藤田 郁
京都出身。IT企業、戦略PR会社を経て、2016年より70seeds編集部に所属。主なテーマは、地域、食、女性の生き方、ものづくり。"今"を生きる人たちのワクワクする取り組みを追っています。

3月中旬、東京で開催されていたのは、ちょっと変わった「海外旅行」。

 

…えっ?都内なのに海外!?その旅行の正体、それは日帰りで世界の国を旅行した気分を味わえる「LunchTrip」というイベント。今回の旅は、飛行機に乗って二時間半のミャンマーへ!(※イベントレポートはこちら

 

様々な国の「食」を入口に、その国の出身者や詳しい人から話を聞く。それを通じて国の文化について学び、考えるということがコンセプトのこのイベント。飛行機に見立て、スタッフは”クルー”、参加者は”パッセンジャー”と呼ぶなど、遊び心満載です。2008年に始まり、これまで75もの国や地域、合計100回以上の便が”運航”しているんだとか。

 

共同代表として主催しているのは、学生時代から旅が大好きで、トラベルブロガーとしても活躍中の松澤亜美さん。「外国は怖い」という漠然としたイメージが広がる今、ぜひ触れてほしいメッセージが詰まったインタビューになりました。

 

 


 

知らないって恐い…異文化理解の重要性

‐今回初めて参加しましたが、飛行機に見立てるなど、ユニークで楽しかったです!‟クルー”って良いですね。

ありがとうございます。実は、私も含め、クルーはみんなそれぞれ別の仕事を持ってパラレルキャリアとして携わっている人ばかりなんです。

私たちが大事にしている多様性を伝えていきたい”という想いに賛同してくれた人たちが、クルーとして活躍しています。

保育園でLunchTripを開催する保育園便も、最近お子さんができたクルーが中心で進めてくれていたり、仕事でブラジルオリンピックに行ったクルーが、ブラジル便をチーフクルーとして進めたり。

クルーが広がることによって、ターゲットの幅が広がるのは面白いし嬉しい。

‐でもそれって大変じゃないですか?

本職の仕事じゃないからこそ、みんな楽しんでやってます。利益以上に得られるストーリーとか人との出会い、その国のことをもっと知りたいという知識欲や好奇心を追いかけることが私たちにとっての原動力なんで。

その国について知りたいし、こんな国や生活があるんだよ、ということを知ってもらって日本で多様性が認められるようになっていったらいいなと思っています。

‐松澤さんがLunchTrip立ち上げにあたって、そのように思った経緯を聞かせてください。

一番はじめのきっかけが、アメリカへ交換留学に行ったときです。

アメリカでも日本人やアジア人に対していつも図書館(アメリカの大学では、図書館で勉強するのが一般的)の前にいるひとたち、のような小さな偏見ってあるし、そもそも興味がない人たちも多くて。

もっと日本のことを知って欲しいと思って、浴衣を着て、自分が住んでいた学生寮で手巻き寿司パーティをやったんです。日本の風習について紙芝居形式で話しながら。

‐反応はどうでしたか?

複数回やりましたが、大ウケでした。食べてる間ってみんな興味を持って聞いてくれるんですよ。

立食パーティをドーンと開くとそれだけで終わっちゃうんですけど、美味しく食べながら話を聞くといい記憶も残る。

食べるプラス話しをするきっかけを作ったらもっとうまくいくなと。

‐今のLunchTripの原型ですね。

はい。そのあと、シリコンバレーでインターンしたんですが、その時に住んでた近くで殺人事件があって。

当時、9.11のテロ事件から5年後経ったあたりでした。犯人は被害者がイスラム教徒だと思ったから殺したみたいなんですが…被害者は実際にはシーク派だったんです。

それに、イスラム教徒だというだけで殺されたのは、「イスラム教は悪だ」という偏った解釈があるから。知らない、誤解…それで殺人が起こるって恐ろしいことですよね。

‐それはとてもショッキングな体験でしたね。

留学行く前はアメリカへの憧れみたいなのがあって。でも実際行ったら憧れではなくなって、ダイバーシティの色んな問題とか目の当たりして、リアルにこんなこと起きるんだと。

でもそれはアメリカに限ったことではなく、日本の国際化が進むにあたって、日本でも同じように感じることが増えてくると思います。人も流動化してるし、異文化理解は今後の日本にますます必要なんです。

 

壁をこえて人を笑顔にする「食」の可能性

‐そのツールであり、着想のきっかけにもなった「食」にフォーカスした理由は?

