「自分がおもしろいと思うことは必ず誰かにとってもおもしろい。おもしろがってもらえないのは、相手が興味をもっていないだけ」

今回のインタビューで知りたかったことは、その一言に凝縮されていたーー。

田園風景の中に浮かぶ木造ホテル「スイデンテラス」や、全天候型の教育施設「キッズドームソライ」、さらには農業から再エネまで地域に必要なさまざまな事業をひとつの循環のなかで手がけるヤマガタデザイン株式会社。

一般的な感覚からすると自治体や大企業がやるような事業を一民間企業として、それもものすごいスピードで形にし続けている同社。

その根本にあるものを知るため、代表取締役である山中大介さんにお話を伺った。

岡山 史興
70Seeds編集長。「できごとのじぶんごと化」をミッションに、世の中のさまざまな「編集」に取り組んでいます。

人を惹きつけつづける事業をつくる

のどかな田園地帯に突如現れるリゾートホテル、スイデンテラス。開業以来、そのロケーションや世界観、提供されるサービスの魅力が人を惹きつけ利用客が後を絶たない話題の施設だ。

立ち上げ前のマーケティング調査では「ここにホテルをつくっても経営的に成り立たない」という結果が提出されるほど、周りから見ると無謀とされた挑戦だった。それにもかかわらず、スイデンテラスには年間7万人以上が訪れる。その後、ヤマガタデザインは冒頭で挙げたさまざまな事業にも進出、地方創生のトップランナーとして全国から注目されている。

驚くべきは、ヤマガタデザインがまだ設立10年に満たない新しい会社であること。2014年の設立以来、圧倒的なスピードで各事業を手がけることができた背景について山中さんに聞くと、こんな答えが返ってきた。

何かをやるにあたって、周りを気にしたことはない。これをやりたい、やらねばという思いを実行することを続けてきただけです。多くの人ができる/できないとか手法論から入るけれど、それよりも人の共感を生むこと、惹きつけられるものをつくることのほうが大事なんです。

ヤマガタデザインが取り組んできたのは、周りに「できちゃうかも」と思わせる既成事実をつくり、人を惹きつけつづけること。その繰り返しの結果が今をつくっているのだという。

一方で、同社の歩みを振り返ると、ビジネス的な定石を突き詰めることも重要な成功要因となっている。ヤマガタデザインの場合、様々な挑戦の原資を不動産事業で生み出した堅実さがベースにある。最初に不動産開発業などで大きな利益を出し、次に地域のまちづくり業として持続的に成果を出すことで「構想を実現できるチーム」としての地位を築き上げてきた。

スイデンテラスもソライも、地域という視点で考えたら不動産という、計測可能な価値を地域に残していく。こういう地域だったらおもしろいよね、という上位概念があって、その理想のために事業主体がリスクを持つ。でも会社が潰れるのは地域にとってのリスクではないんですよね。結果として地域におもしろい価値が残っていけばいい。そうやって成果を出し続けてきたんです。

地域づくりを目的にしない地域づくり

地域に価値を残す取り組みであっても、新しいことへの反発やアレルギーが起きるのは地域づくりの「あるある」だ。スイデンテラスに関してもそれは例外ではなかったが、地域の協調を意識するあまりフェードアウトせざるを得なくなってしまう取り組みが多いなか、ヤマガタデザインは異なる視座を持っていた。

「どうせ潰れる」といった批判はずっとあります。ただ、そもそも地域の共感を得ることを目的とはしていなくて、大切なのはあくまでもお客さんの評価を得ること。ちゃんと事業として成立すれば、結果として地域は認めてくれると信じています。

地方のまちづくりが間違いがちなのは、最初から合意形成を図ろうとすること。地域のワークショップもいつものメンバーで同じような総花の総合政策をつくっていってしまう。みんなで決める、はこの危機的な状況下にあまり機能しないと行政もみんな気づいているけれど建前上そうしないといけないわけです。だから民間の立場でおもしろいと思うことをやり続ける、というのがヤマガタデザインがやっていることです。

地域を取り巻く様々な利害関係や住民感情といったことにとらわれず、自分たちの描く「おもしろさ」に沿って実直に事業を進めるヤマガタデザインのスタンスは、いわゆる一般的な地域づくりとは一線を画す。

その違いが最も色濃く現れているのが圧倒的にポジティブな空気感だ。「地域をなんとかしたい」「社会課題を解決したい」そう掲げる取り組みの多くが併せ持つ悲壮感や切実さを、ヤマガタデザインからは感じない。

