こんにちは、70seedsの北海道担当ライター橋場です。普段からよくミュージシャンへインタビューしています。
そんな私には、デビュー当時から応援し続けている「鶴」というバンドがいます。彼らは埼玉県鶴ヶ島市出身(バンド名は出身地にちなんでいる)の同級生同士で結成した、秋野温さん(うたギター)、神田雄一朗さん(ウキウキベース)、笠井快樹さん(テンパリドラム)のスリーピースバンド。
2008年からメジャーで活動していたものの、3年前に自主レーベル「SOUL MATE RECORD」を設立、インディーズシーンでライブバンドとしての活動を展開しています。
メジャーデビューはすなわち「スタッフがたくさんいること」を意味します。しかし、鶴は最小限のスタッフ(メンバー3人とマネージャーの計4人)で音楽活動を続けることを選択。そして去年から今年にかけて、47都道府県を2周する全100公演という前代未聞のライブツアーを敢行しました。
その鶴の秋野さんが、ライブのために来札。祖母が札幌在住という北の大地とは深いかかわりを持つ彼に、インディーズでの活動を選んだ想いや「日本2周」ツアーの背景、そして音楽を続ける理由を伺いました。
「もう、寂しい想いはさせたくない…」→「よし、日本2周しよう!」
‐鶴の結成は2003年……すでに10年以上のキャリアがあるにも関わらず、47都道府県を2周するという過酷なツアーを開催したのはなぜですか?
僕はもともと『ライブバンド』というものに憧れを抱いていて、ライブバンドたるもの常にライブをしていなければと思っています。
それで、『47都道府県ツアーくらいやってないとね』ということからスタートしたんですが、どうせだったら次のライブも決めながら回ろうと。
‐次のライブを決めながら、というのは斬新ですね!
ツアーのサブタイトルが『もう、寂しい想いはさせたくない』だったんですが、待ってくれている人たちに会いに行くのだけでは弱いと思って、会いに行ったときに次の約束を取り付けるという意味も加えたんです。
そうして47都道府県で『次のライブは●月●だぜ』と言い続けた結果、2周することになりました(笑)。
‐笑い話のようでいて、実はものすごくハードなことですよね…。
はい。僕らだけではなくて、多くのバンドがそうだと思うのですが、なかなか日本の隅々まで回るのは大変なことなんです。その壁を今回乗り越えてみようと。
‐実際、日本を2周してみてどんな変化がありましたか?
まず、日本全国に鶴を待っていてくれるお客さんがいることがわかったのは大きな収穫でした。
そして100公演終わった直後はまだ旅が終わったという感覚はなかったんですが、ようやく今頃になって消化し始めてきたという感じですね。
‐というのは?
ここにきて『バンドって面白いね』という思いを、メンバー全員が思っているんです。
これは、ちゃんと音楽と向き合って、音楽をやったその先にある『バンドとして強くなりたい』という目標があったからこそ、乗り越えて来られたのだと思いますね。
‐鶴はもともと音楽に対するモチベーションが高かったように思います。
自分たちの作った曲が好きなんですよ(笑)。『僕らの曲いいでしょ、聴いてよ』みたいなノリは昔からありましたね。
ただ、昔は自信なさげにやっていたというか…そこまで強く『いいでしょ』と言えない時代もありました。でも最近は、自然に『いいでしょ』というバンドになってきたかなと。
‐それは何かきっかけがあったんですか?
自主レーベルを立ち上げたことですね。自分たちの意思がないと転がっていかない立場になったことで、やりたいこと・伝えたいことがはっきりしているのでどこでも『いいでしょ』と言えるようになったんだと思います。
ツアーで見つかった鮮度のある部分も『ニューカマー』
‐8月にリリースされた最新アルバムのタイトルが『ニューカマー』…このタイミングで直訳すると『新人』というタイトル名をつけたのはなぜですか?
47都道府県を2周した後に、新曲だけのライブをやったんです。
めちゃくちゃな前のめりなことばかりやってきたんですけど(笑)、そのライブのタイトルが『ニューカマー』だったんです。
新曲というものは、僕たちにとっても聴く人にとっても『ニューカマー』だというところから始まって、47都道府県を2周してもなお鮮度のある部分が見つかったという意味でも『ニューカマー』だと。
言葉が思いついた後にいろいろなものがつながって、『ニューカマー』という言葉を実感しているところですね
‐アルバムだけではなく曲名にも『ニューカマー』というタイトルがついていますね。
この曲はレコーディング直前までなかなか形にならなくて悩んでいたんですが、『ニューカマー』というフレーズが出て来てからはメンバー全員で一気に作り上げました。
誰でも新しいことを始めるときは、年齢に関係なく『新人』だと思うんですよね。僕らも、このツアーを終えて次のステップに行くためには、挑戦者という名の『新人』なんです。
鶴にとっても、次に進むための大事な曲になりましたね。
‐この曲は作詞作曲の名義が個人ではなく鶴というクレジットになっていますが…。
最初の部分は、僕が感じているもどかしさをそのまま言葉にしただけです。
戦いたい自分と逃げたい自分の両方がいてここまでやって来た、ということなんですが、サビの部分の前向きな言葉はメンバー全員で考えました。
全国を回った後だったので、3人が全員同じ方向を向いている状態だったのですぐに出来たんですよね。
‐これまではそうじゃなかったんですか?
過去の曲にも鶴名義の歌詞があるんですが、皆バラバラなことを考えているのにひとつのテーマで書こうとするから時間がかかるかかる(笑)。
今回は、今の自分たちに必要・不必要な言葉がわかるので…これは日本を2周したおかげだなと思っています。
メッセージは同じでも、言葉の重み・深さが変わって来た
‐ちょっと余談なのですが、6月に北海道開拓の村(札幌市厚別区)で開催されたアコースティックイベント『REAL MUSIC VILLAGE 2016』には、バンドではなく「秋野温」ソロ名義で出演していましたね。
僕以外(の5組)はソロで活動されている方ばかりで、バンド枠は僕だけだったので『大丈夫かしら』と思っていたのですが(笑)、実は今年の3月にもソロで何本かツアーを回っていたので、『6月も何とかなるかも』と。
持ち時間が60分というのはびっくりしました。長くて40分くらいだと思っていたので……まあ、結果的には巻いて始まって押して終わりましたけど(笑)
‐アルバムを聴いて、ライブを聴いて、秋野さんは本当に音楽が大好きなんだなと思いました。
鶴というバンドのメッセージは、昔から大きく変わっていないと思います。
『頑張っていこうぜ』『背中を押すぜ』という曲が多いんですが、日本を2周したからこそそれらの言葉に重みが出たな、深みが増したなと感じています。
今回のアルバムも、重すぎず軽すぎず、1曲でも気になる曲に出会えてもらえると嬉しいですね。
【取材を終えて】
メジャーレーベルではなかなかできない活動を、自主レーベルという小回りの利く体制で実現した鶴。音楽的ポテンシャルの高さがあってこその活動ですが、その積極的な姿勢はどんな仕事でも同じなのではないでしょうか。8月10日にリリースされたアルバム『ニューカマ―』の最後に収録されている同名の楽曲の歌詞には「♪新しい世界を行け 君らしいを超えて行け」とあります。現在モヤモヤを抱えながら生きている人たちに届いてほしいこの言葉は、鶴の3人が日本全国を2周して同じベクトルにある今だからこそ出てきた言葉。本物のミュージシャンが、地道に本物の音楽を追求していると、人の心を動かす楽曲が完成する……音楽の魅力は、そこにあると思うのです。
【ライター・橋場了吾】
北海道札幌市出身・在住。同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。 北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。