「離島」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?


海に、山に、青い空に…想像しただけで豊かな自然に開放感を覚えます。一方、「離れている島」と書くその字面の通り、なかなか気軽に行ける場所ではないのも事実。だからこそ、どこか心惹かれる不思議な魅力を持つ「離島」。もっと身近に楽しむことができるとしたらどうでしょう。


実は、東京の真ん中に「離島」の魅力を余すことなく楽しめるカフェがありました。ファンのみならず、未体験の方もあたたかく迎えてくれる、都会の中の隠れた離島。そんな「離島キッチン」のお話を紹介します。


インタビュイー:幸さん

2004年に株式会社釣りビジョンに入社、その後数社で経験を積み、2011年独立し、フォトグラファーとして活躍する一方、カフェバーの運営、イベントやワークショップの企画にも取り組む。2013年に幸写真事務所を設立。2015年に離島キッチンの立ち上げに携わり、現在は広報担当。

「海士町だけが離島じゃない」-島と神楽坂の意外なつながり

‐まず、「離島キッチン」について教えてください。

「離島キッチン」とは島の食事を純粋に味わって頂くことはもちろん、その食の背景にある「文化」「歴史」「物語」も一緒に楽しめるお店として、わたしたちは離島キッチンを育てていきたいと思っています。

わたしたちは、自分の島だけでなく、他の島の食材やお料理を物販や飲食店の献立として提供しています。

そうすることで、全国の島同士が手をつなぎ、都道府県の垣根を越えたつながりを、全国の島の方々やお客様と共有できるのではと夢見ています。

‐「離島キッチン」立ち上げ前はどのようなことをしていたんですか?

東京にお店を構えるまでは、もともと島根県隠岐郡海士町のPRをしていました。島根県隠岐郡海士町のサザエの壺焼きやカレーをキッチンカーで販売していたんです。

‐海士町、全国から注目を集めていますよね。

そうなんです。一方で、活動を進めていく中で、海士町と同様良い素材はたくさんあるのに、上手くPR出来ていない「島」が日本にはまだたくさんあるということも分かりました。

そこで、海士町だけでなく日本全国の島のものを販売することによって、もっと「島」のことを知ってもらえるのではないか?ということで「離島キッチン」が生まれたんです。

離島キッチン01

‐なぜ店舗の場所として神楽坂を選んだのでしょうか?

離島の多くでは自然災害の影響などもあり、今でも神社文化が色濃く残っているんです。

神社の祭事として「神楽」というものがあるのですが、まさに神楽坂はぴったりだと思い、この場所を選びました。

‐たしかに神楽坂は都内でも神社文化が生活に根付いている地域ですね。ちなみに幸さんはなぜ離島キッチンのプロジェクトに携わろうと思ったんですか?

もともと島好きだからということが大きいですね。母の祖父が奄美大島の出身で、私自身将来は奄美大島への移住を考えていたんですよ。

そんな中で「島キャン」という島おこしのインターンシップに参加し活動をしていたとき、「離島キッチン」の採用情報を見つけたのがきっかけですね。

‐そのとき迷いはなかったんですか?

まったくありませんでしたね。

離島キッチン02

内装からCASまで‐「島」を全力で伝えるために

‐幸さんはなぜ離島キッチンの運営に取り組んでいるんですか?

食を通し、もっと島のことを知り楽しんで欲しいからです。

‐島の魅力ってそれこそ色々あると思うんですが「食」にこだわるのはなぜですか?

島の文化を伝えるとき、料理が一番分かりやすいんです。たとえば隠岐島という島では、サザエを食べる時に醤油ではなく麹味噌をつけて食べるんですね。

それはもともと隠岐島には醤油がなく、その代わりに麹味噌を使っていたという歴史があるからなんです。

‐そうだったんですね、初めて知りました!知ってから食すと味わい深くなりそうですよね

はい。お客様に食事をしていただく前に、こういった話をスタッフから必ず説明するようにしています。

‐お客さんに説明するには、スタッフの方もしっかり理解していなくては務まりませんよね?

