吉田 瞳
神奈川県出身。2017年より70seeds編集部。旅と自然が好きです。

地場産業として鋳物が盛んなものづくりのまちと知られている埼玉県川口市に、「子どものよりよい遊びのために」というコンセプトを掲げる木のおもちゃ工房がある。「おもちゃのこまーむ」だ。シンプルな木のおもちゃを作り続けるあたたかい工房で代表を務めるのは小松和人さん。彼の実家も、川口で50年の歴史を持つ木型の町工場だ。

 

木型の職人としてキャリアをスタートさせた小松さん。現在では、宮城県女川町でのおもちゃ開発プロジェクトにも携わる。地域と人に寄り添い、木のおもちゃを作り続ける小松さんに、おもちゃづくりの想いについて伺った。

 
   

「遊びの柱」をつくる

 

「おもちゃのこまーむ」が作るのは、シンプルで明確な遊び方を「ひとつだけ」持つおもちゃ。

 

例えば、「どんぐりころころ」。坂道をかわいらしく歩く、どんぐり帽子の木のおもちゃ。

 

中にビー玉が入っていて、坂道を作ってあげるとトコトコと揺れながら坂道を下っていく。

   

こちらは、お馬に兵隊を乗せてお散歩ができるおもちゃ「トビー&ボコ」。

 
(写真:近衛騎兵をモチーフにしたお座り人形のトビーと、馬のボコ)
 

これらの、「おもちゃのこまーむ」が大切にしている考え方の根底にあるのが「遊びの柱」というものだ。ひとつだけの遊び方が備わったおもちゃは遊び手となる子どもに、自分自身がさらなる遊び方を考え、自然に遊びが発展していく体験を与えるのだ。

 

小松さんがこのような考え方を持つようになったのには、自身の子ども時代の経験が大きい。

 

「例えば、泥団子。水を砂に付けて泥を作ってこねるというだけのものなので、多機能な遊び方ができるものではないんですよね。でも、小さなものをたくさん作っておままごとの材料にしたり、お団子屋さんのごっこ遊びをしたり。大きな団子を作る競争することもあれば、『白砂をかけると、すごい硬くなるぜ』なんていう根も葉もない噂も流れたりと、色々な遊び方がありました」

   

シンプルな「練って丸める」という行為から生まれた泥団子ひとつとっても、どんどん応用させて遊びを発展させていく体験が、小松さんの子ども時代にはたくさんあった。

 

そんな経験があったからこそ、小松さん自身が大人になっておもちゃを作ろうとしたときに、多機能なものは作りたくなかったという。

   

「遊びとしては、本当に明確で分かりやすいものをひとつ準備してあげて、そこから手にした子どもが自分で発展させていってほしいんです。自分でできなくても、一緒に遊んでくれてる大人や兄弟や友達の一言のヒントによって、自然と広がっていくような単純さが、きっと子どもの遊びには必要なんじゃないかなと思っています」

     

自分で遊び方を考えていくことで、「自主性」「他との関係性」そして「そうぞう性」の3つが育まれるという。

 

自分がどうしたいのか考える力をつける「自主性」。人との関わり方を学ぶ「他との関係性」。そして、遊んだり、日々生きる中で、自分でストーリーを考えたり、物を積み上げたりすることができるようにするための「そうぞう性(想像・創造)」。

 

「子ども時代にこの体験が多ければ多いほど、大人になったときに、人と関わることを楽しめたり、自分の意見や想いをはっきり伝えられたり、創造して考えていけたりできる大人になっていけるのではないでしょうか。生きる力が育まれる重要な時期だと思うので、この3つをしっかり体験して大人になってほしいです」

   

地域に寄り添うおもちゃづくり

 

小松さんがものづくりを手掛ける場所は、川口市周辺だけにとどまらない。2016年からは宮城県女川町のおもちゃ工房「onagawa factory」のおもちゃ開発にも携わっている。

 

漁業のまちだった女川町は、東日本大震災の津波の影響で、漁港や水産加工施設も大きな被害を受けた。「魚が獲れないなら作ってしまえ!」という想いから生まれたのが、女川の”木”のおさかな「onagawa fish」。

   

onagawa fishは、魚が獲れるようになるまでの地元の方たちの収入原確保と、避難生活のストレス軽減を目的として生まれた。津波を免れた倉庫での作業を通じて、たそう。木工の素人だった地元の皆さんもいつしか磨きのスペシャリストになっていた。

 

だが時が経ち、最盛期には月に1000本以上販売していたonagawa fishも、いつしか月に100本以下の販売となってしまったという。

 

「こまーむの磨き作業を、下請けとして担当させてほしい」

 

onagawa factoryからそんな依頼を受けたことが、小松さんが女川に携わるきっかけとなった。

 

「onagawa factoryの代表・湯浅輝樹さんともお会いして、女川の現状を伺いました。当時は『大変だな』と、どこか遠い国の話のように感じていました。女川への視察にも行きましたが、『被災地を見にいく』というよりも『作業場を見にいく』という感覚の方が強かったですね」

