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スーパーはただの販売チャネルではなく、「想い」を伝える場―グローサリーストア FOOD&COMPANY

誰もが日常的に利用しているであろうスーパー。とりあえず自宅から最寄りのお店で食べたい物、必要な生活用品をさっと買って帰る。忙しい現代の人にとってはただそれまでの存在かもしれません。しかし、裏を返せばこういう見方も出来ないでしょうか―人々のライフスタイルの基盤となる物を販売する場所。

今回取材したFOOD&COMPANYは、そんなスーパーの存在が持つ重要性に気付き、日常から世界を変えたいという想いをもったメンバーが出会って生まれたグローサリーストア。ニューヨークのベーカーリーのようなお洒落な雰囲気に包まれた店舗は、下町っぽさのある学芸大学駅の商店街からほんの少し離れ、そっと住民に寄り添います。

当時まだ26歳と27歳だった若い夫婦が立ち上げたFOOD&COMPANY。海外で出会い、業界未経験の二人がなぜあえてグローサリーストアなのか?オーナーの白冰(バイ ビン)さんにインタビューしました。


 

夫婦二人三脚で悩み、立ち上げたグローサリーストア

 

―すごく素敵なお店ですね。FOOD&COMPANYについて教えてください

 

FOOD&COMPANYは私と妻の谷田部が2014年にオープンした、国内外のオーガニックのお野菜やこだわりの食材を販売する食料品店です。商品の数は約1,300点ほど。お肉や豆腐、チーズ、ワイン、お菓子、生活用品など全て取り扱っています。

 

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―広々としていて清潔感があります。

 

本当はもっと商品を置けるんですが、通路に関しては、ベビーカーがすれ違える広さを取っています。普通の食品店だとベビーカーって入りづらいと思うんですけど、ベビーカーでも躊躇なく入りやすく、買いやすい売り場づくりを意識しています。

 

―私たちが今座っているスペースも普通のスーパーでは見られないですよね。

 

ここはコミュニティスペースになっていて、店舗では商品を売る以外にもワークショップを通じて、自分たちが伝えたい想いを拡げる場としても活用しています。この前は鰹節を枯れ節からどうやって削るかのワークショップをしました。あとは、季節もので母の日とかクリスマスのリースを作ったりとか、食以外のこともやりますよ。

 

―もともとお二人で起業を考えていたんですか?

 

僕に関しては特に起業、ましてや食料品店なんて想像していませんでした。二人とも学生時代はニューヨークの大学へ留学していて、僕はファッション、彼女は国際開発の勉強をしていました。僕は卒業後、日本の大手アパレル会社に就職したんですが、ハードワークもあって同僚が鬱になっていく姿を見て、何のために働いているんだろう?と思い、仕事に対してもやりがいを感じられなくなりました。

 

―そうだったんですね。

 

ですが、当時妻を通してバングラデッシュのグラミン銀行を代表とするソーシャルビジネスを知り、商売と社会貢献を両立させるという形のビジネスに刺激を受け、自分もソーシャルビジネスを興したいと思い始めたんです。同時に、谷田部も社会の中のさまざまなアンバランスに漠然とした違和感を感じていて、ソーシャルビジネスに凄く興味を持っていたので、一緒に起業しようと決めました。

 

(左) 白 冰さん(右)奥様であり、取締役兼バイヤー谷田部 摩耶 さん

(写真/左・白 冰さん、右・奥様であり、取締役兼バイヤー谷田部 摩耶 さん)

 

―そもそもお二人の出逢いは何だったんですか?

 

二人ともニューヨークの別々の大学で違う専攻を取っていたのですが、共通の友人が紹介をしてくれました。私の方は最初から興味を持っていたのでデートに誘っていたのですが後ほど聞いた話によると妻はかなりしつこいと感じていたみたいです(笑)。でも共通の友人にはこのことは伝えず(笑)、彼女も徐々に興味を持ってくれてお付き合いすることになりました。

 

―(笑)。そして晴れてご結婚、ほぼ同時期に起業。心強いパートナーですね。

 

夫婦でビジネスをやるというのは24時間365日一緒にいることでもあります。良いことは辛いときにお互い支え合うことができるので信頼や絆が深まること、一方でうまくいかないときはプライベートにまで影響が出るのでバランスを取るのはかなり難しかったですね

 

―喧嘩もしたり・・・?

 

最初は毎日お店でも家でも喧嘩をしていましたが、徐々に社内での棲み分けや仕事の仕方を工夫していって今では比較的安定していますね。

 

 

日常の当たり前を大切にする豊かさ

 

―数あるビジネスのなかでなぜグローサリーストアを?

 

実際どういうソーシャルビジネスを始めようか検討したとき、最初は発展途上国支援みたいなものを考えていたんですけど、特定の社会問題を解決したいというのは二人とも特になくて。発展途上国の彼らは物質的には貧しいけど、家族の繋がりが強かったり、ご近所付き合いとかもあって、精神的に貧しいわけじゃない。じゃあ僕たちが目指したい豊かな社会って何だろうと考えました。結構悩んで、世界、国内を旅しながら2年間くらい悩みましたね。

 

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―その旅にいいヒントがあったんですか?

 

はい。特に幸福度が高いと言われている北欧へ旅行に行った時、街自体も古いし、東京みたいに娯楽がたくさんある街じゃないんですけど、みんな夕方の5時になったら公園で寝そべって本読んだりとか、友人や家族と食卓を囲んだり、歩き方ひとつとってもみんな生活や時間に余裕があるなと感じましたね。そういう日常の当たり前を大切にする価値観や考え方を持つことが僕たちの世代の豊かさなんじゃないかなと思いました。

 

―日常の当たり前、ですか。

 

人々にとって一番身近な日常って何かを考えたとき、「食」と「小売」にたどり着きました。そのなかで、オーガニックが持つ思想は我々が考えている価値観と凄く似ていたんです。

 

―それはどんな価値観なんですか?

