「スポーツクライミングがどんどん盛り上がって、このまちの人たちのライフスタイルとして定着してほしいですね」

そう語るのは、愛媛県西条市の職員として働く松本雄太郎さん、30歳。市の正規職員として働く一方で、スポーツクライミングの現役選手としての顔もあわせ持つ“公務員アスリート”だ。

そんな松本さんは、クライミングをきっかけに奥さんと出会い、西条市に住み、現在の職を手に入れた…という西条市との不思議な“縁”を持った人物。大学時代に出会ったクライミングが、どのように現在の生活に繋がっているのか。そして、西条市の生活にどんな青写真を描いているのか。

西条市のボルダリング競技場・石鎚クライミングパークSAIJOにて、話を伺った。

半蔵 門太郎
ビジネス・テクノロジーの領域で幅広く執筆しています。
岡山 史興
70Seeds編集長。「できごとのじぶんごと化」をミッションに、世の中のさまざまな「編集」に取り組んでいます。

競技場に勤める“公務員アスリート”

2018年4月から愛媛県西条市の正規職員として働く松本雄太郎さん。一般的に“公務員”と呼ばれる仕事だが、そのイメージとは裏腹に、松本さんに任された仕事は少し変わっている。

 

職場は西条市が所有する「石鎚クライミングパークSAIJO」。松本さんは、日中は施設の管理業務をこなし、スポーツクライミングの初心者・高齢者を対象とした講習会で指導者として活動。業務が終わると西条市の丹原高校で、クライミング部の指導を担う。

 

「いずれ、教え子からオリンピック選手が出れば嬉しいですね」

 

はにかみながら教え子の話をする一方で、松本さん自身もクライミングの選手として活動を続ける。しかも、2009年にはえひめ国体に出場を果たした、れっきとした“アスリート”なのだ。

クライミングは自分との闘い

 

松本さんがスポーツクライミングに出会ったのは高校時代。進学を機に熱中していた柔道から離れたことがきっかけだった。

 

「中学時代の団体のメンバーが強豪校へ進学するなか、僕だけが進学校へ進みました。はじめこそ柔道部に所属していましたが、中学のメンバーとの差が開くのが嫌で。少しづつ柔道から離れていきました」

 

熱中していた柔道から離れ、宙ぶらりんになっていた高校時代。ふと覗いた山岳部の活動をきっかけに、「クライミング」の存在を知った。

 

「面白そうだな、自分にもできるかな」

 

そんな松本さんの好奇心は、大学時代に開花することになる。進学した愛媛大学にあったクライミングサークルに入会。大学の先輩が国体に出場したことがモチベーションとなり、クライミングに時間を捧げる4年間を過ごした。最終的には、自身も国体に出場するほどの実力者に。

 

「目の前の壁を攻略するために全神経を研ぎ澄ませ、自身の身体能力のすべてを使い切る。余計なことを考えていては、壁を攻略することはできません。クライミングは“自分との闘い”。自分次第でいくらでも上達できることから、どんどんのめり込んでいきました」

 

“競技場”に一目惚れし、永住を決断

松本さんの出身地は大分県日田市。大学進学を機に愛媛へ訪れたとはいえ、なぜ西条市で公務員として働く決断をしたのか。そこには「クライミング」が引き寄せた“縁”があった。

 

「昨年の9月、国体に出場するために訪れた“石鎚クライミングパークSAIJO”のあまりのクオリティに一目惚れしてしまったんです。これまで10年近く競技を続けてきましたが、ここまで充実した施設はなかなか見ることはできません」

 

“石鎚クライミングパークSAIJO”は2017年、国体の際に山岳競技の会場として建設されたボルダリング競技場。愛媛県西条市にそびえ、まち全体を守り続ける霊峰「石鎚山」が、競技場の名前の由来となっている。

 

当時、西条市はこの国体レガシーを有効活用するため、専門的な知識を持った正規職員を募集していた。求人を発見した途端、松本さんは「このまちでクライミングと添い遂げたい!」と不退転の決意で移住することを決断。社会人になってから住んでいた宇和島を離れ、新しい暮らしを始めた。

 

「このまちは僕の故郷の大分県にも景色が似ているし、なんだか懐かしい気持ちになります。水は豊富ですし、子育ての支援施設や公園も近くにある。とにかく子育てしやすいところです」

 

“クライミングの聖地”を目指して

松本さんはこれから西条でどんな人生を歩んでいくのか。最後に、展望を伺った。

 

「30歳になりましたし、競技者としてカウントダウンにはいっていることを感じています。これからは教育者として、若者に種を撒いていく段階。最高のクライミング施設がある西条で、クライミングが老若男女に愛されるスポーツとなるよう、普及活動に努めていきたいです。いずれここが“クライミングの聖地”と呼ばれるようになれば嬉しいですね」

 

大学時代、クライミングをきっかけに知り合ったという妻・博美さんも、子供とともに松本さんの挑戦を応援していく。

「大好きなクライミングを仕事にできて、ステキな場所に住めて…。夫はいま、ものすごく恵まれた環境にいます。この環境を強みに、これからも挑戦を続けて欲ほいですね。」

 


 

「クライミング」をきっかけに妻と出会い、西条市に住み、仕事を手に入れる…。一見すると偶然の産物に見える話だが、“好き”に対してピュアな情熱を持つひとにはチャンスを手繰り寄せる“引力”がある。松本さんの情熱は、きっとこれからも西条の人びとを感化し、前進させるエネルギーになっていくだろう。

松本さんの描く夢は、「クライミングのまち」としての西条市を待つ未来が明るいことを予感させる。

平成30年、石鎚クライミングパークSAIJOはスポーツクライミングの競技別強化センターとしてJOC(公益財団法人日本オリンピック委員会)から認定されました。
この認定はオリンピックに向けた選手強化を目的に、JOCが全国のスポーツクライミング施設の中から3施設(岩手県・鳥取県・西条市)を認定したものです。
また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会におけるオーストリア共和国の「ホストタウン」にも登録され、相手国であるオーストリアのクライミングチーム事前合宿誘致や、同国との交流進展を図り、地域の活性化を目指しています。

石鎚クライミングパークSAIJO

〒793-0072
西条市氷見乙608番地 西条西部公園内
西条市スポーツコミュニティセンター内
電話:0897-57-9383
休場日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月29日から1月3日まで)開場時間:9時~22時
※大会等で上記時間外を使用する場合は、ご相談ください。
※準備・片付け時間は使用時間に含まれます。