「これからに残したい価値やストーリー」のある商品を届けている、70seeds STORE。取り扱っているのはスタッフが実際に手に取り、作り手の想いを聞き、「ほしい!」と思ったものばかりです。

そんな惚れ込んだ商品への愛を、作り手の方々に愛をぶつける連載「使うひと、作るひと」。愛用者と生産者が、それぞれの視点で商品への愛を語ります。

第2回の今回は、『SHIZQ』のぐい呑みをご紹介。徳島県神山町で山や川を守るために立ち上がった「神山しずくプロジェクト」に携わり、SHIZQを販売する東條さんと、日本酒を愛するぐい呑み愛用者の70seeds STOREスタッフ鈴木が「神山杉のぐい呑みで飲むお酒の楽しみ方」について語り合います。

作る人:東條由佳(とうじょう・ゆか)
徳島県神山町で山や川を守るために立ち上がった「神山しずくプロジェクト」にて、杉を使った商品を生み出すブランド『SHIZQ』の販売や企画、SNS広報など幅広く担当。4年前に京都から神山に移住しました。

使う人:鈴木賀子(すずき・よしこ)
食いしん坊コネクタ。茨城出身。つくる人と受け取る人のあいだで、日々に心を寄せつつ、PRとして世の中を前に進めています。ときめく対象は、ごはん、日本酒、器、お花、飲食文学&マンガ。

山や川があぶない、と教えてくれたSHIZQ

――まず、東條さんがたずさわっている「しずくプロジェクト」について、ご紹介いただけますか?

東條「しずくプロジェクトは、杉の人工林で覆われた神山を守るために立ち上がったプロジェクトです。一見、緑豊かな神山ですが、実は人の手によって植えられた杉の木が密集しています。かつては建築材として重宝された杉は、現在では海外産などの木材に置き換えられ、山が放置された状態です。

かつてのような自然林であれば、太陽の光がしっかりと山の中に届き、草も生え、柔らかな土ができ、地中にたっぷりと雨を含むことができます。その水分が豊かな川を作り出します。しかし、今のような杉が密集した山では、枝葉が重なり合い地面に光が届かず、土が固く水分を吸収できない砂漠のような地面になってしまいます。その結果、神山では川の水量が年々減ってしまっている現状があります。

密集する杉を少しでも使うことが、土を和らげ、山や川を豊かにしていくことにつながります。そこで、しずくプロジェクトとして神山の杉を商品化しているのが『SHIZQ』です」

――東條さんご自身がSHIZQに出会ったのは、どのような経緯だったんでしょうか?

東條「当時の彼(現在の夫)が、職人として神山に行きたい、と言ったのがきっかけでした。私自身、京都に7年ほど住んでいてそろそろ環境を変えてもいいかなと思っていた頃でもあったので、彼が行動に移すタイミングで、私も行く!って。

SHIZQや神山について何も知らなかったけれど、神山に来てみて「都会にいたときには知らなかった!」と驚くことがたくさんあって。山が荒れて川の水が減っていることや、花粉症に人工の杉が影響していることなどですね」

鈴木「外から見ているだけじゃわからないことって、たくさんあるんでしょうね」

東條「そうなんです。旅行で来ていたら『緑豊かで自然がいっぱいの素敵な町』で終わってしまうと思います。神山に移住して自然のそばで暮らしてみて初めて、自然や川の水がなくなって、人が住めなくなってしまうのは悲しいと実感するようになりましたね。だから、SHIZQのスタッフとしてこの問題にかかわれているのは、私自身にとっても大きいことです」

鈴木「SHIZQとの出会いは、70seedsの記事からです。その後、2017年に実際に神山に伺いました。山並みが美しく、町中には文化やクリエイティブを感じるお店がちらほらありました。そんな町の魅力も、買って応援したいと思った理由のひとつです。

実際に70seeds storeでSHIZQの商品を取り扱い始めて、まろみのある曲線とすべすべしっとりした手触りがいつまでも触っていたくなるもので、惹かれていましたね」

使ってわかる、杉の秘密

――鈴木さんが使っているのは、SHIZQのどの商品ですか?

鈴木「今年の6月に、亀八シリーズ(※)のぐい呑みを購入しました。ぐい呑みを選んだのは、とにかく日本酒が好きだから。70seeds storeでも、お酒好きの方がプレゼントで買ってくださったりしていて、いいな、と。

あとは、“自分が呑みたい日本酒の世界観”に近いと思ったのも購入の理由ですね。例えば、月見酒をするときに縁側でお盆にこれが載っていたら素敵だな、と思っていました」

(※亀八シリーズ:拭き漆を8回重ねたシリーズ。70seeds storeでは取り扱っていません。)

――素敵!!実際に使ってみて、どうでしょう?