僕の中では「やらねば」と「やりたい」の両方が混在しているんです。課題解決ビジネスの多くが悲壮感にとらわれすぎているように見えますよね。ヤマガタデザインの事業に関して言えば、まず自分自身がめちゃくちゃ楽しんでいますから。わざわざ地域づくりを目的に掲げなくても、本当に社会に必要とされる事業なら必ずマネタイズできると信じています。

「ワクワク」の共有が組織をつくる

冒頭で挙げた通り、スイデンテラスからキッズドームソライ、農業に再エネまで、地域に「あったらいいこと」を次々に実現し続けているヤマガタデザイン。その肝になっているのは、山中さんの言葉にもあった「やらねば」と「やりたい」の絶妙なバランス感覚だ。

自分の特性のひとつにズームインとズームアウト、つまり自分を俯瞰して見る能力があると思っています。自分をメタ認知できるかどうかによって「0→1」を実現できるかどうかが決まる。狂気をもってやり続けるためには、自分をメタ認知することが重要。自分のやっていることは普通の精神状態ならできないとわかっているので(笑)、常に壁に当たって悩んでそれでも前に進んでいくことなのかな、と。

また、山中さんの構想がビジネスとして成立している重要なもう一つの要素として、チームとしてのヤマガタデザインの存在がある。地域でも、企業でも、代表の思いが先行しすぎることで形にならず終わっていく事業が山ほどあるなか、ヤマガタデザインでは各事業ごとの部門長が責任をもって遂行できる体制ができあがっている。

創業者頼みにならず、事業を組織の力で発展させられていることについて、山中さんは「出会うべきときに、出会うべき人と出会えている」と語る。

社員、株主、事業パートナー、出会うべきときに出会うべき人に出会ってきました。自分の役割は従業員が楽して儲かる会社をつくることで、そのためには圧倒的なブランドをつくることが必要。ビジョン、コンセプトを示して対外的な関係をつくっていくのは自分の力量次第。とにかくおもしろい会社と思ってもらいつづけられるかどうか、従業員がワクワクしつづけられる事業をつくれるかどうか。おもしろいと思える純度を維持しつづけることが代表の仕事です。

地域という長い視点を持っているからこそ、一瞬の花火ではなく、持続的な事業、持続的な組織を実現しているヤマガタデザイン。その中心にはやはりおもしろいと思える「ワクワク」がある。

だが、その「ワクワク」は、常に代表である山中さんから生まれているもの。もしその泉が枯渇するようなことになったら、ヤマガタデザインはどうなるのだろうか?

完璧を目指すな、自分を論破せよ

自分から「ワクワク」が出てこなくなったらどうするか、という問いに対する山中さんの答えは、いたってシンプルだった。

その時はもう世代交代ですよね。自分よりワクワクしてる人にお願いして。でも今は全然考えていません(笑)。もっとおもしろい会社になるし、もっとおもしろい人材と出会っていくことしか考えていない。たぶん今はおもしろくて幸せなんだと思います。

ヤマガタデザインに一貫して流れるポジティブさを象徴するような一言が示す通り、「ワクワク」を生み、人を惹きつけ、組織も事業も成長していくヤマガタデザイン。その中心にあって自分が幸せだと言い切る山中さんの存在は、同社のあらゆる源泉になっている。

とは言っても、自分の中にある「ワクワク」を形にする一歩がなかなか踏み出せないといった悩みは多い。どうやったら自分がおもしろいと思えることに対して動き出すことができるようになるのだろうか。

最初から完全を求めないことですね。一歩を踏み出せないのは完璧を求めるから。完璧を目指す狂気と改善を許容するメタ認知の両立が重要なんです。自分がおもしろいと思うことはなんでもできる、と思い込むことで課題にぶつかった時でも諦めずにすむ。ただ好き、から好きすぎるへ。直感が一番正しい、ロジックは後付けでいいからなぜこれをやりたいのか突き詰めて考えるんです。ロジックで考えたやらない理由はいらない、一番論破すべき相手は自分。

悲壮感よりおもしろさ、できるかできないかよりやる狂気。自分の「ワクワク」をまずは自分がどれだけ信じられるか、そして相手にどれだけ魅力的に示すことができるか。ヤマガタデザインおよび山中さんの根本にあるのは、そんなとてもシンプルな原則だった。

自分がおもしろいと思うことは絶対おもしろいんです。