70seedsは4月24日、3周年を記念してイベントを開催しました。

これまで多くの社会課題に取り組む方々のストーリーを紹介してきた70Seeds。今回は「地域の『おいしい!』魅力の広めかた」と題して、「食」で地域の課題に取り組むゲストを招いてトークセッションを行いました。

ゲストは、地元新潟の食材の魅力を伝える「寿々瀧」代表の鈴木将(すずき・しょう)さんと、日本全国の薬草を探し歩き、現代の生活に合わせた取り入れ方を提案する「{tabel}」代表の新田理恵(にった・りえ)さん。

直接出会うのは初めて、というおふたりとその「食」。会場にどんな化学反応を起こしたのでしょうか。満員御礼となったトークセッションとイベントの様子を紹介します!

庄司 智昭
編集者 / ライター|東京と秋田の2拠点生活|inquireに所属|関心領域:ローカル、テクノロジー、メンタルヘルス|「おきてがみ( note.mu/okitegamilocal )」というローカルマガジンを始めました

「信頼」のツボはどこにある? —地方で商品を売るためのヒント

新潟県長岡市で飲食店を経営する鈴木将さん。新潟の郷土料理や地場ものを、カジュアルなレストランやオシャレな加工品として販売することで、食を通じた地域の魅力を伝えています。そんな鈴木さんが地元で食を通じた活動を始めたのは、父親の影響でした。

 

鈴木将さん(以下、鈴木):長岡で飲食店を営んでいた父親の影響で料理の道に入りました。高校卒業後、東京・横浜などのレストランで10年間修行。その後、全国の美味しい料理を長岡で紹介したい思いからレストランを開業しました。

 

開業時点でのモチベーションは「全国の美味しいものを長岡へ届けたい」。しかし、ちょっとした出来事が鈴木さんの考え方に変化をもたらします。

 

鈴木:普段通り長岡市内をドライブしているとき、畑が一面に広がっている光景を目にしたんです。「ああ、地元なのにこんなに綺麗な風景があったのか」。地元の風景にもかかわらず、感動している自分がいて。外の世界に目が向いていて、地元のことをあまり見ることができていなかったのではないかと思ったんです。

 

全国の食を広めるよりもまず、必要なことがあるのではないか。鈴木さんは当初のコンセプトを一新し、地元に循環を起こす「地域商社」になることを決断します。

 

それは地域ならではの食材と食文化が失われつつある現状。
その地域で育ち、残されてきた食文化は、
とても魅力的で大切な価値あるもののはずなのに。
(中略)
市民が食を愛し楽しむ場があってこそ、地域の食が活きてくる。
これだ、と思いました。
(Campfire:新潟発!LOCAL FAST FOOD誕生!地域食材をもっと身近に。より)

 

 

鈴木さんの思いは少しづずつ全国に広がっています。70seeds STOREでも販売しているSHO SUZUKIのオリジナルソースは、1番の人気商品。山古志地域の特産品「かぐら南蛮」や長岡の伝統野菜「巾着茄子」など、新潟県の豊かな自然に育まれた食材を堪能できるのが好評となっています。

 

しかし、地元の食材を使用するなかで「地方ならではの難しさも感じていた」とも。

 

鈴木:新潟県は目立った観光地がなく、観光客があまり多くありません。なので、商品を売るためには観光客よりも地元民をターゲットにする必要がありました。

 

地元民に手にとってもらうためには、商品と人びととの「信頼関係」が肝要。商品のデザインをオシャレすぎないようにしたり、生産者のもとへ何度も足を運ぶことで、とにかく地域の人に喜んでもらうことを心掛けました。

 

薬草の魅力を伝えたい、身近で働きすぎで体調を崩している方の力になりたいという思いから薬草茶のブランド{tabel}を始めた新田理恵さんも、地域で活動していくうえで「信頼関係が重要」と語ります。

 