「口につけたときの感覚とかは、自分で飲んでみないとわからなかったですね。実際に自分で使ってみたら今までより魅力がわかってしまい、もう絶対に手放せない(笑)

とにかく口当たりが柔らかなのと、何より軽い!普段から、呑むお酒の種類によってぐい呑みの材質を変えたりもしているんだけど、これはダントツで軽い!だから、何度も口に運んじゃうんです(笑)」

東條「お客様や友人からも『口当たりがいいから、お酒がクイクイっと進んじゃうんだよね』って声がありますね」

鈴木「そうなんですよ!ガラスや陶器と違って、酔っ払って倒しても割れないし(笑)。フォルムもかわいいんですよね。丸っこい、なのに凛としてる。他にはあんまりないなって思います。東條さんはお酒は飲まれますか?」

東條「はい、なんでも飲むタイプですが、特に焼酎が好きです。SHIZQの商品だとロックグラスをよく使いますね。氷が溶けにくいので、お酒の味が薄まりにくいんです」

鈴木「これって杉の特徴なんですか?冷酒を飲むことが多いのですが、ぬるくなりにくいなと思ってたんです」

東條「杉って、木の中でも特に軽いんですね。つまり空気の層が多くて、発泡スチロールのような感じ。空気の層があるから断熱効果があって、熱燗などを入れても陶器のように熱くて持てなくなる、みたいなことがないんです。その反対に、冷たいものを入れても体温でぬるくなりにくい

鈴木「へえ!暑くても寒くても、1年中使えますね」

東條「実は、私たちも商品を作ってみて初めて知ったんです。氷を入れても結露が出ないのはなんでだろう、と調べてみたら発見して。とても機能的だなと思います」

「何で」飲むかも大事な選択肢

――軽くて、保温できて、結露が出にくい。たしかに器として機能的ですね!他に、杉ならではの特徴ってあるんでしょうか?

東條「材質として“柔らかい”のが、杉の大きな特徴です。それが加工のしづらさの原因でもあるのですが、職人の手でなめらかに削ったあとの触り心地は、やっぱり他の木材とは違うように思いますね。

SHIZQの商品は、口元をあえて厚めにしているんです。木製品って『薄ければ薄いほどいい』とされがちなんですが、私たちは杉の持つ柔らかさを体験してほしいので、あえて厚めに。陶器やガラスとは違う、口当たりの良さを感じてもらえるかなと思います」

鈴木「本当に、肌触りがすごく柔らかいんです!今までに体験したことのない不思議な感覚なんですよね。手びねりの陶器ほど分厚くないけれど、ガラスのうすはりに比べると厚い。どちらとも違う飲み心地で、なんだか、しっとりしていますよね」

東條「そうですね、ちょっと吸い付くような感覚すらあります。そういえば、今日いらっしゃったご年配のお客様にSHIZQのカップでお茶をお出ししたら、『すごい柔らかい、若い頃の唇を思い出すくらい柔らかくて安心する』って。

SHIZQでは商品の表面に木目が見えることにこだわっているので、杉の持つあたたかみが、目と口で感じていただけているのかもしれません」

――その柔らかさって、味にも影響あると思いますか?

東條「そうですね、あると思います

鈴木「私もそう思います!」

東條「お店でお客様にお出ししているお茶は普通のものなのですが、『家で飲むよりもおいしく感じる!』とお声をいただくことも多いです。他にない杉ならではの柔らかい口あたりは、いつものお茶でも、ちょっとした変化を体験させてくれます。厚めで広口の仕上がりなので、飲み物が優しく口の中に入ってくれるのかもしれませんね」

鈴木「その通りだと思います。同じお酒でも、器で気分や印象が変わります。あと、食感って歯や舌だけじゃなくて口元の粘膜で味わっているんですよね。かりかり、さくさく、もっちり……とかって、唇から中にかけての粘膜で感じている。だから、SHIZQの口当たりがお酒の味にも影響あると思いますよ。実際、お酒がまろやかになって、少し酸味が強いお酒が飲みやすくなる気がしますね」

――口をつけるものだから、なめらかなのは嬉しいですよね。

鈴木「SHIZQの技術で、アイスクリームスプーンとかあったら使ってみたいです」

東條「なるほど。ただ、杉で作るのは難しいかもしれませんね……」

鈴木「え!そうなんですか?」


杉で作るのは難しい…?東條さんのその発言の理由は、次回の「使うひと、作るひと 杉で作られた、ぐい呑みで乾杯<後編>」でお伝えします!

杉での商品作りの難しさや、杉からぐい呑みがどのように作られているのか。「え!そんな向きで削っているのか…!」と、愛用者の鈴木もびっくりな技術がありました。SHIZQの商品が作られる、その背景を伺います。

「使うひと、作るひと 杉で作られた、ぐい呑みで乾杯<後編>」 はこちら

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