森に関わる100の仕事をつくる───
2021年10月より長野県伊那市にて、森・地域の新たな価値を生み出すことを目指すオンラインスクール『INA VALLEY FOREST COLLEGE(以下フォレストカレッジ)』が始まりました。
森のプロフェッショナルはもちろん、デザイナーや建築士、食、手仕事といった様々な業界の講師を招き、森の価値を再発見、再編集することを目指す「森の学び舎」フォレストカレッジ。受講生枠40名定員に対して、およそ200名の参加応募があった大人気講座です。
今回はフォレストカレッジの公開講座として、70seeds編集長の岡山史興が登壇。2018年に子育てのために東京から日本一小さな村富山県舟橋村へ移住した経験をもとに、テーマ「新常識なこれからの時代、森の近くの移住と仕事を考える」について語ります。
聞き手は、フォレストカレッジ 事務局・株式会社やまとわ「森林ディレクター」の奥田悠史さん。価値観が多様化する新常識なこれからの時代、「移住」という選択肢は暮らしにどう変化をもたらすのか?森の近くで健やかに生きるヒントを語らいました。
何より子どもを大切にする、日本一小さな村へ移住
奥田さん:本日はフォレストカレッジの公開講座として、「新常識なこれからの時代、森の近くの移住と仕事を考える」をテーマに、岡山さんが移住をした経緯やその後の暮らしの様子などを伺えればと思います。どんな話の展開になるのか、今から楽しみです!よろしくお願いします。
岡山:こちらこそ、よろしくお願いします!僕は2018年より、東京から富山県の舟橋村という日本一面積が小さい村に移住をしまして、ちょうど3年が経ちます。もともと東京で働いていたのですが移住をきっかけに、より森と暮らしが近くなった実感があるので、今日はその辺りもぜひお話できたらと思います。
奥田さん:ありがとうございます。岡山さんが移住をしたのは、新型コロナウィルスが蔓延する前の2018年、まだリモートワークも今ほど浸透していなかった頃ですよね。そもそもなぜ移住をしようと思ったのでしょうか。
岡山:一番の理由は、子育てですね。子どもが生まれてから「このまま東京で子育てをしていくのはきついな」と思う場面が結構あって。例えば通勤中の満員電車、殺伐とした雰囲気があるなか小学生がランドセルを背負ってちょこんと乗っているのを見たんです。その光景を見たとき、正直心配になって。大げさかもしれないけど、いつ誰に何をされるかわからない環境じゃないですか。
奥田さん:確かに満員電車はすごいですよね。僕は三重出身でどちらかというと自然のなかで育ったので、出張で東京に行ったときに乗車すると驚きます。
岡山:僕自身もともと長崎出身ということもあり、子どもは伸び伸び育てたいなと。子育てに向き合うなかで地方への移住を考えるようになりました。
奥田さん:なるほど。でもなぜそこから、移住先に富山県舟橋村を選んだのですか?日本一小さな村というワードも気になります!
岡山:きっかけは70seedsの取材でした。日本一小さな村になった理由が「子どもを大切にしたい」という村の考えからだと知って、おもしろいなと思ったんです。
奥田さん:というと……?
岡山:市や町と合併する道ももちろんあったと思うのですが、合併をしてしまうと村にある学校はなくなってしまいます。そうすると子どもたちは、あちこちバラバラの学校に通わなければならなくなる。生活の利便性は増すかもしれませんが、子どもたちにとって村に学校がないことは負担だよね、と。であれば隣の富山市や立山町と合併せず、自分たちの村で責任を持って子どもたちを育てようと、独立を貫いてきた村なんです。
奥田さん:なるほど。子どもの環境を守ろうとした結果、日本一小さな村になったんですね。
岡山:そうなんです。わかりやすいところで言うと、予算策定でも教育が何よりも重視されます。例えば子育て世帯の移住者が増え「来年、こども園の定員がいっぱいになるかもしれない」と判明したら、その時点で「じゃあ、この建物の一部をこども園として借りて使おう」と増設していったり。
実は今年(2021年)の1月に村長が代わって行政の方針が今まで通りとはいかなくなった部分も大きかったりするのですが、住民に子どもを大切にする意志が根付いていることで「子育て共助の村」が維持できているなと感じています。。もともと住んでいる地元の人はもちろん、移住者も村の方針に惹かれて引っ越してきた人たちなので、子育ても隣近所で助け合う雰囲気がありますね。共助の考えを持って暮らす人が多い、そんな村です。
奥田さん:素敵ですね!村が「子どもを大切にする」と掲げているからこそ、移住者も同じ価値観の人が集まってくる。人が人を呼んで、より子育てがしやすい村になっているんだろうなと感じます。
移住をして知った「お金がなくても豊かさは作れる」
岡山:あと移住をした背景に、子どもには作り手や生産者であってほしいという思いがありました。やはり東京は、消費者の街だなという感覚がすごくあって。お金があれば大体なんでも解決できるのが東京の良いところである一方、お金に頼らない楽しみ方ができなくなってしまうんじゃないか、という感覚がありました。
子どもには消費者ではなく、どちらかというと「自分で楽しみを生み出し、人を楽しませられる生産者になってほしい」という気持ちがありますね。
奥田さん:なるほど。確かに東京は遊ぶ場所も買い物をする場所も溢れているので、なんでもすぐに手に入る印象です。
岡山:最近は自分で魚を釣ったり、スーパーでも丸ごと1匹の魚を買って自宅で捌いているのですが、東京にいた頃は「わざわざ釣ったり、料理をする時間がもったいない」と思ってたんです。外食やお弁当で済ませた方が早いし、その時間があったら仕事してたほうが良くない?みたいな……(笑)。
奥田さん:そうだったんですね!そこの意識もお子さんが生まれてから変わったのですか?