新田理恵さん(以下、新田):日本の地方には、人と人とをつなげてくれるキーパーソンが必ずいます。キーパーソンはコミュニケーションのやり取りが難しいケースがありますが、一度信頼関係が生まれてしまえば地域での活動が楽になる。新しい地域と関わるときは、誰と最初に接点を持つのかが非常に重要になります。

 

確固たる「意志」が事業をスケールさせる

 

引き続き、トークセッションでは鈴木さんと新田さんの事業についてお話を伺った。

 

お二人の共通点は「地方」で「飲食」を取り扱っていること。近年、広告やSNSの効果で人びとの「食」の嗜好は変化しやすい。そんな状況下で、地方で飲食を取り扱う難しさ・要諦はなにか、お聞きしました。

 

鈴木:飲食店を持つうえで一番大事なのは自分のテーマを持つこと。飲食店に意思がないと、流行り廃りの激しい業界で疲弊していくだけです。

 

パンケーキやクレープなど、一過性の爆発力に頼るようでは長続きしません。しっかりと自分たちの「できること」と「やりたいこと」を見据え、泥臭く魅力を伝える努力をしていかなければ、やっていけないでしょう。

 

新田:私も鈴木さんと同じですね。ブレない軸さえあれば、表層的な流行に左右されることはないと思っています。自分のできることをやっていれば、自然と社会の要請が見えてくる。

 

自分の出番だと感じたときに即座に反応するため、本質的な問いを自らに投げかけるようにしていくことは非常に大事なことだと思っています。

 

自らに本質的な問いを投げ続ける。簡単なように思われるかもしれませんが、「この事業が本当に必要なのか?」常に問いを立てられず、ただやっているだけになってしまう経営者は、日本には多数存在します。

 

それでも、お二人の挑戦は長い時間をかけて地方で受け入れられ、身を結んできた。新田さんは、実際に起こった嬉しかったこととして、以下のようなエピソードを語ってくれました。

 

新田:{tabel}で取り扱っている蓮の葉茶は熊本県八代地方のものを使用しているのですが、もともと八代地方は畳に用いる「い草」の名産地。地元民に話を聞いても、い草か「ここには何もない」という話ばかりを聞かされていました。

 

ですが、tabelがこれまで注目していなかった茶葉を販売することで、八代の方々にも「地元にこんないいものがあったのか」と気づきがあったみたいで。

 

地元の雑貨屋さんで取り扱っていただいたり、結婚式の引き出物として採用されたり…少しづつ土地に馴染んでいくようになったんです。

 

地元の人びとが魅力を再発見し、商品を愛してくれるようになったのは嬉しかったですね。

 

tabelの商品紹介はこちら

 

最後に、おふたりに今後の展望を聞きました。

 

鈴木:これからスケールしていくなかで、「地域の食品を全国に届ける」ビジネスモデルを確立していきたいですね。そして、多くの若者のお手本になるようなスキームを組み立てていきたいです。

 

地域に根ざし、しっかりと「作る」ことに注力する。シンプルですが、地域の豊かさを届け、継承する仕組みを構築するのが僕の役目だと思っています。

 

新田:3年ほど事業を進めるなかで、「薬草」というミニマムな業界が広がりを見せていることを感じています。

 

これからも、意外性のあるコラボレーションで薬草のまだ見ぬ一面を引き出したい。食品に限らず、学問やデザインなど、薬草の概念を拡張するアクションを起こしていきます。

 

SHO SUZUKIを活用した料理を堪能

 

お二人の熱い想いの余韻をそのままに、イベントの後半は交流会がおこなわれました。鈴木さん、新田さんのプロダクトはもちろん、新潟県の銘酒「よしのがわ」も用意。参加者同士の交流を楽しみました。

 

70seedsでは、今後もオフィスを利用したリアルイベントを開催する予定です。もしきになるトピックがありましたら、ぜひ足を運んでみてくださいね!

 

(構成:庄司智昭) (編集:半蔵門太郎)