港町として栄え、「おしゃれな街」としてのイメージで語られることの多い神戸市。近年ITの街、として存在感を増していることを知っていましたか?



昔から外に開かれている街だったこと、そして1995年の阪神・淡路大震災からの復興。そんな歴史を経て未来に向かう神戸市の「今」を知るべく、神戸市企業立地課の佐藤麻子さん(写真右)、蓬莱 亜希良(写真左)さんにインタビュー。



500 startupsとの連携など、海外との協力にも力を入れる背景にある「未来への想い」に迫りました。



“東京にこだわらない働き方”を推進する「OFF TOKYO」。70seedsも主催者の一員として関わるこのプロジェクトとの連動コンテンツとして、IT先進自治体の取り組みをご紹介します!

きっかけは、サンフランシスコで出会った若者の姿

 

神戸市では2016年から、若者が活き活きと働けるような街を、との目標を掲げた「2020ビジョン」という5か年計画の取り組みが進んでいる。その中の重点テーマの1つとして設定されたのがIT。これまで重工業を中心に発展してきた神戸市にとって、ITをはじめとしたサービス業への注力は新たな挑戦だ。

 

 

 

 

きっかけになったのは2年ほど前の市長による決断だった。元々副市長時代にITの活用を構想していた市長は、サンフランシスコを訪れた際に現地で若い世代が活き活きと活躍しているさまを目の当たりにした。それが自治体としてITの活用や企業集積に力を入れていく決断を後押しした。

 

当時の市としての決断について、蓬莱さんはこう語る。

 

「それまでも一部ではIT活用を盛り上げないと、という団体もありました。市として支援もしていたのですが、さらに「2020ビジョン」によって、本格的に神戸をITの街として盛り上げていくことができるようになったんです」

 

とはいえ、IT産業やスタートアップ支援に力を入れている自治体は急増している。そんな中神戸市ならではの特色として取り組んでいるのが、単なる「起業支援」ではなく「世界に通用するプレーヤーを連れてくる」こと。シリコンバレーで起きていることを、日本では神戸で実現しようというのだ。

 

その方向性を象徴する出来事として昨年には、サンフランシスコ訪問時に知り合った500 startupsとの連携も公式に決定。国内外から大きな注目を集めた。

 

予算の役割を復興から「未来」へ

 

そんな神戸市の取り組みだが、その背景として避けて通れないのが1995年に起きた阪神・淡路大震災の影響だ。「2020ビジョン」が始まった2016年は震災が起きてから21年目の年にあたる。

 

1995年以降、神戸市がたどってきたのは「復興」の道だった。だが、震災から20年が経過し、その意識を変えていく決断をしたことも1つの転換点だと佐藤さんは話してくれた。

 

「震災があったのでそれまでは「復興」というテーマに取り組んできました。それ以外のことについては財政難もあってどうしても進められないことが多かったんです。でも、20年という節目で、これからは「未来」に使おうという風に意識を変えたんですね。三宮の新しい街づくりにも取り組んでいこうとしていた。ちょうどそういう節目だったんです」

 

 

 

当然、震災からの「復興」がすべて終わったわけではない。だが、1つの節目を迎えて視点を「未来」に向けていったこと、それは神戸市という街の歴史が次のステージに向かっていくことの表れでもある。

 

若者が活き活きと働ける街に、というビジョンもまさに「未来」を向くことの象徴だ。そんなビジョンを体現するように、佐藤さんが想いを語る。

 

「神戸は京都に次いで大学が多い街なんです。でも卒業した後は(神戸市の)外に出て行ってしまうことが多い。学生数は政令指定都市3位と、せっかく若者が魅力を感じて集まってくれる街なので、学生さんたちがそのまま働けるようにしたいんです」

 

若者が集まる街、そして働き続ける街。そんな街づくりのためにも、神戸市が目指すIT産業の集積は大きなテーマだ。そして、そのためには街だけではなく、街に集まる仕事の魅力も伝えていかなくてはならない。

 

その一例に、蓬莱さんが印象に残っている出来事として、自分が誘致した製造業企業の社員の方が「海に臨んだ神戸のオフィスでは、窓から自分がつくった船が見える」と話してくれたというエピソードを紹介してくれた。港町である神戸市ならではの「仕事の魅力」。IT産業だとどんなことが生まれてくるのだろうか。そんな問いかけに対して、佐藤さんは最後にこう答えた。

 

「神戸はユネスコの認定を受けた「デザイン都市」でもあります。この仕事の前に携わった製造業支援でも、大事なのは、それを必要とするヒトへのサービスデザインの視点でした。今、それはITを使う発想にもあるのかもしれない。

『ヒトをシアワセにする』そういう想いを持った企業や個人の方と一緒に街をつくっていきたいですね。誰もがクリエイターになる時代が今から来る。そんなとき、デザイン都市である神戸だからこそ、新しいことができるんじゃないかと思っています」

 

「おしゃれな街」としてのブランドイメージと若者が集まる環境。そしてこれまで潜り抜けてきた歴史。神戸市が「未来志向のデザイン都市」となる日は遠くない。