがあったら「面白くない!」と言いたい。それが一番のエゴであり、原動力ですね。

ーここまで「面白い」を追求している人ってなかなかいませんよね。

企画やイベント・ブログの記事など、自分の「面白い」を分解し、知っていくことが好きなんです。ブログやイベントでの発信を通じて、周囲の反応があったときにも喜びを感じます。

また、自分の「面白い」を強く持っているからこそ、面白くないものが甘受されている社会が許せない。つまらないものへの「怒り」も、大きな原動力となっています。

ー今後粉砕していきたい「面白くないもの」はあるのでしょうか?

いま一番興味あるのは葬式ですね。葬式って、めっちゃ退屈で体力取られるじゃないですか。日本のGDPをめっちゃ下げている大きな要因だと思うんです。

ー(笑)

最近話題になった「テクノ法要」がありますが、あれは法要の禁忌をうまく攻めずに多くのひとに受け入れられました。法要や葬礼を破壊する“需要”は、ひそかに存在しているんです。

僕はもう一歩踏み込んだ、“つまらない葬式”を破壊したい。禁忌とされる領域に踏み込み、新たな文化を創造したいと思っています。

ーめっちゃ炎上しそう(笑)。でも、堀元さんの思想を一番体現した事業になりそうです。

禁忌や偏見、暗黙の了解…。この世界は内面化されすぎて退屈であることすら気づけないものが多く存在しています。葬式はその最たる例。僕は「あそびカタのプロ」として、つまらないものに声をあげ続けていきたい。炎上するかもしれませんが、共感者は必ず現れることを経験的に知っています。20代のうちに1度、僕の企画で大炎上したいですね(笑)。

 

「僕が」普通の遊びが退屈だったので、「僕が」楽しめる遊びを世間に増やそうと思った(堀元さんのブログより)

 

これこそが僕のエゴであり、事業のすべてです。これからも、自分の楽しいと思える世界を1つでも増やすために、突き進んでいきます。