「地域」と「デザイン」というキーワードが行政から発信されるとき、これまで一般に想起されるのは、「特産品を活用して新しい名物商品やゆるキャラをつくる」「なにか新しいモニュメントや箱モノをつくる」というものが中心でした。



2016年秋、福井県福井市が主催する「未来につなぐふくい魅える化プロジェクト」の一環として始まった、「次代のデザイナーのための小さな小さな教室」XSCHOOLは、そんな常識を破る新しい取り組み。



この取り組みが目指すのは、あらゆる分野・枠組みを横断して、ものごとを再編集し、新たな価値を生み出す「広義のデザイン」の力を、まちに育てること。



2月19日、「地域×デザイン2017」内で開催された、XSCHOOL参加者たちによる中間プレゼンテーションでは、その取り組みがもたらした化学反応の一端を垣間見ることができました。様々な角度から参加者にインパクトをもたらした、プレゼン当日の模様をお伝えします。

XSCHOOLが示す、地域×デザインプロジェクトの前提づくり

 

 

プレゼンに先立ってプログラムディレクターの内田友紀さん(株式会社リ・パブリック共同代表)、多田智美さん(編集者・MUESUM代表)が語ったのは、XSCHOOLが持つ、5つの特長について。

 

 

1つ目は「学びと実践の舞台は、福井市!」。女性の有業率、待機児童率0パーセント、1人あたりの出生率、など、さまざまな調査で日本一として知られています。

2つ目は、「地元の3企業をパートナーに!」。 ものづくりの地・福井に根づく、3つの異なる分野の企業がパートナーとして伴走しています。

3つ目は、いろいろな分野で活躍するデザイナー、事業家、ゲストが伴走すること。

4つ目は、失敗を恐れずにフルスイングで挑戦できる環境があること

最後の5つ目は、フォーマルはもちろん、インフォーマルな学びの場も大切にすることです。

 

ややもすると、地方創生の取り組みは地元の強みや企業と関係のないプロジェクトになってしまったり、逆に地元の中だけで進めることにこだわったり、またガチガチに形式ばって展開されてしまうプロジェクトが多いもの。ここで挙げられた5つの特長は、福井だけに限らず全国のプロジェクトにとっても参考になる「前提づくり」ではないでしょうか。

また、続いてプログラムディレクター兼講師を務める原田祐馬さん(UMA/design farm 代表)から伝えられたのは、このプロジェクトで大事にしたい3つのこと。

 

  1. 地域の風土を紐解いて社会の動きを洞察すること。

  2. 専門性の異なるもの同士、互いの強みを生かすこと。

  3. 広がる仕組みを考えてリアライズすること。

 

各チーム3名の違うスキルやバックグラウンドをもつ者同士が1組となって福井のために取り組む、というXSCHOOL。原田さんから語られた理念が、このチームのつくりかたにも深く影響していることが、この後のプレゼンを通じてより明確に会場にも伝わっていきます。

 

 

プロジェクトから見えた「モノ」と「コト」

 

プレゼンテーションに臨んだのは、全部で8チーム。それぞれデザイナー、金融関係者、建築士など異なるバックグラウンドの3名で構成されており、「チーム」ならではの相乗効果が発揮された事業案が発表されました。

 

編集部の印象で全体を大きく分けると、手に取って「触れられるもの」に落とし込まれたプロジェクトと、人とのコミュニケーションの場や情報といった「触れられないもの」が核になったプロジェクトがあったように思います。もちろん、どのプロジェクトにも両方の要素が含まれていたのですが、前者の要素が強く感じられたものとしては、福井の民話と特産物を一度に楽しめるようにした「絵巻弁当」や、

 

地元のものづくり企業、廣部硬器が得意とする蓄光素材の「あたたかさ・安心感」を子どもの通学の「安全」に応用、制作した「TSUGUMI」などがありました。

 

一方、後者の「触れられないもの」の要素を強く感じさせたプロジェクトには、どの時間帯、どんなシチュエーションでも楽しめる新しい「食の場」提供を通じて、駅のホームでの過ごし方を変える「あさひるばんじょう」や、

 

初めての土地での仲間探しをサポート、「いつもの場所」から熱い話でつながれる仲間を、動き出すきっかけをつくっていくバー「おふくわけ」、

 

デザイナーである山岡さん自身の体験から着想を受けて生まれた、「食のマイノリティ」をなくす、というコンセプトの「FOODIST INFORMATION」がありました。
 

 

そして、プレゼンを聞く中で編集部として特に印象に残ったのは、「触れられるもの」と「触れられないもの」両方の要素が絶妙に融合した2つのプロジェクトでした。

 

 

 

大人から子どもへのプレゼントになる新しい「暦」

 

1つは、当日最初にプレゼンされた「こよみッション」。「冬眠中の生きものを探そう」「八百屋さんで春を探そう」など、「毎日を探検に変える」をコンセプトに、日替わりで指令をクリアしていく新しい「暦」です。
 

