「これからに残したい価値やストーリー」のある商品を届けている、70seeds STORE。取り扱っているのはスタッフが実際に手に取り、作り手の想いを聞き、「ほしい!」と思ったものばかりです。
そんな惚れ込んだ商品への愛を、作り手の方々に愛をぶつける連載「使うひと、作るひと」。愛用者と生産者が、それぞれの視点で商品への愛を語ります。
第3回の今回は、当店が長くお取り扱いさせていただいている『藍包丁』をご紹介。古くから一流の刀鍛冶の街として栄えた大阪・堺で生まれた和包丁と、日本古来から伝わる徳島県の藍染めの技術。
この2つを掛け合わせ、日本の魅力を伝えるエディットジャパンの坂元さんと、釣りを始めてから藍包丁を愛用している70seeds岡山が「お気に入りの包丁が我が家にやってきてから」について語り合います。
作る人:坂元晃之(さかもと・あきゆき)
エディットジャパン代表。「日本の魅力を海外に伝える」という信念のもと、伝統工芸品や職人のマーケティング業務に従事。堺の包丁屋さんとの出会いをきっかけに、オリジナルブランド『藍包丁』を企画・開発。2020年からは、ガラス工芸、木工芸、包丁メーカーの業務支援も行っています。
使う人:岡山史興(おかやま・ふみおき)
70seeds代表。「次の70年に何をのこす?」をテーマに、新しいあたりまえに挑む人たちとともに未来をつくっています。日本一小さな村、富山県舟橋村で土と海に触れる日々。
職人同士のコラボレーション『藍×包丁』
――まず『藍包丁』について、ご紹介いただけますか?
坂元「藍包丁は、大阪・堺で作られた刃と、徳島の藍染を組み合わせたものです。刀鍛冶の街として栄えた堺で生まれた和包丁と、古来から徳島に伝わる藍染め。ふたつの日本の伝統技術を組み合わせた“職人コラボレーション”で、『ひとつの製品で複数の産地に利益を生み出す』商品になっています」
岡山「坂元さんが藍包丁を作り始めたのが、2016年でしたっけ」
坂元「そうですね。この5年で少しずつ、作れる包丁の種類や、お客様に届けられる情報が増えてきています。送り状を書いて発送するのは僕がひとりでやっているんですが、いまだに毎回『行っておいで』とわが子を送り出すような気持ちですね。試行錯誤しながらではありますが、包丁を通してお客様と向き合うのが楽しいです」
岡山「70seedsで2017年にインタビューさせていただいたことをきっかけに、僕も藍包丁を知りました。70seeds storeでお取り扱いさせていただいたり、カスタマイズできるオーダーメイド包丁『Life Knife』のクラウドファンディングに携わらせていただいたり、長いお付き合いをありがとうございます」
坂元「こちらこそ、ありがとうございます!岡山さんは『Life Knife』の三徳をご購入くださったんでしたね」
岡山「ええ、2018年なので3年前です。坂元さんの包丁愛に心を打たれて購入したものの、当時は僕が料理をすることはなかったので、妻に使ってもらっていました。コロナ禍になってからは僕自身が料理をすることも増えたので、刃のダマスカス柄(※異なる鋼材を何層も重ね合わせ製作した積層の模様)にテンションが上っています」
坂元「最近、お客さんからも『家に藍包丁が届いたらテンションが上がった!』とご連絡をいただいて、こんなご時世に少しでも藍包丁が役に立てているなら嬉しいなって」
岡山「僕もおうち時間が増え、料理をする頻度が多くなったことで生活が変わったうちの一人です。昨年購入した藍包丁も、愛用させてもらっています!」
暮らしに合った道具を選ぶ楽しみ
――岡山さんが愛用している藍包丁について教えてください。
岡山「購入したのは、柳刃という種類の藍包丁です。魚をさばけるようになりたいな、と思って。きっかけは、昨年コロナで家にいる時間が増えたのと、同じくコロナの影響で飲食店に卸すことができない良い魚がスーパーに並ぶことが増えたこと。せっかくなら、と一尾まるごとさばいてお刺身にしたら信じられないくらいおいしくて、そこから魚料理にハマっていきましたね……」
坂元「包丁には両刃・片刃というものがあるのですが、柳刃は片刃の包丁です。切ったものが包丁から離れやすく、断面もきれいなので、主に魚の調理に使われるものですね」
岡山「本当に、気持ちいいくらいスッときれいに切れるんですよ……。食べたときの口当たりが全然違って、毎回『買ってよかった』と嬉しくなります」
坂元「ご注文いただいたときは、正直びっくりしましたね。普段選ばれやすいのはオールマイティな三徳だったり、小回りのきくペティだったりするんですが、『おお、いきなり柳刃か!』って(笑)。やりたいことが先にあって、道具を選ぶ感じがいいなと思いました」
岡山「もっとおいしく魚を食べたいという一心で、最近は出刃包丁まで買っちゃったんですよね。アラ汁用に魚の頭を割るのに必要で。もう魚ありきですね(笑)」
坂元「切り身の状態で買うのではなく、魚をまるごと一尾さばいて食べると『命をいただいてる』って感じがして、全部ちゃんと使ってあげたいって想いが芽生えるんでしょうね」
岡山「そうそう、もったいないっていうか、申し訳ないっていうか。最近、釣りも始めたので余計にそう思うのかもしれません」
坂元「ちなみに舟行という包丁は、もともと漁師さんが釣り上げた魚を船の上でさばいて食べるためのものです。三徳・柳刃・出刃の3つの機能がひとつにまとまった“万能魚包丁”って感じ。釣りの際に、そちらもぜひ!(笑)」
――ちなみに、坂元さんはどの藍包丁を使っているんでしょうか?
