地域で暮らすということは、その地域と運命を共にすることと等しい。じゃあ、地域が沈みかかっている場合、そこに暮らすひとりひとりにできることは何だろう?

そんなことを考えているとき、とあるYouTube投稿が目に留まりました。投稿のタイトルは「小樽よ、聞いてくれ」。気になった理由は、投稿していたのがいわゆる「ストリートの古着屋さん」だったこと。

70seeds編集長、岡山がさまざまな方にお話を聞く連載「これからの共助を考える」第四回では、北海道小樽市で生まれ育ち、現在その地で古着店『STORAGE』などを経営する、株式会社レッドスターカンパニー代表・中畑大樹さんとの対談をお届けします。

坂口ナオ
東京都在住のフリーライター。2013年より「旅」や「ローカル」をメインテーマに、webと紙面での執筆活動を開始。2015年に編集者として企業に所属したのち、2018年に再びライターとして独立。日本各地のユニークな取り組みや伝統などの取材を手がけている。

中畑大樹
株式会社レッドスターカンパニー代表取締役。北海道・小樽市を拠点に、古着屋「STORAGE」、2023年9月16日オープンの無人古着屋「STORAGE ZERO」、ハンバーガー専門店「Storage Cafe」などを経営する他、オリジナルアパレル「STORAGE UNLIMITED(略称:STORAGE)」も展開する。Youtubeをメインに、小樽市の人口減少についての発信にも取り組む。

あたらしい学童保育 fork toyama
行政に依存せず、個人の責任にもしない「みんなで営む”みん営”の子育てのしくみ」を掲げ、日本一小さな村富山県舟橋村で2022年7月にプレオープンした保育料ゼロの民間学童保育施設。

 


人口問題に気づいたきっかけは地元客の少なさ

岡山:中畑さんが最初に人口問題に気づいたきっかけは何だったのでしょうか。

中畑:うちのお客様って、ほとんどが噂を聞きつけて遠方から来てくれた方で、地元の方って全体の3割しかいないんですよ。「外観が怖い」「閉鎖的で入りづらい」って声があるのは知っていたんですが、さすがにそれだけで3割にはならないだろうと思って小樽の人口を調べたのが人口問題に気づいたきっかけでした。

調べていくうちに、住民数が10万人を超える北海道の街の中で、小樽だけがダントツで人口減少が激しいことに気がついたんです。年齢比率も、圧倒的に高齢者の方が多くて若い方が少ない。うちの店に来てくれる地元客の少なさにも合点がいきました。

岡山:たしかに、「お店に入りづらい」だけでは、一番近い地元のお客様の割合が3割にはならないですよね。人口が減っていることを知って中畑さんは率直にどう思いましたか?

中畑:まずは悲しいなっていうのと、あとは危機感を抱きました。うちの店は郊外からのお客様が多いので差し迫った危機はないんですけど、だから別にいいやとは思えませんでした。小樽には商科大学があるのですが、そこの学生の7割が小樽に住んでいないってデータもありますし、小中学校の統廃合が進んでいて、一学年10人の1クラスしかないようなところも増えているそうなんです。うちみたいな若い方向けの店にとっては危機感でしかないですよ。

一部が我慢しなければならない行政の計画、それでいいの?

岡山:今回の取材のきっかけになった動画の続編(「愛ちゃんと小樽企画の会議したらもはや詰みそうです」)では、小樽市ではこの人口問題に対して「立地適正化計画(地区に点在している住居や施設を限定された範囲内に移動させ、公共サービス等の効率化を図る計画)」を進めていることについて、衝撃を受けていましたね。

中畑:人口が少ないところまで公共の施設やサービスを行き渡らせるのは大変だから中心部に集まろう、という考えは、まぁ分からなくもないんですよ。北海道では毎年雪が腰くらいまで積もるんですが、今も人口の少ない地域には除雪車が入っていない現状もありますし。

でも、やっぱりちょっと乱暴ですよね。たとえば100人の住民がいる市町村があったとして、99人が移動に賛成して1人が反対した場合って、今の社会の仕組みでは、その1人は尊重されないわけじゃないですか。

岡山:そうですね。僕は今富山に住んでるんですけど、富山もやっぱり雪がすごく積もるので、同じ村や町の中でもちょっと不便なところに行くと除雪車が入らなかったりとか、融雪装置がつかなかったりするんです。そういう、多数が幸せになるために一部が我慢しなきゃいけなくなる、みたいなことが今どんどん起きていますよね。

中畑:「持続」って視点でまちづくりを考えるとある程度は仕方ないとは思いますが、我慢させられる側を保証する制度をいかに用意するかが大切ですよね。これがほったらかしになるとかなり厳しいと思います。

岡山:どっちも同じ市民ですからね。

中畑:そうなんですよ。立地適正化計画がこのまま実行されたとして、金銭的に移動が難しい方もいるでしょうし、ご高齢の方だったらすぐに動くこともできないと思うんですよね。理想と現実がすごくかけ離れているなと思います。

岡山:中畑さんが発信されているYouTubeでは、計画について議員さんと対談もされていましたが、話をする中で考えが開けた部分とか意外だったこととかはありましたか?