 

この事業を考えた背景について、プレゼンチームはこう語りました。

 

このプロジェクトの背景は2つあって、1つは福井市は教育が強いこと。「密閉された空間でランプの火が消えるのはなぜでしょう?」なんて問題を大正時代からやってるんですよ。それともう1つは、日本人は昔から暦が好き、っていうことですね。なのに、暦からカレンダー、スケジューラーとツールが変わるたびに、季節や他者とのかかわりが減っているように感じたんです。こぼれていっているものを拾いたいと。
 

 

また、この「こよみッション」に書かれたミッションは、平日は一人でできること、休日は親とできること、のように分けることで、自然と家族でのふれあいが生まれるような仕掛けも施されている、と説明が続きます。

 

「暦」というモノに「ミッション」というコトを付け加えることで、そこにあった文化や他者とのコミュニケーションまでを生み出していく。そんな「こよみッション」による「再編集」の提案に、会場も深く聞き入っていました。

 

「習慣」を通じて自分が見える「お風呂の10秒」

 

「モノ」と「コト」の融合を感じたもう1つのプロジェクトは、習慣となっている行動を通じて、自分なりのペースやものとの付き合い方を見つめ直す「お風呂の10秒」。

 

この着想の原点になったとのは、サンテグジュペリ『星の王子様』の一節にある、「決まりがあるからこそ、その日その時間特別な気持ちになれる」ことについてのエピソード。ルーティン化している習慣を可視化、他者と共有することで一歩引いてみることができる、というプレゼンチームの解説に対して、レビュアーを務めた林千晶さん(株式会社ロフトワーク共同創業者、代表取締役)は強い共感を交えてこのように語りました。

 

率直に言うと、みなさんをうちの会社(ロフトワーク)で採用したいです。デザインの強さは、普段意識していなかった視点や体験、考えなくてもいいことだと思っていることを見つめ直すことにあると思っているんです。それがこの「お風呂の10秒」に表れている。だからもっとビジネスの根本的なところを一緒にやっていきたい、そしたら採用が一番いいんじゃないか、って(笑)。

 

プレゼンでは、このプロジェクトのために100人以上にアンケートをしたというデータの一部も公開されました。それだけひとりひとりに寄り添いつくられた、自分を振り返るための「仕掛け」、きっと生活を豊かにしてくれるんじゃないか。そんなことを思わせるプレゼンテーションでした。

 

 

チームの筋肉痛が生み出す「次代のデザイン」

 

全120日間という期間で展開されるXSCHOOLも、3月11日に福井市で開催される発表会をもって、ひとつの区切りを迎えます。そもそも、このプロジェクトが福井という町で生まれたことについて、プログラムディレクターの内田さんは次のように語ります。

 

このプロジェクトが福井で生まれた背景は、3つあると思っています。

1つは、大きな経済成長が第一義ではない時代に差し掛かり、福井のような中規模のまちが育んできた、暮らしや仕事の循環に関心が高まっていること。

2つ目は、地域をこえた人の関わりを重視したプロジェクトを、福井市が構想したこと。

3つ目は、その状況に可能性を感じる、地域内外混合のチームが生まれたことです。

 

地元を出たあとも様々な形で福井に関わる私(東京在住・福井出身)や、関西、福井在住者など、内外の視点を持った職能の違う人々がチームを作り、次代のまちのあり方・デザインの力のあり方を考え実践する場をつくろうとしてきました。

長い時間軸をかけて育まれた福井のまちの豊かさと、デザインの力で 生き方・働き方を問い直そうとする人々が出会ったことが大きなきっかけだったと思います。

 

福井というまちで生まれたXSCHOOLと、そこから生まれたいくつもの化学反応。何より、福井の内と外が「デザイン」をテーマにかけ合わさったこと、その関係性がこれだけの可能性を見せてくれているのでしょう。いくつもの力がかけ合わさる「チーム」の力について、これから全国で生まれてくる「次のプロジェクト」たちへ向けて、内田さんは最後にこう投げかけてくれました。

 

今回、どの3人1組も、バックグラウンドの違いによるコミュニケーションの難しさから、筋肉痛のような状態を経験しています。1つの組織だけで生きる・働く時代ではない今、その筋肉痛を乗り越えた時に生まれるエネルギーが、ますます重要だと感じています。その力を生かして、今回のプロジェクトが沢山の人に届き、さらに多くの参加を生むことを願っています。


 

XSCHOOLは3月11日、福井新聞社 風の森ホールで最後のプレゼンテーションの場を迎えるとのこと。ですが、事業は考えて終わりではなく、ここからが本当の始まりです。福井市から「次代のデザイナー」たちが生まれ、活躍していく第一歩に触れてみてはいかがでしょうか。

 

XSCHOOL
「未来につなぐふくい魅える化プロジェクト」公式サイト
『make.fUKUI / find.fUKUI WONDERS』
「未来につなぐふくい魅える化プロジェクト」公式FBページ