インターン後、新大久保にある7割の子どもたちが外国ルーツを持つ小学校でボランティアをしたんです。

でも、日本の文化に同化させるため、受け入れられる為にみんな自分の国の文化を否定しているように感じました

「私スペイン語なんかしゃべれないよ」とか言ったり。学校の主要言語が日本語だから実際に忘れてるかもしれないけど、親とは話してるだろうし。

でもそれを出さない方が、みんなと仲良くなれると思ってるからかな。ダイバーシティを色々見てきた私としては、文化を封鎖するようで勿体ないと思ったんです。

そんななか、一度色んな国の料理を作る機会があって、普段タイ語を人前で話したことない子が、タイの伝統料理の青パパイヤサラダをすごく生き生きと作ってて。

「これね、お母さんと家で作るの」とか言って。食は人が平等になるし、素直に美味しいときって勝手に笑顔になっちゃう。食べ物に関してはどの国が偉いとか悪いとかないですよね。これは人をつなぐ大きな可能性になるなと。

‐交換留学中の手巻き寿司パーティにもつながりますね。

そうですね。大学卒業後は会社員になったんですけど、働いていても勉強し続ける仕組みが欲しいなと思ったのと、旅して食べることが本当に大好きだし、旅した人たちからも話を聞きたいなと思っていました。

これらを結び付けて何かできたらいいなと思ってできたのがLunchTripです。

‐松澤さんから見て、現在の日本人の多様性についてどう思いますか?

観光庁の依頼で、若い人に旅を促進する講演をする機会があるんですが、去年訪問した夜間高校の学生に「行ってみたい国ありますか?」て聞いてみたら、半分以上が海外に別に行きたくないって。

びっくりですよね。みんな口を揃えて言うのは、「だって海外行ったら危ないでしょ」って。

‐私も留学経験者なので松澤さんと同意見ですが、そんなものですか。

それが多分日本の現実。ニュースに出てくる海外の情報は基本的には危ない、何かが起こったときだったりするので、その印象が強くなりますよね。

最近も全然海外行ってない友達にお勧めのリゾートを聞かれて、マレーシアを提案したら、「この前金正男の事件があったから怖い」って。

あれは別にマレーシアが悪いわけじゃないけど、一気にネガティブなイメージを持たれますよね。

 

視聴者ではなく、当事者になって欲しい

‐LunchTripではそういった部分も解消していきたいと。

そうですね。私たちは、なるべくワークショップでパッセンジャーに当事者になって欲しいと思ってます。新聞やテレビのニュースを見ると「大変そう」で終わっちゃう。

でもそうじゃなくて、もしその場で私たちが育ってたら、もしここへ足を運ぶなら…と旅行を想像するだけでも全然違って、一気に興味が広がる。

行くならその国のどこへ行こう?どんな生活してるんだろう?って。

‐なるほど、想像することが大事なんですね。

もちろん、危険な地域にはあえて行くべきではないし、自分たちの生活が大事なのは誰でもそう。

でも、考え方として、半径3メートル以内のことだけをちゃんとしてればいいのかというと、私はそうじゃないと思っていて。それ以上に外に手を伸ばして興味を持つことが、結果的に自分の生活や社会全体を豊かにすると思うんです。

‐でも世界的にもアメリカといい、ヨーロッパといい、どんどん外国人排斥に傾いた思想になってます…。

そうなんですよね。多様性、多様性と言いながらこの活動を10年やっていて、広がったと思う反面、世間的には逆の流れになってるなと感じることもあります。

一筋縄ではいかないというか。新たなクルーが入ったり、保育園でもやるようになったり、東京だけじゃなくて大阪でも定期的に開催してくれるクルーが加わったり、活動自体は拡大できている。

でも、各国の動きを見ると、より異質な物を排斥する流れで…うーん。

‐そんな今だからこそ必要な活動に感じます。

極端なことを言うと、この活動が必要なくなることが理想ですかね。それくらい日本にも多様性ができていて。だとしても、普通に楽しいから続けるかもしれないですけど(笑)。

‐なかでも、これは参加者の心を動かした!っていう回は?

特に意義があったなと思うのは、シリア便。2013年、アレッポが激戦地になってぐちゃぐちゃになり始めてた頃でした。シリアの観光地や魅力について話せる学者さん、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の方をガイドに呼んで、トルコに避難中のシリアの学生とスカイプでつないで話を聞きました。

‐それはすごいですね…

会場には50~60人ぐらいいて、大きいスクリーンでつないで。「シリアからトルコに逃げてきた。でも、僕は難民になりたくない」って。

なんでかって言うと、「難民ってただ何もできない人と一緒でしょ?難民じゃなくて国のために力を発揮したいのに」って。

彼はアレッポ大学でコンピューターサイエンスを主席で卒業してる誇りもあって。じゃあ何ができるんだろうか、というのをワークショップでやりました。

‐ニュースを見るだけでは体験できないことですね。

ニュースのなかだけだと、シリアが大変なことになっててまた米軍がわーわーやってる、そんなことくらい。

大半の参加者と歳の近い20代の若者が、会場にいるみんなを見て、難民になりたくないなんて言葉、普通は直接聞けない。生の声や表情が見えて、すごく胸にくるものがありました。

ランチを食べながらという場ではあったけど、メッセージ性が強かったので印象に残ってますね。ちょっと真面目な話になっちゃいましたけど、基本的には楽しい便が多いです。

 

レールから外れて見えてきた人生観

‐テーマは「旅」ですもんね。松澤さんの旅にまつわる経歴も気になります。個人でトラベルブロガーとしてもご活躍なんですね。

はい。その都度都度、何かしら会社員として働きつつ、LunchTripもやりつつ、ブロガーとしても。この間は観光局さんからの依頼でスイスに行ってきました。

‐いいなぁ、うらやましい!ブロガーとしての仕事は目指していた?