中畑:悪い意味でやっぱり予想通りだったんですよ。街を挙げての人口対策をしている割にはあまり良くなっていなかったり、根っこには古くからのしがらみがあったり。ただ、意外と小樽には30代40代の若い議員さんが多いんです。党や思想は違えどみなさん「これからの小樽をなんとかしなきゃ」という思いは同じでした。

だからこそ、街の人たちからの声が大きくなれば、少し変わってくるんじゃないかなと思いましたね。

「面白いことをする」が地域の人口問題の糸口に

岡山:人口問題について発信することに踏み切った背景には、やっぱり「小樽の人達の意識に一石を投じたい」というような思いがあったんでしょうか。

中畑:お恥ずかしながらそこまでの意図はなくて。店のYouTubeは、これまで僕が経験したいろんな経営危機や商売人のリアルな声が少しでもみなさんのお役に立てたらいいなと思って始めたものなんです。今回小樽の人口問題について発信したのもその一環なんですよね。このままだと僕らもやばいよ、食べていけなくなるよ、っていう純粋な問題提起というか。

岡山:そうだったんですね。中畑さんの動画を見ているのはどんな方が多いんですか?

中畑:うちの店のメイン顧客層でもあるZ世代の方が多いですね。先日も大学生から「古着を使ってこういう商売やりたいんですけどどう思いますか?」っていうDMがきました。若い人を中心に、全国からそういう連絡が月に2〜300件くらい届きます。

岡山:全国からそんなに連絡がくるんですね! そういう方々が中畑さんがきっかけで小樽に足を運んで、結果的に街が盛り上がるみたいなことになったらめっちゃ面白そうです。

中畑:そんな風になったらありがたいですねぇ。

岡山:最近は、観光名所を巡るんじゃなくて、面白い人に会いに行く、という目的で旅をする人が増えてきてますからね。この「面白いことをすると人が集まる」という流れを掴めれば、それが街を諦めないで済む糸口になるのかなって話を聞いていて思いました。

中畑:そうですね。僕自身、そうなったらいいなと思いながら発信を続けている気がします。

自分が楽しむことが、みんなが楽しめるまちづくりにつながる

岡山:中畑さんが小樽の人に伝えたいこと、聞きたいことはありますか?

中畑:伝えたいことは「もうちょっと小樽に目を向けてほしい」ですかね。ほとんどの方が小樽を諦めちゃってるように感じるので。というのも僕もこの街で商売していなかったら諦めていたと思うので。

小樽が今置かれている現状、空き家問題だったりとか、あとは働き口がない問題だったりとか、他人事に思わず目を向けてほしいなと思います。このままだと子ども達が街を担う世代になったとき、住み続けることが難しい街になってしまうと思うので。

あと聞きたいことは「みなさんどこで買い物してますか?」ですね。多分ネットだと思うんですよ。うちの店のお客さんなら若い人が多いから、今はSHEINとかが人気なのかなと思うんですけど。

ただね、もうちょっと踏み込んで言うと「みなさん買い物を楽しんでいますか?」って聞きたいです。リアルな店舗で買い物してみたくないですか? 小樽でそれができたら楽しくないですか?ってところですね。

岡山:あー、とてもわかります!中畑さんにとって、小樽での暮らしは楽しいですか?

中畑:僕は楽しいですね。やりたいことやれてますから。もちろん楽しい時と同じくらい苦しい時もあるけど、その苦しさを知っているからこそ、売上として対価が返ってきたときに「楽しい」って感じますね。

岡山:いいですね。そういう話が若い人に広がっていくと、自分の生活を楽しめる人が増えそうです。

中畑:増えていただいたらいいなぁと思ってます。今って、物騒な事件だったり、SNSで誹謗中傷されて亡くなる方がいたり、悲しいニュースが多いじゃないですか。そういう負の方向に向かうエネルギーを楽しいことに向けたらいいのになと思っていて。

岡山:楽しい方向へエネルギーを向けるために、みなさんと一緒に起こしたいアクションはありますか?

中畑:楽しく生活するため・面白いことを企てていくためにお金を稼いでいくことですね。人口減少や行政の計画など、厳しい現実や苦しい問題にぶつかることもたくさんあります。でも好きなことをやってるからそれらもひっくるめて楽しいんです。残したい地域のあり方を見据えながらみんなで経済を回していけるといいなと思いますね。

岡山:最高です。今回「共助」っていうテーマで取材させていただいたのは、これからは、行政ばかりに頼っていられないし個人でなんとかできる問題でもないってときに、民間の一人ひとりが力を合わせて変えていく世の中になるだろうなと思ったからなんです。

そのとき鍵になるのが、自分の商売を盛り上げつつ、それに賛同する人の輪を広げていく中畑さんのような姿なのかな、と感じました。楽しみながらアクションすることで、みんなが幸せになっていく形がめちゃくちゃいいですね。貴重なお話をありがとうございました!