岡山:はい。ふと立ち止まったときに、暮らしに必要な時間を削ってまでやることに、一体どれ程の価値があるのだろう?と思い直して。子どもにはそうなってほしくないと思ったんです。
奥田さん:実際に富山に移住して、その点変化はありましたか?
岡山:変化はかなりありますね。先ほどの魚の話もそうですが、息子が富山の森づくりの一環で杉を伐る体験をしたんです。
奥田さん:おー!いいですね!
岡山:さらに面白いのが、伐った木を山の麓に持っていき、雑貨作りも体験しました。さらに街中でやっているマルシェでも作った雑貨が店頭に並び、その様子を見ることができたんです。
奥田さん:へぇー!すごい!
岡山:一連の流れが設計されていて、すごく面白かったですね。
奥田さん:いいですね!誰かがすでに用意したものを消費するのではなく、自分で森へ行って木を伐りプロダクトを作って、実際に販売されている様子を見る。まさに作り手や生産者の楽しみを感じられる体験ですね。
岡山さん:そうですね。僕自身もこういった体験を通じて「自分は消費するだけではなく、生産もできるんだ」と気づけることは大きいなと感じています。実は今、小さな畑をやっているんですが、自分で野菜も作れることがわかると食に困らなくなるというか。最悪お金なくても作れば食べられるんだな、とわかってきたり(笑)。
奥田さん:お金で解決する生活スタイルからどんどん離れていますね!
岡山:そうなんです。お金のためにやらなきゃ!みたいなのが、だんだん減っている感覚がすごくあります。薪ストーブの薪も、富山の木で家を作ってくれた工務店さんからもらったり、地元の建築会社さんが「端材あるけど持っていくか?」って声をかけてくれたり。逆にこちらが、畑で茄子が穫れすぎて余った!みたいなときは、お裾分けしたり。お金がなくても作れる豊かさがあることを、実感として得られていますね。
自分で暮らしを選ぶ。消費の豊かさ
岡山:一方、お金で作れる豊かさがあるのも確かだなと思っていて。
2021年4月に家を建てたんですが、地域に根ざした家にしたいと富山の木を使い地元の工務店さんと一緒に作ることを大事にしました。
奥田さん:素敵ですね!地域を盛り上げたい、楽しみたいという岡山さんの気持ちが暮らしにも反映されていますね。
岡山:PRや編集といった仕事上、出会った方々を応援したいと思いながら仕事をしているので、富山のものに限らず日頃からお世話になっている方のアイテムを家づくりに取り入れています。リビングにあるテーブルや椅子は、奥田さんの所属するやまとわさんのパイオニアプランツを置かせていただいたり。
奥田さん:ありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです!!
岡山:畳は以前より付き合いのある石川県の農家さんが作る「いぐさ」を使って作ったり、美濃焼のタイルでトイレの装飾を作ったり。
奥田さん:素敵ですね〜!