女川の街並みを見学した小松さん。復興も進み、新しい堤防が立ち、街はきれいになっていた。一方で、女川の人口減少に危機感を感じたという。

 

「女川をはじめとした被災地に、『誰が見ても欲しい』と思える商品を作りたい。そこで人を育て、雇用を生む。そんな循環が必要だと感じました」

 

自分たちが関わることによって、onagawa factoryが違う形で、おもちゃを生み出せる存在になるのではないか。そんな想いで小松さんは昨年からonagawa factoryと一緒に活動をスタートした。

 

小松さんはonagawa factoryの新しいおもちゃのデザインを担当した。onagawa factoryの従業員の方と協力をして、サンプルを作成。2018年1月に発売開始予定だという。

 
(写真:小松さんがデザインを担当した「歯がため」。onagawa factoryの「磨きの技術」が存分に生かされている)
   

感動の原体験を次世代につなげたい

 

そんな小松さんの実家は、冒頭でも触れたとおり木型づくりの町工場。子どもの頃から、ものづくりの現場は身近なものだった。小松さんも実家で修行を積み、職人としての素地を作った。

 

当時作っていたのは、機械部品がほとんど。何のパーツか、どこに入っていくものなのかがわからない。職人である父に聞いても、納品した鋳物屋さんに聞いても、用途は誰も知らなかったという。

 

実家での修行はやりがいのあるものだったが、自分が作ったものが誰にどう使われているのかが見えない。それが小松さんにとっては苦しかった。「自分の仕事って本当に人の役に立っているの?」という疑問を抱え続けた。

   

そんなとき、小松さんに初めての子どもが生まれた。作ってあげたのは、木の三輪車。初めて作った木のおもちゃだった。

 

喜ぶ家族をはじめ、使う人やその周りの人たちの反応がダイレクトに伝わってきた。

 

「人の反応をダイレクトに感じることができるような、こういうものづくりがしたい、と思ったんです。もしかしたら、三輪車を作ったときには『おもちゃを作りたい』という思いは既に決まっていたのかもしれませんね」

 

「子どもたちのためにおもちゃづくりをしよう」。

 

そんな開業の決心をした23歳のとき、小松さんが気になっていたのが、児童虐待のニュースだった。

 

「幼少期に虐待をされた経験のある大人が虐待をしてしまうことが多いのではないか。悲しい経験が子ども時代に多いと、大人になったときに次世代につなげてしまう。だから、子ども時代の原体験を楽しいことで満たしてあげたいと思ったんです。自分が子ども時代に経験して楽しかった経験って、大人になったときに、きっと子どもに伝えたくなると思うので」

 

小松さんにとっての「子ども時代の楽しい体験」は絵本だったという。

 

男の子ばかり4人兄弟。兄弟で順番に1冊ずつ、両親の元に持っていって読んでもらい、寝る。そんな習慣があった。『泣いた赤おに』をはじめ、やなせたかしさんの『やさしいライオン』、『むくどりのゆめ』ウクライナの民謡『てぶくろ』、『三びきのやぎのがらがらどん』……。思い出深い絵本は多々ある。

 

小松さん自身も、本の読み聞かせをよくする父親になった。子どもが生まれたときには、大量に絵本を購入し、読み聞かせを多くしたという。子どもの頃、自分が好きだった絵本は全て子どもに読み聞かせた。

 

「感動の原体験を次の世代に連鎖させてることになるんだ、と思いました。おもちゃそのものの遊びだけじゃなくて、子どもたちにとって本当に楽しい、幸せだな、と思える、良い体験を提供したい。それは、絵本の読み聞かせの体験でも、周り人や親との関係性でも良いと思うんです。その、良い体験を次の世代につなげていきたい、という思いを込めて『子どものより良い遊びのために』という言葉をコンセプトに選びました」

   

2月には、「おもちゃのこまーむ」の見学スペースを作成する予定だ。メインのお客さんは子どもたち。子どもの頃から父の木型工房をはじめとしたものづくりの現場が身近にあった小松さん。騒音や臭いの問題から、都市部から工場が減っていく現状に危機感を抱いているという。

 

「ものづくりの次世代を育てるという意味でも、子どもたちに現場を見せてあげる環境づくりに取り組んでいきたいんです。子どもたちがいつでも入れるお店でもあり、工場見学もできる場にしていきたい。定期的にものづくりの経験ができるワークショップもやってみたいですね」

   

これからは赤べこやこけしなど地域の特性を生かした「伝統玩具」に関わるものづくりもしていきたい、と小松さんは語る。

 

「今の販売しているおもちゃに加えて、伝統玩具を現代風に生まれ変わらせたおもちゃも作ってみたいです。現在の赤べこやこけしは、お土産ものとしてしか販売ができていないと思います。でもおもちゃは使われてこそ。その技術を受け継いできた方たちと一緒に、伝統と技術と人から生まれるブランドを作って、日本の木のおもちゃを育てていきたいです」

   

【編集後記】

小松さんから伺うお話は、どれもこれも魅力的なものばかり。編集にはとても悩みました。

そんな「こまーむ」の木のおもちゃを、70seeds STOREでも取り扱っています。周りのお子さまに贈ってみては?

   
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