いえいえ。LunchTripは働きながら活動していたところに、一番最初に勤めていた会社を辞め、転職先も決まってたんですが、結局そこには入社せず一回無職になったんです。

そのとき、初めて自分のなかでレールを外れました。大学行って留学してインターンして、すぐ働き始めて…それまで一度も隙間がなかったので当時はすごく恥ずかしかった。

でも仕事ないし、行きたかったパリのファッション系の大学へ短期留学しました。その授業で、道行く人に声をかけてストリートスナップを撮影したんですが、すごく楽しかったんです。

マレという、下北沢・代官山みたいなセレクトショップや古着屋が多くある場所で。これ、いい!と思ってブログにあげてたらファッションビジネス専門紙をはじめに、仕事しませんか?ってちょこちょこ色んなところから。

‐トラベルブロガー一本でやっていこうというのはなかったんですか?

考えたことはあるんですが、それとともに企業で作り出すっていう作業も好きで。それは、以前コミュニティーマネジャーとして勤めていたPinterestでやっていたお仕事みたいに、まだ日本ではあまり有名じゃないものを、人のつながりやコミュニティの力を使って広めていく過程も好きなんです。

‐ほぼ認知ゼロのものにはじめ取り組むときって正直、しんどくないですか?

私の、悪く言えば‟どうにでもなる精神”、良く言えばフレキシビリティみたいなところがあるからですかね(笑)。

‐でも、それもこれまで旅を通して色んな世界を見てきた松澤さんの人生観というか。明るいお人柄や、背伸びしていないところも素敵だと思います。

私もそうなりがちなんですけど、目の前の生活で悩んでる同年代の女子が多いんですよね。

私たち世代の間でも「タラレバ娘」が話題になりましたが、この生き方しかないって思ってマインドが固くなっちゃう。

仕事や結婚に限らず、目の前に問題があるとそれしか見えなくなっちゃうじゃないですか。私もそうですが。

‐はい。

でも、色んなところを旅して世界を見てきて、「私、大丈夫なんだ」って思えるようになったんです。世界にはこんな働き方をしてる人がいる、私にはこういう仕事が合うのかな、とか。

例えば、大学卒業後、仕事してない数カ月とか不安じゃない?でも世界に行ったら何も珍しいことじゃない。むしろ、卒業後に就職活動するのが一般的なんです。

それは、外を見たことがあるかどうかの違いで。旅で出会った人から学んだことを伝えるということも今後やっていきたいと思います。

 

世界のアラサー女性から学んだことを伝えたい

‐では、今後考えていることについて是非教えてください。

先ほども少し話にあがったように、旅で学んだことって旅先ではもちろん、日常にもプラスを生むと思ってるので、その価値をうまく発信できるような文章を書き続けたいと思っています。最終的には本を書くことが私の夢ですね。

‐具体的にはどのような内容を?

先ほどお話ししたとおり、アラサー女性には悩んでいる人が多い。今まで横並びで過ごしてきた同級生たちの生活が多様化していくのを感じとる年代じゃないですか。

そんななか、「ネクストステップ」を自分の意志で作らないといけない。転職、移住、結婚、子育て…。これを、日本の同世代ベースだけではなく、海外のアラサーたちはどういう選択をしてきたのか、もっと広い視点で日本の女性にも伝えていきたいなと

私が旅先でもたくさん聞いてきた、彼女たちの「ネクストステップ」を共有することにより、無意識の固定概念に気付き、道が開けるんじゃないかそんなふうに少しでもお役に立てればいいなと思っています。

‐最後に、松澤さんにとって”旅”とは?

一番の遊びであり、ライフワーク旅に行ける時間って永遠じゃなくて、1~2週間とか、長くて一ヶ月とか、凝縮しないといけない。

そのなかでの時間の使い方って、自分が何を大切にしているかとか、自分を表していると思っていて。私は旅先でストリートスナップを撮ったり、食べたり、人と会うことが好きで、ブランドショッピングにはあまり興味がなくて。

自分のことも結果的によく分かって見つめ直すことになるし、大事な人と旅に行ったら、こういうのに興味あるんだ、いつもこんなこと見てるんだって発見したり。

 


 

10年間、パラレルキャリアでLunchTripを続けて来られたのは「多様性を伝えていきたい」、その想いだけに留まりません。その根源にあるのは、松澤さんにとっての一番の”遊び”であり、自分をつくる大事な一部である”旅”の存在。自分は何を選択し、大切にするのか?進路や仕事で悩んだときも、自分のことを見つめ直し、導いてくれたのが旅をとおして見えてきた新しい価値観でした。みなさんも、もっと旅に出て広い世界を見てみませんか?

 

◆LunchTrip 公式ホームページ:http://lunch-trip.com/

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