 

単に、栽培方法や認証制度ということではなく、目の前のコト、人、物や自然と丁寧に向き合うこと、大切にすることです。結果、オーガニック食品を扱うお店ということで、みなさんの生活に欠かせないスーパーがいいんじゃないのということで話が始まりました。

 

 

“スーパー”最強説

 

―確かに「食」は身近ですね。私もスーパーはほぼ毎日通っています。

 

私たちは、日常から世界を変えたいという想いがあり、人々の日常に根付いている身近な「食」を通じて、社会を変えたいんです。生活が変わるようなきっかけとか、何か新しい発見があるようなお店にしたいというのがあって。

 

―はい。

 

とは言ってもスーパーじゃないですか。でも考えてみたら食文化の全てを扱っていて、伝えられることって結構たくさんあるはずなのに、誰もやってない。ぶつかる基準はいかに安いか・・・それってすごく寂しいなって思います。

 

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―ここのコミュニティスペースもそのきっかけづくりのひとつですね。

 

はい。食の文化とか、生産者の想いとか、僕たちも完全に伝えられるわけじゃないけど、少しでも伝えられると、買う人も思考して食べるし、その違いがわかると食に興味を持ったり、自分の健康に興味を持つようになったり。ゆくゆくその人のライフスタイルを変えるようなきっかけになれればいいなと思います。

 

―それ以前にも「食」に携わる仕事をしていたんですか?

 

いえ、二人ともほぼ皆無でしたね。僕はナチュラルハウス、谷田部は紀伊国屋で半年バイトしていただけなのであとは手探りですね(笑)。

 

―畑違いのビジネスに不安はありませんでしたか?

 

商品を売るということでは、以前の職場である洋服も今の食品も基本的には同じです。野菜に賞味期限があるように、洋服もシーズンや流行りがあるので、そういう意味では考え方が似ていたので、そこまで抵抗はありませんでしたね。あとは、とにかく色んな店舗に足を運んで、どういう商品を取り扱っているのかなどはかなり見て回りました。

 

 

オーガニックを特別なものでなくすために

 

―立地も興味深いです。なぜ学芸大学なんですか?

 

日本のオーガニックの捉え方に疑問があったからです。数年前、日本でもオーガニックという考え方自体が流行りましたが、青山や表参道を中心にファッションの一部として消費されていた感じはしましたね。「青山でオーガニックの野菜買っている私いい感じ」、みたいな(笑)。その捉え方やイメージを覆したいのもあって、少し離れた学芸大学に作りました。

 

―ファッションや特別なものではない、と。

 

普通の人たちが普通の場所で買える場所を作りたかったんです。青山に店舗を作ってしまうと、週末にしか買いに行かないお洒落なお野菜で、ちょっと特別なものみたいになってしまうけど、本来のオーガニックというのはそういうものではないので。例えばニューヨークなんかでは、オーガニックはハードルが高いものではないし、お洒落だから買うというよりは、みんな生活の一部として買っている。もちろん、お洒落で買って楽しいという感覚も重要なんですが、オーガニックがマーケティングの言葉として利用されてしまう感じがして、それはなんか違うなと思います。

 

“F.L.O.S.S.”(Fresh Local Organic Seasonal Sustainable)の理念を軸に食材選定を行う。

“F.L.O.S.S.”(Fresh, Local, Organic, Seasonal, Sustainable)の理念を軸に食材選定を行う。

 

-耳が痛い話です(笑)。

 

でも実際、僕たちもこう言いながら毎日オーガニックなものを食べられているわけじゃないんですよ。どうしても近くのラーメン屋さんに行かないともう間に合わないとかいうときもあるし。特に東京に住んでいたらしょうがない時もあると思うんですよね。食べられる時は食べればいいし、食べられない時はそれでいいし、僕たちも結構ゆるいスタンスですよ(笑)。楽しく摂れないと辛くなっちゃいますしね。

 

―いち消費者としては安心しますね。

 

東京に僕たちのようなお店があるというのはある意味では中途半端だとよく言ってるんです。でも全くないよりはましだよね、というくらい。やらないよりはまし、という発想から僕たちは徐々に人の生活を変えていけるような存在になりたいと思っています。なので、二人ともオーガニック信者というわけではないですよ。

 

―より「日常」にしていくための課題は何ですか?

 

課題としては価格と場所ですね。価格に関しては最大の克服ポイントだと思います。オーガニックを広めていくにあたって、現実的には価格はお客様が買うか買わないかを決定づける大きな要因のひとつなので、そこのハードルを下げないといけないと思います。もちろん、生産者の利益を圧迫しないかたちでやるっていうのは大前提で。FOOD&COMPANYとして、今後サプライチェーンを作るなど、ビジネス的なところを担える存在になっていきたいと考えています。

 

―場所というのは?

 

まだ手軽に買える場所にない、ということです。今年イオンさんがフランスの「ビオセボン」という小型のオーガニックストアを日本に上陸させるんですよ。そのお店が今年12月にできて、2020年までに東京に30店舗作るって言ってました。大手が同じ畑に入ってくるのは脅威ではありつつ、逆に一気に拡がるチャンスでもあって。業界全体の底上げ、盛り上がりにつながればいいなと思います。