移住先として人気が高まっている西条市。その魅力に惹きつけられる相手は、もはや日本国内にはとどまらない。

今回お話を聞いたのは、西条市に住みながら国際交流員として活躍しているダイアナさんとアン・ティーさん。2人が国境を越えて惹きつけられたものとは。

#1 あこがれは現実に

アメリカ合衆国カリフォルニア州の出身のダイアナ・マリー・リントンさんが初めて日本に興味を持ったのは小学生のとき。1980年代の京都の景色を収めた写真集でみた神社仏閣や古民家の造形美に惹かれた。

 

「セーラームーンを観て、女の子が主人公として活躍するストーリーに衝撃を受けました。それで日本への憧れはさらに強くなって、いつのまにか『海外に行くなら、絶対に日本!』と決めていました」

 

そんなダイアナさんが初めて日本へ来たのは2008年のこと。

通っていた大学の留学奨学金制度を活用して、函館にある日本語学校に通った。実際に体験した日本は、芸術や文化はもちろん、触れ合う人々も含め、ダイアナさんが想像していたよりもずっと素晴らしいものだったという。そこからさらに日本にのめり込んでいったダイアナさんは、日本での留学期間を延ばしながら、たくさんの日本の文化や人々と触れ合い、日本のことを学んだ。

大学を卒業後、香港で2年の勤務を経て、再び日本へ行くことを決意。日本の中でもそれまで行ったことのなかった場所を希望し、愛媛県西条市の交際交流員になることが決まった。

 

もう一人の国際交流員、グエン・ブイ・アン・ティーさんは、 ベトナム社会主義共和国の出身。大学生の頃に交換留学生として初来日。

大学での専攻が東洋学だったことから日本とアジア諸国との関係について研究していた。さらに修士課程取得のため2回目の留学後、ベトナム初の地下鉄開通の仕事に携わり、その間、ホーチミン市の総領事館にも勤めた。

 

「ずっと日本と関わる仕事をしていたので、もっと日本とベトナムの友好関係に貢献できる仕事がしたいと思うようになりました」

 

こうして、JETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)に応募し、元々ベトナムとの交流が盛んだった愛媛県西条市に赴任することになったのだった。

 

自分が生まれた国と日本の架け橋になりたいという気持ち、そして好奇心が2人の原点だ。

 

#2 「しなやかなひとたち」が暮らす第2のふるさと

ダイアナさんはお父さんがジャマイカ人、お母さんがフィリピン人のハーフとして生まれた。そんな彼女は幼いころから自身が「マイノリティ」であることを不安に感じていたという。

そんなある日、大学の図書館で見つけた「在日韓国人」に関する書籍に大きな感銘を受けた。

 

「マイノリティの問題は私たちだけの問題じゃない。どんなに遠く離れていても、文化の違いがあっても、人類はどこかでつながっているのかもしれない」

 

ダイアナさんは、社会人類学を通して日本のマイノリティについても勉強を始め、やがてその知識を国際交流に活かしたいと感じるように。

当初は、「西条市」に関する情報がネット上では少なかったことも不安要素の1つだった。しかし、その心配は杞憂に終わった。実際に訪れ、まちの人と接することで「新しい故郷」ができたと感じたと当時を振り返る。

 

「近所に私の祖母と同い年の和菓子屋のおばあちゃんがいるんですが、すぐに会話もできて気が合ったので、西条に家族ができたという気持ちになりました。他にもまわりの人たちがとても親切にしてくださったので、私もみんなの力になりたいと思いました」

 

あっと言う間にまちと打ち解けたダイアナさんが語る西条市の魅力は、自身のルーツを強く感じさせるものだ。

 

「自然や景色はもちろん、なんといっても西条まつりです。祭りの時はみんな昔なじみのように話し合いますし、熱狂する姿を目の当たりにすると感動して幸せになります。みんなが一丸となって頑張ることって、国籍とか関係なく心がつながると感じます。」

 

 

「西条市に住む外国人と話していると、みなさん口々に『西条市は住みやすくて良いところ、そして子育てがしやすい』と言っていました。私も住んでみて、すぐになるほどと思いました」

 

と語るのはアン・ティーさん。

新鮮な食材が大都市に比べて安く手に入る西条市。おいしいものが安く手に入るだけではなく、それを作っているひとの顔が見えるのも安心できていい、と笑う。

 

「今は、お金をたくさん稼ぐよりも、自分の健康を大切にして人生をエンジョイする、それが一番価値あるもので、ここにいると幸福度が高いと感じられます。」

 

道を歩いていても外国人だからと変な目で見られることはなく、とても自然体でいられるという。

 

「自分の意見はしっかり持っていながらも、まずは人の意見を聞いて一緒に行動する人が多いですね。これは教わった言葉ですが、『しなやかな人たち』がたくさんいると感じます。それは素晴らしいことだと思います。」

 

#3 外国人の「不便」を解消する架け橋に

ダイアナさんの活躍は、最近では国際交流員の枠を飛び越え、「YOUは何しに日本へ?」などテレビ出演も果たし、西条市の魅力を全国に発信している。そんなダイアナさんのこれからの目標を聞いてみた。

 

「今、観光振興の部署にいるので、観光客向けに石鎚山系の修験道や神道に関係ある神様の大切さを紹介するような書籍を執筆していきたいと思います。あらゆるものには神様が宿っているという考えなど、文化を深く理解してもらうことで、さらに西条に愛着を感じることができると思うからです」

 

外国から来る「お遍路さん」に対して、施設の情報や設備などの情報発信にも力を入れたいという。インターネットが発達し、テキストや動画での情報発信がより身近になった今だからこそ、人が顔と顔を合わせて伝えていくことに意味があるのだろう。

 

「日本は都会も素敵ですけど、西条みたいな田舎は周りの人たちとの仕事もなんだか大家族みたいな感覚で交流できることがとても素晴らしいと思います」

 

日本の景色や建物が持つ見た目の美しさ。それを作ったのも人であり、そこに住むのもまた人である。そういう「縁」を大切に、新しい故郷西条市がより多くの外国人にとって「また帰りたくなる場所」になるよう、今日もまちと外国の「人」を結んでいる。

 

西条市の魅力は豊かな自然が育む住環境とそこに住むしなやかな人たちと語るアン・ティーさんの今後の目標もまた「外国人をつないでいくためにできることをやる」ということ。

 

「これからもまちとたくさんの外国人をつないでいくために、私にできることをしていきたいと思います。例えば、医療の課題があります。外国人は病気になっても、病院へ行かずに市販の薬だけで対応している人がたくさんいると聞きます。
病院には難しい単語や漢字の標記もたくさんあるので、内容が理解できなかったり、症状をうまく説明できないかもしれないといった不安を持っているからです。そんな時はスタッフがやさしくてわかりやすい日本語を使えば外国人も内容を理解できるようになります。私はそのためのお手伝いをしていきたいです」

 

西条市では現在、約1200人の外国人が暮らしており、今後もその数は増えていくと予想されている。全国的に少子高齢化や労働人口の減少が進展する中、今後、労働目的だけでなく、様々な目的でより多くの人が訪れることで諸外国との相互理解と友好親善が深まるだろう。

 

そのためにもダイアナさんやアン・ティーさんのような架け橋となる人が欠かせない。

彼女たちの存在が、旅行に行くだけでは感じることのできない人の温もりをこれからもじわじわと広げていくことだろう。