岡山:なんとなく消費するのではなく、いろんな人との関係性に囲まれて自分で選んだものを取り入れる。移住をしてから消費の仕方が変わってきたなと感じますね。
地域資源をどう生かすか?フォレストカレッジ誕生の背景
奥田さん:
岡山さんが富山の木を使って家を建てたり、関わりある人のアイテムを取り入れる消費の仕方ってすごく素敵ですよね。そういう地域の資源と、どう生きていくのか?ってすごく大事だと思うんです。
フォレストカレッジを主催する伊那は南アルプスと中央アルプスに囲まれた美しい街で、森林率82%という森に囲まれた地域。この伊那の資源である森と共存共栄していくことが持続可能な暮らしにつながるのではないか?と考えています。
じゃあ、そのためにはどうしたらいいのか?という可能性をあらゆる視点で考えられたらいいよね!と、「学び舎」としてフォレストカレッジを始めました。
岡山:だからこそ講師陣は、森のプロフェッショナルはもちろん、デザイナーや建築士、食、手仕事といった様々な業界の方々をお呼びして、森の価値について考えていくプログラムになっているんですね。
奥田さん:そうなんです。去年も開催したのですが受講生の方々はみんな主体的で、こういう森の活用の仕方おもしろいよね!と話をするなかで、「実際にやりたくなってきた! 」という方も少なくないですね。講座とは別で企画会議をしたり。受講生に伊那に移住したクリエイターの方がいたので、「一緒に動画、作りましょうよ!」と形になったり。
岡山:いいですね!まさに、今ある資源をどう生かすか?と自分たちで考えるところから森に関われる場なんだなと感じました。いきなり森に入って何かしよう!移住しよう!だとハードルが高い人も、講座からであれば講師や仲間と意見交換をするなかで、徐々に作り手や生産者に回る楽しさを実感できそうです。
奥田さん:まさにそうなんです。もちろん企画を一緒に立ち上げてやるだけじゃなくて、日本全国で仲間が増えたり、一緒に考えましょう!って言い合えるつながりが増えてくれるだけでも嬉しいです。ふだんから森に関わっている人、そうでない人、いろんな業種・業界を超えて森について考え企てていく過程が豊かだなと思いますね。
消費者は生産者の最終ランナー
岡山:いや〜、本当に素敵ですね。森という資産をどう生かすか?という部分でも消費と生産のバランスって大事ですよね。使う人がいるから生産する人の役割が生まれるのは間違いないですが、消費する一方だと、使う側の都合だけでものが生み出されていってしまうので。
奥田さん:そうですね。それで言うと、「地域材を地域で使うってすごく難しいですよね。なぜ地域材は高いのですか?」とよく質問されるのですが、やはり地域のなかで地域の木を使いましょうという風土が失われてしまっていることが要因なんですよね。
地域材を使いたいです!と言う人も、100本も200本も欲しいというわけじゃない。だから1本・10本だけのためにトラクターを動かしますってなると、どうしても高くなってしまうんですよね。
岡山:そうですよね、消費と生産のバランスだなぁ。
奥田さん:
それこそフォレストカレッジのコンセプトである「伊那の資源を使った、森に関わる100の仕事をつくる」が実現できれば、1社では難しくても10社が望めば「じゃあ、地域の木を地域で使おう」という動きも出てくるんじゃないかなと思っていたりしますね。
奥田さん:なので僕が今目指しているのは、消費者と生産者を分断せず、地続きにつながっている世界。消費者は生産者の最終ランナーなのであるっていう位置づけにできないかなと思っているんです。
どの製品、どの食べ物、どの野菜でもいいんですけど、買い物をするときに「最終ランナーを担うんだ」という視点があると、急に自分ごと化していくというか。例えば野菜買うなら、この人の作り手の一員になりたいな、服を買うならここのメンバーになりたい!みたいな。
森もその延長戦で、どこの木を使うのか?っていうのも、一人ひとりが考える関係者になっていくといいなと思います。
岡山:それこそ新型コロナウィルスの影響で地元の飲食店が潰れちゃったりって象徴的だと思うんです。自分がお気に入りのお店でご飯を食べたり、服を買ったりしないと、本当に無くなってしまう。それがすごくリアルになってきたというか。
奥田さん:そうですね。
岡山:でも本来、自分で選ベるって楽しいことですよね。ただ目の前にあるものを、なんとなくで消費するんじゃなくて、ちゃんと消費する先を選べる。地域に移住をしたり、フォレストカレッジのような場に参加することで、生産者として生きるきっかけもある。少なくとも僕は、移住をしたことによって自分の人生を自分で決めていく実感を得られました。
奥田さん:岡山さんの移住後の暮らしには、消費をするにも、生産するにも、いろんな人との関係が垣間見れて豊かさを感じました。
岡山:移住って踏み出すハードルが高いように思うかもしれないですが、その一歩が、実はその先の何百歩につながる偉大な一歩になるような気はしていて。もし迷っている人がいたら、ぜひ気軽に踏み出してほしいなと思います。踏み出すと、踏み出し癖がつくので、人生楽しくなるんじゃないかなと!
奥田:少なくとも伊那は優しく受け入れる心づもりなので、ぜひ一歩を踏み出してもらえたら嬉しいなと思います。富山にもぜひ遊びに行かせてください!
岡山さん:もちろんです!今日はありがとうございました。