坂元「いろいろな種類の藍包丁を持ってはいますが、基本的に使っているのは三徳ですね。僕の場合は、『三徳で全部できるようになりたい』という思いがあります。もちろん魚とかは限界があるんですけど」
岡山「人によって、それぞれ合う包丁がありそうですね」
坂元「そうですね。日常的に料理をする方は、やっぱり食材によって包丁を使い分けずに三徳1本で何でも作る印象があります。僕自身も同じように使ってみて、1本を長く使ってもらえるメンテナンス方法の研究もしています」
世界を広げる“良い包丁”でありたい
――良い包丁ってメンテナンスが大変なのかなってイメージがあるのですが、そのあたりはいかがですか?
坂元「刃に使われている素材によっても、錆びやすい・錆びにくいがあるんです。岡山さんが使っている柳刃は錆びやすい刃なので、洗ったあとは水気をよく取って乾かしたほうがいいですね。また、刃だけでなく柄とのドッキング部分をしっかり乾かすことも大事です」
岡山「魚をさばいたあとは洗って拭いて、少し乾かしてから鞘に入れてしまってます。三徳のように常に使うものはいちいち鞘にしまうのは大変かもしれませんが、僕はこの鞘、気に入ってるんですよね」
坂元「そう言っていただけると嬉しいです!特に柳刃は、他の包丁に比べて長いので刀みたいで楽しいですよね。藍染めは美しいだけでなく殺菌作用もあると言われているのと、鞘の木材が湿気を吸ってくれるので、鞘で保管するのはおすすめです」
岡山「僕、以前は包丁って“使い捨て”じゃないけど、消耗品だと思っていたんですよね。100円ショップでも売っているし、そういう安いものを使って切れなくなったら買い替えて。そんな僕が、今ではシャープナーや砥石を使って愛用包丁をメンテナンスしている。気に入ったものが、“自分の道具”になっていく感覚は心地いいですね」
坂元「高級な良いものと安いもの、両方あっていいなと思ってるんですよね。例えば僕自身は洋服にはそこまでこだわらないんだけど、ときどきちょっと高いけど良いものを買ってみる。そうすると、今まで考えたこともなかった縫製や生地などの服のいろんなことを考えるようになるんです。良いものって、気付きをくれたり新しい世界に連れて行ってくれるんだなって。藍包丁はそういう役割を担いたいですね」
お気に入りの包丁がある暮らし
――岡山さんのように生活様式が大きく変わったこの数年で、藍包丁をきっかけに「新しい世界」に行ける人は多そうです。
岡山「何か良いものが欲しいなと思ったときに『食』ってすごくダイレクトに自分の生活に返ってくるんですよね。なかでも包丁は、使い心地の違いがわかりやすく伝わる、最たるものなんだろうなって」
坂元「たしかに包丁はわかりやすいですね。一番重要で実感があるのは「切れ味」ですから。形や大きさに好みはあれど、切れ味が良ければどんな人にも喜んでもらえる」
岡山「あと藍包丁は、藍染めも刃も美しいから」
坂元「鞘付きで買う人の大半も、やっぱり『かっこいい』という理由で買ってくれます。毎日使うものだから、テンション上がるものがいい。楽しいと毎日触りたくなって、そうするとちょっとずつ上達する。それを家族や友達に褒められるから、また頑張れる。いいループに入るきっかけに、藍包丁がなってくれたらいいですね」
岡山「わかる……。僕自身、今までは全然料理しなかったけど、家にいる時間が増えて良い食材との出会いもあって、そこに最後、良い道具がハマってループが回り始めた感じがあります」
坂元「僕のなかで料理に時間やお金を使うのって、どんどん根を張っていくイメージ。包丁を一本買うと、まな板や食材、レシピ、買い物の仕方にまで意識が広がっていく。それが全部、生活に返ってくるんです。ただの時間やエネルギーの消費じゃなくて、蓄積されていくのがいいところなのかな」
岡山「たしかに、食材を見る目が変わりました。これまでは切り身を買っていたのが、包丁があることで『よし、一尾まるごと買ってみよう』と思えて、その体験自体がすごく楽しいと気付く。喜びがどんどん増えていくのは感じます」
坂元「『おいしい』っていう最大のリターンが待っているから、やりがいがありますね」
岡山「食べることは誰もが毎日おこなうことだから、実は包丁って生活の中心にある道具なんだろうな。それを変えることで暮らしが変わるなら、すごく良い投資なのかもしれないですね」
――使うひと、作るひと、それぞれの愛が止まらない取材となりました。おふたりとも、熱い想いをありがとうございました!
見た目の美しさだけでなく、その切れ味まで満足感の高い藍包丁。おふたりの会話から、毎日使う道具を選ぶ心地良さを教えてもらいました。みなさんにも、包丁一本から変わる暮らしをぜひ体験してみてほしいと思います。
70seeds STOREでは、藍包丁を愛用しているみなさんからの感想やおすすめポイントなどのお声も大歓迎。藍包丁への愛、ぜひお聞かせください!
エディットジャパン・坂元さんのインタビュー記事はこちら。
大阪・堺の包丁について、もっと知りたい方はこちら。

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