そうなんです。「離島キッチン」では、毎月ひとつの島にフォーカスしたメニューを作っているのですが、担当スタッフは事前にその島へ行き、実際に島の人の話を聞いたり食べてみたり、その島の背景をきちんと理解した上で提供するようにしています。

島で調理したものを、そのままお店で提供することもありますよ。

離島キッチン03

 

(写真:様々な島の食材を一度に楽しめる、看板メニューの「島めぐりランチ御前」)

 

‐徹底的にこだわっていますね…。

実は、こだわっているのは料理そのものだけじゃないんですよ。「離島キッチン」では「島らしさ」を徹底的に再現しているんです。

‐どういうことですか?!

たとえば内装だと、離島にある船小屋をイメージし、あえて錆びたものなどを使っています。そうすることでお店に入った瞬間に島に来た感覚を味わっていただけるかと思います。

‐たしかに、店内は別空間ですね。

あと、先ほどお話ししたメニューの解説もそのひとつですね。たとえば、メニューにもある八丈島の島寿司ですが、これはワサビではなくカラシをつけ食べるんです。

これはもともと八丈島にはワサビがなく、その代わりにカラシをつけていたことが今も八丈島の食文化として残っているんです。

‐それも、ないものを工夫する、離島ならではの文化ですね。ちなみに食材に関しても、離島キッチンならではの工夫や取り組みってあるんですか?

食材へのこだわりでは、日本でもまだあまり導入されていないCAS凍結を導入しています。

離島キッチン04

 

(写真:店の内装)

 

‐CASって何のことでしょうか?

CASは(セル・アライブ・システム:Cells Alive System)の略で、細胞を生きた状態で凍結させているので、解凍後も鮮度が高くとても美味しく頂けるんです。

‐そんな優れた技術があるんですね!でもあまり聞いたことがありません。

まだあまり導入されていないからですね。理由としては、やはり手間とお金がかかることが一番です。

CAS凍結を導入している海士町では、まず役所のトップの方が自分たちの給与を減額し、削減できるところを削っていきました。

そうすることで、徐々に島の人たちも協力してくれるようになり、まさに島全体で取り組みを導入することが出来たのです。

‐まずは自分たちの給与を削るだなんて、なかなかできないことですよね。それだけ真剣だったということなんですね。

本当にその通りだと思いますよ。

‐離島キッチンで、今後どのようなことに挑戦したいと考えていますか?

島好きの人と一緒に、島旅をいつかやりたいなと思っています。

現在も定期的に島好きの人が集まり、ランチや飲み会など交流する場を設けているのですが、やっぱり皆で現地に行きたいなと思っています。

‐島旅、素敵ですね。これまでに離島キッチンに来たことをきっかけに個人で島に行くようになった方なんかもいたりするんでしょうか?

そうですね、「隠岐島に行くので、オススメの場所や行き方を詳しく教えて下さい」という方もいらっしゃいました。

色んな島のお話をすると興味を持ってくださる方が多く、そういう方々を島へと案内していくのが、「島の玄関口として」離島キッチンの役割かなと考えています。

‐幸さんの思う離島の魅力はなんでしょうか?

都会とは全く違う、「島時間」が流れていることです。島に住んでいる人がそもそも時間を気にしないんですよね。

時計も信号機もないので、気にしようがないと思うのですが。笑

またそんなに広くないので島全体の人が顔見知りで、僕が島に行くと「どこから来たの?」と声をかけてくれるんですよ。

人の温かさや気遣いに触れられるのも、離島の魅力のひとつですね。

‐ここまでの話を聞いて、離島に行きたくなってきた方もいると思うんですが、そんな方に一言お願いします。

離島に行くのであれば、生活をする様に旅をするのがオススメなので、ぜひ4泊5日くらいで行ってほしいなと思います。

離島が、誰かにとっての「第2のふるさと」になれたらいいなと思っています。

離島キッチン05


離島キッチン

 

住所: 東京都新宿区神楽坂6-23 [Google Maps]

 

URL:http://ritokitchen.com/