皆さんは小さい頃、どのような仕事に就きたいと思っていたでしょうか?そして今、その思いは実現しているでしょうか?



ある少年は、学生時代に手にしたギターが好きすぎて、外出するときもトイレに行くときもギターを抱えたまま行動していたそうです。その少年はバンドを組み、メジャーデビューを果たし、名門ギターメーカーとの専属契約を果たすまでになりました。



そんな自分を「イタいでしょ?」と笑うのは、メジャーデビュー13年目を迎えるロックバンド、フジファブリックのヴォーカル・ギターの山内総一郎さん。「ギターを抱えたまま生活するにはどうすればいいのか」をずっと考えていたという山内さんのギターに対する思いを、赤裸々に語ってもらいました。

橋場 了吾
1975年、北海道札幌市生まれ。 2008年、株式会社アールアンドアールを設立。音楽・観光を中心にさまざまなインタビュー取材・ライティングを手掛ける。 音楽情報WEBマガジン「REAL MUSIC NAKED」編集長、アコースティック音楽イベント「REAL MUSIC VILLAGE」主宰。

初めてギターを弾いたときの感動が今も続いている

‐昨年末には老舗有名ギターメーカー・フェンダー社と専属契約を結び、オリジナルモデルも発売されました。ギタリストとしては夢のような出来事ですよね。

かの有名なギタリストたち…エリック・クラプトンやジミー・ペイジと並んで紹介されているってことです、レベルは全然違うんですけど(笑)。

ストラストキャスターのオリジナルモデルも発売になったんですが、日本の生産工場に通って詳細を詰めました。これは、フェンダーの歴史史上初めてのことだそうです。

‐それは凄いですね!

日本で作ることによってコストダウンもできますし、時間の短縮にもなりました。パーツはアメリカから上位モデルのカスタムショップ製の部品を輸入して、良い音のギターが完成しました。

楽器は値段相応の音がするといいますが、このギターはベラボーな値段にしたくなかったんですよね。

自分もギターを始めたときに、リーズナブルなギターを手に入れてそれを弾いたときの感動が今も続いているので、とにかく手に取ってもらいたいという気持ちでこれ以上下げられないという価格で設定しました。

‐そもそも山内さんがギターを弾くきっかけはどのようなものだったのですか?

高校入学のときくらいですかね。父がコピーバンドをやっていたので、いろいろな楽器が家にあったんです。でも、弾こうとは全然思ってなかったんですよね。

それがある日、押入れの奥にあったギターを引っ張り出してきて、父にチューニングを教えてもらって”G”のコードを弾いたんです。そのときに衝撃が走りまして…

‐もういきなりビビビッと来たわけですね。

本当、そのまま来てるんですよ、ここまで。周りからは『イタいやつ』と思われるかもしれないんですけど(笑)、いまだにずっとギターを弾いていたいんですよね。

なので、ギターを弾く生活を続けるためには何をしたらいいのかを考えていたんです。もちろん、うまくいくことばかりではないんですが、今振り返ってみるとそういう生き方をしてきたなと思いますね。

‐人生の逆算ですか。

思い通りではないですけどね。今のところ、ある程度好きな時にギターが弾けたり、好きなギターを販売させてもらったり…これを継続的にやっていきたいですね。

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‐ギターにはストラトキャスターのほかに、テレキャスターやレスポールなど違う形のものがありますが。

最初に手にしたギターがストラトだったというのは大きいですね。ヘッドに“魂”とか書いちゃうくらい、ストラトへの想いを持っちゃったんです(笑)。

それで体の一部になったという感じですかね。体の一部にしようと思って生活してましたから。

トイレに入るときも、外に出るときもギターを持って…だからイタいんですよ、本当(笑)。今は分別がついたのでやめていますけど、気持ち的には今でもそうしたいくらいです。

‐ストラト以外への浮気は考えられないですか?

あまり分け隔てなく考えているんですけど、気づいたらストラトばかり持っているんですよね…。

新しいテレキャスターも買いましたしステージでも弾いているんですけど、いつの間にかストラトに持ち替えている…耳や体が反応しちゃうんです。

自分たちが作って来た曲とともにバンドの歴史に刻まれてきたのが、ストラトというギターなんだと思います。大好きなギターですね。

 

新たな試みをきっかけに視野を広げた活動ができる気がしている

‐2017年最初の作品となる『カンヌの休日 feat.山田孝之』が2月15日にリリースになります。人気俳優である山田孝之さんとの接点はあったんですか?

知り合いのミュージシャンから話は聞いていました。普段は凄い静かな人だって(笑)。

ドキュメンタリードラマ『山田孝之のカンヌ映画祭』のオープニングテーマのオファーをいただいて、曲は作ったんですけどせっかくなので作品の一部になれればと思って、山田さんに『歌ってください!』と逆オファーを出しました。

‐アーティスト写真も4人ですもんね。実際、山田さんとのレコーディングはいかがでしたか?

(写真を見ながら)山田さんはね…オーラが違いますよ。俳優の方はやっぱり雰囲気が凄いです。全身を使って表現されているので、隅々の神経までコントロールが効いていますよね。いわゆる『スイッチが入る』という感じは垣間見えました。

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‐それは刺激的ですね。

レコーディングのときも、耳が良いんですよ。最初僕が歌ったテイクを聴いてもらってからレコーディングしたんですが、少しずつ僕の歌に寄っていくんですよね。

その場の環境に自分を適合させる力が凄い…そこで見えてくる個性が、一流の役者さんの違いなんだなと思いました。

‐2017年のフジファブリックは、どのような1年にしていきたいと考えていますか?

フィーチャリングというスタイルも初めての試みでしたし、コラボレーション自体あまりやって来なかったバンドなので、『カンヌの休日 feat.山田孝之』をきっかけに視野を広げていけるような気がしています。

ずっと突っ走っているバンドなので、『カンヌの休日 feat.山田孝之』のような勢いのある1年にしていきたいと思います。


【取材を終えて】

山内さんは、まさに“ギター少年がそのまま大人になった”存在です。今でもずっとギターを抱えていたいという欲求にかられ、先日も知人と朝までギターについて語り合ったといいます。

 

そんな山内さんがセンターに立つフジファブリックというバンドからは、「新しさ」だけではなく「懐かしさ」や「暖かさ」を感じます。それはインタビュー翌日に行われたライブでも同じで、ときに激しく、ときに優しくギターを奏でる山内さんがギターを弾いているときの豊かな表情たるや、本当に幸せなんだなと感じました。

 

最新作では山田孝之さんという人気俳優とのコラボレーションも実現、かつてのギター少年は純真無垢に音楽を作り続けていきます。

 

【ライター・橋場了吾】

北海道札幌市出身・在住。同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。 北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。